第41話 薬草店
俺は風魔法でサツマイモの苗を運び、全てを植え終えた。
「畝が余っているな………」
ラズエルデ先生に貰った苗は2列分しかなかったので、作った畝の6列が無駄になってしまった。どうせなら、何か植えてみるのもいいな。
俺はいつものように光魔法を使い王都へと抜け出して、何かの苗を購入しに行くことに決めた。
昼ご飯を食べた後、少し休憩を挟んだ後に王都へとくりだしたが、どこに行けば、種や苗が売っているのか分からない。
ひとまず商店が立ち並ぶエリアへ行くと、薬草の看板を掲げた店があったので入ってみる事にした。
「おや、いらっしゃい。小さいお客さんだこと。ひょ、ひょ、ひょ」
カウンターにいる怪しげな雰囲気の漂うお婆ちゃんが俺を出迎えてくれた。
俺は店の中を見渡した。草の束や瓶に入った液体、果ては石なんかも売っている。げっ、石のくせして銀貨1枚もしやがる。この店はぼったくり店かもしれん。
「この石は何ですか?」
「それは魔石と言ってな、魔物の体内にあるものじゃ」
なるほど、これが魔石か。魔法を使う獣の体内にあると言われている石で、獣の使う魔法属性によっていろいろな種類の魔石があると習ったことがあるが、実物を見るのは初めてだ。それにしても、小石程度の大きさで銀貨1枚もするとは、今まで倒していた魔物の魔石なんかも集めておくべきだったか。
「この魔石とかって持ってきたら買い取って貰えるんですか?」
「坊主は魔石を持っておるのか? そのサイズの魔石なら銅貨1枚というところじゃな」
銅貨1枚………安いな。大体千円くらいか、それを銀貨1枚で販売しているのか。
「ギルドで売ってもそのくらいじゃぞ。坊主には分からないかもしれんが、税金等を販売側が負っているからのぅ。そのサイズの魔石はそのくらいでしか買い取れんわい」
税金か………取ってるのは、言ってしまえば俺の親ということになる。そう考えると、何も言えないな。魔物を倒して、解体して銅貨1枚か。あんまり儲からないな………
「それでどんな魔石を持っておるんじゃ?」
「いや、持ってないです。聞いてみただけなんで。今日は作物の苗か種が欲しくてここに来たんですが、置いてますか?」
「何じゃ、魔石の買い取りじゃないのかえ。種か………作物の種は、露店街に行った方がいいじゃないかのぅ。南門の近くの通りに出てる露店なんかで種や苗を扱ってる店があった気がするのぅ。今もあるかは分からんが……」
南門近くは行ったことなかったが、門の近くの通りには出店のように並んでいるので、その中にそういったものを扱う店があるのか。
「じゃあ、ここには種とかは置いてないんですか?」
「そうじゃのぅ………マンドラゴラならあるがのぅ」
マンドラゴラ!! ファンタジー植物の定番ではないか。
「見せてもらえますか?」
「高いがいいのかい?」
「大丈夫です。見せてください」
俺はポケットから金貨を取り出すとお婆さんの目の色が変わった。
「ちょ、ちょっと待っておれ」
奥の部屋へと引っ込み、戻ってきた手には大根のようなフォルムをした赤茶色の植物が握られていた。よく見ると不気味な顔が浮かんでいるようにも見える。
「これじゃ。上級ポーションの原料になるんじゃが、この部分を切って植えれば、上手く育てれば増やすことができる」
無性生殖ができるということか。育ててみるのも面白いかもしれない。
「時期的に今植えても大丈夫なんですか?」
「育て方さえ間違わなければ、マンドラゴラは年中育てることができるんじゃ。しかし、ちと育てる事が難しいがのぅ」
「そうなんですか?どうやって育てるんですか?」
「普通の作物は水をやれば育つんじゃが、マンドラゴラは魔力をやらねば育たないと言われておる。自然界ではドラゴンの死体の傍で成長したりすると言われておるからのぅ。じゃから、育てるのはかなり難しいので、普通は育てるために買っていくような人はいないんじゃ」
だから商品の棚には置いていないのか。
「ちなみにそれっていくら何ですか?」
「これは売り物ではないんじゃが、そうじゃのぅ。1本でその金貨1枚じゃのぅ」
「金貨1枚!!」
100万円もするのか。いっぱい増やせばすごく儲かるのではないだろうか。
「それってもし上手く増やせたら買い取って貰えたりするんですか?」
「ひょひょひょひょひょ、そうさねぇ、上手く増やせれば………一本銀貨30枚で買い取るねぇ」
銀貨30枚は大きな数字である。
しかし、相場が分からないので同じ商品を扱ってる店に聞いてみないと分からないが、かなり販売価格に対して買い取り価格は安い気がする。
「ちなみに上級ポーションは1本いくらで販売してるんですか?」
「あれが上級ポーションになるねぇ」
その瓶には紫色の液体が入っていた。値札には銀貨50枚と書かれている。50万円か。一本のマンドラゴラから何本の上級ポーションが作れるのか、他の材料がどれだけ必要なのか。
「上級ポーションの材料って、マンドラゴラ以外に必要なんですか?」
「そうさねぇ。必要だねぇ。でも、その辺は詳しく教えることはできないからねぇ。私達も商売だから、製法を教えたりはできないのさ」
まぁ、そうだろうな。
「ちなみに国の税金ってどのくらい払ってるんですか?」
「だいたい利益の3割が持っていかれてしまうのさ。でも、この国はまだ安い方じゃ。場所によっては5割とかとる国もあるからのぅ」
3割か………利益とかいろいろ考えるとマンドラゴラ1本あたりから5本くらいの上級ポーションが作れそうな気はするが、俺の脳の処理能力では、マンドラゴラが安いのか高いのかいまいち判断がつかない。
いちいち考えなくてもお金はあるわけだしな。俺はそこで考えるのをやめた。
「わかりました。じゃあ5本買います」
「ご、5本じゃと?! 金貨5枚じゃぞ!!」
「はい」俺はポケットから5枚の金貨を取り出す。「これでいいですか?」
俺はお婆さんに金貨5枚を手渡す。
「………確かに本物じゃ。待っておれ」お婆さんは再び奥に引っ込み、マンドラゴラを4本持って来る。そして5本を布の袋にいれた。
「袋はサービスじゃ」
「ありがとうございます」
俺は外に出ると、路地裏に入りマンドラゴラの入った袋を収納魔法で闇の空間へと収めて、南門へと向かった。
南門の通りには何件かの出店が出ており人で賑わっていた。
俺はそれらしい店を発見した。荷台には種等が入った袋や、植物の苗などが置いてある。
「おじさん。今の時期に育てることができる作物って何かある?」
「おっ、坊主。お使いか? 農業用か? それとも家庭菜園用か?」
「家庭菜園用。庭で育てようと思って。どうせなら甘い果物系か、高級なものがいいんだけど」
「う~ん、そうだなあ。高級なやつは種も高いぞ。それか、育てるのが難しかったりするのが多いがいいのか?」
「お金に関しては大丈夫。育てるのは……簡単な方がいいかな。木とか数年かかるようなもの以外でお願いします」
「う~ん、スイカやメロンはもう時期が過ぎてるし……」
スイカ、メロンはすごく食べたい
「スイカやメロンはいつ植えればいいんですか?」
「4月くらいに植えて今の時期に収穫だな、今から植えるとなると、野菜でも良ければサツマイモやトウモロコシ、人参やゴーヤあたりだな」
スイカやメロンは来年だな。ついでにどこかでメロンでも買って帰るか。となると、サツマイモはもう植えているし、ひとまずトウモロコシでもいいんだが、わざわざ育てなくてもメロンと同じで買えば済む話ではあるんだよなぁ。
「何か珍しいものはないんですかね?」
「迷宮産でも良ければ、少し値は張るがアスフォデルスの種とマレニアの種があるぞ」
「迷宮産?! 詳しく」
「これは、ここからずっと東にあるアリャンジャの迷宮の深層で採取した種だ。だから2つともそれぞれこの袋に入った種全部で金貨1枚もするんだ。2つとも迷宮でしか味わう事のできない甘味をつけるということで種自体も高価なんだ。これを食べたいがためにアリャンジャの迷宮に潜る冒険者もいるくらいだからな。でも、迷宮以外で育てようとしても、同じような味にはならないらしい。迷宮産に比べて味は劣ると言われている。育てるのに失敗することもあるらしいからな。失敗してしまったら金貨一枚捨てることになっちまう。やめておくだろう?」
「買います!!」
「そうだろう。買わない方が賢明……って、おい、買うのか? 金貨1枚だぞ」
「はい。2つとも下さい」
「2つ?! 金貨2枚いるんだぞ!! 本当に持っているのか?」
俺はポケットから金貨を取り出す。
「あと、トウモロコシと人参もお願いします」
ひとまず、畝が余っているしな。
「いや~、見るからにオーラの溢れる体つき。名のある坊ちゃんでしたか。俺の店を選んでいただきありがとうございます。こちらが商品になります。持てますか? 後日お届けしましょうか?」
露骨に態度の変わった接客になる。
「いや大丈夫です」
俺は商品を受け取って、鞄の中に入れる。
「またの来店をお待ちしています」
俺は再び路地裏に入って、収納魔法で商品だけを闇空間に収めて家路についた。ふと今日使った金額を思い返すと700万円以上を散財していることに気付いた。金銭感覚がバグってきてしまっている。腐っても王子だしね。使った金額等考えるのは庶民だけである。俺は使った金額等気にしない事に決めたのだった。
帰りにメロンがあったので購入したのだが、銭貨2枚と激安だった。銭貨1枚は100円くらいの価値なので、この世界のメロンは200円くらいということである。安すぎる。それとも俺の金銭感覚がおかしいのか………
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