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第92話 ISK48

 『今日もいい演奏だった!! では、また次回も頼んだぞ!!』

 俺とソフィーの演奏を聞いて満足したサタン様がおどろおどろしい椅子とともにどこかへと消え去る。

 今日はサタン様を満足させるために週一で開いているソフィーとのセッションの日である。ソフィーのピアノの腕はみるみる上達しているので、俺が鼻歌で歌っただけでピアノでその曲を再現してくれる。これで、俺のレパートリーも枯渇せずに済むというものである。

 

 「今日の曲も素晴らしい曲でしたわ。ジークお兄様!!」

 「俺の鼻歌をあそこまで完璧に再現するなんて、ソフィーのピアノの腕はどんどんと上達しているね」

 「そんなことはないですわ。お兄様。ジークお兄様の、そのギターという弦楽器も素晴らしい演奏でしたわ」

 「ありがとう。ソフィー。今日はこのくらいで演奏は終えて、一休みしようか」

 「わかりましたわ」

 テーブルに着くと俺はコーラと幸せ味のポテトチップスを闇魔法で鞄から取り出す。

 「それは?」

 「これは、コーラだよ。こっちは前に食べたポテトチップスの味が違うバージョンだね。前は塩味でしょっぱかったけど、こちらは甘い味がするよ」

  

 前に来た時はソフィーの家で用意されていたジュースに、俺が塩味のポテトチップスを付け足したんだけど、今日は飲み物も用意すると伝えておいたのでソフィーの家からは何も出ていない。

 ソフィーは恐る恐る黒い飲み物を口につける。


「あまいですわ!! それだけじゃなくて、口の中で何かはじける感覚がありますわ。何ですかこの飲み物は?」

「炭酸飲料といって飲み物の中に気体を閉じ込めているんだ」

「どうやってこのようなものを?」

「マンドラゴラを使って、いろいろとね」

「マンドラゴラを? マンドラゴラはお薬に使うものだと思ってましたけど、こんな使い方もあったんですね。流石です、お兄様。しかし、マンドラゴラを使うとなると、かなり貴重な飲み物なのではないですか?」

「自分で育てているからね。意外と上手くいったみたいで、自分たちで楽しむ分くらいなら困らない量がつくれているんだ。だから、あまり気にしなくていいよ」

「ジークお兄様はそのようなこともやられているんですね。素晴らしい。本当に素晴らしいです。今度育てているのを見にいってもいいですか?」

「いいよ。育てるのは意外と地味だから、見てもあまり面白くないかも」

「いいえ、そんなことはありませんわ。非常に興味があります」

 純粋な目で俺を見つめてくるソフィーの視線に照れくさくなってくる。

「ほら、このポテトチップスも食べてみなよ」

 俺は話題を変えてポテトチップスを勧める。

「こちらも甘いですね。ハチミツと…バターの味ですか? 前の塩味も美味しかったですけど、こちらも甘くて美味しいです。お兄様」

「うんうん、そうだね。この2つを飲み食いしながら、漫画を読むと至福の時間を過ごせること間違いなしだよ」

「………そ、それは、堕落への誘惑がすごそうですね………そ、そういえば、フローリアさんの1巻の単行本を買いましたよ」

「おー、買ってくれたんだ?」

「はい、豪華版と廉価版を1冊づつ買いましたわ」

「2冊も?」

「はい!! なんなら廉価版は保存用と読書用、そして布教用と3冊購入しました」

「えっ?! そんなにも?!」

 ソフィーの小遣いは大丈夫なのだろうか。いくら王族といえども、何かしらの収入源なければ厳しい額だろう。

「本当は違う方のも購入しようと思いましたが、フローリアさんを応援するためにも、3冊フローリアさんの書いた作品を買わせていただきました」

 どこか誇らしげな雰囲気である。

「そ、そう。あまりお小遣いを散在しないように気をつけてね」

「大丈夫です。今までの本に比べれば廉価版の方は凄く安く購入できますわ。この紙もヨハネスお兄様が開発に関わっていると聞いて、同じ王族として誇らしくなりましたわ。私も何かできればいいのですが………」

「ソフィーは、まだ7才だからね。焦る必要はないよ」

「それを言えばジークお兄様もじゃないですか。それなのに、面白いゲームを考え付いたり、こんな素晴らしい文化的事業を立ち上げてしまったり、果ては魅惑の料理の数々、比べると落ち込んでしまいます」

 俺のは自分で考えたものではなくて、ただ前世の知識があるってだけである。だから、それと比べて落ち込む必要は全くないのではあるが、なかなかソフィーが納得する説明をするのが難しいところである。


「ソフィーのピアノの演奏はなかなかのものだよ。俺が頭の中にある音楽を鼻歌を聞いただけで、忠実に再現しているんだからね。どんどんと楽譜に書き留めておけば、将来はコンサートを開いて、ピアノで千の聴衆を、いや、万の聴衆を笑顔にすることができるよ」


 あのサタン様を満足させているのだ。きっと、たくさんの人々を感動させることができるだろう。


「………!! それっ!! すごく、いいです!! ジークお兄様はギターで、私はピアノで一緒に世界を周りましょう」

 

 俺も?! うーん、俺の演奏は素人に毛が生えた程度だからなぁ。今から弾いていれば、少しはマシになるだろうか。いや、ソフィーのこの笑顔を失望させるわけにはいかぬ。いずれは俺の演奏が普通ってことに気付いて他の誰かと演奏することになるかもしれないが、今はまだそこに気付いてしまう時ではない。


「そうだね。なんなら歌詞もつけて、歌うってのもいいかもね」

「歌……ですか? 皆の前で歌うのは恥ずかしくないですか?」

「俺とソフィーで歌ってもいいし、上手くいかなかったら、上手い人を見つけてもいいしね。曲によって歌い手を変えるってもありだよ」

 気分は音楽プロデューサーといったところである。アイドルグループを作るっていうのもありだ。………というか、凄くいい考えではないだろうか。

「それは……おもしろそうですね!! でも作詞の勉強をしないといけないです」

 ソフィーは少し落胆した。

「今までに演奏した分は大体歌詞も考えてあるんだ」

 考えているというより、覚えているだけであるが………そう伝えると、ソフィーの顔は明るくなった。

「そうなんですか? 流石はお兄様です。実は歌詞まで考えていたとは、じゃあ早速譜面に歌詞を書き込んでいきましょう」


 俺は歌詞を思い出しながら、ソフィーに伝えていくと、ソフィーはどんどんと譜面に歌詞を書き込んでいく。陽気な曲は口ずさみながら、悲し気な曲は少し涙を浮かべながら、感受性の強いソフィーは一曲一曲歌詞を聞くたびに一喜一憂している。


 部屋の中にある鳥かごの中では、その歌声を聞いてグリフォンがすやすやと寝息を立てて眠っていた。

 

 

 

 

 

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