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第60話 疑惑

 10日後、一番試験日程の早いダリオ工房に俺は足を運んだ。

 工房の玄関扉の前には机が置いてあり、受付らしき人がそこの椅子に座っていた。


「試験を受けに来たんですけど」

「……銀貨5枚必要だけど…」


 俺は鞄から銀貨5枚を取り出して、受付の人に手渡す。受付の人は少し驚いた顔をする。


「……それじゃあ、扉の向こうで試験が始まるまで待っていて」


 俺は案内されるままに、玄関扉をくぐって中へと足を踏み入れた。

 そこにはすでに10名の受験者と思われる人たちが椅子に座っていた。大きめの机1つに対して2人が並んで座っていたので10名いるのが一目で分かった。机は3つずつ3列になっていて、合計9個の机と18個の椅子が置いてあった。全員を見渡せるように俺は一番後ろの真ん中の席に座ろうとすると、「こちらの席に座ってください」と監督官らしき人に注意を受けた。


 どうやら到着順で詰めて座っているようである。もしかすると、もうこの時点で試験は始まっているのかもしれない。そう思って、順番的に一番最初に来たであろう左の最前列の人を見ると、そこにはイノセントが座っていた。俺の視線に気づいて、イノセントは軽い会釈をしたので、俺も会釈を返す。

 他の受験者を見ると、皆体格的にも15歳から20歳くらいの人たちばかりで俺ほど若い人はいないような感じがする。まあ、俺の我儘ボディは俺の年齢を10歳くらいに見せているので、大丈夫だろう。

 少しすると、俺の次に来た受験者が俺の隣に座った。見て驚いたのは女性であったことである。俺の前に来ていたのは全員男性だったので、この工房は男性しか働けないと勝手に思い込んでいたからである。

 今も試験が始まっているかもしれないのと、誰一人話している人がいないので、遠慮して声をかけるのは控えておいた。

 その後さらに男性4名が工房に入って来たところで、監督官らしき人が口を開いた。


「今日はダリオ工房の試験を受けにきていただいてありがとうございます。これから、この中の何名か、あるいは全員が私達と一緒に働く同志となります。私達の工房に必要な資質の有無を今日の試験で見極めたいと思います。そこで、今回の試験は4人で一枚の絵を完成させてもらいます。制限時間は今から日暮れまでの8時間になります。そして与えられるテーマは『神と悪魔』です。メンバーはこの封筒の中に書かれた番号と同じもので集まってもらいます」


 監督官が封筒を一人一人に配っていく。


「それでは開けてください」


 俺の封筒の中には3番と書かれた紙が入っていた。


「1番の紙が入っていた人はこちらに、2番の紙が入っていた人はこちらに……」


 俺は指定の場所へと移動すると、3番と書かれた紙を持った人達が集まった。そこには画材道具が用意されており、1枚の大きな紙が置かれていた。


「それでは試験を開始しま………」

「ちょっと待った!! ランダムで組まされたメンバーでやるなんて不公平じゃないか?そっちの3番のメンバーなんて、見るからにガキが一人混じっているじゃないか。お前らは試験だというのに、嫌じゃないのか?」


 1番のメンバーの赤髪の青年が試験開始に待ったをかけた。それだけじゃなく、3番のメンバーにも同意を求めようとしている。それを聞いた俺以外の3番のメンバー達はお互いに顔を見合わせて、気まずそうにしている。


「……審査は公正に行われる。決められたグループで最善の作品を作り出すことを我々は期待している。これ以上のことは君たちに教えることはできない。自分たちで考えていい作品を作りあげてくれ。では試験開始っ!!」


 赤い髪の青年は舌打ちをしてまだ納得かいってない様子であったが、試験官は試験の開始を告げた。


「やれやれ、彼はこの試験の本質を見抜いてないようですね」


 同じ3番のメンバーの一人が、かけてる眼鏡をなおしながら小さい声で呟いた。


「この試験の本質?」


 俺も小さい声で尋ねる。


「そうですね。絵の出来も、勿論必要な要素でしょうが、その作成過程も試験の要素になっているんじゃないでしょうかね。ダリオ工房での仕事内容を考えれば、周りとの和を乱すようなものは、いかに個の能力が高くても必要としないとか、そんな考えがあるんじゃないでしょうか。あの赤髪の青年は早くも脱落候補というわけです。そう考えると、ランダムに渡された紙も実際は違うという事も考えられますね」

「ランダムじゃない? 適当に封筒を渡しているように思えましたけど?」


 もう一人のメンバーも会話に参加する。この中では俺の次に年齢が低そうである。前世であれば高校生くらいであろうか。


「ランダムには違いないとは思いますが、グループに一人試験官側の人間を混ぜているなんてことは考えられませんかね?」


 そう言いながら意味ありげな視線を俺の方に向ける。俺を疑っているのか。面白そうな推理をしていたが、全然当たってないようだな。


「いや、僕は違いますよ」

「まぁ、そうであっても、そう言うしかないですよね」


 めちゃくちゃ疑ってくるな。


「いやいや、本当に違いますから」

「そんな事は、どっちでもいいわ。早く作品を完成させましょう。まずはお互い何ができるのか、自己紹介から始めましょう」


 最後のメンバーの一人である女性が俺達のやり取りを遮った。

 

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