法王猊下と私・2
BLの香りがします。
ご注意ください。
「殿下」
アレスティラ様に連れられ法王宮に戻ろうとしたが、宰相に伝言を頼んだ近衛隊長が早足で近付いてくる。
あわよくば今夜は行かないつもりだったのに……。
私は尋問が終わったら直ぐに行く、とは言ってないのだから……。
おー、私の性格というか考え方?も貴族っぽくなってきたなぁ。
いやいや前世でも言葉遣いの巧い人たちがいたわ。
言質を取られないように言葉を選んで話すのがメチャクチャ上手で、何とかと詐欺師は紙一重だと常々勉強させてもらってましたよ。
イヤだなぁ。
私にも素質があったのか……。
歩み寄った隊長はアレスティラ様に膝をついて礼をとると、隣にいる私を見上げた。
「皆さまがお待ちになっておられます。どうかお願い致します」
私が行かないと隊長や周りの使用人が八つ当たりされるんだろうな。
高位貴族や重臣がわざと約束をすっぽかしたり遅刻して、敵対陣営や格下の相手を困らせることがある。そしてそんなことをされた相手が苛立って、周りの者に当たり散らすこともある。当たり散らされた者は更に下級の使用人や、恋人もしくは家族に……。
くだらないことだと思う。
でもそんなマウントの取り方が貴族のプライドと絡んで宮廷内だけでなく、国内にも波及している。
負の連鎖の1つだよね。
ここで私が行かなかったら……。
宰相たちは私を約束1つ守れない、まだまだ子供のようだ……とか理由付けして、自分たちの子飼いを側付きに押しつけてくるだろう。
仕方ない。
どうせ会って話をするんだ。
「わざわざ呼びに来てくれたのか。面倒をかけてすまないね」
そう言って隊長に立ち上がるよう軽く左手を振り、アレスティラ様に向き直る。
「宰相たちを待たせていたのを思い出しました。申し訳ありませんが、今夜のお約束は後日にしていただいてもよろしいですか?」
そしてまだ繋いでいた右手を離そうとするが、外れない。
「私も一緒に行くよ」
「え?」
「だから離さなくてもいいよね」
アレスティラ様は微笑んで、握っていた手を今度は指を絡めた……恋人繋ぎにしてきた。
この国でもこの繋ぎ方は恋人同士や夫婦がするものだ。
「そういった存在を持てない私たちだから、雰囲気だけでも味わいたいね」と言って始めたものだが、今はまずくないか?
ほら、周りは事情を知っている人しかいないのに気まずそうだよ?
「レンフィールドたちは私が同行したらできない話でもするのかい?」
わー。
そんな意地悪を言っちゃダメですよ。
隊長が困った顔をしています。
普段なら近寄りもしない宰相たちに会うなんて言うから、混乱しているんだろうな。
「一緒に来ていただけるなら、私も嬉しいです。でもアレスティラ様。楽しくない場所とお話ですよ?」
ぎゅっと繋がる手に力を込める。
本当はアレスティラ様を説得してから、宰相たちを上手く煽って出奔する名目を作ろうと思ったんだけど……。
「きみがいるのならどこでも楽しいよ。心配してくれてありがとう」
くーっ!
甘いバリトンが、耳に心地いい!
カッコいい台詞もさらっと言えちゃうし。
私も旅に出たら、今まで使えなかった庶民の言葉遣いをしたり、アレスティラ様みたいに少しキザな台詞をお嬢さんたちに言ったりしたいなぁ。
恋愛対象は男の人だけど、女の子が嫌いなわけじゃないからね。
宰相たちは専用のサロンで待っていた。
相変わらず無駄に大きく豪華な部屋だ。
アレスティラ様と入室した瞬間、すかさず隊長を睨む宰相たち。
おお、怖っ。
「これはこれは法王猊下。こちらにいらっしゃるとはお珍しい。相変わらずレンフィールドとは仲がよろしいようで何よりですな」
宰相マクミランの長男ラザラス……つまり私の実の父親が、私と手を繋いでいるアレスティラ様に笑いながら臣下の礼をとる。
この男は私に肉親の情を抱いていない。
それどころか憎らしく思っている。
優秀な青年として育ったからだ。
私という『聖魔法』の遣い手が生まれた時は、法王家の後継者争いで有利に立てると喜んだくせに。
10年後、弟のフィリップと妾レイチェルの間にヴィリジアン……女性の『聖魔法』の遣い手が生まれたことにより揺らぎ始めたからだ。
国家元首は法王だが、実際に国を動かす実務を司るのは法王家当主と定められている。
そして法王には『聖魔法』の遣い手としての存在と、働きだけを求められる。
だから遣い手としての能力に差がないなら、より扱いやすい人物を法王にしたいのだ。
私よりヴィリジアン……。
法王家当主である宰相マクミランがそう考え始めたのだろう。
自分で言うのもなんだが私はチート能力の持ち主だと思う。
誕生直後はあまりの呼吸の苦しさに悶えたが、1週間で簡単な状況判断を終わらせた。
まずは並列思考が可能だった。
次にステータスの内容がご都合主義の主人公並みにヤバかった。
悪いな……とは思ったが周囲の人や物を鑑定しまくり、それらを参考に自分のステータスを隠蔽することに決めた。
おかげで初めて行われた簡易なステータス鑑定はもちろん、2歳の時に受けた法王宮にある詳細鑑定の魔道具でも騙せ……いや誤魔化せた。
本来のものよりランクを下げたステータスだが、それでも相当優秀だったようで称賛の嵐だった。
おまけに前世のアラフィフ女の記憶があるので、幼い子供の言動をしない……というか、しようと思っても恥ずかしくてできないから大人びて見られる。
基本的なマナーや公的な言葉遣いが前世の社会通念と殆ど変わらなかったのもあって、少し教えてもらえれば習得できた。
算術は言うに及ばず、文字さえマスターすれば歴史も法律関係も楽勝だ。
前世の記憶や経験ではどうにもならない魔法と剣術も、学園に入学するまでには一人前と言える程度にはなった。
学生としてではなく、その専門職として一人前。
スゴいでしょう。
チート能力もあったけれど努力したのです。
社交ダンスも頑張りました。
おかげで男性、女性、双方のパートを踊れます。
女性パートが必要だったのは、子供の頃はアレスティラ様と踊っていたから。婚約者が決まってからは彼女と踊るので男性パートしか披露してないけど……何かの役に立つ日もあるだろう。
で、まぁ……そんな優秀な男がいずれ法王になったら、色々と面倒なことになるよね?
それでもアレスティラ様が私を次期法王と認め、養子にしている以上は宰相たちも表立って反対できない。
少なくとも民衆からすれば優秀な法王の誕生は喜ばしいことだからね。
幸いと言っていいのか、凄く美麗な容姿だし。
見た目は完璧王子。
文句の付け所のない私の代わりに7歳の少女ヴィリジアンを次期法王の位につければ、さすがにまずいことは分かっている。
だからジョシュアたちのような側近候補をつけたのだろう。
思考が単純で扱いやすい……できれば私に対して敬意を持たない者。
私の足を引っ張るようなことをしても気にしない、というか、分かっていないくらいのおバカさん。
そんなことが続けば、私は首輪と鎖で雁字搦めにされる。
宰相たちはヴィリジアンに代えなくても私をコントロールできるようになる。
そんな大事なことに気付いたのがさっきのパーティーの最中って……まだまだ私は甘い。ジョシュアたちっておバカさん、とか言ってる場合じゃないわ。
アレスティラ様と隣同士に座り、手が離れる。
侍女が出したお茶を一口。
「待たせたようですね。それで、どういった用件ですか?」
分かっているけど、聞きます。
お約束です。
「次期法王であるレンフィールド王子殿下の学園卒業パーティーで、愉快な演し物があったと聞きました。我々にもお話してもらいたくご足労願ったのですが、法王猊下がご一緒とは知らず大変失礼を致しました」
そう言ってきたのは宰相の腰巾着A。
アーサーの父親であるノア·コックス伯爵だ。
聖騎士団の団長という立場にありながら、戦地に行かず鍛練もせず、宮殿内の安全な場所から偉そうに指図する。先祖の功績によって代々任じられている名ばかりの団長として有名で、騎士としての実力は下士官どころか一般兵よりヒドイのでは?と噂されている。
同じ騎士団でも近衛とは不仲。
跡継ぎの長男が近衛騎士を目指し、家を出たからだ。
私としては、まともな長男のほうを側近候補にしてもらいたかったな……。
まともっていえば、従兄弟枠の側近候補ならアイゼイヤがいたじゃないか。
あいつ、子供の頃はそれなりに話したり遊んだりしていたのに、いつの間にか疎遠になったから側近候補になりたくないのだと思ったんだよね。だけど学園を卒業したら血の忠誠を誓って、法王家の一員になっちゃってさ。
何なの?
やっぱり、母親が違うといってもヴィリジアンは妹だから、そっちに付いたのかな?
読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマや評価をしてくれて嬉しいです。




