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第39話 liar game

 傷が治った女性は2人の少年を探すために門番に聞いたりしたが、そんな2人はここを通っていないと一蹴される。是非お礼を言うためにもう一度会いたいと願い探し出そうとしていたが、その願いは叶わなかった。あの日見た2人は森の妖精というやつだったのだろうか、いやいや確かに実在した子供だったじゃないかという考えをいったりきたりさせていた。

 俺はというとあれから、家で引き籠り生活を送っていた。だって外は暑いからね。家の中だと魔石で動くクーラーのようなものが完備されているので、非常に快適に過ごすことができる。基本的に王族は王族の住む区画から出るには10歳くらいにならないと認められていないので、家の中にいるのが普通なのである。だから外に出ろと言うような者もいない。

 そんなわけで今日は家でラズエルデ先生の授業を受けていた。

「エルフ語の授業は今日はここまでにして、今日は土魔法について教えよう」

「えっ!! 闇魔法じゃなくて?」

 ラズエルデ先生には俺が闇魔法を使えることを知っているから、てっきり闇魔法の授業をしてくれるのかと思っていた。

「闇魔法は私は使えないからのぅ。それにヨハネスからお前に土魔法を教えるように頼まれておるのじゃ」

「お兄様が?」

「そうじゃ。この前お主の授業の進捗状況を話した時に、頼まれたんじゃ」

「何でまた土魔法なんですかね。自分は土属性の魔法ってまだ使ったことがないんですけど」

「私の得意魔法が土魔法ってのもあるが、お主が土魔法を使えると何か確信を持っておったようじゃったのぅ。信頼されておるんじゃのぅ」

「なるほど」

 お兄様は天才だからな。そのお兄様が言うなら、俺は土魔法も使えるってことなんだろう。

 それに、エルフと言えば魔法が得意なイメージがある。そんなエルフに魔法を教えてもらえるなんて、使えなくても興味がある。

「まぁ私にかかれば、土魔法なんてすぐに使えるようにしてやろう」

「ありがとうございます。ではよろしくお願いします」

「うむ。まずは【قعد】」ラズエルデ先生が手を翳して呪文を詠唱すると、手の平からいくつかの小石が生み出された。「この小石を砂に変えるのが土魔法の初歩の魔法じゃな。小石がばらばらに小さく砕かれるような感じをイメージしながら【من التربة إلى الرمل】と唱えるんじゃ。それじゃあ、やってみろ」

「わかりました」俺は小さく深呼吸をした後、小石に手を翳して【من التربة إلى الرمل】と呪文を唱える。

 しかし、小石はうんともすんとも反応はしない。俺はラズエルデ先生の方を見る。

「そんなにすぐに使えるはずがなかろう。魔法はイメージが大事なんじゃ。イメージがしっかりできていれば、適正さえあればできるようになる。諦めずに呪文を唱え続けるんじゃ」

 今まで光・闇・風の魔法は一発で成功していたので、土魔法も軽く成功させて「なにー、何故こんなにも早く成功するのじゃ!!」とラズエルデ先生を唸らせるはずだったのだが、何度呪文を唱えても一向に小石は砂にはならない。

 俺は心配になり、もう一度ラズエルデ先生の方を見る。

「大丈夫じゃ。ヨハネスも確信しておるし、土魔法最高峰の使い手である私が自ら教えておるのじゃ、使えないはずがないのじゃ。心配せずに、呪文を唱え続けるのじゃ。呪文を唱える時にしっかりイメージを忘れちゃ駄目だぞ。それじゃあ、成功したら言うのじゃ」

 ラズエルデ先生は俺の傍から離れて、部屋にある俺の机の前にある椅子に腰かけた。

 俺は小石がバラバラになって砂になる事をイメージし、呪文を唱える……

 再び、俺は小石がバラバラになって砂になる事をイメージし、呪文を唱える……

 そして、再び、俺は小石がバラバラになって砂になる事をイメージし、呪文を唱える……

 ………

 うっ、もしかして、俺には土魔法の才能がないのか? お兄様に期待されているだけに、それを認めるのは何か嫌である。それに、ラズエルデ先生は土魔法の名手っぽいので、是非授業は受けたい。土魔法が使える使えないにかかわらずである。しかし、この初級の土魔法が使えないと、才能なしと判定されて、授業もしてもらえなくなってしまうのだろうか。そんなことを考えながら集中していると、ラズエルデ先生の声が聞こえてきた。

「………なんじゃ、懐かしいのぅ。人族はあまり食べないと聞いていたんじゃが、ジークは食い意地がはっておるのぅ。王族だというのに、こんなものまで部屋に隠しておるのか。どれ私も一つ頂こうかのぅ」

 ラズエルデ先生は急に笑い出した。言ってる内容もよく分からない。俺はラズエルデ先生の方を見ると、今まさにこの前捕まえた蝉が口の中に放り込まれようとしていた。

 『あばばばばばばばばばっ!!』

 ばりばりぼりという音を立てて蝉を噛み砕いている。

「何じゃ。そんな必死な顔をして、心配せんでも一匹しか食べんわ。本当に食い意地が張ったやつじゃ」

「いや、全然、そんな、食べたいわけでは………」

「そうなのか。じゃあ、懐かしいしのぅ。もう一匹頂くとするかのぅ」

 もう一匹掴んで、口の中に放り込む。

『あばばばばばばばばばばばばばばばっ!!!』

「なんじゃ、そんな驚いた顔をしてからに!! そんなに食べたいなら、今度いっぱい取ってきてやるわい」

「いや、全然いらないです。というか、むしろ持ってきてもらっては困ります」

「何じゃ。母親に怒られでもしたのか? かかかっ、蝉は好き嫌いがあるからのぅ。人族だとなおさらじゃ」

 といいながら、その手はもう一匹の蝉を掴んでいる。

 このままでは無限ループだ。それは昆虫採集で集めている蝉だなんて今さらいいづらい。ラズエルデ先生に恥ずかしい思いをしてもらうわけにはいかないのだ。

 一刻も早くこの流れを断ち切らねばいけない。

 それにはこの目の前の小石を砂に変えなくてはならない。

 俺は教えてもらった【من التربة إلى الرمل】を唱えながら、風魔法の【3Dプリンター】を発動させる。

 2つの風の回転は目の前に転がる小石をごりごりと砂に変えていく。

 ラズエルデ先生は机の上にある蝉を吟味しているので、こちらを見てはいない。

「先生!! できました!!」

「何じゃと!!」手に持っていた蝉を箱にもどして、こちらへと近づいて来る。「見事じゃ!! これでお主にも土魔法の適正があることが分かったのじゃ!! これからみっちり土魔法の極意を教えてやるわい!! それにしてもヨハンは凄いのぅ!! お主に土魔法の適正があることを疑ってもいなかったんじゃからのぅ」

 うう、何か期待を裏切ってしまったみたいで心苦しい。しかし、あのままでは俺の標本が全て喰われてしまうところだったのだ。先生の自尊心を傷つけずに止めるにはこれが最善だったと信じたいところである。



 


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