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第96話 その日鳥類は思い出した ヤツらに支配されていた恐怖を… 鳥籠の中に囚われていた屈辱を……

 王都からほど近くにあるメルモゼの森には、木が刈り取られて草が生い茂る場所がいくつか存在する。ここは、クックドゥワンが捕まえやすいように先人の冒険者たちが作った場所だと言われている。冒険者ギルドに依頼を出すことによって、この場所を使用する事ができる。なのでもし4人で1人一匹だと赤字になるということらしい。ということは前回自分達で行ったときは赤字だったということだろうか。

 「だから今日は最低でも1人2匹は捕まえるのが目標だぞ! でもエドガーの剣の速さなら一人で4匹、5匹もありえる話だし、グリフィスの魔法なら一網打尽ってことも……あっ、でも、できるだけ傷付けずに殺すことを心掛けてくれよ。肉が売れなくなっちまうからな」

 クックドゥワンのいる場所へと歩く道すがら、バット君はそんな依頼内容の詳細を説明してくれた。ところどころ、まだ得ていない成功報酬に期待を膨らまし、その期待が声になって漏れてしまっている。そんなお兄ちゃんを心配そうに見ているロビンちゃん。この二人は冒険者として普段上手くやっていけているのか不安でしかない。


 森の中にある木の刈り取られた場所に行ってみると、そこには20匹ほどのクックドゥワンが集まっていた。

 「おいおい、幸先いいぞ!! 餌を撒いていないのに、集まってやがる」

 バット君はクックドゥワンを見つけて小走りになって、その方向に近づいていく。

 すると、その行く手を遮る身長150cmくらいの男が茂みから現れた。

「横取りはいけないぞ!! ガキども」

 見た感じお前もガキだろと言いたいところではある見た目をした男である。

「えっ!? あっ、すいません」

 バット君は咄嗟に謝る。

「あれは俺達が餌を撒いておびき寄せた群れだからな、邪魔しちゃいけないぜ」

 どうやら、俺達より先にクックドゥワンを捕まえに来ているみたいである。俺は辺りを見回してみるがこの小男以外他には誰も見当たらない。

 「他のメンバーはどこに?」

 俺が聞くと、小男は反対側の茂みを指さした。

 「ほら、向こうの茂みにいるだろ」

 その時茂みから180cmは超える身長の大きな男が現れた。

 「あ、あれは……」

 バット君が震えている。

 「知ってるの?」

 「あの身長と額の傷、あれは孤児院出身の【孤高のバウアー】じゃあ?!」

 「へっ、どうやらアニキのことは知っているようだな」

 たしか、それはスライムスレイヤーという恥ずかしい称号を持つ冒険者じゃあなかったか。小男は自分のことのようにどや顔で説明している。


 「アニキと俺でここのクックドゥワンは一網打尽にするつもりだからな。邪魔になる前に、お前たちは早く家に帰った! 帰った! どうせ、城門をちゃんと通らずにここに来てるんだろ?」

 すべてお見通しだと言わんばかりのこの小男の顔がやけに憎たらしい。殴りたいこのニヤケ顔。

 俺は我慢できたが、バット君はこの小男の煽りに耐性がなかった。

「邪魔になんかなるかよ!! 倒せずに、逃げたやつを捕まえるのはいいんだろ!!」

 バット君は小男にイラっとしだしたようで、しっかり言い返している。小男は相変わらずニヤニヤしながらそれに答える。

「逃げたやつね………、まぁいればね。くはははっ!!!」


 茂みから出てきたバウアーを見ると、何かを呟いている。どうやら魔法を使っているみたいである。その後、クックドゥワンの群れの方へと走り出した。

 クックドゥワン達は一斉に逃げ出そうとしている。バウアーはその群れの中心へと走り出して、地面に向かって拳を突き刺した。

 大きな破壊音と共に、拳を中心とした半径5mくらいの地面が円錐状に抉れる。俺は咄嗟に風魔法でバット君とロビンちゃんと俺とエドガエル君に飛んできた土が当たらないようにシールドを張る。

 

 円錐状に抉れた地面にはクックドゥワンの群れが気絶してた。


 「ふっ!! どうだ、俺達はすげぇだろ!!」

 小男は俺達の方を向いて決め顔をしている。しかし、全身は土まみれで、顔面に石があたったのか額から血が出ている。どうやら、飛んできた石礫などをすべてその体で受けてしまっていたようである。


 「いや!! あんた、額から血が?」

 バット君は小男のダメージを指摘した。

 「お前たちが後ろにいたから避けることができなかったんだ。俺が避けちまったら、お前らにあたってしまうからな。だから、邪魔だから帰れって言ったんだ。やれやれだぜ」

 そう言って、バウアーの方へと駆け寄っていく。

 いや、かなりこっちにも土や石が飛んできていたが。小男の身体の面積では後ろにいる俺達に飛んでくる土や石を防ぎきれてはいなかった。

 「さっき俺達の方にも石とか飛んできてたよな? グリフィスが風魔法を使ったのか?」

 「ああ」

 「やっぱり!! あいつ、適当なこと言って感謝させようとしてたってのかよ」

 バウアーってのは実力がありそうだが、引き連れている小男は全然駄目そうだな。

 

 小男はバウアーと何かを話している。

 「おーいそこの女の子」

 小男は俺達の方に向かって大声で叫ぶ。女の子と言われて、ロビンちゃんは私のことかと、自分のことを指さす。

 「そうそう、きみ、きみ。そんなメンバーで一緒にいたら危ないから、俺達のメンバーに入らないか。バウアーさんがそう言ってるんだけど、あっ、他は無理だけど」

 バウアーとの顔が少し赤く照れくさそうにしている。ま、まさか、ロリコンってやつか? なんて危ないやつなんだ。

 「え、遠慮しておきます」

 ロビンちゃんも何か感じとったのだろう。メンバーの誘いを即断する。

 「入りたくなったら、いつでも言いに来ていいよ」

 ロビンちゃんはひきつった顔で頷く。


 「クックドゥワンが集まる場所って、ここだけじゃないんだろ? 他に移動しよう」

 俺が提案すると、バット君は頷いた。

 俺たちは、小男が気絶したクックドゥワンの羽をむしって、こちらを向いていない間に、その場を後にした。


 少し歩くと似たように木々が刈り取られた場所があったので、そこにパン屑を撒いてクックドゥワンが集まるのを茂みで待つ。しばらくすると、茂みや空からパン屑を目当てにクックドゥワンたちが集まってきた。


「それで、どうする? あいつみたいに一撃で仕留めるのか?」」

 バット君は俺に期待の目を向けている。一撃で仕留めることもできるが、今日は訓練も兼ねているからそんなことはしない。

「そうだな。まずクックドゥワンが逃げられないようにするか」

「そ、そんなことができるのか?!」

 俺は土魔法でクックドゥワンが集まっている周りに白い壁を出現させて、円形に囲む。その上には飛んで逃げて行かないように、ドーム状に鳥かごを生成する。


「す、すげー!! 流石、グリフィスだぜ!! グリフィスの辞書には不可能の二文字はねぇのかよ!! 前に竈を作ってた魔法の応用ってやつか? これなら、あつまったクックドゥワンを全部捕まえることができるじゃねぇか!!」

 エドガエル君も興奮して手をわしゃわしゃしている。ロビンちゃんは口をあけてポカンとしている。

 俺達は壁の近くまで近づいていく。

「ここに扉を作るから、ここから中に入って捕まえよう。逃げ出すことはないから、ゆっくり捕まえるといいよ。できるだけ傷付けずに倒す練習をするといいよ。俺もやりたいことがあるから、各自で捕まえていこう」

 俺が扉を作ると、威勢よくバット君が中へと飛び込んでいく。

「うひょー、クックドゥワンの取り放題だぜ!!」

 俺達はバット君の様子を外から眺めていた。

 逃げようとするクックドゥワンを両手で捕まえようとするも、逃げることを諦めた他のクックドゥワン達の体当たりにって地面に転ぶバット君。

 「うわっ、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 チャンスと見たクックドゥワンの体当たりはどんどんと続いていく。

 「お兄ちゃん!!」

 ロビンちゃんが心配の声を叫ぶ。

 エドガエル君が、扉から入ってその窮地を救う。それはまさに一瞬の出来事。扉がしまった時にはバット君の周りにいたクックドゥワンの首が全て地面に落ちてしまっていた。


 「すまない」

 バット君は立ち上がり、首の取れたクックドゥワンを集めて外に出る。バット君の周りで首がとんだので返り血を凄い浴びている。俺は出てきたバット君にクリーンをかけてあげる。

 「ありがとうございます。エドガーさん」

 戻ってきたエドガエル君にロビンちゃんが礼をする。

 「えらい目に遭ったぜ。前は一目散に逃げていってただけなのに、一斉に攻撃してきやがった」

 「逃げ場所がないからね。逃げても無駄だと思ったんじゃない」

 「うーん、エドガーに任せておけば、全部捕まえられそうだよな。俺はここで捕まえたやつの羽でもむしってようかな」

 「うっ、わ、私もそうしようかな………」

 2人とも自信を無くしてしまったみたいである。ロビンちゃんはバット君の失敗を見て怖くなってしまったのかもしれない。しかし、それでは成長ができない。前のリベンジを目標に掲げているのだ。達成させてやらなければならない。

 俺は鳥たちが閉じ込められた鳥かごの中にさらに壁のしきりを作る。


「このエリアには1匹しかいないから、ここから入ってあいつを捕まえられるように頑張るといいよ」

「すごい!! ありがとうございます!! これなら私にもできそうです」

  新しく作った扉をあけて、中へと入って行く。

「なんだよ。そんなこともできるのかよ。俺にもしてくれよ」

 バット君も元気を取り戻す。

「はいはい」

 俺は土魔法を行使して、新しく仕切りを作った。仕切りの中には2匹のクックドゥワンがいきり立っている。

「よし、2匹ならなんとかなるぜ」

 バット君もしきりの中に入っていく。


『僕たちも【強化魔法】の訓練をしよう、いろいろな部位を強化させて適切な強化を身に着けよう』

『分かった!!』


 俺とエドガエル君はそれぞれ4匹入っている仕切りの中で強化魔法を試行錯誤しながらクックドゥワンを殴り倒していく。

 中腰になってクックドゥワンを追いかけつつ、隙を見て身体強化を足のつま先やひざの関節、それとつながる骨盤、ジョイント部分とそれにつながる筋肉に魔法をかける。

 ドンという音と共に地面には一足の跡が残される。

 クックドゥワンとぶつかりそうになる寸前で、ぶつかる部分に身体強化をかける。

 「コケっ!!」という悲鳴を上げて、クックドゥワンは壁へとぶつかって絶命する。

 まさしく【肉弾戦車】というやつか。もっとスマートに行かねばならない。始めはもっと弱く身体強化をかけて徐々に慣れていくしかない。

 俺が試行錯誤しながら、4匹倒し終わった時、ロビンちゃんの「捕まえた!!」という喜びの声が聞こえてきた。

「じゃあ、もう1匹そっちに送るよ」

 土の仕切りを操って、クックドゥワンをロビンちゃんのいるところへと送り出す。

「俺も終わったぜ」

 バット君も終わったようなので、バット君のところにも追加で2匹入れる。


 エドガエル君は立ちながら瞑想のようなポーズをとっている。まだ4匹を倒していないようなので、身体強化をかけるというところで苦戦しているのだろう。まぁ、身体強化なしでも倒すことはできるだろうが、これは俺とエドガエル君にとっては訓練の意味合いが大きいし、これでいいだろう。

 俺たちは、その後も群れを全員倒すまで訓練を続けるのだった。

 

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