御対面
「私の従者になっていただけませんか?」
理由も理解したし、メリットも十分だ。これだけ頭が回るのだから愚かな行動で従者を困らせるということも無いだろう。だがしかし、一つだけ問題がある。一つだけだが俺にとってはそれが最大の問題だ。
「理由は理解した。メリットも十分だろう」
「ではっ!」
ベルが表情を明るくする。いくら弁達とは言え緊張はしていたのだろう。
「ただ、条件がある。この条件が飲めないのであれば、従者にはならない」
「条件、ですか?」
「ああ、ここまでのメリットがあって条件というのは図々しいと思うかもしれないが俺にはこれが一番大事なことだ」
「その条件とはなんですか?」
「俺の恋人も一緒に入学させることだ」
「恋人?あなたは恋人がいるのですか?」
「そうだ。俺と同じく従者ということでも良い。まあ、従者にするなら給金は貰うが。その給金も自分で決めると良い。これが条件だ。これが飲めないのであれば従者にはならない。どうする?」
(ルナには許可も何もとっていないが、・・・頼まなくても付いてくるよなぁ。寧ろ拒否しても付いてきそうだから大丈夫だろう。街から移動するのも問題ないと言っていたし、ルナに聞いて駄目だったらこの話を流すだけだ)
「・・・その方と会わせて頂いてもよろしいでしょうか?」
(まあ当然か。別に問題は無いからいいんだが、ルナには護衛できるほどの実力は無いからできるのは侍女のような仕事、側付きくらいだろう。いるだろうか?このしっかり者で几帳面そうなお嬢様に側付きなんて?それに少し深く関わらなければルナは表面上は俺にべったりなただの元気っ子に見える。少し喋っただけじゃあルナの聡明さには気付けないだろう。まあ、お嬢様次第だな。話が流れても俺が損をすることは無いからルナに会わせてもいいだろう)
「良いだろう。宿屋にいるから少し待て」
(ルナと『念話』を開始。ルナ、ルナ聞こえるか?)
『え!何これ!?頭の中にアヤトくんの声が聞こえる!』
(俺のスキルだ。後で教えてやるから今は気にするな。それよりちょっと話したいことがあるから聞いてくれ)
『うん!何々ー?』
元気な声でルナが聞いてくる。ルナは本当に元気だなーと思いながら、綾人はフィリアの視線に耐える。ベルは綾人が『念話』を使えることを知っているので直に理解し、何も気にしていないが、フィリアはそれを知らない。なのでフィリアは今綾人を訝し気な視線と変な人を見る視線を綯い交ぜにして綾人を見ている。この視線は至って平凡なサラリーマンであった綾人には中々つらいものがある。
(分かっているとは思うが来客の用件についての事だ・・・)
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
(・・・ということでこっちまで来てくれないか?)
『分かったー!』
(店の場所は分かるか?)
『大丈夫だよ!何回か行ったことあるから』
(そうか、なるべく早く来てくれ)
『はーい!』
視線が痛いからな!そこで『念話』が切れる。
「今呼んだからもうすぐ来るはずだ。それまでは茶でも飲んで待とう」
「はい、分かりました」
ベルは何も言うことなく了解したが、フィリアはやはりそうは行かなかったようだ。
「呼んだ?今貴様は黙っていただけだろう?出鱈目を言うのはやめろ」
「はあ・・・そこの護衛にはちゃんと説明していないのか?」
「申し訳ありません。何分時間が無かったもので。ギルドに運ばれてからすぐに今現在あなたがどこにいるのか探し始めたので」
「一々話すのは面倒だあんたの信用できる人物には俺の事を話しておけ。だが、俺の事はなるべく言いふらすな」
「はい、分かりました。後でフィリアには説明しておきます」
(彼女にとってはこの女騎士は信用できる人物なんだな。まあ、グリフォンの時、真っ先に女騎士の名前を呼んでいたから少なくとも大事な存在であることは間違いないだろう)
「そうしてくれ」
(暇になったな。女騎士の『鑑定』でもするか。『鑑定』のスキルレベルをMAXにしたから意識すれば前まで見ていた情報以外のさらに詳しい情報を見れるようになった。俺に不都合のある情報があれば出てくるし逆に都合のいい情報も出てくる。プライバシーを侵害しているようで少々心苦しいがここは異世界、他の情報は知り自身の情報は秘匿するべきだ。何が起こるか分からないからな。『鑑定』を行使。ん?これは・・・)
綾人はフィリアを『鑑定』して目を疑った。
「おい、お前これ・・・」
直に綾人は確認しようとした。しかし・・・
「アーヤートーくーん!来たよー!」
それは店に入ってきたルナの声で掻き消された。だが、これで良かったのだろう。咄嗟に聞こうとしてしまったがここには他の客もいる。公衆の面前で口にするようなことではない。綾人はルナの言葉で突如温度の上がった頭を冷やし考える。
「ルナこっちだ。あと、店内は静かにしろ。他の客に迷惑だろ」
「分かったー」
ルナは返事しながら迷いなく綾人の隣に座る。
「さて、ルナさっき説明したが・・・」
綾人はチラとベルに視線を向ける。それはただ目を向けただけだったのだが、何を勘違いしたのかルナは徐に立ち上がり・・・
「イクシルベニア侯爵家、長女のベル・イクシルベニアと申します」
「へ、あ、はいご丁寧にどうも。私はルナと言います。アヤトくんの彼女です!」
ベルの自己紹介を受けたルナは少し呆けたような顔をしてから自分も立ち上がり自己紹介をして、最後のワンフレーズは笑顔で嬉しそうに言った。でも、何故少し呆けたのだろうか?
「アヤトくん。貴族様相手なんだから普通私の方から紹介するべきだよ?」
ルナが座りながら言うので綾人はああ、そういうことかと思いながら。
「ん?そうなのか?」
「アヤトくんってあんまり常識が・・・」
ルナは言いかけて口籠った。おそらく「常識が無い」、と言いたかったのだろう。しかし言葉を途中で切って少し悲しそうな顔をする。綾人の記憶喪失という設定を思い出してしまったのだろう。
(悲しんでくれるのは有り難いが今ここでその顔をするのは止めてほしいな)
突然口籠ったルナをベルが座り直しながら訝し気に見つめる。
(説明すれば早いが、まあここからの話の流れによるな)
悲しそうな顔をしているルナを一度横目に見て、綾人は改めてベルに向き直った。




