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第79話 ステルスマーケティング

 僕はもう疲れたよ、パトラッシュ。

 ごろごろして漫画を読んで過ごしたいと思っただけなのに、逆にすごく最近は働いている気がするんだ。

 本末転倒とはこのことだよ。

 ミーツ商会が千冊買い取ってくれたので、合計2千冊近くを売ることができた。始めは5千冊を目標にしていたが、ひとまずこれでいいんじゃないかと俺の中に巣食う悪魔が囁いてくる。銀貨180枚、日本円にして180万円近くが手に入った計算になる。一月に出ていくお金は皆の給料の銀貨130枚に加えて、諸々のお金として30枚くらいあれば資金がショートすることはない。これに建物の費用を分割で計上していくとマイナスになるが、キャッシュフローはなんとかなる計算である。

 在庫が増えれば本来は倉庫の費用等がかかるが、俺の場合魔法で解決できるので在庫に関するリスクはほぼゼロに等しい。売れ行きがあがっていけば、在庫も販売していけばいいだろう。単行本を発売する前までに売れ行きが伸びていけばいいのだ。

 ひとまずは卸した2千冊が全て完売してもらわねばならない。

 

 そういうわけで、ただ今俺は絶賛ステマを敢行中である。

 剣術稽古の休憩時間に取り出したのは、ステップ創刊号である。俺は壁にもたれて読書を始める。


 『それは?』

 

 エドガエル君が興味を示したので、鞄からもう一冊取り出して渡してあげる。


 『今王都で流行の兆しがある漫画っていう本だよ。人間の言葉の勉強にもなるし読んでみるといいよ』

 『うん、わかった』

 

 俺達が漫画を読んでいると、それに気付いた同期のバーミアン君が俺に話かけてくる。バーミアン君といつも一緒にペアを組んでいるデニーズ君も後ろについている。

 

 「何を読まれているんですか? ジークフリート様」


 「これは今王都で話題沸騰のステップという本だよ。凄く面白いんだ」


 「ほう。そんな本があるんですね。見せてもらっても?」


 「いいよ」


  俺はバーミアン君に俺の持ってる本を渡す。バーミアン君は俺の近くに座ってページをめくる。バーミアン君の後ろからデニーズ君が覗き込んでいる。


 「これは………」

 「何だ。絵本ですか。ジークフリート様はまだこのようなものを読んでるんですか?」


 バーミアン君は言葉が詰まっていたが、デニーズ君と同じような感想を持ったのだろう。


 「ちっ、ちっ、ちっ」俺は人差し指を左右に動かす。「これは絵本ではないよ。漫画という全く新しいジャンルの本になるんだ。騙されたと思って読んでみるといいよ」


 「はぁ」

 「ふーん」


 二人は気のない返事を返しつつも、死神の話を読み始める。


 「………おい、ちょっとページをめくるのが早いぞ、バーミアン」

 「まだ読んでないのかよ。さっさと読めよ」


 死神の話は文字数が多いので、2人で読むとそういうことが起きるよね。


 「早く次のページをめくってくれ、バーミアン」

 「お前が読むのを待っているんだよ。って、あれ? これで終わり? 違う話が始まったぞ? この続きはあるんですか? ジークフリート様」


 「それは2週間毎に発売されるから続きが読みたければ、2週間後にまた買わないといけないんだ。でも1冊銅貨1枚で買えるから君達も小遣いで買えるんじゃないかな」


 「そんな! 続きがすごい気になるのに。2週間待たないといけないんですか?」


 どうやらハマったみたいだな。


 「そうだね。他のも面白いから読んでみるといいよ」


 恋愛話は微妙だったけど、7つの球を集める話は2人ともワクワクした顔をしながら読んでいる。


 最後のちょっとエッチな漫画を読むときは2人とも無言で読んでいた。エッチなシーンが出るとバーミアン君はすぐにページを捲った。

 

 「あっ」

 「なんだ?」

 「……いや、なんでもない」


 デニーズ君はその速さに抗議しようとしたみたいだが、そこが見たいと言うことができずに諦めていた。最後のページをバーミアン君が閉じると、デニーズ君が俺に尋ねた。


 「これはどこの書店に行けば買えるんですか? ジークフリート様」

 

 デニーズ君は自分で購入してじっくり読むことにしたのだろう。

 

 「僕は【ライブラ】って書店で買ったけど、他の書店にもあるんじゃないかな」


 「なるほど」


 バーミアン君は俺に本を返した後、デニーズ君と書店へと行く約束をしていた。ふふふ、こうした草の根作戦が後々生きてくることだろう。


 「おい、いつまで休憩しているんだ。こんなところまで来て、本なんて読むんじゃない」

 

 ミカエル君が3人の取り巻きを引き連れてやってきた。

 

 「ちっちっち」俺は再度同じように人差し指を左右に振る。「これはただの本じゃないよ。強くなるために必要なことが書かれているんだ」


 「な……んだと?! そんな本が?」


 「ああ、今世界中で流行の兆しのある本なんだ。これを知らないとなったら王族として情報のアンテナの感度が低すぎて問題になってしまうぞ」


 「なに、そんな本が? お前ら知っていたか?」


 ミカエル君の取り巻きは全員首を横に振る。


 「本当に世界中で流行しているのか? 誰も知らないじゃあないか」


 「知る人ぞ知るってやつだよ。知らない人は知らない。君はどっち側の王族になるつもりなんだい?」

 「もちろん知る側だ」

 「じゃあ、読んでおかないと流行に乗り遅れてしまうよ」


  当たり前のことをそれらしく言うと、ミカエル君は俺から本を受け取った。チョロいな。


  4人で仲良く漫画を読み始める。

  先ほどバーミアン君とデニーズ君がやっていた会話のやり取りの再現が4人で行われている様はカオスでしかない。

  しばらくして全てを読み終えたミカエル君は口を開いた。


 「これを読んだら、どうして強くなるんだ?」

 「これにはまだまだ続きがあるんだ。2週間後にこの続きが読むことができる。そして、ずっと読んでいけばその答えに辿りつくことができるんだ」


 長く読んでいけば、重い服を着て訓練をする有用性がわかることだろう………


 

  

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