僕はおねしょをする為に生まれてきた
活動報告で載せたプロットと……違わないッスかねぇ?
──チュンチュン……
快晴の空の下、今日も世界は平和でありその男はいつも通りおねしょをぶっかましていた。
尾音 庶太郎は高校三年生にもなり毎日おねしょをしている。しかし彼はへこたれない。
「……今日も中々のおねしょだな♪」
もはや達観した顔で自らの黄金アートに御満悦な面持ちを見せながら、おねしょを恥じること無くベランダに布団を干し、下で待ち構えていた母親はその布団に描かれたナスカの地上絵をスマホで撮影していた。
「ナイスおねしょよ庶太郎ちゃん♪」
その傍らで通学する学生達は指を指しながら尾音家の日常を嘲笑っていた。
庶太郎が学校へ登校すると、クラスメイトの宇都宮花蓮が笑顔で挨拶をした。おねしょマンと呼ばれ避けられている庶太郎に挨拶をしてくれるのは彼女だけだ。
(花蓮ちゃん……♡)
そんな花蓮に庶太郎はゾッコンで盲目でロマンティック浮かれ祭りであった。
「野郎共座れー。修学旅行の班決めするぞー?」
担任が現れ庶太郎を奈落の底へと突き落とす一言を放つ。
(……けっ!)
当然ながら庶太郎は余り物チームとして班が決まった。宇都宮花蓮はクラスのイケメン共に囲まれ煌めいていた。
修学旅行は一泊二日で行われ、一日目は寺やら神社やらを巡った。庶太郎は興味も無く花蓮の事ばかり見ていた。道中気まぐれで引いたおみくじには『水難の相アリ』と書かれていた……。
その夜、庶太郎は旅館のトイレに籠もっていた。
(へへ、トイレで寝ればお漏らしの心配は無いぜ!!)
希代の名案を引っ提げ、庶太郎はトイレで眠りについた。同室の余り物チーム達は何処かへ行ってしまい部屋には庶太郎一人であった。実に好都合。
──チュンチュン……
「キャーーーー!!!!」
それは目覚ましには不向きな悲鳴だった。
「どうした!?」
担任が慌てて部屋へと突入する!
「わ、私の布団が……!!」
担任が布団を捲ると、そこには見事なおねしょがあった。
「何で花蓮ちゃんの布団におねしょが……!?」
「私、昨日は友達の部屋で寝ちゃって……朝部屋に戻ったらこうなってました!」
その言葉に一同は庶太郎の仕業ではないか真っ先に疑った。それ程に『おねしょ=庶太郎』の図式が出来上がっているからだ。
当の庶太郎はトイレで寝たため少し目覚めが悪かった。ねぼけながらも洗面台で顔を洗う。そして廊下へ出ると妙な人集りと手招きする担任が居た。
「庶太郎君……いいかな?」
呼ばれて部屋に入る庶太郎。そこには泣き崩れる花蓮とおねしょされた布団があった。
「……え?」
身に覚えの有るはずの無いおねしょ。そして冷ややかなクラスメイトの視線。庶太郎は訳が分からず慌てて否定した。
「違います! 俺じゃ無い!!」
否定するもそれを信じる物は居らず…………
庶太郎は花蓮の部屋に忍び込み、花蓮の布団で寝た疑いで二日目に参加すること無く自宅へと送還された。
「庶太郎ちゃん!? どうしたの!?」
庶太郎の母は庶太郎から経緯を聞き、憤りを感じた!
「庶太郎ちゃん! 写真は撮ってある!?」
「い、一応……」
庶太郎はスマホに撮ったおねしょの写真を母親に見せた。
「これは素人の作品だわ……庶太郎ちゃんのおねしょじゃ無いわよ!」
母親は庶太郎の無実をおねしょから確信した。
次の日、早朝から母親は庶太郎と共に担任と話し合いの席を設けられていた。
「これは庶太郎ちゃんのおねしょではありません!!」
話し合いが始まるなり勢い良く超えを荒げる母。バッグから一冊のアルバムを取り出し、おねしょの写真を取り出した。
「これはゴッホのひまわりを超える庶太郎ちゃんのおねしょアートです!! 今回のおねしょと比べると明らかに違います!!」
写真を見比べる担任。しかしおねしょ素人の彼には何度見ても違いが分からなかった……。
「どれも唯のおねしょにしか見えませんが……?」
「まあ!!!!」
母は嘆いた。
「それでよくも先生を出来ますわね!?」
「すみません。おねしょは専門外なので……」
「母さんもういいよ。恥ずかしいから止めてくれよ……!」
庶太郎はありのままの無実を訴え、その日は解散となった。
家へ戻ると、玄関に見知らぬ女が座っていた。ミニスカートで有られも無く座っているためパンツは丸見えで、裾の短い服でお腹は丸出し。髪は金髪に染められメイクは山姥の様に奇抜を極めていた。
「……ビッチかしら?」
「ビッチだね」
親子で見知らぬ女をビッチ扱いする。
「初めまして。花蓮の姉です……」
ビッチが立ち上がり軽く会釈した。花蓮の姉がビッチであることに庶太郎は戸惑いながらも、母はビッチを家へ上げた。
「すみません。この子に話がありまして……」
ビッチは庶太郎と二人きりになることを望み、庶太郎は渋々ビッチを部屋へと招き入れた。
「昨日帰ってきた花蓮の様子がおかしくてね。友達に話を聞いて全てを察したよ。花蓮は何も言わないが、おねしょしたのは君じゃないんだろ?」
「!? 信じてくれるんですか!?」
庶太郎は戸惑いながらもビッチの意外な一面に嬉しさが垣間見えた。
「まあ、あの顔はどう見てもアレだな……何はともあれ妹が迷惑掛けてすまない」
「い、いえ、毎日おねしょする俺にも非がありますので……」
「えっ!? 毎日か!?」
ビッチは酷く驚いた。まさか高三になっても毎日おねしょをする人が居ると思ってなかったのだ。
「ごめんなさい……」
庶太郎は俯き加減で謝った。心の何処かではおねしょの罪悪感を感じていたのだ。
「しゃーねーな。それじゃワタシが治してやるよ!」
「えっ!? 出来るんですか!?」
「おう! ワタシと一緒に寝て、お前がおねしょする前に起こしてやるよ!」
「え、ビッチさんと寝るんですか……?」
「嫌なのかよ!?」
「ビッチはちょっと……」
「ワタシはビッチじゃねーよ!! 兎に角寝るぞ!!」
その日、ビッチは庶太郎と同じ布団で寝ることになった。不本意ながら女性と寝具を共にする事になった庶太郎は……
「ZZZ…………」
「コイツ容赦無く寝やがった……」
ビッチ相手に緊張だの興奮だのするわけも無く、庶太郎はいつも通りに寝た。
──チュンチュン……
「うわぁぁぁぁ!!!!」
「!? な、何ですか!?」
ビッチの悲鳴で庶太郎は飛び起きる。そしておねしょは容赦無く二人の寝間着を染め上げ布団には特大の花火が打ち上げられていた。
「やっぱり今日もか……」
「ちくしょう! 起こすつもりが何故かワタシも寝ちまったぞ!!」
ビッチはビチャビチャの寝間着を脱ぎ捨てた。
「ここで脱がないで下さいよ……ビッチの下着なんか見たくないです」
「うるせぇな! 誰のせいだよ!!」
「おねしょは俺のせいだけど、ビッチなのは貴女のせいでは?」
「だからワタシはビッチじゃねーよ!!」
ビッチは服をビニール袋に押し込み、家へと戻りシャワーを浴びた。そして自室で山姥メイクを……止めて清楚な格好と化粧で再び紹介の部屋へと乗り込んだ。髪も黒に戻して見た目は普通の女性そのものだ。
「ど、どちら様でぇ!?」
「花蓮の姉だよ……」
「ビッチじゃない!!」
「メイクも全部落としたよ。これで文句ないだろ?」
「ビッチがビッチじゃなくなったら何て呼べば良いんだ!?」
「……優香」
「へ?」
「だから! ワタシの名前は優香だよ! 覚えとけ!!」
ビッチ改め優香は昼前なのに庶太郎の布団へと潜り込んだ。
「今から寝るからな! これなら夜に寝なくて済む!」
「え? 今日も一緒に寝るんですか?」
「あたぼーよ!」
「…………」
庶太郎はやりきれない思いを胸に秘め、夜を迎えた。
「じゃあ……寝ます」
「おう! 後は任せろ!」
庶太郎は隣で起きている優香に違和感を感じながらも眼を閉じた。
(よく考えたら、隣に居るの花蓮ちゃんのお姉ちゃんなんだよなぁ……)
昨日はどぎつい化粧品の臭いで分からなかったが、今日はほんのり良い匂いが―――
「ZZZ……」
「ほんと容赦ねぇなコイツ……」
優香は隣ではヨダレを垂らしながら眠る庶太郎を見続けた。
「……ふぁ~~」
昼間に散々寝溜めしたにも拘わらず、優香は不意に強烈な睡魔に襲われた。
「……やば……ね、眠……Z……ZZ……」
──チュンチュン……
「うわぁぁぁぁ!!!!」
「!? な、何ですか!?」
ビッチの悲鳴で庶太郎は飛び起きる。そしておねしょは容赦無く二人の寝間着を染め上げ、布団には富岳三十六景が描かれていた。
「やっぱり今日も……」
「ちくしょう! また寝ちまったぞ!!」
優香は再び自宅でシャワーを浴び、今度はノーメイクで庶太郎の部屋へとやってきた。
「花蓮ちゃん!?」
「いや、ワタシだよ」
「花蓮ちゃんそっくり!! 可愛い!!」
「姉だからな……」
すっぴんの優香は庶太郎が見間違えるほどに花蓮に似ており、優香は照れくさそうに笑った。
「よし、まだ10時だけど二人で寝るぞ。お前も寝溜め作戦だ」
「えぇー!?」
「うるさい早く寝ろ!」
渋々布団へ入り込む庶太郎。隣では優香が寝てしまわない様にミントガムを噛んでいる。
「…………寝れないです」
「気合で寝ろ。いつも布団に入ると爆睡してるじゃねーか」
「いや、優香さんがクソ可愛い過ぎて寝れないです……」
「うるせーな! 散々ビッチ扱いしといて今更かよ!」
(優香さんはビッチ……ビッチ……ビッチ……)
無理矢理寝るために意識をビッチへと飛ばす庶太郎。次第に眠気が…………
「……ちなみによ。ワタシ誰とも付き合った事ねぇからな?」
「ファァァァ!?」
庶太郎は目を見開き、はにかむ優香を見る。睡魔は完全に消え失せ庶太郎は覚醒の時を迎えた。
「ね、寝れなくなりました……」
「ワタシは眠くなってきたぞ? なんか知らねぇけどよ、お前の隣だとやべぇ位眠くて…………ZZZ」
「……優香さん?」
優香は庶太郎より先に寝てしまった。まだその口の中にはミントガムが残されている。
「ちょっと、起きてくださいよ。ガム誤飲しますよ?」
「ZZZ……」
「あーもー! 寝顔クソ可愛いな!!」
庶太郎は優香をビッチ扱いしたことを後悔した。
「咽せても知りませんよ!? 僕も寝ます!!」
庶太郎はドS羊女騎士を数えながら、無理矢理眠ることにした…………
──カー カー……
「うわぁぁぁぁ!!!!……?」
「な、何ですか!?」
優香の悲鳴で飛び起きる庶太郎。二人の寝間着は(以下略)
「……何かこのおねしょ変じゃね?」
「…………」
布団に描かれた極上の相合い傘。庶太郎は頭を掻きながら照れ隠しに微笑んだ。
「……なんだよ」
それを見た優香。頬を赤らめ再び布団へと潜り込んだ。
「おねしょ……治るまで居てやるからよ。覚悟しろよ?」
「……宜しくお願い致します…………」
二人は再び眠りへとついた―――
読んで頂きましてありがとうございました!!
普段は変な短編を量産しております。
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(*´д`*)