第48話 ○○王子
向かう村は王都から馬車で5時間ほどかかるトスカン湖のほとりにあるペンネ村というところである。出発した時間が9時過ぎくらいだったので、途中で昼休憩を挟むらしい。他の同期の6人はそれぞれペアで違う場所へと向かっているので、ペンネ村へは俺達の馬車だけが向かっている。
王都からこんなにも離れた場所に行くのは初めてなので、俺は馬車の中から外の風景を眺める。エドガエル君も同じように、横並びで外を見ている。王都から伸びる街道には王都へ向かう馬車と度々すれ違う。
中には、こちらに手を振ってくる子供が馬車に乗っていることもあった。俺達はそれに応えて手を振り返す。
1時間ほど、そんなことをしていたが、代わり映えのしない風景にだんだんと飽きてきたので、俺は窓から離れて座る。同じタイミングでエドガエル君も向かい側の席に座った。
『到着まで、まだまだ時間があるね。何かしようか?』
『うん。何をする?』
『数字当てゲームをしよう』
『数字当てゲーム?』
俺は車内でもできるお手軽ゲームを提案した。数字当てゲームはルールも簡単だし、時間もそこそこ潰せるだろう。俺はエドガエル君にルールを説明した。
ちなみに俺はラズエルデ先生の指導のおかげか、子供の脳は物覚えがいいのか、日常会話程度のエルフ語をマスターしつつあった。
『ここの上に4桁の数字を書いて、お互いに相手の書いた数字を交互に予想して言っていくんだ。そして、先に当てた方が勝ち。それで、相手が予測した数字が位置も数字もあっている場合は『ヒット』、位置は間違っているが数字が合っている場合は『ブロー』と言うんだ』
俺は実際に実演をして見せると、エドガエル君は『わかった。やってみよう』と目を輝かせて、やる気になった。
『先行はエドガエル君からでいいよ』
『わかった。じゃあ7391』
『1ヒット1ブロウだね。1つの数字が位置も一緒で、もう1つの数字は合ってるけど位置が違うね。メモを取りながらしていくといいよ』
一応初回なので、説明をいれながら進行していく。
『わかった』
俺が渡したペンで、メモを取る。それを見た後で俺も番号をコールする。
『じゃあ、俺は8420だ』
相手が予測しなかった番号を使って作った数をコールする。あえて、自分の数字を避けて言ってしまった可能性があるからである。
『……3ブロウだよ』
3つも当てられて、少し悔しそうである。しかし、ここからが難しかったりするのだ。
俺達は交互に数字をいい合いながら、6ターン目に俺が勝利をおさめる。
『負けちゃった……3と5の位置を入れ替えればよかったのに……』
あと1ターンで俺が負けていたくらいの接戦であった。
『もう一回する?』
『うん!! する!!』
エドガエル君は数字あてゲームを気に入ってくれたようである。要領を掴んだエドガエル君とその後、10回以上数字あてをしていると馬車の動きが次第に遅くなり停止した。その後の勝敗は少し俺の方が勝率が良かったが、何度かエドガエル君も勝利して喜んでいた。
「お昼休憩ですよ。ジークフリート様、エドガエル君」
優男のピョートルさんが馬車の扉を開ける。その後ろには赤髪のクインさんと青髪のリーズさんもいる。
「あっ、もう着いたんですか?」
「目的地じゃなくて、半分くらいの道程を来たから、ここで昼休憩なんですよ。それにしても……これは?」
ピョートルさんは俺の席の横にあった数字あてゲームに使った紙の残骸を拾いあげる。
「2人は馬車の中で勉強をしていたんですか?」
ピョートルさんは紙に書かれた数字を見て、俺たちが計算の勉強をしていると思ったのだろう。
「この数字の羅列は何だ? 計算にしては………う~ん、分からん。何か意味があるのか? うぉ、そこら中に散らばってやがる。気味が悪いな」
後ろから紙に書かれた数字を覗き見た赤髪のクインさんは右手で髪の毛を掻きむしった後、数字の書かれた紙を他にも発見して俺達のことを頭がいかれているかのような目でみる。
「も、もしかして王族が使う秘密の暗号ってやつじゃあないですか??」
青髪のリーズさんは興味に満ち溢れた表情をしている。
「これはですね………時空と空間の相互作用がx軸とy軸とz軸の3方向にどのように働き、そこから生み出される熱輻射が黒体から放出される電磁波のエネルギーと温度の関係を表すシュテファン=ボルツマンの法則と磁場を計算するためのピオ=サバールの法則がどのように関わってくるかを……」
俺の説明を聞いている3人の頭の上にクエスチョンマークが浮かんで見えるかのようである。
「ちょっと、ちょっと何言ってるか全然分かりませんよ」
ピョートルさんは俺の話を手で制止する。
「………」
赤髪のクインさんは呆然としている。ポカンとして、たぶん何も考えていない顔である。
青髪のリーズさんは必死に理解しようとしいるが、全く理解不能といった顔である。
俺も適当に話をしているので、自分でも何を言っているのか分からないので理解できないで当然である。
「つまり、暇つぶしの簡単なゲームってやつです」
「………ん? つまり、どういう事だい」
俺のギャグが全然通じていないようである。ハイセンス過ぎてまだまだこの世界には早かったようだな。
「さっきのは全部嘘です。これは相手の数字を当てるゲームをしてたんですよ」
「………か、からかったのか!!私達を!!」
赤髪のクインさんは憤慨する。クインさんは、からかわれるのが嫌いなのかもしれない。
「いや、まあ、ギャグですよ。ギャグ」
「そ、そうなんですね。言っている事が未知すぎてびっくりしました。よくあんなに口が周りますね。ある意味、凄いです」
青髪のリーズさんは俺を持ち上げてくれる。やはり俺への好感度は高いようだな。
「そう怒るなよ。クイン。それで、どうやって遊ぶんだい。数字あてゲームなんて聞いたことがないんだけど。ちょっと興味があるな」
ピョートルさんは数字あてゲームに興味をもったようである。
俺は数字あてゲームについて説明する。
「なんだ。簡単な子供の遊びじゃないか。私にも簡単にできるじゃないか」
赤髪のクインさんは数字あてゲームのルールを聞いて嬉しそうである。
「このゲームは誰が考えたんだい? こんなゲームは聞いたことがないんだけど」
ピョートルさんが俺に尋ねた。前世であったゲームなんだけど、誰が考えたかは知らない。
「ちょっと思いついたんで」
「ジークフリート様が?」
「こ、これは結構奥深いゲームなんじゃあないですか。もしかすると」
ピョートルは驚き、リーズはこのゲームの難解さを理解していた。
「ただ数字を当てるだけのゲームだろ。私達も交替で休憩だから、ご飯を食べながら、1つ勝負といこうじゃないか。先輩の賢さってものを教えてやらんとな」
赤髪のクインさんは提案する。
「いいですよ。僕に勝てたら賞品を差し上げましょう」
「ほう。私の野性の勘をなめるなよ」
勘でやろうとしている時点で負けることはないだろう。
「おい!! 喋ってないで休憩の準備を早くするぞ」
強面のクルトさんが俺達の方にやってきたので、3人は薪を集めて火をおこした。火はリーズが魔法で簡単に着火していた。周りには座りやすい石を4つほど置いた。
クルトさんとピョートルさんの2人は護衛として周りを警戒して、俺達とクインさんとリーズさんは休憩をとるようである。監督官の大人2人は少し離れたところで俺達を監視している。
「それじゃあ昼御飯はこのパンと干し肉になります。この火で焼いて食べてもいいですよ」
ピョートルは護衛の位置に着く前に干し肉とパンを全員に渡す。王族の俺にとっては、この食事は我慢できるクオリティではない。しかし、1日だけだし、文句を言わずに食べることにする。パンは少し硬い上に、干し肉もあまり美味しいとは言えなかった。俺は鞄に手を入れて、サツマイモを闇空間から取り出す。
「これを焼いてもいいですか?」
「おいおい、鞄の中にサツマイモを入れてたのか。どれだけ食いしん坊なんだよ」
一緒に休憩をとっている赤髪のクインさんは俺が鞄からサツマイモを取り出したことに驚いている。
「いいですよ。落ち葉を集めて火をつけた方がいいかもですね」
立ち上がって落ち葉を集めようとしてくれる。
「あっ、僕が集めますよ」
「いえ、ジークフリート様は護衛対象ですし、私が集めますよ」
「僕が風魔法で集めた方が早いですし。任せてください」
「えっ? 風魔法を使えるんですか?」
「はい。任せてください」
リーズさんの好感度を限界突破しておいた方がいいだろう。落ち葉を集めるのをイメージして風魔法を発動すると、くるくると地面に落ちている落ち葉が周りだして俺の前に集まりだす。
「す、すごい精度です。そ、それに無詠唱で……」
「ほぉー、威力はないが大したものだ。私は魔法が使えないからな」
「い、いや、これだけ優しい風を操るのは逆に難しいって聞いた気が……」
「そうなのか? それよりも、さっきの数字あてゲームをしようじゃないか。私の知性を王族に分からせないとな」
王族に馬鹿にされたことでもあるんだろうか。何かの因縁を感じる。しかし、俺には関係ないだろう。
「わかりました。やりましょう。賞品はこのサツマイモにしましょう」
そう言って、俺は鞄に手を入れてサツマイモをさらに5つ取り出す。エドガエル君の分と、護衛4人分である。
「おいおい、どれだけサツマイモを入れてきてんだよ。もしかして、その鞄の荷物全部サツマイモなんじゃあないだろうな? イモが好きな王族って、もうジークフリート様の事をイモ王子って呼んでもいいか?」
な、なんて失礼なあだ名をつけようとしてくれてるんだ。
赤髪のクインさんには、イモがないと生きていけない体にしてやるしかない。いや、闇のサツマイモを食わせて女性の尊厳を奪うのもいいかもしれない。
俺は心の中でほくそ笑んだ………




