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1、突然ですが読者様の予想通りあなた方は死にました

「ようこそ女神の間へ。残念ですが、あなたたちは死ん……」

「っしゃあ! 異世界転生か!?」

「あの、ちょっと静かにしてもらって」

「あ、すいません」


夜空を彩る天の川のように美しく滑らかな銀髪に温かみを感じさせる豊満な胸、慈愛に満ちた大きな瞳。

視界の片隅に映るだけで魅了されてしまいそうなほど麗しい。

女神はコホンと咳ばらいをし、再び姿勢を整えて二人に向けて説明を始めた。


「残念ですが、あなたたちは死んでしまいました」

「うっし」

「あなたたちの死は偶発的なものであり、こちらで設定された寿命に基づいた死ではありません。そのため、有利な条件を得て他の世界線へ転生することが決定しました」

「よっしゃあ!」

「……」


今回の死者二人の反応は実に対照的だった。

死んだというのになぜかウキウキな少年、一方でもう一人は彼女の話を聞いているのかもわからない。


「小堂さん、はやる気満々みたいですね」

「もちろん! 何なら俺は異世界転生するために生まれてきたようなもんですから!」

「死んだんですけどね」

「まあこの場合は異世界転移ですけど、それもまた良し!」


女神は手に持っていた太い本のページを開く。


『小堂春馬 (しょうどうはるま) 男 明日葉高校二年 漫画研究部

少し茶味がかったつんつん黒髪ショートカットが特徴で、決して整った顔とは言えない

身長170センチ、体重54キロ

ライトノベルが大好きで、特に異世界転生ものに造詣が深い

陰キャ三軍と立場は弱く、さらには大声ではしゃぐタイプだったため敬遠されていた

好きが行くところまで行ってしまい、自分が転生することを夢見て妄想をしたり、ラノベを執筆して投稿したりしていた

修学旅行中、バスが事故に巻き込まれ、外傷による出血多量で死亡』


『久瀬詩 (くぜうた) 男 明日葉高校二年 バスケ部

真っ黒いストレートのショートカット、冷たげな眼と通った鼻筋が特徴で美形中の美形

身長183センチ、体重67キロ

寡黙だがクラスの中心になるほど人望の厚い人物

思考は論理的

アニメや漫画にも関心があり、それなりの知識を持っているが、異世界転生ものが苦手

修学旅行中、バスが事故に巻き込まれ、クラスメイトの夏目陽菜をかばい、外傷による出血多量で死亡』


「久瀬さんはご納得いただけたでしょうか。小堂さんに比べて反応が薄いですが」


久瀬は顔を上げ、少し不快感をあらわにしながら女神との会話を始める。


「納得いかなかったら何か変わるのか」

「いや、特には」

「なら話を進めてくれ。時間の無駄だから」


彼女は思った。

こんな奴がクラスの中心なのか、と。

人間とは不思議なものだ、と。

ちょーーーっと顔がいいからって、と。


「すごいタイプです」

「は?」

「あ、いや、何でもないです。では早速あなたたちの次の世界へ……」

「ちょっと待て」


ここまで静かに聞いていた久瀬が話を遮った。

その顔は明らかに不機嫌である。


「あまりにも説明が不足してないか」

「えっと、どの辺が」

「なぜ不慮の事故だと次の世界で優遇されるんだ。そちら側が想定してない死の条件はなんだ。転移される異世界は何処だ。日本語は通じるのか。与えられる優先待遇はなんだ。その異世界というのはどういった世界線なんだ。僕たちのいた世界と似た価値観を持っているのか、それとも全く違うのか。あと」

「その辺は転生してから説明するので。OJTってやつですよ。それに早く進めろって言ったのはそっちじゃないですか」

「転移ですよ!」

「無駄話はやめて必要なことの説明に早く移れといっただけだ。なぜ女神はこちらの世界の言葉をつかえるんだ」

「女神ですから」

「女神とはなんだ。本当に神なのか? なぜ人間が思い描いた神に近い形を模しているんだ。ギリシャ神話をもとにしているのか? それはどうなんだ? 神という絶対的な存在が人間の創造した神という偶像に形態を似せているという事なのか?」

「ちっ」

「ここも伝承通りだな。神に碌な奴はいない。それに転移やら転生なんてクソくらえだ」


女神は既に眉間が断層を起こしている。

それもしょうがないことだ。

久瀬のいちゃもん癖は完璧人間である彼の唯一と言える短所であり、逆に言えば彼が完璧人間と呼ばれる所以でもある。


「とにかくあちらに転生してから説明しますので! ほら、もう行きますよ!」

「よっしゃあ! 異世界ライフのはじま」

「ちょっと待ってくれ」


再び転生を遮る久瀬に、しびれを切らした彼女はぐっと詰め寄る。

その形相はまさに鬼。

インキャの片鱗も女神の片鱗もそこにはない。


「すまん。これは完全に僕の私情だ。僕が死んだときに身に着けていたピアスがあったと思うんだが」

「ああ、それなら」


女神がフッと右手を払い、手のひらを上にするとそこには小さな紺碧のピアスが現れた。


「それだ」

「大切なものなんですか?」

「……お気に入りなんだ。ありがとう」

「あ、微笑みかわいっ。じゃねーや、この程度のお願いならいつでも。女神ですから!」


女神の間という虚無空間に、彼女のどや顔が良く映える。

神と言えど、やはり承認欲求というものはあるようだ。


「じゃあ僕も家にあるエロゲ」

「それもっていってどうするんですか?」

「旅の合間に」

「PCですよね。使えないと思いますよ」

「いや、でも一応」

「邪魔ですよね」

「はい、なんでもないです。すいませんでした」

「では改めて」


女神が開いた本が青白い光を放ち、バサバサとページが捲れていく。

突風が吹き荒れ、彼女の美しい銀髪も激しく揺れる。


「では、あなたたちの新しい人生に幸あら」

「本の中の世界に行くのか? なんで風が吹いてるんだ、その光は」

「幸! あらんことをー!」


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