暗殺者の処遇
先週まで温かかったのに今週になって急激に寒くなり、寒暖差に日々震えている今日この頃です。
では、本編どうぞ。
「それで主殿、こやつをどうするのだ?」
「そうだな~」
イクシルベニア侯爵暗殺未遂を許したのはいいが、その後の事を考えていなかった。このまま返してもいいが、彼女の帰る場所は裏ギルドしか無いようだ。裏ギルドに帰れば当然また仕事を与えられるだろう。それではここで許した意味が無い。それに、任務失敗に対する何らかのペナルティーが発生する可能性もある。
そこで、綾人はさっきの彼女の言葉を思い出した。
「お前は、強くなりたいと言ったな?」
「は、はい」
自分の処遇の話をされている時に突然話しかけられ、ビクッとなりながら少女は返事をする。
「だったらレイ、お前が面倒見てやれ」
「主殿、まさか丸投げするつもりか?」
レイストが、綾人にジト目を向ける。
「俺の今の立場はあまり自由に動けないんだ。『鑑定』してみたらこいつも『影潜伏』を持っているようだし、レイと一緒に行動していればこいつ、ミカゲが何かしようとしてもすぐわかるだろ?」
『鑑定』した際に見えた彼女の名前はミカゲだった。ますます懐郷の念にとらわれそうになる名前だ。まあ、現代日本では珍しい名前ではあるが。
「ついでに街の外で鍛えてみてくれ。俺達のレベルにすぐ到達するのは無理だろうが、そこら辺の騎士には余裕で勝てるくらいに強くなれば、俺とレイでは手の回らない庇護対象に付けられるかもしれない」
「ふむ...まあ良いだろう。おい、小娘これから街中では基本影の中で過ごすことになる。それでもいいのならお前を鍛えてやろう。どうする」
「...元々私は影に身を沈めて生活する予定でした。それが比喩的にか物理的にかの違いだけです。私を、鍛えてくださいお願いします」
ミカゲが立ち上がり、レイストに頭を下げる。縛りかけのロープが床に落ちた。
「良い心構えだ。何、そこまで気負う事はない。お前を強くするのは街の外だ。影から出ている時間も多いだろう」
「決まったようだな。じゃあ、俺は少し出掛けてくる」
「こんな時間からか?」
街には夜の帳が降り、光源は月明りのみの深夜だ。こんな時間にどこに出かけるというのだろうか。
「危険因子は早めに潰しておくに限るからな」
綾人はそう言うと窓から身を翻し、危険因子の駆除に向かった。
「行ってしまった」
レイストは誰に言うでもなく呟いた。綾人の考えている危険因子というのはだいたい想像がつく。調べたところ綾人に勝る者はいないようだったので大丈夫だろう。
「さて、」
綾人が飛び出していった窓から視線を移し、ミカゲに目を向ける。彼女もまた窓に視線を向けていたが、レイストの視線に気付くと、慌ててレイストに向き直った。
「あの、私はこれから何をすればいいのでしょうか」
鍛えると言っても一日中鍛えるわけでは無い。訓練していない時は何をするのか分からないのだろう。
「そうさなー、まずは...」
レイストはミカゲの全身を見回して、パチンと指を鳴らした。すると、
「ふわぁぁぁぁ~」
ミカゲの全身が淡い水色の光に包まれる。
暫くして、光が消えるとそこには清潔になったミカゲがいた。
「これで良いだろう」
レイストは満足気に頷く。砂埃にまみれていたフーデッドーローブは新品のようで、くすんでいた黒髪は艶やかで綺麗な黒髪に変貌している。それ以外にも、傍から見てわかるような汚れは全て取り除かれていた。
「えっと...」
突然綺麗にされてミカゲは若干困惑気味である。
「お主も乙女だろう身だしなみには気を付けんとな」
「え、あ、は、はい」
この場に綾人がいれば、露出度が極めて高い服を着ている奴が何を偉そうにとツッコミが入るだろうがこの場に綾人はいない。
「で、何をするかだったな。...はっきり言ってしまえば何もせんで良い」
「へ?」
「さっきはお主の心構えを聞くために大仰に言うたが、別に街中でずっと影に潜っているという訳ではない。むしろ妾はどうどうと街中を散策しておる」
「そう、なんですか?」
「当然だ。ずっと影に潜っておったって暇で暇で仕方がないからのう。まあ、主殿には一応話してから行くがの。どうせ離れていても『念話』を使えば問題ない」
「あ、で、でも私は裏ギルドの組員に顔を知られていますからやはり隠れておいた方が...」
「いや、それも問題ない」
「どうしてですか?」
「問題ないものは問題ないのだ」
「そうですか...」
ミカゲは納得できないながらもとりあえず頷いた。
「という訳で、明日お主の服を買いに行くぞ」
「へ?」
「私服を持っていたとしてもどうせ取りに帰れないだろう?暇なのだから時間は有意義に使わねばな!」
「あ、あの、訓練は...」
「案ずるな。お主の服を買ったらやってやる。だからまずは服を買いに行くのだ!」
レイストがテンション高めな理由はいつも一人で街を散策していたから一緒に回る相手が出来て嬉しいのだろう。
「わ、分かりました」
ミカゲはレイストの勢いに気圧されながら、呟くように返事をした。
ミカゲは心に一抹の罪悪感を抱えながら夜を明かした。まだ、ある事実を伝えていない。
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綾人 「お前たちどこで夜明かしたんだ?」
レイスト「影の中で」
ミカゲ「影の中です」
綾人 「影?」
レイスト「意外と居心地がいいのだぞ」
ミカゲ「はい、影の中で眠るなど考えたこともありませんでしたが結構ぐっすり眠れました」
綾人 「そうなのか、なあ、それって朝になって日が当たるところでやったらどうなるんだ?」
レイスト「日が当たった瞬間元に戻るだろう。もしその瞬間を見ているものがいたとしたら何もなかったところに突然人が出てきたように感じるだろうな」
綾人 「...気を付けろよ」




