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第88話 遭遇

 張り切っているバット君とロビンちゃんとは違って、俺たちは昆虫採集の傍らについでにスライムを探しているので、その後も全くスライムを見つけることはできなかった。ただし虫籠にはいろいろな種類のトンボが入っている。

 池に近いからか、この辺りにはトンボが飛んでいたので、2人でトンボばかりを採集していた。

 離れてスライム探しをしていたバット君達はしばらくして俺達のところへと帰ってきた。

 「くそ~、全然スライムがいやがらねぇ。そっちはどうだ?って、2人して何してるんだよ」

 「何って、この網でトンボを捕まえているんだ」

 「はっ?! 何やってんだよ!! そんなもの捕まえても金にならないぞ!!」

 「まぁ、これはコレクションだからね。お金のために捕まえているというわけではないんだ」

 「おいおいおい~!! スライムスレイヤーを目指すんじゃなかったのかよ!! 孤児院出身『孤高のバウアー』、教会の見習い『微笑のリネット』、貴族の子女『赤髪のクイン』、今王都で名が知れているこの三人のスライムスレイヤーに並び立つんじゃあないのかよ!!」

 バット君は悔しそうにしているが、俺達はそんなものを目指してはいない。それにしても気になる名前が一人混じっているな。赤髪のクインってまさかだけど、剣術稽古に来ているクインさんじゃあないだろうか。どこどこ中学の誰々みたいな感じか?この年頃の子供って同じ年代の子達が世界の全てって感じだしな。

 「いや目指していないよ。それよりもその三人ってみんな子供だったりするの?」

 「当り前だろ!! スライムスレイヤーの称号は子供しか与えられないんだ。俺達も二つ名ってやつを貰って箔をつけなきゃだろっ!!」

 そんな二つ名は黒歴史になるよ。思いとどまった方がいいよ。それに、さらっと俺達って言ってるけど二つ名が欲しいのはバット君だけね。そこは勘違いしてはいけない。

 「いや俺達は別に二つ名はいらないよ。ちなみにバット君はどんな二つ名をつけてほしいの?」

 「そうだな。う~ん。二つ名ってのは誰かが言い出して定着するものだからな」

 「でもこういうのがいいっていう理想はあるんでしょ? 俺がその噂を流してあげるよ」

 「それって………いいのか? そんなことして?!」

 「世の中はだいたいそんなものだって。頭がいい人は自分で流してるものだよ」

 「そうなのか? それじゃあ『無限のバット』で!!」

 「ほうほう。『守銭奴のバット』ね。あってるんじゃない、君に」

 「韻踏んでるんじゃねぇ!! 『無限のバット』だって!!」

 「ごめん、ごめん。聞き間違ったみたいだ。『ペテンのバット』ね。いいじゃん。そんな感じだ。スライムを狩らなくても、そのくらいの二つ名なら簡単に浸透させてあげるよ」

 「バカヤロー!! なんでそんな詐欺師みたいな二つ名を欲しがるんだよぅ。無限だよ。ム・ゲ・ン。可能性を無限大に秘めた男って意味だよ」

 「妄言のバット………」

 そこで妹のロビンちゃんがぼそりと呟いた。

 「おい、ロビン!! 何てことを言うんだ!!」

 「だってお兄ちゃん、スライムを全然狩れないじゃない!!」

 「そんなことないって、ロビン!! 装備さえあれば俺達だってやれるんだ!!」

 ちらっとこちらを見る。

 剣は危ないし、貸せないよ。

 「これは貸せないかなぁ。でもこの網なら使ってもいいよ」

 「いいのか?」

 トンボはある程度捕まえたし、そろそろスライムを狩るとするか。

 「ああ、それでスライムを捕まえればいいんじゃない」

 「よ、よし、それならちょっと危険はあるが、あっちの林の中に行こうぜ。あっちの方が遭遇率が高いはずだ」

 俺達はバット君の後ろについて行く。ロビンちゃんはどこか不安そうだ。


 林の中に入ると、ほどなくして第一スライムを発見する。

「い、いたぞ!!」

 バット君は網を大きく振りかぶって、スライムを捉えようとするがひらりと躱される。そしてカウンターとばかりにスライムの体当たりがバット君を襲う。

「ふごーっ!!」

 スライムは俺達を与し易い相手だと思ったのか臨戦態勢に入り、俺の方へと向かって来る。

「【シャイニングボム】」

 俺は握りこぶしを作り、光魔法でスライムを爆散させる。

「えっ!!」

 バット君とロビンちゃんは驚きの声を上げる。

「お、おま、おまえ、魔法で倒したのか?」

「そうだよ。王都を出る時にも【浄化(クリーン)】っていう光魔法を使ったでしょ」

「そうだけど、その歳で2つも魔法を………素晴らしい!! 素晴らしいよ、グリフィス、いや、グリフィス君、いや、グリフィス殿と呼んだ方が?」

 バット君は揉み手をしながら俺に近づいてくる。

「いや、別にグリフィスでも何でも呼びたいように呼んでくれていいよ」

 そもそも偽名だし。何でもいい。

「お、おお、そうか、あっ、魔石を回収しないとな!!」

 バット君はスライムが爆散した場所に戻り、魔石を探す。

「おいおい、全然魔石がみつからねぇぞ!!」バット君は俺の方を恨みがましい目で見る「 ………魔石まで粉々にしたんじゃないだろうな? ちくしょー!! どこにも見当たらねぇ!! おい、もっと威力を下げるとかできないのかよ?!」

 「さっきの魔法は、あれが最小の威力だな」

 スライムだったし、そんなに魔力を込めなかったんだが、爆散してしまったのか。これまでも、光魔法で倒した魔物は全て魔石まで粉々にしていたということか。

 「魔石まで粉々にするなんて、全然使えねぇじゃあないかよぅ。そりゃねぇぜ、グリフィスよぅ」

 確かに。

 「じゃあ、今度からはこっちで倒すことにするよ」

 俺は【ウィンドカッター】を木の枝に当てる。すると木の枝が地面へと落ちる。

 「えっ!!!」

 バット君とロビンちゃんはまたも口をあけて驚いている。

「おまままま、おま、いや、グリフィス君? 君、もしかして光魔法だけでなく風魔法まで? もしかして使える、のか?」

 「まぁね」

「おい、おい、おい、おい、凄腕の剣筋さえ見えない剣士【エドガー】に子供にして三つも魔法を使いこなうす天才魔法使い【グリフィス】だと。ゴクリ、とんだ原石を拾っちまったぜ。よし、スライム探しは俺に任せろ!! そんなに強いなら、もう少し奥に行っても大丈夫そうだな」

 バット君とロビンちゃんは奥に行くと危険な気しかしない。ロビンちゃんも少し不安そうにしている。といって、林から出ても、スライムはなかなか見つかりそうにない。ここは早めにバット君が満足できる量のスライムを狩ってしまうしかない。俺が頷くと、バット君は網を振り回して、草をかき分けて進んでいく。

 バット君がスライムを発見して、俺とエドガエル君でスライムを狩っていく。そして、落ちた魔石をロビンちゃんが拾っていく。

 林の中の方がスライムの遭遇率が高いようで、気付けば10匹近くのスライムを狩っていた。

「おいおい、こんな順調でいいのかよ。スライムスレイヤーの称号が見えてきたんじゃあないか」

 バット君はフラグになりそうな言葉を呟きながら、先へと先へと進んでいく。すると、木々が拓けた場所に、川が流れていた。

 そして、そこには体に何本ものキノコを生やした大型の猪が2匹横並びで水を飲んでいた。


「あ、あれはグ、グ、グレートボア?! しかも、あんなに【シンバダケ】に寄生されているだと!! どれだけ魔力が高いっていうんだ」

 バット君が驚愕の表情で、小さく呟き、俺達の方を向く。

「や、やばいぞ。あれに気付かれたら………気付かれないように引き返すんだ!!」

 バット君が歩を進めようとすると小石と小石がすれる音が鳴る。それに反応してグレートボアがこちらに顔を向ける。

「ちくしょう! こっちに気付きやがった。俺が足止めをするから、お前たちは来た道を引き返すんだ」

「お兄ちゃん!!」

「すまねぇ。俺が調子のっちまったばっかりに。俺の事はいいから、早く逃げるんだ。グリフィス、エドガー、妹を頼むぞ」

 本当の危機に直面した時、その人間の本性が出るとは言うが………バット君、弱いくせにかっこいいじゃあないか。

「バット君、君じゃあ、足止めにもならないよ」

「何だと!!」

「だから、ロビンちゃんのことは君が守ってて」

「まさか、グリフィス、お前、あいつとやろうってのか? あいつの【シンバダケ】の数を見ろ。お前は知らないかもしれないけど、あれだけ寄生されてるってことは、それだけ魔力の多い個体ってことなんだ。いくらお前が3つの魔法を使えるからって、無茶すぎる」

 どうなんだろうか。見た感じ森で倒した狼よりは強そうではあるが、一泊移住で出会った熊ほど強そうだとは思えない。

「俺とエドガーで戦うから2人は、あっちの木の陰で隠れておいて」

「本当にやるのか?」

 俺が頷く。バット君はエドガー君の方も見ると、エドガー君も頷く。

「……すまん」

「お兄ちゃん!!」

 バット君はロビンちゃんの手を引いて林の中へと戻っていく。


 さて、あの【シンバダケ】とやらはどれほど美味しいのだろうか。そんなことを考えながら、俺はエドガエル君と横並びになり、【シンバダケ】が寄生しているグレートボア2体と対峙するのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 土曜日の朝8時頃に放送されているような展開。 危険だけどほのぼのだね。
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