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第44話 スイートポテト

 サツマイモを使った料理と言えば、スイートポテトこそ王道。俺は数日後美味すぎるサツマイモを使ってスイートポテトを作ることにした。というのも、光の妖精リンネが甘いサツマイモができたのは自分の光の魔力のおかげだと主張して出現し、サツマイモを使ったスイーツを所望したからである。

「まずこの茹でたサツマイモにバターを加えて、よく混ぜる。そこに砂糖を加えて、生クリームを加える」

「な、生クリームですって。サツマイモ自体も甘いというのに、そこにさらに甘味を加えるなんて、これはまさしく暴力的な甘味の波状攻撃!! こ、これは期待できそうだわ。早速いただくわ!!」

「待て!!」

 俺はリンネが食べようとするのを制する。

「な、何するのよ!! ここまで来て、私に食べさせないなんて、なんて意地悪をするの!! あんたは鬼よ!! いや、悪魔よ!! 私があなたを滅するしかないようね。【シャイニング……」

「これはまだ完成ではないんだ」

「な、な、何ですって、これでまだ完成じゃないですって?! 見るからに美味しそうじゃない、じゅるり」

 確かにこのままでも食べる事ができるが、ここから卵黄を塗って焼くという最後の工程が残っているのだ。 

「ここから焼くという工程を経て、これは完成するんだ。そうする事によって外はパリッと、中は滑らかな食感を味わう事ができるんだ」

「そ、そういう事なら………でも、でも、指の先っぽだけなら。ちょっとだけ、ちょっとだけ、味見をば!!」

「仕方ない先っぽだけだぞ!!」俺は少し指先につけてリンネに差し出す。「ほらよっ!!」

 指先に降り立ち、指先についた未完成のスイートポテトを食べる。

「はわ~~~これは幸せだわ~~これで完成といってもいいと言うのに、このさらに向こう側があるなんて!!私も覚悟を決めたわ!! 【甘味の向こう側】を目指すために、全てたべてしまいたいけど、ここはグッとこらえて我慢するわ!!」

 恍惚の表情をしているリンネは放っておいて、大量の手のひらサイズになったスイートポテトをオーブンのような窯の中に入れて焼いていく。

「は~、すごい香りの暴力風が私を襲ってくるわ~!! でも全然嫌じゃない!! むしろ心地のいい熱風だわ!!」

 たしかにリンネの言う通り、サツマイモの甘い芳醇な香りが猛烈に漂っている。

「あれっ!! あれれ~!! おかしいです~!! 何か凄い、いい香りがします~!!」

 香りに呼び寄せられたメイドのマーレが厨房に現れた。注射器で誰かを眠らせそうな、すっとぼけた態度で近づいて来る。明らかに美味しい物を作っていることを確信している顔である。

『ちょっと、ちょっと、私の取り分が減るじゃないのよ!!』

『いや今回は皆に食べてもらえるように大量に作ってるから大丈夫だ。それにリンネが食べられないのもあるしな』

『そうだったわ!!忌々しい闇の魔力で育てたやつがあるんだったわ!! 全部光魔法で育てればよかったのに………』

 実は、光、風、闇で育てたサツマイモの味はそれぞれちょっとした違いが表れていたのである。ベースとなるサツマイモの味は一緒なのだが、光魔法は甘味成分が増し、風魔法で育てたものはミントアイスを練りこんだような爽やかな甘味になり、闇魔法に至っては少しスパイシーな辛味成分が増していたのである。

 焼き芋の段階でリンネは闇魔法のものを口に入れて吐き出していたのである。

『まあ、闇魔法のものは全てこのメイドに食べてもらえばいいわね』

『いや、闇魔法の味が好きって人も結構いるから全部食べてもらうなんて事はしないぞ』

 スパイシーと言っても、大人の舌にはこちらの方が好きって言う人は多いんじゃないだろうか。

 そんなことを心の声でやり取りしていると、マーレがおずおずと申し出た。

 「少し私も頂いてもいいでしょうか?」

 「もちろんいいよ。いっぱい作ったからね」

 「はわわわ~。ジーク様が神様のように見えます~。何て心優しいお方なんでしょうか~。こんな方が王族だなんて、この国は安泰ですねっ!!裏切らずに、一生ついていきます~!!」

 こんな事で国が安泰になるわけがない。いつもはあまり敬う感じではないが、こんな時だけ調子がいいメイドである。

 俺は頃合いを見計らって窯からスイートポテトを取り出しながら、闇魔法にいくつかを収納していく。

『ちょっと、ちょっとそんなところに収納したらあの悪魔に取られちゃうじゃないのっ!! 早く出しなさい!!』

『いや大丈夫だ。それに、まだまだたくさんあるから。足りなければ、追加で作ってやるよ』

『その言葉、本当ね!!』

『ほら、ひとまず、この辺に置いておくから、食べておいてくれ。ここならマーレの死角になってるから、減っていっても気付かれないだろう』

 俺が光魔法を練りこんだスイートポテトを置くと、リンネはそれにがっついた。

『あつっ、あつっ、でも、旨、甘、幸せだわ~』

 意識がどこかへと飛んでいるかのような表情をしながら、一心不乱にかぶりついている。

「じゃあ、この3種類を食べ比べてみてくれ」

 マーレには、光、風、闇の魔力を練りこんだスイートポテトを渡した。

「この3つは味が違うんですか?」

「そうだな。是非感想を聞かせてくれ。次からの参考にしたいからな」

「それは重要ですね。お任せください。見事な食レポをして見せます」

 マーレは光のスイートポテトを最初に食べる。

「はわわ~………意識が飛びそうになりましたよっ!!焼きイモでも美味しかったのに、さらにその上があるなんて、ジークフリート様は天才だったんですね。このクリーミーな甘さ、そして滑らかな舌触り、最初に口に含んだ時の香ばしい香り、全てが私の想像の遥か上ですぅ」

 やはり、光の魔力を練りこんだものは甘さが引き立っているようである。

 続いて風のスイートポテトを口にする。

「こ、これは………なんと表現していいのか、私のボキャブラリーでは表現しきれないですけど、別の甘さというか、爽やかな味です。この鼻を抜ける爽快な香り。ハーブを練りこんでいるんですか? 薬のような感じもするけど、全然嫌じゃない。むしろ癖になる味ですぅ」

 ミントの味は好き嫌いがあるが、マーレには受けているようだ。

 最後は闇のスイートポテトである。さあ、どういう反応を示すのか。

「…うわっ!! 何ですかこれっ?! 甘くないです!!」

「ダメだった? 大人向けの味になると思ったんだけど。失敗したかな」

「……いえ、甘いと思っていたら辛かったのでびっくりしたんですけど……もう一口食べてみます。……スイーツではないですけど、ご飯としてなら全然ありですね。このピリリとした辛さがアクセントになって美味しいです」

 闇のサツマイモはスイーツ系じゃない使い方の方がいいかもしれないな。俺も食べてみようと手を伸ばそうとした時、プゥーという微かな音が部屋の中に響いた。

 俺はマーレの方を見る。

「わ、わ、私じゃありませんよ」

 マーレは否定する。俺はリンネの方を見る。

『私じゃないわよ。妖精はおならなんかしないものっ!! それに、そのメイドにも音が聞こえているというのが私じゃない証拠よ。私の声や音はメイドには聞こえないもの。つまり犯人はあなたか、そのメイドってことよ!!』

 なんだそのアイドルはトイレに行かないというのと同じような設定は、それにしても、俺ではないという事はマーレが犯人であるということか。気まずい静寂の中、再びプスゥ~という音がこだまする。俺はマーレの方を見る。

「わ、わたしじゃないですよ。ジ、ジークフリート様の方から聞こえてきましたよ」

 こいつ、一生裏切らないとか言ってたのに、いきなり裏切ってやがる。いや、罪を俺になすりつけようとしてやがるから余計にたちが悪い。

「そうか、こちらからか……」

「そ、そうです、そ、そちらから聞こえた気がします」

 魔法とは想像力が産み出す偉大なもの、俺には大妖精リンネがついているのだ、やってやれない事はない。イメージを膨らませるのだ。その時俺の想像力は限界を突破し、新たな魔法を創造してしまったことを確信した。光魔法【気体着色】である。周りと違う成分を色をつけて識別化する魔法である。

「おならとは何か知っているか?」

「??いえ、知りません」

「体内で生成されるガスだ。その成分は二酸化炭素、メタン、窒素、等空気と同じ成分が多い」

「何ですか? いきなり」

「俺は特定の気体に色を付ける魔法を持っている。今回はメタンに色を付けてみた」

「えっ、えっ??」

 マーレは俺の言っている事に理解が追い付いていない。

「後ろを見てみろ」

 マーレは恐る恐る後ろを振り返る。マーレの尻のあたりの先に茶色い靄が漂っている。

「………」

「そういう事だ」

 マーレはプルプルと体を震わせる。

「ジークフリート様の馬鹿ーー!! このポテトは悪魔のポテトですぅーー!! 絶対何か変なものを入れたに違いありません!!わーーーん!!こんな王族がいるなんて、もうこの王国はおしまいです~!!」

 マーレは泣いて飛び出していってしまった。

 マーレが部屋を出た後、俺は闇のスイートポテトを食べる。スパイシーな味のするポテトである。確かにスイーツと思わなければ、凄く美味しいおやつに分類されるだろう。

 全部食べ終わると、俺の尻からブフウという音が鳴った。

 この闇のスイートポテトを食べると放屁をしてしまうという効用がついてしまっているかもしれない。ファンタジー世界ならそんなこともあるのだろう。

 もしかすると、俺はとんでもない兵器を作り出してしまったのかもしれなかった………

 


 




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