第49話 阿鼻叫喚
「それで、どちらが先に数字を言うんだ?」
「先に言っていいですよ」
「そうか、それじゃあ、う~ん、1735にしよう。どうだ?」
「1ヒット2ブロウです。1つが位置もあってて、2つは数字が合ってますが、位置が違いますね」
「ふふ、どうだ。3つも当てたぞ」
まぐれだろうが、赤髪のクインは、なかなかするどい勘を発揮する。しかし難しいのはこれからである。
「クインさんの好きな4桁の数字は何ですか?」
「な、なんだいきなり?」
「数字を当てる参考にしようと思いまして、嘘をついてもいいですよ」
「……9304だ」
「じゃあ、クインさんを信じて4093にします。どうですか?」
「ふふふ、ひっかかったな。0ヒット0ブロウだ。これはもう私の圧勝だな」
「そうですか」
クインさんは気付いてないかもしれないが9304すべての数字を除外できたのはかなり大きい情報である。
「じゃあ、次は私だな。3つ合ってるからな。7152でどうだ」
1、5、7の数字に当たりをつけているみたいだな。
「0ヒット2ブロウですね」
「な?!! いや、1つ減ったという事は3は正しかったということか。……なるほど、こうやって数字を確定させていくわけか」
「それじゃあ、次は僕ですね。1725です。どうですか?」
俺はクインさんが2度目にコールした順番違いをコールする。2回目は油断して、自分の番号と近いものを言ってしまっている可能性がある。1,5、7の数字にこだわっているのもの何か怪しい。
「………3ブロウだ。くそっ。じゃあ、私は………3は確定しているから……それで、それで、3170だ!!」
数字上追いつかれて、クインさんは悔しそうである。1、7にこだわってる感じがする。
「2ブロウです」
「くそっ!! 全然あたらねぇ」
「じゃあ、次は7195で」
「2ヒットだ………9はさっき違うと分かったやつじゃないか。ははは、ミスをしたようだな、次は当てるぞ」
俺があえて9を入れたことに気付いていないようである。1と7の位置を入れ替えて、5をそのままにして、3ブロウから2ヒットになったという事は、7と1が確定で外した2が最後で確定する。5が合ってるなら2ヒット1ブロウになっていないといけないからな。そして、残った3つ目の数字は6か、8である事が確定する。これであと2回以内に正解に導かれる。対してクインさんは最初からほとんど進展していない。
「……最初の1735のうち3と他2つが合ってる。それで他の結果を考えれば……3785だ。どうだ?当たりだろう?」
「1ヒット2ブロウです」
「くそぅ。全然進まないぞ。最初が一番良かったじゃないか。嘘ついてるんじゃないだろうな?」
なんて失敬な。俺はリーズさんに確認してもらう。
「た、確かに合ってます。ジークフリート様は嘘をついてません。頑張ってくださいクイン」
応援しているところ申し訳ないが、1/2の確率で次で終わってしまうのだ。
「じゃあ僕は7182で」
「?!! ………あ、当たりだ」
どうやら1/2の当たりをひいたようだ。クインさんは運にも見放されてしまったみたいだ。
「最初に3つも当てられた時は焦りましたけど、勝てて良かったですよ。どうです?案外難しいでしょう?」
「く、くそっ!! ま、まぁいい。サ、サツマイモぐらいなら私のお小遣いでも買えるからな」
「そうですか。これは特別なサツマイモだったんですがね。エルフ族の【キングオブイモ】の称号を持つ方が認めた、それはそれはこの世のものとは思えない珠玉の一品だったんですが」
「なっ!! なんだと!」
まるで未確認生物UMAを発見したかのような反応をするクインさん。エルフ族の【キングオブイモ】の称号は伊達じゃないようだ。
「あ、あの【キングオブイモ】の称号を持つエルフと知り合いなんですか?」
青髪のリーズさんも驚いて俺に尋ねてくる。
「そうですね」
「す、すごいです。幻の土魔法使いとして有名な【キングオブイモ】のエルフと知り合いだなんて」
何だろう。凄そうなのに、聞けば聞くほど全然羨ましくない2つ名である。むしろこうして語り継がれているなんて、ラズエルデ先生に同情しか湧いてこない。絶対エルフ族の陰謀でいじめられているだろう。ド田舎もののエルフという印象しか湧いてこない。この2つ名を絶対に受け継がないことを心に決めた瞬間である。
「まあね。じゃあ次はリーズさんです」
「み、見た感じ、負けそうな気しかしませんけど……」
「勝負は時の運だからね。このゲームは運の要素もあるし、やってみないと分からないですよ」
「わ、分かりました。【キングオブイモ】の認めたサツマイモ、その味興味があります」
俺たちは交互に数字を言い合い8ターン目にしてリーズさんが俺の番号を言い当てた。
「や、やった。か、勝ちました」
リーズさんは飛び跳ねて喜んだ。
「おい、私の時より数字を当てるのに回数が多くないか?」
「いやいや、こんなものですよ。クインさんは読みやすかっただけです」
「なっ!!」
リーズさんの好感度をあげようと手加減したなんてことはないよ。いや、ほんとに。ちょっと考えるのに疲れたから何も考えずに数字のコールを何回かしちゃったかもしれないが、これは手加減ではない。いや、本当に。
「そろそろ焼けたみたいですし。早速食べてみましょう」
俺はエドガエル君とリーズさんに一つずつ渡す。
俺は皮をむいて一口食べる。
「甘い!!これだよ、これ!!疲れた頭にしみる~」
「こ、これは………こんな甘くてとろけるサツマイモは食べたことありません。何もかけてないのに、ハチミツをかけたくらい甘いです。うぅぅ~、【キングオブイモ】に認められたサツマイモが食べられるなんて、今回、護衛任務について良かったですぅ~」
リーズさんは喜びながら食べる。
エドガエル君も目を輝かせて、サツマイモを食べる。
「お、おい、リーズ、そ、そんなにか? ゴクリ、ちょっと一口食べさせてくれないか」
「…………」
「お、おい、無視するな。リーズ」
「す、すいません。あまりの美味しさに聞こえてませんでした」
「そう言いながら食べる手が止まってないぞ。リーズ! おい、一口でいいんだ。お、おい……あ、あああ~」
「す、すいません。一口サイズでちぎって渡そうと思うんですけど、私の中にいるもう一人の私が囁いてくるんですよ。クインは一口では終わらないから、やめておけって言う声が……あああ、止まりません」
「ああああああ」
「ああああああ」
片やサツマイモを食べながら叫ぶ青髪のリーズ、片やそれを見て絶叫する赤髪のクイン。休憩場所では2人の阿鼻叫喚がこだました。
そこまで絶叫するなんて、なんだか気の毒な気分になってしまう。
「分かりました。これを差し上げます」
「な、何。いいのか? そんなこと言っておいて、やっぱりやめたとか言わないのか?」
「いや、そんな鬼畜なことはしませんよ。ちょっとゲームを盛り上げようと思っただけなんで、どうぞ」
「うっ、王族は意地が悪いやつが多いと思ってたけど、そんなことはないんだな」
「そ、そんなことありません!!」
赤髪のクインさんが王族のネガティブなイメージを言うと、何故か青髪のリーズさんが即座に否定する。ここは俺も王族の否定的なイメージを払拭するのを手伝っておこう。未来の王族の守護者候補生でもあるわけだしな。サツマイモで肯定的なイメージに変わるなら安いものだ。第一プランである、サツマイモなしでは生きられない体になってもらうしかない。
俺が手渡した焼き芋の皮をむいて、口の中に入れる。
「ほわぁああああ、う、美味すぎるぅ………」
クインさんは、口数少なく一気に焼き芋を平らげる。
食べ終わった頃に、クルトさんとピョートルさんがやって来た。
「そろそろ見張りの交替の時間だ。クイン、リーズ」
クルトさんが交替を告げた。
「それにしても随分と騒がしかったようだけど、何かあったのかい?」
ピョートルさんが俺達に尋ねる。
「ああ、こちらの焼き芋に2人が感動していたんですよ」
「これは?」
「お昼ご飯が物足りなかったので、持って来ていたサツマイモを焼いたんですよ。これはクルトさんとピョートルさんの分です」
「なっ?!!」
赤髪のクインさんが目を見開く。
「…悪いな」
「ジークフリート様はそんな食べ物まで持ってきていたんですね。有難くいただきます。そんな驚いた顔をしてどうしたんだい? クイン」
「い、いや。な、何でもない」
多分ゲームに勝利もせずに無条件でもらったことに納得がいかなかったのだろう。
「…旨いな」
「ホントだ。凄く甘い。今まで食べた事のない美味しさですね。これをどこで?」
「家の庭で僕が育ててまして」
ピョートルさんに入手場所を聞かれたので素直に答えた。
「ジークフリート様が? みずから?」
「……」
「この【キングオブイモ】に認められたサツマイモを?!」
「な、なんだと!! こんな上手いサツマイモを育てることができるとは、て、天才か!! イモ王子なんて陳腐なあだ名で呼ぼうとした過去の私を叱りたい」
「いえいえ」
分かってくれればいいんですよ。
「これからはイモ神様とお呼びすればいいだろうか?」
………断固拒否である。




