瞬間の戦い
さて、というわけで、修練場に来たんだが。
こいつら大人気ねー。
修練場にはモヒカンのむさい男たちが二十人ほど集まっていた。いや、どこの世紀末の住人だよ!確かにギルドに入ってからモヒカン多いなとは思ったけど。これは明らかに子供一人に対する人数じゃないな。襲い掛かってくるときにヒャッハー!って言ってくれないかな。言ったら絶対笑う自信があるわ。
「ほら、どこからでも掛かってきていいぞー。それともちびっちまったか~?今なら頭地面にこすりつけて、有り金全部差し出して命乞いすれば命だけは助けてやるぜ。あとその女も置いていきな。せいぜい可愛がってやるぜ」
ぷつん。俺の中で何かが切れた。
「笑えない冗談だな。俺を侮辱するだけならまだしも、ルナを置いていけだと?まるで盗賊じゃないか」
自分でもびっくりするほど感情のこもっていない低く冷たい声が出た。
「どこから掛かって来てもいいと言ったな?」
「あ、ああどこからでも掛かってきやがれ」
綾人の突然の雰囲気の変化によりモヒカンが気圧されながら答える。
この修練場で決闘を行う場合は相手を殺すことが許されているらしい。これが決闘なのかどうかは微妙なところだが名目上は決闘ということになっているらしいので恐らくこいつらは俺を殺すつもりでいるだろう。勿論俺もそのルールを聞いた時から殺す気だけどな。それでも数人ぐらいにしておこうと思っていたのだが、ルナのことで皆殺しが決まった。
え?本当に人が殺せるのかって?逆に聞くけど殺せない理由でもあるの?相手が殺そうとしてるんだから自業自得でしょ?自分が殺そうとしてるのに相手には殺されないなんて甘いことがある訳ないでしょ?なんか心優しい物語の主人公は悪役を殺そうか殺すまいか悩んで、悩んでいる間に相手が復活して人質取られたり仲間が殺されたりしてるけどそれこそ自業自得だよね。もうそんなの主人公が殺したようなもんじゃん。ご都合主義がなかったらあの主人公たち絶対病んでるよ。
よし、現実に戻ろう。
「じゃあお構いなく」
スキル『隠蔽』を行使。
『隠蔽』を行使した瞬間俺は右に全力でダッシュした。奴らの目で俺の全力ダッシュを視認することは不可能だ。これにより奴らの視認外に離れた俺の姿は隠蔽により俺よりレベルの低い奴らには視認することがほぼ出来なくなる。そこから奴らの後ろにこれまた全力ダッシュで回り込む。
ここからは単純作業だ。モヒカンたち全員の後頭部に手刀を叩き込んでいく。五秒も経たないうちにモヒカンたちは一言も発する事無く地に伏していた。よし、じゃあ頭潰していくか。
俺がリーダーっぽいのの頭の上で拳を振り上げた時、
「待って、止めて!アヤトくん!」
声を聴いてはっ、とルナのほうを振り向く。なんかいろいろ複雑そうな顔でこちらを見ている。はて?俺はなにかやらかしただろうか?
そう疑問に思っていると、
「さすがに殺しちゃう必要はないと思うの」
少し怯えたような顔でルナが言った。
そうだっ!そういえばルナはまだ十歳だった!十歳に人の頭が潰れるなんていうショッキングなものを見せるわけにはいかない!
少し間違った解釈ではあるが、手を下ろしたのを見てルナは安堵の表情を浮かべていた。
「怖がらせて悪かったな。まあとりあえず今見た通り俺は強い。何も心配するな。ルナの事だって俺が守ってやる」
少しくさかったかな?と、自分でも思うようなセリフをルナを安心させるために発する。
「うん!」
その俺の言葉にルナは頬を赤らめながらどこか嬉しそうに微笑んだのだった。
こういう笑顔も似合うな。
・・・
修練場から出るとギルドがざわめきに包まれた。
まただな。
当の本人はもう全く興味を抱いていないようだが、周りは、
「おいあいつ出てきたぞ」 「まさかあの人数を一人でやったのか!?」
「まさか!命乞いをしたんだろう」 「でも、モヒカンたち全然出て来ないぞ」
「おいおい本当に一人でやったのかよ」 「しかもあいつ無傷だよ」
様々な声を全て無視してクエストカードが貼ってある掲示板に近付いていく。
掲示板には様々な依頼が隙間なく敷き詰められていた。
俺の現在のランクはFランク。ギルドにはランクがありそのランクによって受けられる依頼の量が変わる。ランクはF~SSSランクまで存在し、ランクによって呼び方もあるらしい。
Fは初心者
Eは経験者
Dは半人前
Cは一人前
Bはベテラン
Aは人域到達点
Sは人外
SSは英雄
SSSは勇者
と、こんな感じらしい。なんかバラバラな呼び方だなとは思ったがどうでもいいことだと頭の中から振り払う。ちなみにランクアップには依頼を大量に受ける必要があるらしい。
「どの依頼がいいだろうか?」
別に答えを期待した呟きではなかったのだが、ルナが答えた。
「アヤトくんは強いから最初から討伐依頼でもいいんじゃないかな?」
「いや、それは止めておこうと思っている。武器持ってないし、買う金もないし」
「そっかーじゃあ定番の薬草採集かな?」
「まあそれが無難なところか」
薬草採集はギルド初仕事の定番だよな。
「じゃあこの依頼を受けるか」
薬草採集の中の一枚の紙を剥がす。それをカウンターまで持っていくと、昨日の受付嬢がいた。確か名前は・・・ルビアだったかな?とりあえず紙をルビアに渡す。
「この依頼を受けたいんだが」
「はい、シクナ草の採集ですね。期限は三日、失敗すると違約金が発生するのでご注意ください」
「了解した」
俺が依頼を受けるころにはギルド内は普通に戻っていたので、俺はルビアにシクナ草の群生地の場所を聞いて、悠々とギルドから去っていった。
結局冒険まだ行きませんでした。




