死にゆくゴミは人間へ
前書きに書く小話どうしようかな~、と思いつつ自室で周囲を見回していると、壁に張り付いていたらしいクモと目が合って「ヒェッ」と三センチくらい飛び上がってしまった今日この頃です。
では、本編どうぞ。
「話は終わりか?」
冷酷な声で綾人が問う。
「あ、あ、...」
ヴィランはまだ言葉を絞り出そうとするが、無駄だと確信してしまってもう何も出てこなくなってしまった。
「話を聞いてやっただけでもありがたいと思え。お前が殺し、蹂躙した相手だって今のお前のように命乞いや、話をしてきただろう?だが、どうせクズなお前たちはそんなこと聞き入れない」
綾人がコツコツと足音を鳴らしながらヴィランに近づいていく。近づきながら微量に『威圧』を発生させ、行動の自由を奪いつつ恐怖を刻み込む。
「く、くる、くるな!」
そう叫びつつ、腰の曲刀を抜こうとした右手がピクリと少しだけ上がったが、勿論綾人がそんな真似させるはずもなく『威圧』をさらに増してヴィランの動きを止める。
さらに増した恐怖にヴィランの体は無意識に膝をついた。どんどん近づいてくる綾人に、もはや声を上げることすらできない。
「お前、何かいいことをしたことはあるか?例えば、人に親切にしたり、街中でゴミ拾いをしたり、なんだっていい。お前の人生の中で何か人のためになることをしたことはあるか?世界のためになることをしたことはあるか?」
綾人は少しだけ『威圧』を抑え、喋れるようにする。別にこの問には何の意味もない。だが、もしも何かあるのだとしたらこいつを人として葬ることができるかもしれない、とそう思った。
綾人の中ではヴィランを殺すことがすでに確定していた。理由は、自分が冷静になり切れなかったせいではあるが、顔を見られたこと。生かしておいたら自分を探し出し、危害を加えようとするかもしれない。次に、単純な問題でこいつに生きている意味はないと感じたからだ。生きていても、人を傷つけながらでしかもう生きていくことはできなくなってしまっているだろう。人を殺しているのだ。何も言うまい。最後に、ヴィランを拘束しておく手段がないこと。綾人には手も足も出ないが、仮にもSランク級なのだ。普通の拘束具では捕まえておけないし。兵士に引き渡しても抑えられる者がいないだろう。綾人も朝までには戻らなければいけないのでずっと拘束しているわけにはいかない。
さて、返答はどうだろうか。どう答えたってお前の死は確定してしまっている。この返答で決まるのはお前がゴミとして死ぬか、仮にも人と認められて死ぬかだ。
「お、俺は、俺、は...」
必死に記憶を探っているのかもしれない。きっとこれが自分が唯一生き残る方法だと考えているのだろう。嘘でもあるといってしまえばいいのに、そんなことを考える脳すら恐怖で支配されてしまっているのだろう。まあ、嘘を言ったところで綾人は見抜けてしまうのだが。
「俺はぁぁぁぁぁ!!!」
何も出てこなかったのだろう。その叫びが明確な答えとなった。
「うるさい」
そう呟きながら綾人はヴィランの首を人外のスピードで刎ねた。早すぎて、綾人が首を刎ねるために使った剣は一切の血糊が付かず鞘に納められ、刎ねられた首の断面はそのことに一瞬気づかず、少したってから血が噴き出し始めた。
ああ、俺死ぬのか。視界がぐるぐると回る中でヴィランの頭にそんな簡潔な感想が浮かぶ。脳が首を刎ねられたことに気づくまでのわずかな時間、それがいいものなのか悪いものなのかは分からないが、人生の余韻の中でヴィランは今までの人生を振り返る。
改めて振り返ってみればクソみたいな人生だった。クソみたいな親の下に生まれ、クソみたいな孤児院に送り込まれて、クソみたいな仕事につかされて、俺はこんなクソみたいな人生を送りたいんじゃないと思って仕事から逃げて偶然見つけた裏ギルドのアジトに身を沈めた。もともとクソまで落ちていたんだ。そこからは何モノにも落ちようがない。俺を殺した、名も知らぬ少年に堕ちてきたやつらの集う場所などと言ったが、俺にはそもそも堕ちるところなどないくらい最初から落ちていたんだ。
だが、俺には武の才があったようで裏ギルドで汚い仕事をこなしていくたびにメキメキと力をつけていった。今ではこのイクシルベニア侯爵領の裏ギルドまとめ役を与えられるくらいに強くなったのだ。まあその立場ももう終わりではあるが。
俺は地の底から這いあがるためにとにかく貪欲に強さを求めた。何度も死にかけたが必死に生き抜いてきた。そして、いつの日か地上に這い上がってやろうと、地下で土煙の中死んだように生きるのではなく、大地を踏みしめ陽光を浴びながら生きたいと、そう思ったんだ。
実を言えばそろそろ裏ギルドから逃げようと思っていたのだ。奴らは必ず追ってくるだろうが、俺は強くなった。奴らから逃げつつ地上で活躍することだってできるだろうと夢を見ていたんだ。しかし、まさかその夢がこんな子供に崩されてしまうとは思わなかった。
その容姿は明らかに子供で、成人なんて絶対にしていないだろう。髪は地下を照らすぼやけた光でも煌めく銀色で、その相貌は暗い地下で輝く二対の星のように輝く紅眼と碧眼のオッドアイ。彼は一体どんな人生を送ってきたのだろうか。どうやって生きてきたらその年で俺をはるかに超える実力を身に着けられるのだろうか。
・・・そろそろ時間だな。意識が薄れてきた。
決していい人生ではなかった。でも・・・最悪な人生って訳でもなかったかな。
死に際、ヴィランはふと綾人の言葉を思い出す。
『誰かに親切にしたことはあるか?』
そういえば...
その続きを思考することはなくヴィランの意識は消えていった。だが、続きはしなかった思考の中には一人の少女の笑みが映っていた。
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レイスト「変なサブタイトルだな」
綾人 「最後にはゴミじゃなくなったみたいだ。まあ、物語の俺の中ではゴミのままだがな」
ミカゲ「死に際に自らがゴミじゃないことを思い出せたのならよかったんじゃないでしょうか」
レイスト「何にしたってやつがしてきたことは何も変わらんさ」
綾人 「そうだな。変わらない。だが、それは奴がしていた人間らしい行動だって不変の事実ということだ」
レイスト「うまいこと言ったつもりか?主殿よ」
綾人 「別に」
ミカゲ(恥ずかしがっていらっしゃる)




