第5話 魔法の才能?
俺は一人で部屋にいる時に、どうにか【ライト】ができないか試行錯誤していた。
「【あいお】!!【あいお!!】」
発音の練習をするがやはりこちらの言葉の発音はまだ完璧ではないようである。しかし、こんなところで諦める俺ではない。あの楽園を楽しむことができる時間はほんの僅かしか残っていないのである。そう、俺が赤ちゃんと呼ばれる状態でしか潜り込めないし、許されないのである。
俺の執念がなしたのか、はたまた俺の祈りが通じたのか……
俺は心の中であたりを照らす光を想像しながら強く念じてみた。心の中でなら言葉にすることができるのである。
『【ライト】!!』
そう念じると俺の人差し指から、眩いばかりの光が生じた。その光は凄まじく、不意を突かれた俺は目に深刻なダメージを負った。
「えあ~、ううう、えあ~」
俺はム〇カ大佐ばりの悲鳴を上げた。
「どうしました?」
俺の声に気付いたメイドのマーレが部屋に入ってくる。
「えあ~、えあ~」
「ジークフリート様。おしっこですか~?」
全然ちげーよ。目だよ。目を傷めたんだよ。マーレはそういうところ、あるよね。俺は首を振って、再度ムス〇大佐ばりに目の痛みを訴えた。
「えあ~、えあ~」
「何です? ご飯ですか? でもさっき食べたばかりですよね? ジークフリート様は食いしん坊ですね」
何でだよ。俺が今までご飯をねだったことがあるか? マーレよ。メイド失格ですよ。俺が苦しみを訴えていると兄のヨハンが部屋に入って来た。
「どうしたんだい?」
「あっ、ヨハネス様!! ジークフリート様がご飯をねだられて……」
ちげーよ!!
「えあ~、えあ~」
俺は目の痛みを訴える。お兄様は俺の顔を見ると、俺の顔の前に手をかざした。
「وأنا على ضوء الروح قبل أن تلتئم 【聖なる癒し】」
お兄様が俺に手をかざしながら何かを呟くと、俺の体はぽかぽかと温まり、目の痛みがひいていく。
「ヨハネス様? 【聖なる癒し】なんて魔法をどうして?」
どうやらお兄様は俺の訴えを感じ取って、魔法を使って目を治してくれたらしい。流石はお兄様です。駄メイドのマーレとは全然違います。
「ジークが苦しんでいるように見えたからね」
「本当ですか? それにしても、その御歳で【聖なる癒し】が使えるなんてヨハネス様は本当に凄いですね。確か上級神官クラス以上しか使えないって聞いたことがありますよ。それに、その魔法で治療をお願いするには金貨一枚は必要って聞いたことがありますよ」
金貨一枚!! だいたい前世の価値でいうところの100万円くらいじゃないですか。そんな高価な魔法を使ってくれたのか。
どうやらお兄様の魔法技術は凄いようだな。気軽にそんな魔法を使ってくれるなんて、なんて優しいお兄様だ。
……でもですよ。魔法も遺伝が関係しているのであれば、俺の魔法技術も期待が持てるという事ではないだろうか。
何せ、念じるだけで【ライト】の魔法を発動できたのだから。詠唱せずに魔法を発動するなど、どう考えてもチート。何でできるのかは不明だが、そんな事はどうでもいい事だ。詠唱せずにできるのは面倒臭くなくていい。そんな事ができるというのは俺にもお兄様と同じ優秀な血が流れているという何よりの証拠である。今からワクワクが止まらないな。俺が妄想の世界へと旅立っても2人の会話は続いていた。
「ジークに何かあったら大変だからね。ジークの健康はお金には代えられないよ。それに魔法は使ってこそ上手くなるからね。こういうのは平時ならどんどん使っていった方がいいんだ」
「素晴らしい考えですね。ヨハネス様に愛されているジークフリート様が羨ましいです」
本当に流石ですよ。お兄様。お兄様の愛は確かに受け取りましたよ。
「マーレも、もし怪我等したら言うといいよ。僕が治してあげるよ」
「そ、そんな。恐れ多いですよ。ちょっとした怪我なら、薬草を塗っておいたら治りますから。ヨハネス様のお手を煩わすなんて」
マーレは必死に手を顔の前でぱたぱたさせて遠慮する。
「さっきも言ったけど、魔法を使うのは僕の訓練にもなるからね。何かあったら、気にせずに言ってよ」
「ありがとうございます。じゃあ、何かあったらその時はお願いします」
「ああ」
う~ん。本当に9歳かと思うような対応力である。
それに見た目も9歳のそれには全く見えない。マーレの身長が小さいのもあるが、お兄様の身長はマーレとほとんど変わらないから、15歳のマーレと同い年のようにも見えてしまう。
もう少し大きくなったらお兄様はどうなってしまわれるのか。将来が末恐ろしい限りである。
そこで俺ははっと重要な事実に再度気付いてしまう。
俺とお兄様は血のつながった兄弟なのだ。
俺もお兄様のような容姿が手に入るという事ではないだろうか。これはモテる予感しかしないですな。
俺はマーレの手の中からゆりかごに戻され、再びすやすやと眠りについた。希望に満ちた将来を考えると自然と寝顔は安らかな笑みに満ち溢れていた。