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第93話 チョロフ

 ラズエルデ先生の授業終わりに、エルフの国での漫画の売れ行きを聞いてみた。

 思ったより売れ行きは良くないみたいである。

 「仕方ないのじゃ。人族の言葉はエルフの国では全員が使えるというわけではないしのぅ。それに使える者はエルフの国を出ていってしまっているので、必然的にエルフの国で人族の本を買う人は限られてしまうのじゃ」

 

 「あー、言葉の壁ですか……」

 エドガエル君も人族の言葉はなかなか覚えてないみたいだしな。あまり考えていなかったが、翻訳家を雇わなければならないということか。

 「そうじゃな。エルフの言葉で書かれていれば、もっと売れてもいいはずなんじゃがのぅ」

 「たしかに、それは考えていませんでした。漫画事業は軌道に乗り始めてますので、翻訳家を雇うことも考えてみます」

 「それはいい考えじゃな。誰か当てはあるのか?」

 「いえ、まださっぱりですね。誰かいませんかね?」

 自分でやるにはまだエルフ語は完璧だとは言い難い。何より俺の作業をこれ以上増やすのはよろしくない。

 「そうじゃのぅ。エルフの言葉と人族の言葉を話せるもので、この事業に理解があるものでないといかんからのぅ。報酬はどれくらいを考えておるのじゃ?」

 

 「エルフ語に翻訳した本の売り上げの5%くらいを考えています。転写の魔法が使えるなら、少し色をつけることもできますよ」


 転写ができてエルフ語に翻訳ができるなら、俺の仕事が減るのでありがたい。


「5%か………それだけだと、王都で生活するのは大変ではないかのぅ」

「エルフ語に翻訳したものがどれだけ売れるかによりますね。いちおう、以前に購入した物件に空きがありますので、こちらで翻訳業務をしてもらえれば賃貸料と食費はこちらもちで大丈夫ですよ。外泊や外食をした場合はその限りではありませんが」

「ふーむ、路頭に迷うということはないわけか。うむ、わかったのじゃ。それなら、エルフの国を出て人族での暮らしを希望しているものの中から良さげな者をスカウトしてくるのじゃ。私もこの漫画がエルフの国で普及してほしいしのぅ」

「それはありがたいです」

 

 そして後日、ラズエルデ先生は一人のエルフを連れて俺の部屋にやってきた。凄く幼く見える。ラズエルデ先生も子供っぽく見えるがそれよりも幼い感じの金髪エルフである。本当に成人しているのだろうか。


「最近エルフの国を出てきたエミーリエじゃ。人族の言語以外に獣人族の言語もあやつるトリリンガルじゃ。きっと漫画を世界に広めるために役に立つはずじゃ」

 ラズエルデ先生が金髪エルフを紹介しながら、前へと押し出す。

「年齢とかは大丈夫何ですか?」

「はぁ~っ!! 大丈夫に決まってるれしょ!! その腐った耳をごりごりかっぽじってよーく聞くのら!! クソザコ人間!!  エミーはこの前20歳の誕生日を迎えて、国を出てきたのら!!」

 本当に翻訳大丈夫か? 口悪いし、語尾が幼いような気がする。

「こら!! エミーリエ!! こう見えてジークフリートは王族なのじゃ!! 汚い言葉を使うんじゃないのじゃ!! それにこのジークフリートが例の漫画の会社を経営しているのじゃ。これからお前の雇い主になるのじゃ」

 こう見えて? ラズエルデ先生にはどう見えているのか聞きたいなぁ。

「きもきもなのら!! こんなのが王族とは人族の世も終わっているのら!! それに人語を習う教本にもヒト=クソザコって習ったのら!!」

 そう言えば俺もエルフ語を習う時の教本に変な文章がいっぱいのっていたな。誰だ、エルフで語学の教本を作っているやつは。

「たしかに私もそんなことを思っていた時期はあるのじゃ」

 先生も?

「やっぱり!!」

「じゃが、人族の世界にもエルフを越える者がいるってことを私も知ったのじゃ」

「そんな人間がいるでしゅか? だ、誰なのら?」

「こいつの兄ヨハンじゃ。そして、こいつもヨハンに言われて教えることになったのじゃが。ヨハンの言ったことに間違いはなかった。こいつは才能の原石であるということがな。そして、私が磨いたことによって、エミーリエ、お前よりはるかに優れた実力を持ってしまっているのじゃ。いや、いくつかは私をも超えてしまっておるのじゃ」

「こ、このかわいそうな人間がでしゅか?」

「そうじゃ」

 そこまで俺のことを評価していただいていたとは。しかし、ラズエルデ先生に魔法をあまり見せてない気がするが、いや、達人クラスになると気配だけで実力が分かってしまうのかもしれない。溢れ出る俺の才気に先生は気づいてしまったということか。

「………そこまで言うなら勝負すゆのら!!」

「勝負?!」

 いきなり!! バトル展開!?

「エミーは土魔法と火魔法が得意なのら!! クソザコは何が得意なのら?」

「……光? 風? 闇? いや、土かな……」

 最近は使っていないが無属性も使えるんだよな。どれが得意なんだろう。基本的に無属性以外、他の召喚したものに頼っているからな。

「4つ!? 広く浅くってことなのらね。そんなことではエミーには勝てないのら」

「ジーク、あれはあるのか?」

 ラズエルデ先生が会話に割って入ってきた。

「あれ?あれとは何ですか?」

「イモじゃよ。サツマイモじゃ」

「? ありますけど」

「よし、それを持って外にでるのじゃ」

 なんだ? サツマイモを使って何か勝負をするのか?

 

 2人が外に出て行く後ろで、俺は鞄に手を差し入れ、闇魔法でサツマイモを3本ほど出す。

 外に出るとラズエルデ先生が風魔法で木を集めている。

「よし。これに火をつけるのじゃ」

 俺は火魔法を使えないので無言でいると、嘲笑しながらエミーリエが木に火をつける。

「こんなこともできないのら。ぷーくすくす」

 馬鹿にされている感じはするが、すごい幼いので何とも思わないのはどういうことだろうか。いや、むしろ心地いいと思っている自分がいる。不思議な感情である。


 ラズエルデ先生はその火の周りにでサツマイモを焼いていく。そして頃合いを見計らって、出来立ての焼き芋を全員の手元に渡していく。

 「食べてみるのじゃ。熱いから気をつけるのじゃ」

 エミーリエはふぅーふぅーと冷ましながら、焼き芋にかぶりつく。

 「あ、あつっ!! うまいのら!!!! これは、もしかしてこれはラズエルデ印のサツマイモなのら? 昔より腕が格段に上がっているのら。流石はキングオブイモの称号を最年少でとった実力なのら」

 ラズエルデ先生は首を横に振る。

 「違うのじゃ!! これは、ここにいるジークが土魔法で作ったサツマイモなのじゃ」

 「う、嘘なのら!! クソザコ人間にこんな芳醇な味わいのサツマイモが作れるはずがないのら」

 「これは、まぎれもない事実なのじゃ。私も認めたくはなかったが、これだけのものを作られたとあっては認めざるをえないのじゃ。キングオブイモの称号は今や、人族の一人ジークフリートのものとなってしまっているのじゃ」

 いや、そんな称号は貰った覚えはない。むしろ返却したはずである。いつのまに俺の手に渡っていたのか。早く否定しなければ!!

 

 「そ、そんな………」エミーリアは項垂れながらも、もう一口、そして、もう一口と焼き芋を口の中へと入れていく。「……こんな美味しいサツマイモを作るその土魔法。こんなところに【サツマイモの向こう側】があったなんて………認めるしかないのら。エミーの完敗なのら………」


 あれっ?! バトルは? 

 

 勝手に始まって勝手に終わってしまったんだが………








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