旅立ち準備・1
このお話はBLです。
段々とそれっぽくなってきたと思うので、ご留意ください。
自室に戻った私は侍従たちに礼服を脱がされ、用意された浴室に入った。
これも最初の頃は慣れなかった。
衣服を着せられたり、脱がされたり、髪の毛はともかく身体を隅々まで洗われて、布で優しく拭かれたり……。マッサージは気持ちいいけど、男性の身体って快楽に弱いというか、女性の身体より感じているのが分かりやすくて恥ずかしい。
ちょっとしたことで反応する下半身が本当に恥ずかしくて、魔法で自分の身体を抑えられないかと考えた。
でもそんな都合のいい魔法はなくて、仕方ないから荒療法を実践した。
前世からの知識も総動員して考えられる様々なパターンのエッチを脳内再生したのだ。
当然、盛り上がる下半身。
それを水や氷魔法で冷えさせ……涙ぐましい日々を過ごした。
どうせ出番はないのだから、いざとなれば雷魔法を撃てば機能しなくなるだろう。
そこまで思い詰めた。
しかしそのうち男性の身体だからではなく、この身体が感じやすいのだと気付いたけれど、恥ずかしいのは同じ……。
目指せ、不感症の身体。
そうして感じたら罰のように魔法でいたぶれば、恐怖もあるのか少しずつ感じにくい身体になった。
何度か雷魔法で撃ち抜いたのも良かったのかもしれない。
かなり加減して撃ったけれど、気絶間違いなしの痛さだからね。
でも、まぁ……バレました。
法王宮はアレスティラ様の家だからね。
毎晩のように小さくとも魔法を使っていればバレます。
その当時、私はまだ10歳でアレスティラ様に微笑まれながら男の子の性教育というものを受けました。
優しいアレスティラ様は「気付くのが遅くなってごめんね。レンフィールドがこんなに早く目覚めるとは思わなかったから」と言いながら……慰めてくれました。
ついでに「もうこんなことに魔法を使ったらいけないよ」とも言われました。
それは、そうだよね。
Mに目覚める前で良かったよ。
そんなことを思い出しながら、浴槽に浸かり髪の毛を洗ってもらっている。
好みのハーブが数種類入った麻袋から香る匂いやエキスがリラクゼーション効果を高めてくれる。
「殿下。気持ちの悪いところはありませんか?」
ハイネという名の侍従が聞いてくる。
私の身の回りの世話は殆ど彼がしている。
きっと私が法王宮を抜け出している間のフォローもしてくれるのだろう。
「頭頂部をもう少し……」
「はい」
今夜は疲れたのでマッサージもしてもらおう。
深夜だというのに侍従をこき使いすぎるよね。
でも、これでぐっすり眠れる。
難しいことは起きてから考えよう。
そして朝。
目覚めた私の寝室には、ハイネだけでなく従兄のアイゼイヤもいた。
「何故お前がここにいるんだ?」
思わず素で話してしまった。
法王宮職員をしているとはいっても、私付きじゃないのに何でいるんだろう?
アイゼイヤを見ていると自分の未熟さを思い知らされるんだよね……。
数少ない幼なじみで歳も1つしか変わらないし、優秀で気持ちのいい男だから私の側近にしたかったけれど……断られたんだよ。だからてっきり法王宮とは関係のない職に就くのかと思ったら、学園を卒業したら法王に血の忠誠を誓う臣下になったと聞いて少しだけ腹が立った。
それって私の側近になるのはイヤだけど、アレスティラ様には仕えたかったってことだもんね。
そりゃあアレスティラ様のほうがずっと素晴らしい方だって分かっているけれど、年齢的にもアイゼイヤは私の側近になるんだって思っていたから結構ショックだった。
私には優秀な人材を惹き付ける魅力が足りないんだな~って思い知らされたよ。
何しろ側近候補だったジョシュアたちはお世辞にも優秀な人材だったとは言えないからね。彼らが宰相たちの選んだ私を傀儡コースに引き込む為のクソ野郎ども……おっと、引き込む為の駒だったとしても私にもっとオーラ? それともカリスマって言うのか分からないけれど、とにかく周囲をひれ伏せさせる魅力があればもう少し違ったんだろうって思う。
いくら顔がよくて学業や魔法、剣術すら頑張っても他人を引き寄せる魅力?ってものには関係ないんだと勉強させてもらった相手だ。
「アイゼイヤ?」
返事をしてこないからムッとしてしまう。
私の寝室にまでやって来て黙りか?
顔をよく見ると私を見ているくせに意識はどこかにいっているみたいな感じだ。
くそ、バカにされた気分だ。
せっかくアレスティラ様のおかげで期間限定とはいっても一人旅ができるって、昨夜からテンション上がっていたのに!
「もういい。着替えるから出ていって」
そう言ってベッドから起き出し、ハイネのほうを向く。
パジャマ…といってもネグリジェみたいなやつだけど、それを脱がせて用意してある衣服に着替えさせてくれるのは侍従の仕事だ。
なのに……。
「お、お手伝い、させていただきますっ」
は?
「何で?」
思い切り、謎だ。
だって仕方ないだろう。
何でアイゼイヤが着替えの手伝いをするんだ?
お前の仕事は宮殿にある詰所で法王宮との調整をすることだろう?
「殿下。アイゼイヤ殿は今日から殿下付きの侍従見習いとなりました。アイゼイヤ殿、殿下に着任のご挨拶を」
不思議そうに見ているとハイネが淡々と説明してくれる。
えー、アイゼイヤが私の侍従になるの?
うわぁ~。せっかく私の側近になるのを蹴ってアレスティラ様に仕えていたのに、結局私の侍従という形で側近になったんだ。
急に決まったんだろうな。
だから意識がどこかに飛んでいるんだな。
現実逃避、というやつだ。
仕方ない。
今日は大目に見てやろう。
「侍従見習い、頑張って」
「殿下。アイゼイヤ殿はまだ挨拶しておりません」
ハイネが突っ込みを入れてきた。
彼にそんなつもりはないだろうけれど、タイミングが良いので可笑しくなる。
すると我にかえったらしいアイゼイヤが膝をついて正式な礼をしてきた。
「レンフィールド·アレスティラ·ヴェーゼ·グリエス殿下。ご挨拶が遅れまして申し訳ありません。アイゼイヤ·グリエスです。本日より殿下の侍従見習いとして奉仕させていただきます」
「うん、よろしくね」
法王家の王子教育を受けていたので、アイゼイヤは1年目の新人職員といえども所作は完璧だ。
さすがである。
でもなぁ……。
私の着替えの手伝い、オタオタしていて逆に邪魔だった。
これも仕方ない。
アイゼイヤも実家に帰れば王子様だから、奉仕される側だもんね。
身支度を終えると朝食の時間だ。
それが終わったらアレスティラ様の空いてる時間に昨夜の話の続きをしよう。
アレスティラ様は移動魔法が使えるようになったら旅に出て良いって言ったけれど、さすがにすぐは無理だろうから。
ジョシュアたちの処遇に目処がつくまでは呼び出しもあるかもしれないから法王宮にいないと……。
あ、エリザベスとの婚約解消の件もあったな。
「レンフィールド」
食堂まで歩いていると、後ろからついてきているアイゼイヤが小声で話しかけてきた。
ハイネは前を歩いているのだが気付いていないようだ。
「何?」
私も小声で返す。
アイゼイヤが素早く一歩距離を縮めてくる。
「ナイトウェア、ああいうのがお前の趣味なのか?」
ナイトウェア?
ああ、寝間着か。
「趣味っていうか、子供の時からああいうのしか用意されてないから着ていたけれど。もしかして他のパターンもあるのか?」
そう答えたらアイゼイヤが頬を染めた。
え、何なんだよ、その反応は。
「い、いや。用意されているなら問題ない。うん、全く問題ない」
鼻息荒く断言するなよ。
余計、気になるだろうが……。
「アイゼイヤ?」
「気にしないでくれ。似合っているから」
「何だ、それ? 寝間着に似合うも似合わないもないだろう。せいぜい好みの色合いかどうかだけだ。あ、素材のことか? それなら気に入っているぞ。吸水性が良いのにさらっとした肌触りで寝返りをうっても気にならない」
あ、この誉め言葉は前世でよく聞いた売り文句だな。
月に一度の不快な日々を少しでも快適にってやつ。
これって直接肌につけるものなら共通するキーワードだ。
そして寝間着といえば思い出す。
前世で有名だった色気ある女優が、香水が寝間着代わりだっていうエピソード。ネタなのか本当なのかは分からないし、すでに亡くなっている女性だったけれど、お腹が冷えなかったのかな?なんて思ったものだ。ちなみに真似はしてない。冷え性だったからね。
「裸で寝たらお腹が冷えるし…」
うっかり、口に出してしまった。
途端にアイゼイヤが咳き込んだ。
「おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だ……」
「いいえ、大丈夫ではありません。アイゼイヤ殿、先程から殿下に対しての言葉遣いがなっていませんよ。今までがどうあれ、アイゼイヤ殿は殿下直属の配下となったのです。お名前を呼び捨てにするなど、もってのほかです」
ハイネが無表情のまま、こちらを向いていた。
アイゼイヤの頬がひきつっている。
お前って意外と表情豊かだよね。
「すまない、ハイネ。私も久しぶりにアイゼイヤと話せて浮かれてしまったんだ」
きっとアイゼイヤは私の不在をフォローする要員として、急に侍従見習いなんてことにされたに違いない。初日だし、ここは主として庇ってあげなくては。
そして……。
「アイゼイヤ。ハイネの言うとおりだ。私たちが従兄弟だということは変わらないが、守るべきこともある。気を配るように……」
古参のハイネを蔑ろにしてもいけない。
彼のことも尊重しないとね。
え、私?
私は主だからね。
適当でいいんだよ。
アイゼイヤからはダメでも私からなら許されることって結構あるんだよ。
「はい。お気遣いありがとうございます、殿下」
ほら、バカ3人と違ってアイゼイヤはすぐに気付いてくれる。
ハイネもそれ以上は私の前で指導することはない。
その後は何事もなく、食堂で軽く朝食を口にした。
カリカリに焼かれた薄いトーストにバターを塗って、紅茶を飲む。合間に果物を摘まんでおしまい。
給仕を手伝っていたアイゼイヤが驚いている。
薄いトースト1枚に紅茶、果物少々。
17歳の食べ盛りとしてはあり得ない量だからね。
でも朝はこれくらいが限界なんだ。
「朝は飲み物だけでもいいくらい食べられないんだ」
「そうなの……ん……ですね」
言葉遣い、早く何とかしたほうがいいぞ?
ハイネの視線がお前の後頭部に刺さっているからな?
「失礼いたします」
入室してきたのはアレスティラ様付きの侍従の一人。
アレスティラ様のお仕事はお昼頃に終わるから、午後からご一緒できると伝えられる。
私は学園を卒業したばかりで具体的な仕事は何もない。
「それなら私は自室で読書でもしているよ」
「恐れ入ります」
アレスティラ様付きの侍従はそう言って、頭を下げると出ていった。
まあ実際には読書じゃなくて、これからのことを考えるのに丁度いい時間だ。
そしてアイゼイヤにとってはハイネからの教育時間かな?
頑張れ。




