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第78話 ニコル

すいません。奴隷の名前をアンジェからニコルに変更します。アンジェは屋敷の料理人の名前として使っていました。本当に申し訳ありません。

 そのために、奴隷の視点からの話を前倒しで挟むことにしました。本当はフローリアさんの話と一緒にするはずだったのですが、名前を変更したので、先にニコルさんの話だけします。

 さらに、この物語のテイストに合わない暗い話になっているかもしれないのですが申し訳ございません。


 一応、登場人物のまとめたものがあるのですが、機会があればアップしたいと思います。

 誰かが言っていた。


 人生の運の総量は決まっている。不運な時もあれば幸運な時もある。不運の底が深いほど、それを経験した者は、後は幸運の階段を登るだけだとは、牢獄で出会って処刑された名も知らぬ者の言葉である。

 あの人の人生は幸運を使い切ってしまったために処刑されてしまったということだろうか。

 

 私は元々グルリコという国の宮廷で王族の世話や掃除等の雑用を行っていました。家は貧しい平民の出であたのですが、文字を書けるようにして、教養を身に着け、マナーを覚えた私は宮廷の誰かの目に留まり、宮廷で雇ってもらえることが決まりました。

 誰かの言葉からすれば、幸運をこの時に使ってしまっていたのでしょうか。

 少ないお給料でしたが、我慢をすれば家に仕送りもできるようになりましたし、仕事も市井の仕事に比べればそれほど大変ではありません。あわよくば貴族の方と恋仲にでもなることができればと考えると私の人生は薔薇色に輝いていたのです。

 あの事件が起きるまでは………


 その日はいつものように調理場所に行って、第一王子の食事を受け取り、食卓へとワゴンに載せて運ぶ。


 そして、いつものように少しだけつまみ食いをする。


 決して、その日出される料理に【幻のエルフ印のサツマイモ】が使われているから、食べたのではなく、ただいつものように、つまみ食いをした、ただそれだけだったのです。


 そのサツマイモを食べれば腸内環境が洗浄されて美容効果が発揮される、なんてことは知らなかったのです。本当に毎日ばれないように少し王族の食事を食べてみたい、ただその欲求を満たしていただけなのです。


 信じてもらえないかもしれませんが、始めは一口くらいバレないんじゃないかなと思って恐る恐る3日に一度くらいしかしていなかったのです。

 あの事件があった頃はたしかに毎日のように3口くらいはいっていたのですが、最初は3日に一口、ただそれだけだったのです。


 ただ、その油断、慢心によってあの事件は起こるべくして起こったということでしょう。


 誰かの言葉を借りるなら、幸運は後に訪れる不運の前振りのようなものだったということでしょう。


 その時食べた料理には第一王子を狙った毒が仕込まれていたのです。


 不幸中の幸いだったのは、見つからないように一口目はほんの少ししか口に入れなかったということでしょうか。口に入れた時、何か違和感は確かに感じていたのです。これが【幻のエルフ印のサツマイモ】を使った料理か。いうほど大したことはないな、と。むしろ苦みがあって、あまり美味しくはない、と。しかし、今思えばそれが毒の味だったということでしょう。

 いつものように一口を長く楽しむために、長い間口の中で咀嚼をしていたのですが、私は喀血をしてその場に倒れこみ意識を失いました。


 2つ目の幸運は長い間咀嚼して飲み込んでいなかったために、毒が喉までしか及ばなかったということです。


 私は【幻のエルフ印のサツマイモ】をつまみ食いをした罪で牢獄へと送られることになりました。幸いなことに第一王子の毒を未然に防いだという功績で、すぐに重い刑が確定しませんでした。


 しかし私は死んだも同然でした。声が出ないだけでなく、味覚すら失ってしまったのです。私の唯一の楽しみである食を奪われたのです。私は生きながらに死んでいるのです。

 そんな死んだ目をしている私に牢獄でつながれている人が運についての話をしていました。その時の私は死んだも同然だったので、聞いているようで聞いていない。そんな状態が続いていました。

 

 そんな中で、グルリコは破竹の勢いで小国を飲み込んでいってるハイゼンベルク王国に戦わずして降伏を宣言した。

 

 一般の民にとっては支配者が変わっただけで、特に暮らしが変わるというわけではなかったのだが、牢獄につながれている私は犯罪奴隷としてハイゼンベルク王国の王都に連れ出されることになってしまった。

 私はもう死んだも同然なのだ。もう何もやる気が起こらず、最悪な未来が待っていることもどこか現実感がなかった。


 楽しみは奪われ、奴隷として重労働をさせられるか、もっと悪ければ尊厳を踏みにじられる生活が待っているのだ。そんなことになるくらいなら、潔く自害をするしかない。


  お父さん、お母さん、先に旅立つ不孝をお許しください。


 平静でいられたのも、まったく現実感がなかったからだろう。


 私は奴隷館で、声が出せないということで欠陥品の烙印を押されてしまった。奴隷の中でも最下層というわけだ。私の未来はもう閉ざされてしまった。売られるまでに徐々に徐々に現実へと引き戻されて、次第に奴隷として買われることが怖くなってくる。買われたときが私の死ぬ時だからだ。


 そんな時、字が綺麗な奴隷を探しているからということで私が呼ばれた。


 これは私が生きる最後のチャンスなのではないだろうか。その求めている内容から字を書くという仕事をするということだろう。奴隷にそんなことを求める人なんて、この先二度と現れない気がする。

 私は丁寧に字を書いた。

 奴隷の中には何故か明らかに手を抜いて字を書いているものもいた。

 

 そして、私は見事に合格した。

 その時まで気づかなかったが、購入をしようとしている人物は子供を連れた大男で、奴隷のブランシュ姉さんの身体をやらしい目で見ていた。

 そこで気付いた。手を抜いていたものたちは、この大男に買われるのを嫌がったのだ。手を抜けば買われることはない。

 字を書く仕事のために奴隷を買うなんてあるはずがなかったのだ。騙された。


 私は手続きを済ませて、宿のような場所に連れていかれる。やっぱり。私はこれから尊厳を踏みにじられてしまうのだ。


 大男が信じられない力でベッドを2階から運ぶ。私はこの男から逃げることもできない。


 そう思っていたら、大男は2階へと消えていった。

 

 残されたのは子供一人。何でもここのオーナーで、私を買ったのはこの子らしい。


 どういうことだろう。


 そう思っていると、子供は私をベッドに座らせた。やっぱり同じなのね。大男が子供に変わっただけで私の未来は変わらないというわけね。


 私は舌を噛み切ろうとして舌から血が溢れてでる。


 「もう喉は治っていると思いますので、喋ってみてもらってもいいですか?」


 「…えっ? あっ!! えっ! 声が……出てる……えっ!! 何で?!」

 

 毒によってやられていた喉が治っている。………あれさっき噛み切ろうとした舌も痛みがなくなっている。というか………血の味がする。あの事件以来何を食べても無味だった舌が、鉄の味を感じているのだ。何で? どうして?

 

 「喉はさっき治療しましたので、これからは筆談をする必要はありません。それで、さっきの条件で大丈夫ですか?」


 そう言えばさっき銀貨10枚、食費とは別でもらえるって言ってた気がする。その条件だと、前に宮廷で働いていた時とそんなに条件が変わらないから嘘だと思っていたんだけど、この国では普通なの? 

 

 「えっ、あっ、はい………大丈夫……です……」


 私はコクコクと首を縦に振るだけしかできない。

 私の様子を見て満足したのか、子供はどこかに行こうとする。


 「どちらに、行かれるのですか?」


 「今日はもう自宅に帰るよ。あっ、当面の生活費が必要ですね。前払いで給金をお渡ししておきます。これで少しの間は食べ物を購入しておいてください。2階にいる人達への料理等は当分気にしないでいいです。まだ、皆には伝えていませんので」


 銀貨を10枚ほど渡される。本当に貰えるんだ。


 「料理をしていただける場合は食材費を支給しますので、言ってください。では、また明日来ますので。ニコルさんも環境が変わって戸惑っていることでしょう。今日はゆっくり休んでください」


 「はぁ」


 料理をすれば、食べ放題ってこと? というか、この部屋を私が自由に使っていいの? 


 お父さん、お母さん、ここに天国があったよ。


 どうやら私は不幸の谷間へと落ちて、楽園への階段を登り切ってしまったようである。あの人の言葉は本当のことだったのだ。

 

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