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旅立ち準備・10

 朝が少食なのは認めるけれど、昼と夜は人並みだと思っていた。


「前菜、メイン料理、パン、飲み物」

「レンフィールド?」

「前菜、メイン料理、パン、飲み物、デザート」

「おい?」

「昼食と夕食の構成だよ。人並みじゃないのか?」


 アイゼイヤが苦笑いしている。


「前菜、メイン料理、パン、果物、飲み物、スープが朝。

 同じく前菜、メイン料理、パン、果物、飲み物、スープが昼。

 サンドイッチにスコーン、焼き菓子、ケーキなどのデザートに軽いアルコールか飲み物が軽食。

 前菜、メイン料理2種類、パン、果物、デザート、飲み物、スープにアルコールが夜」

「何、それ……」


 胸焼けしそう。


「俺が家で食べていた食事の種類と量だよ。腹が空いている時はメイン料理やパンをお代わりしたり、軽食をもう一度食べたりした。

 法王家の人間や上流貴族っていわれている人間ならこれくらいは普通に食べるぜ。

 お前が立食パーティーしか出たことないのは、少食だって知られているせいもあるし」

「あるし?」

「上流貴族の晩餐会になると、お前の嫌いなゲテモノ料理のオンパレードだからな。猊下やハイネが気を使ったんだろう」

「ゲテモノ料理のオンパレードなんだ?」

「お前から見ればな。上位種の魔獣から取れる希少部位を使った料理とか、好きじゃないだろ?」

「たぶん……」


 急に旅先の食事が心配になってきた。


「ホロホロ鳥、食べられないかな?」

「難しいと思うぞ? お前の好物だってことで飼育しているんだから」

「?」

「だからホロホロ鳥」

「え?」

「ホロホロ鳥の肉って人気ないから市場には出回ってないんだよ。

 ハイネに聞いたけど、お前ってコッテリした味付けがダメなんだってな?

 だから子供の頃、殆ど食べ物を口にしないから魔獣の肉じゃなく薄味で知られるホロホロ鳥で調理したらやっと食べるようになった。それで猊下がお前のためにホロホロ鳥の飼育を命じたそうだ」

「どうしよう……」


 色々と不安になってきた。


「学園でお前が食べていた食事も法王宮で調理されたものだったって……」

「初めて知った」


 わー、本当にどうしよう。


「い、今さら仕方ないよね。もしかしたら旅先で味覚変化が起こるかもしれないし」

「そうじゃなかったら、毎晩法王宮に食事をするために戻ってくることになるな。それで一晩寝たら朝食を食べ、昼食を持って旅先に行く」

「それ、絶対に旅じゃない」

「遠出しているだけで夜から朝は法王宮で過ごすんだもんな」

「イヤだ~」

「猊下はお喜びになるだろうけれど?」

「うー」


 ここは旅先での味覚変化に期待するしかないな。

 私が薄味好きなのは前世のアラフィフ感覚のせいだと思う。

 若い頃はコッテリ味の●郎系ラーメンとか平気で食べていたけれど、年を重ねて胃が受け付けなくなったんだよね。おまけにこの世界って、一般的な魔獣肉のほうが飼育した家畜肉より安価でジューシーだから。

 異世界あるあるのオークとかブルとか……。

 ホロホロ鳥のような鶏肉はアッサリしているから、味付けに手を加えないといけない。庶民の家庭で調味料を色々使うにはお金がかかる。だから結果として野菜と煮込めば臭みが取れ、味に深みも増す安価な魔獣肉が人気となるのだ。


「ホロホロ鳥の飼育をしてもらって、スパイスもたくさん使う。私の食事って贅沢なのかな?」

「手間を考えたらそうなるな。法王宮でホロホロ鳥を好んで食べるのはお前だけだし」

「……」

「でもドラゴン肉を毎回食べたいとか、インペリアルハニーのジュースを飲みたいって駄々をこねられるよりは、かなりマシ」

「何? その具体的な例は?」

「実際にあった話。しかも現在進行形でもあるらしい」

「誰の話だ? そんなバカを言うなんて」


 そう聞くと、アイゼイヤは私をじっと見つめた。


「私は言ってないぞ」

「うん。お前の弟バージルの話」

「……」

「……」

「冗談……」

「いや、本当の話。バージルって、お前が猊下に引き取られてから生まれただろ?」

「ああ」

「ラザラス伯父さんとヴェロニカ夫人にかなり溺愛されて育てられたせいもあって、典型的な我が儘王子なんだ」

「……私の弟の話だよな?」

「そうだ。それでバージルが俺の弟デリックと仲がいいのは知っているよな?」

「もちろん。……それが?」

「デリックの誕生パーティーに毎年バージルを誘っているんだが、今年はドラゴン肉を使ったフルコースとインペリアルハニーを使った飲み物を出したんだ」

「それは豪華だね。法王家といってもドラゴン肉やインペリアルハニーの食材を手に入れるのは大変だっただろう。どちらもSランク指定の魔物だ」

「まあな。親父と母親がデリックに期待していることの(あらわ)れだろ。俺は法王宮職員となって、お前の側についた。つまり異母妹であるヴィリジアンの次期法王擁立を手伝わないってことだからな。親父の後継ぎはデリックだって招待客に言いたかったんだろうさ」

「それは……その」


 言い淀んでしまう。

 アイゼイヤは私に血の忠誠を誓ったわけじゃないが、誓った相手のアレスティラ様は私を次期法王と明言されている。


「気にするな。俺は親父の後を継ぐことに興味ないから。

 それで、バージルは初めて口にしたドラゴン肉とインペリアルハニーが気に入ってな。何回もお代わりして他の招待客の分が足りなくなったそうだ」


 ……恥ずかしい。

 他の人の分まで食べちゃうなんて、どうなのよ?

 それ以前にバージルって、まだ13歳だよね?

 育ち盛りなのか?

 なんでそんなに食べられるの??

 あれか?

 特殊な胃を持っているギャル●●とか、もえ●ずとか…。

 痩せの大食いなのか?


「それ、ラザラスとヴェロニカは止めなかったの?」

主賓(しゅひん)である祖父(じい)さんが、若い男はたくさん食べることも仕事のうちって言って、自分の分のドラゴン肉を与えたんだ。だから他の招待客……特にご婦人たちは少食アピールもあるから、食べかけで良ければって渡していたぞ」


 自分の両親でもあるが常識がなさすぎる。

 そんな事態になる前に注意しろよ。


「そもそも美味しい美味しいって言って食べる息子(バージル)にお代わりを勧めたのは二人だからな」

「それで味をしめてってことか」

「そういうこと。自分の家に戻ってからドラゴン肉とインペリアルハニーの飲み物を出せって言い続けてる」

「その話を知っているのは?」

「パーティーでの話なら、招待客は皆知っている」

「そっちじゃない。家で騒いでいるほう」

「同じくらい有名だな。

 伯父さんの家の使用人は黙っていたらしいけれど、デリックに会いに来るたびにドラゴン肉とインペリアルハニーをねだっても出してもらえない話をするから。まあ、噂になるな」


 あーあ。

 深いため息が出てしまう。


「デリックの誕生パーティーって、いつ頃あったの?」

「半年以上も前だよ」

「それからずっと食べたいって言ってるの?」

「そうらしい」

「……」


 弟といってもバージルと話したことはない。

 彼が未成年であることをいいことに、ヴェロニカ……私たちの母親が私を恐れて、可愛い息子(バージル)との接触機会を出来るだけ減らしているせいだ。

 だから年末にある法王家だけのパーティーでも、バージルはデリックといつも一緒で私に挨拶に来たことがない。よってデリックとも挨拶しないのだが、彼はバージルが参加していないパーティーではきちんと挨拶に来る。

 デリックの立ち振舞いをきっとバージルは知らない。

 でもこれは本人が気付かないといけない問題だ。


「……色々と思うことはあるけれど、バージルも13歳だ。ラザラスとヴェロニカが甘やかしすぎたといっても、自分の立場くらい分かってもいい年齢だよね?

 14歳になれば学園に通い始めるのだし……」

「そうだな。いくらラザラス伯父さんとヴェロニカ夫人がバージルを溺愛しすぎて、お前を(ないがし)ろにした発言を繰り返しても、それは家の中だから赦されることだって知ったほうがいい」


 本当にね。

 同じ法王家の人間とはいっても、アイゼイヤとデリック、ヴィリジアンの家とバージルの家は当主の座を争うライバル関係。

 デリックとの友情がどんなものなのかまでは知らないけれど、この世界の成人年齢は15歳。子供のような我が儘を笑って許してもらえるのはそこまでなんだって、早く気付いてほしいものだ。




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