彼女からは太陽と薔薇の香りがした
初めて最後まで文を書きました。
稚拙な文章ですが、コメントで批評などしていただけるとありがたいです。
「そういえば、私貴方のこと嫌いだわ」
昼下がり、少し瞼の重くなる時間。
まるでこの世の汚れを知らないっといった様子の薔薇園に囲まれた中で優雅にティータイムを楽しむ彼女がいた。
そして、今朝の朝食でも尋ねるような何気ない口調で、彼女は唐突にそんなことを言ったのだった。
「‥‥‥ずいぶん急な話だな、後学のためにどこか嫌いなのか教えて欲しいもんだ」
別段彼女が唐突におかしな話をし出すのはいつも通りのことだった。生粋にして、稀有、血統書つきのお嬢様である彼女は、平凡なものの反応などは全く気にしようとはしない。なんなら俺が無視を決め込んでも彼女は一人でに喋り、話を完結させてしまうだろう。ただ、彼女がここまでストレートに辛辣なのは久しぶりなのと己の話題であったことから普通に返答してしまっている自分がいた。
「そうね。いつも不満げな顔…考え方…全体の雰囲気かしら?」
「俺に尋ねられてもねぇ」
どうやら、あの彼女にしては珍しいことに言葉に詰まっているようだった。的確な表現を探すことが出来ずに今も少し頭を悩ましていた。
「別に貴方の性格や顔を嫌っているわけではないのよ」
「そう言って貰えるのは有り難いが、性格はまだしもお前の美的感覚は信用できないからな」
「あら失礼なことを言うわね。私の美的感覚の何が信用できないというの?」
失礼なことを唐突にいい始めた御本人が目の前にいるわけだが、
「お前…、ジル爺のあの化け猫を可愛いとか言ってたのを、俺は忘れてないぞ」
ジル爺とは彼女のとこの専属庭師であり、もう50年以上もこの家に仕えているらしい。彼の整えた庭はもはや1つの芸術であると謳われる程の腕で、俺にしても彼よりも繊細かつ丁寧な仕事をする人を見たことがない。
また彼自身もとても気さくで優しい良い人なのだが、1つだけ欠点らしきものを挙げるなら彼は壊滅的なのだ…絵を描くことが…
ジル爺の化け猫とは、そんな彼が描いた、寝ている猫の絵らしいのだが(本人がそう言っていたが俺には、いきり立っている化け猫にしか見えなかった)なんと、ここにいる彼女のお眼鏡にはかなったようで、彼女からはとても可愛らしいという評価を貰っていた。というか、彼女はジル爺にお願いしてその絵を譲り受けていた。また、ジル爺は今度は俺の絵を描いてあげようと言ってくれていたが、丁重にお断りさせてもらった。
「あら、あの可愛さがわからないなんて、貴方それでは時代遅れよ」
どうやら彼女は俺の時代よりも遥か先を行っているらしい。別に俺は世の中の流行を詳しく知っている訳ではないが、彼女の感性が陽の目を見ることはなかなかに難しいと思う。
「それよりも、話が逸れたわね」
「ああ、なんだ。まださっきの話は続いてたのか」
彼女はよほど俺の気に入らないところを話したいようだ。
「それで、俺のどこが気に入らな…」
「お嬢様!こちらにいらっしゃったのですか!」
(気に入らないってんだい…)
俺の会話を遮ったのは彼女の家のメイド長であるメルポートさんだった。メルポートさんはお嬢様を見つけて安堵の表情を浮かべた後、俺を見て少しだけ眉をひそめた。
ところで、言っていなかったが俺はある条件下の中で人の心を読むことができるのだ!次にメルポートさんの口から飛び出す言葉を当ててみよう。
(またこんなものと一緒にいて)
「またこんなものと一緒にいて…お嬢様の品格が下がってしまいます。お戯れもほどほどにしてください。」
ほら、当たった。
別にメルポートさんが嫌な人であるという訳ではなく。俺を認識した人は皆同じような反応をする。顔をしかめられるくらいならどうってことはない。物理的な手段で不快感訳を示せられるよりは断然ましである。彼女やジル爺のように普通に俺に接する人の方が少数の人間である。
「お嬢様、旦那様がお呼びになっています。いつもの部屋にと」
「わかったわ。ありがとうメル」
まあ、メルポートさんは俺に危害を加えないし、ただ純粋にお嬢様を心配しているだけというのが伝わるので、俺にしてみればそこまでメルポートさんが嫌いというわけではない。(メルポートさんは普通に俺のことを嫌っていると思うが…)
また、その心情を察する部分が無いわけではない。俺もこんな奴が自分の周りにいたら不快でしかないだろう。俺みたいなやつは俺だけで十分なのだ。
彼女が椅子を引いて立ち上がる。彼女のハーブティはすでにメルポートさんに片付けられていた。相変わらずこの家の人たちは仕事が速い
メルポートさんがいる前なので彼女に付いていくという選択肢はない。あとはこの場に留まるか、去るかくらいだが、ずっとここにいればメルポートさんの冷たい視線を喰らうだろう。
なので、ここは空気を読んで俺は去らせてもらうことにしよう。
(一足お先に失礼しますと)
「あら、どこに行こうというの?この私を置いて」
「薔薇の見えないとこにでも行こうかと思ってね。1ヶ月分の薔薇は見た気がするよ」
「そう、でも残念だけれどそれは出来ないわ」
「へえ、どうしてだい?」
「貴方は私と一緒にお父様の部屋に行くんだもの。この前お父様に約束したのよ。貴方と会わせるって」
このお嬢様はいきなり何を言うんだか…
「あのなあ…。こんな溝鼠の何処の馬の骨とも知れねえ奴がゴーデンの御当主様に会って良いものなのかよ」
(いいや、良いわけがない)
彼女は時々変なことを言い出す。それも唐突にだ。分かっていたし、少しくらい馴れてきたつもりだったが、そんなことはなかったらしい。
「鼠なのか馬なのか分からないけれど、いいに決まっているわ」
少し呆れたように彼女言った。
「なぜ…?」
「だって……貴方は私の一番の友達でしょ?」
絶対に今の俺はとても間抜けな顔をしていると思う。
そんな俺に彼女はまるで悪戯を成功させた子供のようにあどけのない笑顔を見せたくれた。
「貴方のその黒い毛に真っ赤の瞳を不吉だと蔑む人はいるかもしれないけど、本当はとっても綺麗な色なのよ。少なくとも私は大好きだから。もし貴方が貴方を好きになれないなら、その分私が貴方を好きでいるから。だからいくら貴方でも、私の好きなものをないがしろにしないで。貴方のそうやって自分を蔑むの私、嫌いよ」
やはり、彼女の感性は普通の人と大きく変わっていると思う。
けれども仕方ない。何故なら彼女は生粋にして、稀有、血統書つきのお嬢様だし、彼女は平凡なものの反応など気にはしないのだから。自分の好きなものは好きと言い、人の好きなものも否定しようとはしない。彼女どうしようもなく俺の大好きな彼女なのだ。
「君に嫌われちゃあ仕方がない。少しずつ直すとするよ」
「ええ、そうしてちょうだい」
彼女はおもむろに自分の両の手を広げてきた。俺は少し照れてしまったが、勢いよく彼女の腕の中に飛び込ませてもらった。
冷え性な彼女の冷たい手は俺にとってはとても心地のよい温度だった。
失敬。俺としたことが一番大事な紹介を忘れていたようだ。
俺は黒毛赤目で人に蔑まれ嫌われてきた元化け猫。今はルナという名前を貰い、しがない彼女の飼い猫をさせてもらっている。
このあと彼女の親父さん、つまりゴーデンの御当主様は散々に俺を撫で回わし。彼女の飼い猫になることをすぐ許可してくれた。
また、ジル爺にそのことを伝えると大喜びされ、彼はすぐさま俺の似顔絵を描いてくれた。ちなみに、その絵は全く俺ににてなかったし、何故かそれは彼女の部屋に飾られることになった。
そして、メルポートさんからは「お嬢様が幸せであるなら私に異論はありません。ただし、お嬢様を泣かせることのないように」というありがたい御言葉を頂いたのだった。