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第61話 ラフ画

「まずは私からね。私はフローリア、得意なのは人物画よ」

「……私の名前はオスカー、風景画をよく描いていますが、人物画もそれなりですね」


 眼鏡の青年は、中指で眼鏡を上にあげながら自己紹介をした。


「ぼ、僕はミルランです。石像作りがしたくて、このダリオ工房の試験を受けに来ました。絵も練習はしてきたので、精一杯頑張ります」

「……グリフィスです。この工房に受かればいいなぁと思って試験を受けに来ました。得意なことはないので、雑用係として使ってください」


 グループ試験なので、他の人の迷惑になるようなことをしないでおくために、雑用係として徹しようと決めた。そうすれば空いてる時間に他のグループの実力も見ることができるだろう。


「そんなことでいいの? 雑用係なんかしてても受からないわよ」


 フローリアがそんな俺に待ったをかけた。


「これも何かの試験ということですかねぇ……」


 眼鏡の青年オスカーは、その眼鏡の奥から疑惑の目をこちらに向ける。こいつはまだ俺を疑ってるのか。全然その予想は外れてるんだ。そんな俺は分かってるみたいな顔をされても困ってしまう。


「ひとまず、どんな絵を描き上げるか話し合いましょう。テーマは『天使と悪魔』、この抽象的なお題に対して、どのような絵を描くか。いい案はある?」


 フローリアは皆に意見を聞いた。


「各々で持ってるイメージが違うので、この下書き用の紙にそれぞれが思い描いた『天使と悪魔』をラフに描いてみるのはどうですか。そして、それぞれのいいところを合わせて一枚の絵にするというのはどうでしょう? ……それにしてもこの紙、羊皮紙とは違いますね。何でしょうか?」


 ミルランが材質を確かめるように、紙をなでる。


「それは、今王立学園で開発されている木材から作られた紙らしいですよ。サンプルとしていろいろなところに配られているそうです」

 

 眼鏡をかけたオスカーさんは情報通であることをアピールする。


「それは私も聞いたことがあります。なんでも第一王子であるヨハネス様が完成させたとか。本当に凄い方だわ。それに絶世の美青年とも噂されているのよねぇ。いずれは一目でもいいからお目にかかりたいものだわ」

「貴方のような一庶民と王族が会う機会が訪れるとはおもいませんけどね」

「あら、私が画家として名が売れれば、宮廷画家にでもなって、ヨハネス様の絵を描く機会がくるかもしれないわ」

「なれればですけどね。女性で画家になるのは非常に難しいと思いますけどね」

「あら、最近話題のマーガレット画伯を知らないの。彼女の絵は1枚で家が建つと言われている人気画家よ」

「彼女は特別でしょう。現にこのダリオ工房で女性の方は一人もいないわけですから」

「私がその一人目になればいいだけの話ですわ」

「まぁまぁ、それでみんなで描いてみるというのはどうしますか?」


 オスカーさんとフローリアさんの言い合いをミルラン君が制した。


「そうね、ひとまず描いてみましょうか」

「合わせなくても、一番いい絵を描くというのでもいいと思いますけどね。まぁ、ひとまず描いてみましょう」

 ミルランが提案にフローリアが乗った。オスカーは自分の絵に自信があるのだろう。3人は紙と鉛筆を手に取り下描きを描き始める。


「どうしたの? 描かないの?」フローリアが俺に尋ねる。「……いや、描きます」


 俺が描いても、それが採用されなければいいだけの話である。そうすれば他の3人には迷惑はかからないだろう。さて、何を描くか。『天使と悪魔』か……悪魔の方は7つの大罪をモチーフに「 暴食 」、「 色欲 」、「 強欲 」、「 憂鬱 」、「 憤怒 」、「 怠惰 」、「 虚飾 」、「 傲慢 」の悪魔を描いて、天使の方は4大天使である、「ミカエル」、「ガブリエル」、「ラファエル」、「ウリエル」を描いてみるのはどうだろうか。4大天使は、4大元素をも示していると読んだことがあるので、それをイメージして漫画チックに表現すればいいだろう。確か、ミカエルが火、ガブリエルが水、ラファエルが風、ウリエルが地だったはず。いろいろなゲームや漫画を極めていた俺にとってはこういう雑学は割と覚えているのだ。


 描くことが決まれば、俺は集中して描き始める。漫画が好きで、ノートに描いたりしたこともあるので、まるで描けないというわけではない。


「………ちょっと、ちょっと、まだなの? イメージ図だから、しっかり描く必要はないのよ」


 あまりに集中していたせいで、肩をゆすられるまで全く気付かなかった。手を止めて、顔をあげると、俺以外の3人はもう描き上げているようだった。集中していたから正確な時間は分からないけど、30分くらいしか経ってないはずである。


「描いてない部分は口頭で説明してくれればいいわ。じゃあ、私から見せるわね」


 そう言って、フローリアは完成した絵を皆に見せる。その絵は30分で描いたとは思えないくらい上手く描けていた。子供に白い羽が生えた金髪の天使と子供に黒い羽の生えた黒髪の悪魔を描いていた。


「大天使マリベルと大悪魔サタノスをこのように表現してみました」

「わー」

「ふん、子供っぽすぎて、大天使マリベルには威厳が、そして大悪魔サタノスには畏怖が感じられないですね。では、次は私のを見てください」


 ミルランは感嘆の声をあげたが、オスカーには不評だったようである。俺には短時間で描き上げたというのにかなり上手いようにしかみえない。

 オスカーが描いた絵には際どい鎧を身に纏った女性と、その3倍の体躯をもった筋肉粒々のお爺ちゃんが描かれていた。それぞれの鎧は細部までこだわって描かれており、こちらも短時間で描いたとはおもえないクオリティーである。あれかラフに描き上げるっていったのは、ここでドヤるための伏線だったというのか……すっかり騙されてしまったぜ。これじゃあ、俺はまるっきりピエロじゃあないか。


「ちょっと、それじゃあ大天使マリベル様があまりにも卑猥に描かれすぎじゃないかしら?」

「これくらいの方がうけがいいんですよ。ピルモント聖堂の壁画を見たことはないですか? あそこに描かれた『民衆の夜明け』という作品はこれなんかよりもっと情熱的な表現をしていますが、高い評価を受けています。この程度で卑猥というのはあまりにも子供すぎるんじゃあないですかね」

「ぬぐぐ」

「あっ、つ、次は僕の作品です」


 空気が悪くなる前にミルランは自分の作品を掲げる。その絵を見て俺は驚いた。石像造り志望って言ってたから、そんなに上手くないと思っていたが、そんなことはなかった。すごく上手い。なんてこった。ミルラン、お前もか。お前もラフ絵とかいいながら、そんな上手い絵を完成させていたのか。


「こちらの禍々しい椅子に座っているのが大悪魔サタノスで、その周りを飛び回っている妖精が大天使マリベルを現しています」


 それにしても、皆マリベルとサタノスとかいう大天使と大悪魔を描いているな。なんだ。この世界の天使と悪魔ってマリベルとサタノスのことだったのか。どこかで聞いたことあると思ったら、メリッサの授業で出てきたような気がするぞ。もしかして、俺の絵は根本から間違っていたというのか。


「……上手いわね」

「……新しい解釈をして奇を狙ったつもりですか」

「いえ、創世記≪序≫という物語が好きで、シリーズを全て読んでるんですよ。そこに書かれた描写や性格を読み取ったら、こんな感じなのかなって。でも挿絵とかないから、やっぱり皆さんが描いたものもマリベルとサタノスだといえると思います。じゃあ最後はグリフィス君、君の番です」


 うう、この3人の後に俺の絵を出したくはない。クオリティーが違いすぎる。前世で見たことある漫画のキャラとか描いちゃってるし、絵のタッチが3人のそれと全然違う。びりびりに破りたい衝動に駆られてしまうが、そうもいってられない。


「ちょっと待ってください。全部描いていないので、サッと描き上げます」

「完成してない部分はイメージを説明するだけでいいわよ」

「天使がまだ描けていないので、イメージだけ描きます。すぐに終わるんで」


 俺は、火、水、風、地のイメージ図だけ書いて皆に見せた。


「えっ?!」

「これは!!」

「うん?!」

 ミルラン君、フローリアさん、オスカーさんの三人は驚きの声をあげた。














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