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第81話 薬草店 その2

 その昔、『魔女の秘薬』の原料として用いられていた。紫色の釣鐘状の花弁を咲かせ赤い果実をつける。その根は人の姿に似ており、窪みは目や口のように見えなくもない。

 古代のエルフは、魔術や錬金術の媒体としても使用している。幻覚、幻聴を伴い時にはその副作用で死に至ることもある植物である。その副作用のために、その根は引き抜く際に悲鳴を上げて、それを聞いた人間を発狂させて殺してしまうという伝説まで生まれている。

 その語源は植物が発する声がマントラ(呪文)の祖ではないかと唱え、マントラコアとつけられた名前が、時代と共に発声が変化し、マンドラゴラと呼ばれるようになっていった。

 《エルフ書房「植物学と錬金術」アンクルサム著より》


 俺はエルフの言葉で書かれた本を閉じる。

 マンドラゴラはポーションなんかの原料として取り扱われるようであるが、俺には光魔法があるので回復するための薬品を必要とはしない。マンドラゴラを売ってしまうのはもったいない気がするので、何かに使えないものかとエルフ語で書かれた書物を読んでいたのだ。

 ここに書かれているように一定の温度下に保存しておいたマンドラゴラを煎じて30℃の水に入れると、溶解度が最大になり、水の特性が変化するとあった。

 俺は早速収穫していたマンドラゴラで試してみた。すると光、風、闇の魔力で育てたもので、水に違った変化を生じさせた。

 光の魔力を込めたものは水に溶けるなり、水が発光しだしたのである。逆に闇の魔力を込めたものは水が黒く変色してパチパチと気泡が底から湧き出てきた。そして、風の魔力を込めたものは一見何の変哲もないように見えたのだが、指につけると冷湿布をつけた時の清涼感があった。

 本にはこの処方だと副作用が起こらないということだったので、それぞれ少しずつ舐めてみると、闇は舌にはじける感覚があり、風は清涼感を感じたが全て無味無臭であった。

 これぞファンタジー植物というやつか。

 こうなってくると、他の属性の魔力を与えたものも気になってくるところである。今なら土属性の魔力も使えるので、それも作ってみたい。

 が、そんな事より今の俺の脳にはある考えが閃いていた。

 闇のマンドラゴラ、これって炭酸水ではないのかということだ。色さえ気にしなければ、パチパチの刺激はしっかりと炭酸の刺激と同一のものである。ということはアレが作れるのではないだろうか。

 漫画を読みながら、冷たいコーラを飲む。

 俺の堕落した理想の生活がそこにある。

 作り方も、炭酸水さえどうにかできれば、砂糖を焦がしたカラメルにパクチーとライムさえあればできると読んだことがある。これは作るしかないのではないだろうか。


 ライムは似た柑橘系の食べ物が見つかりそうであるが、パクチーがこの王都で手に入るのかが問題である。ハーブをいろいろと試すしかないか………


 俺は早速パクチーを扱ってそうな店へと足を運ぶ。

 以前マンドラゴラを購入した薬草店である。相変わらず怪しい店番の婆さんが俺を出迎える。


 「ひょひょひょひょ、久しぶりじゃのぅ。坊主。マンドラゴラは順調に育ったのかい?ひょひょひょ」

 「なんとか育てることに成功しましたね」

 「ひょ?! 本当に言ってるかい? 確か5本買っていったはずだけど、何本になったんだい?」

 「30本ほどになりましたね」

 1本のマンドラゴラから6本近くに増殖したことになる。たしか買い取りするなら1本銀貨30枚と言っていたので、全部売れば金貨4枚くらいは儲かることになる。

 「さ、30じゃと? 本当に言ってるのかい?」

 「はい、まぁ」

 俺は鞄から少しマンドラゴラを取り出す。

 「むぅ。こ、これは………も、もしかして、光属性の魔力で育てたのかい? そして全部成功した、そういうわけかい………ゴクリ」

 「まぁ、それはそうですね」

 風と闇の魔力で育てたものもあるけどね。それにしてもよく光魔法で育てたものだと見分けがつくな。

 「そ、それで、坊主はこれを銀貨30枚で売りに来たというわけかい。ま、ま、ま、まぁ、金貨9枚ほどになるが、全部買い取ってやろう」

 「いや、それは売りませんよ」

 「な、なんでじゃあ。はっ、買い取り金額に不満があるんじゃな。分かったわい。なかなか上手く育てたようじゃからのぅ。一本銀貨40枚じゃ。それでいいじゃろぅ」

 「いや、別にお金に困っているというわけではありませんので、売却はやめておきます」

 俺はテーブルに出したマンドラゴラを鞄にしまおうとする。

 「ま、待つのじゃあ。それじゃあ、何のためにここへ来たのじゃあ。はっ!! 出来のいいマンドラゴラが偶然できたもんじゃから、自慢しにきたってわけかい?こんな年寄りをからかって何が面白いんじゃあ。そんな出来のいいマンドラゴラが出来たんなら儂に全部とは言わんまでも1本や2本売却してもいいんじゃないかい。ああ、生い先短いこの老婆の頼みを断るとはなんと慈悲のない坊主なんじゃ」

 「いや、そんなつもりでは。ここに来たのは別のものを購入しに来たからでして………まぁ、1本くらいなら売ってもいいですよ」

 なんか必死そうなんで、光のマンドラゴラは特に今のところ使う予定もないので売却してもいいだろう。

 「おお、なんて慈愛に満ちた坊主なんじゃあ。3本も購入させてくれるのかい。でかいのは体だけじゃないわい。ひょひょひょひょ」

 このババァ、3本に増えてやがる。

 「いや、自分でもいろいろと試したいことがあるので、お売りできるのは1本になります。それも銀貨50枚ですね」

 なんか、かなり欲しそうなのでちょっと価格を釣り上げてみる。

 「なっ、くっ、足元をみおってからに………仕方ない。1本で我慢するわい。じゃが、もしいらなくなったら買い取るでのぅ。使わないなら絶対に儂の店に持って来るんじゃぞ」

 案外すんなり俺の言った価格が通ったな。もっと吹っ掛けても良かったか。でも、この価格なら10本売れば元を取れることになるからな。このくらいが妥当なところだろう。

 「まぁ、それはいいですよ」

 「それで今日は何を欲しいんだい?」

 「清涼感のするハーブが欲しいんだけど、ありますか?」

 パクチーやコリアンダーと言ってもこの世界では通じないので、味だけで探さないといけないというのが難しいところである。

 「清涼感のするハーブかい? うちでは取り扱ってはないねぇ。西の方にあるエージャ海付近でそういったハーブが使われているって聞いたことがあるねぇ。ただ癖があるから、この辺りの王都ではあまり好まれないので、入ってきてないねぇ。探せばどこかに生えてるんじゃなかねぇ」

 「どのあたりに生えているか分かりますか?」

 「生息場所は分からないけど、冒険者ギルドに依頼すればとって来てもらえるんじゃないかしらねぇ。私も必要な薬草なんかは依頼して取って来てもらったりするからねぇ」

 冒険者ギルドにそういう依頼もできるのか。

 「なるほど。じゃあ、ちょっと冒険者ギルドへ行ってきます」

 「その前にマンドラゴラを1本置いていくんじゃ。先ほど確かに儂に1本売るって言ったはずじゃ」

 

 何がお婆さんをそこまで駆り立てるのか。

 お婆さんからマンドラゴラへの執念が感じられた。

 


 

 

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