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旅立ち準備・5

 

 意気揚々と圧縮玉を取り出して魔素溜まりに投げてみたけれど、たいしたことは起こらなかった。


 ぽすん……って、可愛い音がしただけ。

 圧縮玉もそのまま。

 負の感情から生まれたらしい魔素溜まりも、当たった場所が一瞬鈍く光っただけだった。


 ダンジョン誕生って書いてあったじゃないか。って思いながら圧縮玉を拾い上げると、魔素溜まりが納豆糸のようについてきた。

 邪魔だと思って、圧縮玉についてきた魔素を手で払う。

 その途端にパキンとガラスにヒビが入ったような音がして、粘りついていた魔素が消えてしまった。正確にいうと私が触れた一瞬で、粘り気のあった魔素が凍り、砕けたのだ。


「あれは……色々と恥ずかしかった」


 ついに私の右手が……って、また中二病っぽいことを考えてしまって。

 恥ずかしさを誤魔化すために圧縮玉や蒸発したあたりの魔素溜まり、自分の右手まで鑑定したんだよね……誰もいないのに。

 そのうち自分しかいないのに何を恥ずかしがって、照れ隠しに鑑定しているんだ?って、冷静になった。

 冷静になったらなったで、一人相撲していた自分が恥ずかしくなって……。


「中二病、恐るべし……」


 でも鑑定したおかげで圧縮玉の魔素濃度はMAXだから、隠し部屋の魔素溜まりの濃度では上手く融合できないことが分かった。

 魔素を凍らせ砕いたのも圧縮玉のせいだった。

 圧縮玉の鑑定に記されていた《外に出しておくだけで凶器になる》っていう意味も分かった。それなら隠し部屋の魔素溜まりも同じくらいに凝縮させれば融合するのかな?って思ったけれど……。

 ヒースクリューネの魔素溜まりは良質系魔素だったから自分の中に入れるのも怖くなかった。しかしペッドギアの魔素溜まりは負の感情から生まれたもの。『聖魔法』を使って凝縮させるにしても、同じようにするのは嫌だった。

 それで躊躇(ためら)っているうちに別の直轄地であるハリアスで問題が起きて、そちらの解決を優先させていたら……。その途中でペッドギアのダンジョン誕生の切っ掛けというか、コツを掴んだんだよね。


「やっぱり運気っていうか、巡り合わせってあるよなぁ……」


 飲み干したカップを机に置いて、もう一度考える。


 アレスティラ様に呆れられるかもしれないけれど、直轄地の5ヶ所以外は気の向くままに旅してみよう。生存確認も兼ねて、旅先から法王宮に移動魔法を時々するからって言えば、許してくれるだろうし。

 それくらいユルい旅程の方が楽だ。




「殿下。そろそろ昼食のお時間です」


 地図を広げながら過去を思い出していたら、ハイネとアイゼイヤが呼びに来た。結構な時間が過ぎていたようだ。ちらりとアイゼイヤを見れば、朝より頬が痩け……いや、引き締まっている。

 ハイネの教育は即効性があるらしい。


「お疲れ、アイゼイヤ。ハイネもご苦労様。これからも頼むね」


 そう言って2人に笑いかけると、アイゼイヤには困った顔をされてしまった。


 こいつ……。

 自分で言うのもなんだけれど、レンフィールドの顔面偏差値は高いんだぞ!

 個人の好みもあるから、誰からも好かれる容姿……とまでは言わないが。少なくとも仕える人間、それも美麗な容姿の人間に笑いかけられて、困った顔なんて普通はしないと思うんだよね。

 きっとアイゼイヤの美醜の価値観は特殊な部類なんだろう……。うん、そう思わなくちゃ納得できん。でもナルシストじゃないので鏡を見てうっとりはしないよ。中性的で綺麗な容姿だけど、私の好みじゃないからなぁ。

 そう言えば、私の好みってどんな人だろう?

 苦手なタイプ、嫌いなタイプは分かってる。

 リアル熊みたいな野性味溢れる容姿や俺様な性格の人は好きじゃない。

 バランス良く筋肉がある細マッチョ……?

 脱いだらスゴいんです系?

 いや、エッチすることはないから、そういうのじゃなくて……。

 外見より中身が大事だよね。

 こちらの話をきちんと聞いてくれて、同意するなり意見してくれる人……とか、かなぁ?

 そうは言っても流されやすい性格は困るし、自分の意見をゴリ押ししてくるのも論外だし。

 それ以前に今世の私は綺麗でも男だから、相手の男の人が同性愛を受け入れてくれるかが問題だよね。

 幸いこの世界は異性愛だけでなく同性愛も普通に選択肢としてあるから……って、私、アレスティラ様と結婚するんだよね?

 実際には何もしない関係だけど、アレスティラ様は男の私を配偶者にしてまで私の立場を考えてくれて……。

 それに比べて私はアレスティラ様に頼りきりじゃないか?

 好みの人がどうとか言ってる場合じゃない。


「殿下? 食欲がありませんか?」

「え?」


 考え事をしながらも惰性で食堂まで歩いていき、着席していたようだ。しかし食事を出しても動かないから、ハイネが心配して声をかけたらしい。これは切り換えないとダメだ。


「……大丈夫。考え事をしていただけだから」

「さようでございますか。それなら安心致しました」


 テーブルの上には昼食が並べられている。

 野菜たっぷりのミネストローネとモチモチのふっくらした白パン、ホロホロ(チョウ)の薬草添えソテー。

 ホロホロ鳥は前世でも存在したキジ科の鳥類だが、食べたのはこの世界が初めてだった。だから味の比較はできない。でもモモ肉、ムネ肉どちらも美味しいと思う。


「今日も美味しかった」


 この世界では日本のように食前、食後の挨拶はない。

 黙って食べ始めて、食事を終えたら使っていたカトラリーを皿の上に重ねて置く……欧米のテーブルマナーに近い。しかし前世の影響から作り手や給仕の者に何も言わないのは落ち着かなくて、せめて食後に一言付け加えることにしたのだ。それが美味しかった……とか、盛り付けが美しかった……などである。

 異世界転移なり、転生物語にありがちな衛生面や食事面のツラさは想定より少なくて良かった。

 ホロホロ鳥は好物になったしね。


 昼食を終えると、約束通りアレスティラ様に会いに向かう。

 お仕事のある日中は執務室にいらっしゃるから、少し歩くことになるけれど食後の散歩に丁度いい。

 アレスティラ様はなるべく執務室とプライベート·エリアを離した方がメリハリがついて良いらしい。

 この世界では階級社会のせいもあって、仕事とプライベートがごちゃ混ぜになっているパターンが殆どだから、アレスティラ様のようなオンオフの切り換えを考える人は珍しい。

 歴代の法王は、執務室と私室を法王宮内の一部分に集中して使用していた。その為、アレスティラ様も少年時代まではそのまま使っていたそうだ。

 でも形だけとはいってもアイヴィー様と結婚した時に、自分の空間が欲しくなったそうで……。それで執務室のある場所から一番離れた南東向きの(とう)を改装して私室にしたと言っていた。そしてアイヴィー様には陽当たりの良い小宮殿を用意してあげ、法王宮と長い回廊(かいろう)で繋いだ。その回廊沿いには花や水を使った美しい庭園が連なっている。

 子供の頃の私はあの場所で本を読むのが好きだったなぁ。


「あ、もしかして……」


 アレスティラ様と結婚したら、あの小宮殿が私のプライベート·エリアになるのかな?

 アイヴィー様が亡くなって10年。

 今まではアレスティラ様と同じ棟に住んでいたけれど、養子から配偶者になれば立場も変わる。

 小宮殿は私好みの前世でいうゴシックとルネサンスの混じった意匠が所々に刻まれていて居心地いいんだよね。何より主寝室が南向きだから、室内に植物を置いても育ちが良さそうだ。


「今の部屋って、東向きだから朝は良いけれど……」


 昼過ぎには日差しが減る。

 日照時間の長い夏はいいけれど、冬はもちろん春秋も意外と肌寒いのだ。


「ハイネやアイゼイヤも一緒に引っ越しするのかな?」


 専属の侍従や近衛騎士は、使用人たちの専用住居の他にも主人の近くに部屋をもらう。アレスティラ様からの借り物従者とはいっても、ハイネとアイゼイヤ、それに実務担当のカインは私の専属だからね。

 これもアレスティラ様に聞いてみよう。





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