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第82話 冒険者ギルド

 薬草店のお婆さん冒険者ギルドの場所を聞いて、そこへと向かった。

 その場所は遠くからでも一目で分かった。4階建ての建物で周りの建物よりも突出していたのである。

 俺は開かれた大きな玄関の前へと立つ。玄関横には受付のカウンターとそこには1人の女性が立っていた。1階の中の様子を窺うとテーブルや椅子が設置されているが、人はまばらにしかいない。昼を過ぎているので、この時間の冒険者はどこかで働いているのであろう。


 俺は期待に胸が膨らんでいる。冒険者ギルドといえば、オラついた冒険者が絡んでくるテンプレイベントである。絡まれたら魔法でちょちょいと返り討ちである。俺はワクワクしながら冒険者ギルドの玄関をくぐった。そして、玄関の横にいる受付の女性に話しかける。


 「すいません。この施設を利用するにはどうすればいいんですか?」

 「冒険者ギルドへようこそいらっしゃいました。ご用向きは、冒険者として依頼を受けるか、冒険者に依頼を発注するかどちらになりますでしょうか?」

 「冒険者に依頼を発注したいんですけど」

 「左様でございますか。それでしたら2階の受付に足を運んでください。そちらで手続きが行われます」

 「ありがとうございます。ちなみに他の階はどのようなことができるんですか?」

 興味があったので尋ねてみる。

 「1階は冒険者が依頼を受けたり、パーティー募集をしたりするための場所になります。3階は飲食ができるスペースとなっておりまして、4階は資料室になっております。4階の施設は冒険者として登録して頂かないとご利用することはできません」

 「へー、ちなみに冒険者になるにはどうすればいいんですか?」

 「いくつかの書類にご記入いただいて、登録料と年会費を支払っていただければ冒険者になることができます」

 「それだけでなれるんですか?年齢制限とか試験とかって?」

 「年齢制限は依頼毎に設けらたりしておりますので登録自体は必要ありません。ランクが上がる時に試験が必要な場合もありますが、こちらも年齢制限と同様に登録時には必要ありません。……ただ年齢が低いと採集依頼や清掃業務等しか基本的には受けることはできないと思います」

 「興味があったので聞いただけで、登録はするつもりはないです」

 「左様でございますか」

 「ちなみに登録料と年会費とはどのくらいかかるんですか?」

 「登録料に銀貨3枚、年会費はランクによって変わってきますが最低ランクのGランクで銀貨3枚が必要になります」

 年間に3万円もとられるのか。その費用でこんな立派な建物に変わっているということか。

 「ランクが上がると年会費って下がるんですか?」

 「いえ、ランクが上がるにつれて年会費も上がります」

 「そうなんですか?」

 「そうですね。この年会費は依頼者からの任務が失敗した時に発生する賠償金などが払えない場合の保険となっております。ランクがあがれば賠償金額もあがりますので、年会費は上がってしまいます」

 「それだと、賠償金はみんな保険で払うんじゃないですか?」

 「いえ、その場合ギルドで賠償金を支払いますが、ランクの引き下げが行われます。そして年会費は以前のランクと同等のものをいただくことになります。この制度により過度に実力と乖離したランクを望む冒険者もいらっしゃいません。ちなみに一度ランクを下げられた場合、再度ランクを上げるのは通常より難しくなります」

 「なるほど。それじゃあ……」


 「ちょっと!! いつまで無意味に冒険者について質問しているのよ? 後ろでこうして待っている人がいるのが分からないの?」


 き、来たーーー!! お約束のイベントですか。俺は声のする後ろに振り返った。

 そこには俺と同じくらいの背丈の女の子がいる。服装からすると王立学園の生徒ではないだろうか。エリィお姉さんが出立前に来ていた服と同じものを着ている。俺は強面の冒険者でなかったので少しがっかりした。

 「お嬢様、静かにお待ちください」

 その後ろに控えている執事のような人に諫めれれている。

 「だって、いつまでたっても終わりそうにないじゃない。それに、子供が冒険者について聞いても意味ないでしょ!!」

 「無駄なことで争いの火種を作ってはなりません。冒険者に憧れるお年頃なのでしょう。もっと寛大な心で見守るのです。何もロム神聖国の聖女と呼ばれているマチルダ様と知って待たせているわけではないのです。興奮して周りが見えていないだけです。ここは慈愛の心を持って接してください。ここは神聖国ではなくハイゼンベルク王国なのです。ぞんざいな扱いを受けても表に出してはいけません。むしろ、この子供の健康に祈りを捧げてあげるべきでしょう」


 うう、なんか、少女を諫めるふりをして俺に無言の圧力をかけてきてないか? しかし普通の平民なら、今の言葉を聞いたら、退いてしまうだろうが、こっちも王族である。しかも聞く限り、こっちはホームで、あっちはアウェイだ。退かぬ、媚びぬ、省みぬ。


 「そ、それもそうね。ここは神聖国ではないものね。迷える子羊に祈りを捧げるわ。主よ、私達をずっと無駄な話で待たせているからと言って、この哀れな子羊をお見捨てにならないでください」

 「健康についても祈ってさしあげた方がよろしいかと」

 「たしかに、そうね。早死にしてしまいそうな体型をしてらっしゃいますわね。主よ、私達を寒空の中待たせて凍えさせているこの者をお許しください。暴食の罪により苦しむ時がこようとも、この子羊を助け給え」


 うう、こんなことで変な神罰がくだるのも馬鹿らしい。決して屈したわけではない。戦略的撤退である。


 「………どうぞ」

 俺は受付を少女に譲って2階へ行く事にする。

 「あら。いいんですか。ありがとうございます」

 「良かったですね。お嬢様」

 「そうね。ジョーイ。祈りが通じたわ」

 祈りという名の恫喝だったがな。まぁ、いい。2度と関わることはないだろう。


 「神聖国までの護衛をお願いしたいのですが、どこで手続きをすれば宜しいですか?」

 「護衛依頼ですね。護衛依頼は2階の3番窓口で受付されるとスムーズに手続きが行われます」

 「そうですか。わかりました」


 俺が階段を昇っていると後ろから2人が昇ってくる気配がする。

 2階にあがると受付カウンターとその前には椅子が並べられている。昼過ぎということもあり椅子に座っている人は誰もいないしカウンターで話している人も少ない。俺は空いている女性に話しかける。


 「あの採取依頼をしたいんですけども」

 「採取依頼ですか? 当ギルドのご利用は初めてでしょうか?」

 「はい。初めてになります」

 「どういったものをご依頼でしょうか?」

 「名前は分からないのですが、独特な強い香りがする香辛野菜なんですが。薬草店のお婆さんに聞くと西の方のエージャ海付近で使われているハーブの一種らしいです。口に入れると清涼感がすると思うんですが、情報はこれくらいしかないです。探せそうですか?」

 「少しお待ちください。詳しいものに聞いてきます」

 

 お姉さんはカウンターの中にある扉を開けてどこかへ行ってしまった。


 「それじゃあ、今話題にのぼっている風の旅団に護衛を頼むのは無理だっていうの?!」


 隣のカウンターで先ほどの少女が大きな声を上げた。気になって、そちらの方に聞き耳を立てる。


 「そうですね。その料金では風の旅団に護衛を頼むことはできません」

 「こちらに来る時は、その値段で護衛を雇ってこれたんですけど」

 「そうですね。護衛依頼の料金は神聖国側からでも王国側からでも変わらないのですけども、風の旅団に指名依頼をされる場合は指名依頼分の割増し料金がかかってしまいます。なので、銀貨15枚ではお受けできません」

 「いくらなら雇えるんですか?」

 「銀貨40枚でなら依頼を出すことができます」

 「?! それだと往復できるじゃない」

 「風の旅団はAランクのクランになりますので、護衛依頼にはその価格がかかってしまうのです。旅団員のカードをお持ちでしたら割り引いて料金でお受けできるのですけど、お持ちではないですよね?」

 「カード?」

 「はい。Cランク以上の冒険者はカードを発行することができまして、それを知り合いやお得意様等に渡している場合があります。それを持っている場合、安く依頼をできるのです」

 「そのカードはどうやったら手に入るんですか?」

 「冒険者から直接貰うしかありませんね」

 「………噂の風の旅団に護衛してもらえると思いましたのに……」

 「神聖国までの護衛でしたら、道も比較的安全ですし、Eランクの冒険者に頼んでも問題ないですよ」

 「……わかりました。それでは、おすすめの方を紹介してください」

 「ありがとうございます。それでは、まず女性の冒険者と男性の冒険者のどちらが……」


 そういえば、風の旅団の副団長に黒いカードを手渡されたなぁと思いだしていると、俺の受付の女性が帰ってきた。


 「お待たせしました。おっしゃられていた素材に該当しそうなものが近隣にありました。プーエル地方の川辺に生えているクリュという野草になります」

 「プーエル地方?」

 受付の女性は地図を広げる。

 「こちらになります。ここから馬車で1日ほどかかる場所になりますね。魔物の類もあまり出ませんのでFランク依頼となります。採取に関して条件はありますか? 集める部分や量等によって料金が変わってきます」

 「根っこからすべてを欲しいですね。できれば枯らさないように土付きで持って来てもらえればありがたいです。あとは種とかもあれば欲しいですね。量はひとまず20本くらいあれば十分ですけど、あればあるだけありがたいです」

 「かしこまりました。種は時期的についてないと思いますので、保存状態を維持した状態で20本以上という依頼でよろしいですか?」

 「はい。それでお願いしたいですけど、料金はいくらくらいになるんですか?」

 「銀貨3枚になります」


 簡単な依頼な割に結構かかるな。安全であるなら自分で取って来てもいいような気もするが、2日かかるというところが無理だな。俺が悩んでいるのをみて受付の女性が料金の詳細を説明しだした。


 「料金の内訳ですが、往復の移動料金と生活費、そして、Fランク依頼の料金となります」

 

 うっ。高いと思ってすいません。Fランク依頼の料金が2日で銀貨1枚の計算になっている。残りが移動料金と生活費に換算されている。そう考えればかなり安いと言えるかもしれない。王都を1日以上離れることができない俺にとって、これは仕方ない出費と考えるしかない。


 「じゃあ、それでお願いします。あっ、そうだ。これって使えるんですか?」


 俺は鞄の中から風の旅団の副団長とやらにもらった黒いカードを出す。


 「こ、これは、風の旅団副団長アイロス様の……こちらをお使いになるんですか?」

 「使うとどうなるんですか?」

 「こちらは【黒】のカードですので、アイロス様が正規の料金で依頼をお受けになります」

 「ふーん。じゃあ、それでお願いします」

 「いえ、この依頼はFランクなので、もったいない気がしますけど、よろしいのすか?」

 「カードを使うと次回は使えなくなるんですか?」

 「そうですね。また本人様からもらわないと使うことができません。風の旅団はAランクのクランになりますし、アイロス様はその副団長を務めていますのでFランク依頼を出すと機嫌を損なわれてしまうかもしれませんよ。それでもよろしいでしょうか?」


 タダで貰ったものだし、元々仲がいいわけでもない。だから、ここで使ってしまうことにに未練はない。むしろ、ありがたがって使わずにとっておく方が駄目なのだ。RPGでもエリクサーを使わずにとっておいて、最後まで使わずにクリアしてしまうというエリクサー症候群というものがあるが、まさしくそれである。俺に今一番大事なのはコーラを完成させ、あわよくば量産することである。それには保存状態のよい状態でパクチーもどきを手に入れなくてはならない。


「お願いします」

「………それでは、手続きを行います」


「ちょっと待ちなさい!! 話は聞かせてもらったわ。そのカードの使い方は勿体ないと思わないの。たかだかFランク依頼に風の旅団の副団長様をこき使おうっていうなんて。そんな暴挙は神が許してもこの私が許さないわ。私に譲りなさい」


 俺と受付の女性は声のする方を振り向いた。そこには隣で手続きをしていた神聖国の少女が俺の方を向いていた。要求も理不尽極まりない。本当に神聖国の聖女なのであろうか。疑わしいところである。


「このカードって譲渡もできるんですか?」

「可能ではありますが、冒険者様がお渡しになった方以外が使われた場合、あまりいい気はされないと思います」

「だそうですよ」

 受付の女性から神聖国の少女の方に向き直る。

「それでもFランク依頼を出すなんてあんまりではないですか」

 そういうあなたもEランク依頼のはずである。そんなにたいして変わらないのではないだろうか。

「あなたの依頼のランクはいくら何ですか?」

「…Dランクよ。だから、私に譲りなさい。なんなら銀貨1枚出すわよ」

 こいつ、ランクをサバ読みやがったな。さらに銀貨15枚得する取引を銀貨1枚で済ませようとするとは。俺が聞き耳を立てていたことを知らないようである。俺は無視して手続きをすすめることにした。


「手続きをすすめてください」


「ぐぬぬぬ」

 

 はぁー、冒険者ギルドで絡まれるといえば、野蛮な冒険者だろう。からの無双。何でこんないかれた自称聖女に絡まれなきゃいけないんだ。

 後ろから少女の声が聞こえる。

 神に俺の神罰を与えるかのような祈りをするのをやめれ………


 

 


 






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