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旅立ち準備・6

「レンフィールドは、私ともっと離れたいのかい?」


 アレスティラ様が悲しそうな顔をしている。


「え、そういう意味では……」


 アレスティラ様がまだ昼食を取られてないというので、お茶を飲みながら同席していた。そこで私は、結婚したらアイヴィー様が住んでいた小宮殿に移動するんですか?と聞いたのだが……失敗した。


「アレスティラ様の配偶者になったら、アイヴィー様の使っていらした小宮殿をいただけるのかと思って聞いてみただけです。アレスティラ様と離れたいとか考えていません。本当です」


 本当の本気です。

 だから、そんな悲しそうな顔はやめてください。

 私が意地悪を言ってるみたいじゃないですか。

 38歳のアレスティラ様を17歳の私が苛める……。

 なんてシュールな光景だ。


「では、レンフィールドは今までの部屋が嫌だったのかい?」

「い、いいえ……」


 嫌ではないけれど、ちょっと肌寒いことが多いからね。

 前世のように快適なエアコンはないから、薪を燃やす暖炉か、魔道具を使って室内を暖めるしかない。

 でも幾つもの部屋が続く広い範囲を、寒がりな私の感覚に合わせて暖めるにはコストがかかりすぎる。だから勉強部屋として使っている場所以外は室温調整していないのだ。

 答えるのに少し間があったので、アレスティラ様が私からハイネに視線を向けた。


「殿下は東向きのお部屋であることで、日差しが足らないと感じておられるようです」


 え、ハイネ。

 何で言っちゃうの?

 あー、そうだ。

 ずっと仕えてくれているけれど、ハイネもカインも、ついでにアイゼイヤだってアレスティラ様から派遣されているんだった。


「レンフィールドは読書が好きだから、本が傷まないように風通しのいい東向きの部屋にしていたけれど……寒かったのだね」

「……はい」


 誤魔化しても仕方ない。

 素直に認める。

 でもそうか、沢山の本を置いても傷まないように配慮してくれていたのか。

 さすがアレスティラ様。


「それなら丁度よかった。レンフィールドが旅をしている合間に改装工事をするつもりだったからね」

「やはり部屋の移動ですか?」

「そう。きみにも意見を聞こうと思っていたんだよ」


 悲しそうだったアレスティラ様の表情が明るくなる。


「今までのきみの部屋も残しておくけれど、新しい部屋は南向きだから眩しくなって嫌かな?って心配していたんだ」

「新しい部屋は南向きなんですか?」

「そうだよ」


 それは良かった。

 今までの部屋は書庫代わりにしよう。


「嬉しいです。実はアイヴィー様のように南向きの主寝室をもらえたら、観葉植物を置きたいと思っていたんです」

「カンヨウ植物?」

「あ、鉢植えの植物を室内に飾りたいということです」


 この世界では観葉植物を置いて楽しむ、という概念はまだないのだった。花を飾るのはあるけれどね。


「花を飾るのとは違うのかな?」

「花も好きですけれど、緑を楽しむために植物を飾るのも好きなんです」


 強すぎる日差しは逆に枯れてしまう原因にもなるが、そこは工夫すればいい。太陽光が届かない部屋では話にならないからね。


「それは知らなかったな。レンフィールドは花のない植物も好きだということだね」

「はい。ヒースクリューネには沢山の植物があるじゃないですか。その中には観賞用にしたいものもあって、幾つか持ってきたいのです」


 オーソドックスなアロエや、こちらの世界特有の鎮痛効果のあるユツクサ、胃腸薬の素になるスキーリンとか。

 治癒魔法を使えても、それはそれ。

 視界から取り入れるヒーリング効果も有りだと思うんだよね。


「分かった。新しいレンフィールドの部屋には、植物を置ける場所を多く造らせよう」

「ありがとうございます」

「そうだ。どうせなら私たちの部屋にも造らせよう」

「は?」


 私たちの部屋?

 って、何?


「私たちの部屋……ですか?」

「そう。新しく造るきみの部屋と、今使っている私の部屋の間に私たちの部屋も造らせるのだけれど、内装をどうしようかと思っていたからね。レンフィールドの好みはきみの私室やエンドレス·ルームの内装を見れば何となく分かるけれど、やはり直接聞いた方が間違いないだろう?」

「はい……そうですね」


 そうですね、じゃないだろ……。

 新しい部屋って、アレスティラ様の私室の近くになるってことだよね?

 確かにあの辺りは南南東で日差しがたっぷり。

 本を置いておくには向かないけれど、植物を置いたら元気になりそうだ。

 いやいや、そうじゃない。


「でもアレスティラ様のお部屋の辺りって、空きスペースなんてありませんよね?」


 寝室を含めたプライベート·エリアは、魔道具で陽光と空調の管理をされたアレスティラ様専用の書庫や趣味のお部屋、侍従や近衛騎士の控室などもあって、とても新たな部屋を2つも造れるスペースはない。


「大丈夫だよ。書庫と趣味の部屋を移せば、かなりのスペースが取れる」

「え、でも……」

「いや?」

「……いやではありません。ですが、結婚式に巨費がかかるようなのに、さらに労力や資金がかさむようなことなので……」


 できれば遠慮したいです。

 と、言い切りたいができない。

 なぜなら、途中からアレスティラ様の表情がまた……。


「えーと。その辺りの心配をしなくても構わないのなら、好みの部屋を与えてもらえることはとても嬉しいです」


 これは本音です。


「レンフィールドは真面目だね。結婚式の経費については宰相が勝手に豪華にしたいと言ってやっているのだし、私たちが気にすることじゃない。それに新しいきみの部屋と私たちの部屋を造るのは、私がそうしたいからなんだ」

「アレスティラ様……?」

「きみが外に出ている3年、おとなしく待っているのもつまらない。じっくりと時間をかけて用意していれば、それも楽しいと思ってね」


 ああ、もう~。

 アレスティラ様のこういうところ、大好き。




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