契約成立
目の前に侯爵令嬢、横にその護衛の女騎士。自分の隣には彼女。地球にいた時こんな状況になることを想像したことがあっただろうか?いや無い。ある訳が無い。普通に暮らしていたら、いや普通に暮らしていなくても地球でそんな事を考えることはまずないだろう。しかし、なってしまったものはしょうがない。いざっ!出陣!
「話を戻そうか」
ルナの行動により少し変化した空気の中、綾人が口火を切る。
「あんたはルナをどうやって見極める?」
綾人の言葉を聞き、ベルは少し息を吸う。その横でフィリアが眉間に皺を寄せている。綾人のベルに対するため口にまだ不満を抑えきれないようだ。ベルはそんなことを気にせず、というより横にいて表情が見えないため気付かずにルナに質問を投げかける。
「ルナさんあなたは、アヤトさんの事を『愛しておられますか?』」
(またまた何を言っているんだ!?この子は!?)
綾人はベルのルナへの突然の質問の内容に面食らう。綾人にはその問い掛けの意味が理解できなかった。ベルの表情は至って真剣だ。
子供に対して『愛している』というのはどうにも重い表現のように思える。しかし、ベルは迷わず、一瞬の躊躇いもなく言い放った。
「勿論です!」
満面の笑顔。何の不純物も混じっていない純粋な笑み、その笑顔はベルのある程度の信頼を得るのに十分だった。
「そうですか・・・。アヤトさん、ルナさんも一緒で構いません。なので私の従者になっていただけないでしょうか?」
三度ルナはその言葉を紡ぐ。
「あ、ああ。まあルナが一緒というのが唯一の条件だから、いいんだが・・・そんな質問だけでルナはあんたが信用するに足りたのか?」
「ええ、彼女の答えに嘘偽りは無いと判断しました。更にアヤトさんへの好意も一入のようですから。アヤトさんが手綱を握っていれば問題ないと判断しました」
「それは、俺が手綱を握っていなければ信用できないということか?」
「確かにそういう意味にも解釈出来ますが。私が言いたいのはルナさんが信用出来ないという意味ではなく、アヤトさんを信用しているという意味です」
「そうか、分かった。・・・では、あんたの、ベル・イクシルベニアの従者となることを誓おう。ルナもそれでいいか?」
綾人は一呼吸置いてベルにそう言い。ルナに問い掛ける。
「うん!アヤトくんがそれでいいなら私はいいよ!」
「ありがとう」
満面の笑みで肯定してくれるルナに綾人も笑みを返す。そして、ベルに向き直る。
「延いては、今後の事を相談したい」
従者となった以上このままの態度でいるわけにもいかないし、従者でいる期間も決めなければならない。生涯仕えるわけじゃ無いからな。
「分かりました。では、引き続きこの場で行いましょう」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
相談した粗方の内容はこうだ。
まず、ベルへの接し方だが、然るべき場所で然るべき態度を取ればいいとのことだ。つまり普段はいつもの調子でいいが、TPOを弁えろということだ。呼び方はずっと『あんた』と呼んでいたが、普段は『お嬢』、然るべき場所では『お嬢様』ということになった。ルナは普段から『お嬢様』呼びで、常に敬語だ。提案したのはルナ自身だったので変なのと呟いたら、フィリアから「変なのは貴様の方だ!」と怒鳴り声が飛んできた。否定しようとしたが、同時にルナからも「変なのは私じゃなくてアヤトくんの方だよ」と優しい笑顔で言われて地味にショックだった。まあ、そんなことは置いといて。ベルの俺達に対する態度は他の従者たちと変わらず、ため口、名前呼びということになった。
次に、従者として仕える期間について、当面はベルが学院を卒業するまでということになった。学院は初等部、中等部、高等部とあり、それぞれ在学期間は地球で言う小学校、中学校、高校と同じ年数で、今回ベルは中等部からの入学だから高等部卒業までの六年間ということだ。それ以降は卒業した後に決める。
給金は綾人の分は先程の契約条件通りだが、ルナの分は一度働きを見てからということになった。現代日本では有り得ない給金の決め方だが別に不満は無かったので承諾した。そもそもベルが異常な給金を出すことは無いだろうという思いもあった。
そして、相談は最大の問題点に差し掛かった。
「・・・次の話だが、俺とベルの入学についてだ。今更だがそんな貴族様達が通うような学校に入学できるような知識は持ち合わせていないぞ?俺は実技だけでなんとかなるかもしれないが、ルナは別だ」
綾人の疑問は最もなものだ。平民である綾人とルナは学院に入学するには圧倒的に知力が足りない。綾人は実技は貴族のボンボン達に負けることは無いだろうが知識は無に等しい。強いて言えば駄女神が脳に直接ぶち込んだ知識ぐらいだ。ルナはそこそこの知識は持っているかもしれないが、それでもそこそこである。実技はからっきしだろうから、綾人よりも受かる確率が低い。
しかし、ベルはその疑問を聞いて薄く微笑む。何か考えがあるようだ。
「その点については問題ありませ・・・ないわ」
まだ敬語が抜けきっておらず言い直した。
「へえ、どうするんだ?」
「それはですね・・・」




