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第95話 Gランク

 無属性魔法【身体強化】の魔法は、なかなかに難しい。

 魔力をどの部位に集めるか、これが人それぞれ違うらしい。魔力の大きさ、筋肉の付き方、骨格、皆違うのだから、それぞれの理想とするところが違ってくるのだとか。

 俺が目指すのは、身体強化が当たり前の状況に持っていくというところを最終目標にしたいところである。そのために、まず最小の魔力で身体強化を行えるようになることである。何もしていない時の魔力の回復と同じくらいの消費魔力で身体強化ができれば、常に身体強化を発動できる計算である。

 ただ、すぐにできなければいけないというわけではないので、気長にやるとしよう。


 今日はバット君とロビンちゃんとエドガエル君とクエストに出かける日である。バット君とロビンちゃんとはあれからも月1,2くらいでクエストに出かけるようになった。スラム街の方へ行けば、だいたい向こうから嬉しそうに俺とエドガエル君の方にかけよってくる。

 「おいおい、久しぶりじゃねぇか。もっと、こっちに来てくれたっていいのに」

 「それなりに忙しいからね。それに、久しぶりって言っても10日前にもスライム狩りをしたよね」

 「俺としては、もっと一緒にお前らとクエストに行きたいっていうか……」

 「お二人と一緒だと、いつもより多く稼げるから、お兄ちゃん、味をしめてしまっています。すいません」

 ロビンちゃんが俺達の会話にカットインしてくる。そうか、バット君は味を占めてしまっているのか。といっても5,6千円くらい多いくらいだろう。可愛いものである。

 「こら、ロビン!! いや、ほら、お前たちはまだ右も左も分からないGランクだろ。いっぱいクエストに行って、クエスト慣れしちまった方がいいんだ。そうすれば、ランクが上がってもっと報酬のいい依頼を受けれるようになるからな」

 「ちなみにバット君のランクは?」

 「………右も左も分かるGランクだ」3人から冷たい視線を向けられる。「ゴホン! まあいいや。これる時はできるだけ顔を出してくれよな」

 俺が頷くと、気を取り直したのかにやにやしながら、口を開いた。

「それで、何かに気付かないか?」

「何か?」

 俺はバット君とロビンちゃんを見る。言われてみると、今までとは違って、服の上に皮の鎧のようなものをつけている。

 「皮の鎧?」

 「ふふーん。気づいちゃった? ちょっと奮発して買ったんだ。これで防御力は爆上げだぜ」

 「へー」

 俺はバット君の皮の鎧を触る。そして、耐久性を見るためにちょっと引っ張ってみたりする。

 「おい、やめろよ。破れたりしたら弁償してもらうからな!!」

 「いくら?」

 「銀貨3枚だ」

 俺はロビンちゃんの方を見る。

 「銀貨1枚です」

 「コラっ!! ロビン!!」

 「防具屋にいけば、すぐばれるよ、お兄ちゃん!!」

 「ぐっ!!」

 守銭奴のバットは隙あらば金額を盛ろうとするからな。

 「まぁいいや。剣は買わなかったの?」

 剣を欲しがっていたからな。

 「まずは防御を固めた方がいいって教わってよ」

 「あー、それは確かに。命あってのことだからね」

 「それに防御を固めることによってこなせる依頼が増えることが分かってよ。上手くやれば、スライム狩りなんかより儲けがでるんだぜ。今日はその依頼を受けないか?」

 「どんなの? 俺達は皮の鎧持ってないけど」

 買おうと思えば買えるが、見た感じ、そこまで防御力が上がっているようには思えない。

 「お前たちの速さなら大丈夫なんじゃないか。まぁ、それほど危険な依頼ってわけでもないしな。クックドゥワンって魔物は知ってるか?」

 「知ってる。食べたことあるよ。出店でも売ってるやつだよね。このくらいの鳥の魔物じゃない」

 俺はニワトリより少し大きいサイズを手で示した。

 「そうそう、そいつだ。攻撃方法は体当たりだけだからな。1匹で肉の部分は銅貨2枚、魔石はスライムと同じで銭貨1枚だな」

 1匹で2100円か。相変わらず末端価格は安いな。

 「それだと【シンバダケ】の方が高いってことか」

 「確かにそうなんだけど、クックドゥワンは餌を撒いておけば大量に集まってくるんだ」

 「餌? 何を使うの?」

 「これだ」

 バット君は袋を取り出した。そこにはパン屑が入っている。

 「このパン屋で貰ったパン屑がお金になるって寸法だぜ。どうだ、やる気になってきただろう?」

 体当たりをしてくるニワトリと考えれば、熊や狼に比べてはるかに危険性は低いだろう。身体強化魔法の練習にちょうどいいところである。ニワトリを捕まえる修行ってのも何かの映画で見たことある。

 「おもしろそうだね。試してみたいこともあるしね」

 「そうこなくっちゃな。早速ギルドに行って依頼を受けてくるぜ」

 バット君はギルドへと走っていく。

 

 「ちなみに、クックドゥワンは捕まえには行ってみたの?」

 俺は残されたロビンちゃんに聞いてみる。そんな簡単に捕まえられるなら、何度か依頼を受けている気がした。

 「それが………、別の子達と行ったんですけど………」

 俺とエドガエル君がいない時はスラムの誰かと行ってるぽい。俺達とは会わせないようにしているみたいではあるが。

 「パン屑では集まらなかったとか?」

 「いいえ。昼頃に蒔いたんですけど、30匹は集まってきました」

 全部捕まえれば6万くらいになるってことか。

 「それは良かったね」

 「そこまでは良かったんですけど、4人でその群れに突撃していったら、一斉に逃げ出しちゃって、1人一匹捕まえるのがやっとって感じで………私は捕まえることもできませんでした」

 ロビンちゃんはその時を思い出してしょんぼりしている。

 人数増やしても、結局1人分の取り分は変わらないから、人海戦術ってわけにもいかなかったのであろう。一人でどれだけ多く捕まえることができるのか。

 まぁ、エドガエル君の脳内麻薬の力を使えばお茶の子さいさいであろう。

 「じゃあ、今日は前回のリベンジだね」

 「……はいっ!!」


 ロビンちゃんは元気よく返事をした。

 守らねばならぬこの笑顔を………

 

 


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