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第35話 決戦

 今日はついに来てしまったミカエルとの決闘の日である。

 最初に行う基礎訓練が終わり、1年目の者達で行う打ち合いの稽古でミカエルと俺は対戦することになった。

「いいか。俺が勝ったら俺の言う訓練方法に従うということでいいな?」

「そうなの?」

1カ月も前の約束なのでよく覚えていない。

「そうだ。お前のような訓練をしていたのでは、俺達の代がなめられてしまうだろう。俺が勝ったら俺の言う通りに訓練してもらう」

 俺達の代という認識なのか。いつの間にか同期というくくりに入れられているみたいである。言ってることは悪いわけではないんだけど、俺としては剣術はできればサボりたい。というか王族なんだし、こんなブラックな稽古はできるだけ廃止してほしいくらいである。回復魔法で治るといっても、めちゃくちゃ痛いし。しかし、そんなことを言っても火に油を注ぎそうである。みんなが剣術稽古に熱心になると思ってもらっては困るのだがな。

「ちなみに、俺が勝ったら?」

「ふっ。あんな軟弱な稽古をしているお前に負けるわけがないだろう。万が一負ければ、お前の訓練方法を認めてやろう」

「認めるだけ? 俺は君の訓練方法を認めているんだから、別に争う必要はないんじゃない?」

「馬鹿な。この後に及んで何を言っているんだ。俺はお前の訓練方法を認められない。あんなことをしていたんでは、他から笑われてしまうぞ。だから、お前はお前の訓練方法を俺に認めさせるとこの前言っていただろう!! もう忘れたのか?!」

 そう言えばそんなことも言ってしまった気もする。

「え~。でもそれじゃあ、君が勝った時には俺は君の訓練をさせられて、俺が勝ったら君は認めるってのはちょっと公平じゃないような気がするけども」

「ええい。分かったわ。お前が勝ったら、お前の言う訓練方法を取り入れてやろう。裸でグラウンドを走れと言うなら従ってやろう。これでいいだろう。そんなことはありえんがな」

 そこまで鬼畜なことを言うつもりはないが………

「そうだね。それでいこう。それなら公平だ」

 何も痛いことをしなくても、いろいろな訓練方法があるってことを教えてあげよう。

「万が一にも負けることはありえんがな」

 ミカエルは自分の勝ちを確信しているようである。だから、そんな事が言えるのだろう。しかし、俺はこの日のために秘策を用意しているのだ。

「それでは始めるとするか」

 ミカエルは木剣を構える。俺達以外の他の同期6人は事の成り行きが気になるようで、俺達の周りで見学をしている。何せ俺達二人は王族だから、ヤジを飛ばすようなことはしてこない。ただただ様子を伺っているのだ。

「ちょっと待って。今から服を脱ぐから」

 俺は待ったをかける。ここからが俺の秘策発動である。ファンタジーな服屋で思いついた青写真を実行に移す時がきたのだ。

「服? 好きにしろ。その弛んだ体にはこの暑さはきついだろうからな」

 俺は瞬時に闇魔法の【鎧換装】を使用した。しかし見た目は先ほどと全く変わっていない。誰も衣服が変わったとは思わないだろう。

 しかし、俺の着ている服は確かに変わっているのだ。先ほどまで基礎訓練していた服と見た目は一緒だがその重さが全然違うのである。


 俺は、今身に着けたばかりの重いシャツを脱いで、地面に落とした。

 このシャツはナターシャが作った20キロはするシャツである。ズンといういかにも重そうな音を立てた。

「おい、なんだそれは。ちょっと見ていいか?」

「え、いいよ」

 俺は白々しく答える。

 ミカエルはシャツを手に持つと「なっ、なにっ?!」と驚いた表情をする。

 「どうしたんですか?」

 「そのシャツに何が?」

 ミカエルの取り巻き達は何が起きているか分かっていない。

 「お前……こ…こんなものを着てずっと基礎訓練をしていたというのか」

 「ああ……これも修行の一つだ……」

 俺はリストバンドも地面に落とす。

 当然のようにズンといういかにも重そうな音を奏でる。何なら音を出すように少し下に叩きつけて落とした。

「!!」

 ミカエルは驚いている。

 俺は畳みかけるように靴も脱ぐ。当然この靴は片足25キロもある靴だ。これを履いて動くこと等俺にはできない。

 なにしろこの靴に替わってから一歩も動いていない。

 何かに気付いたように、ミカエルは、靴を持ち上げる。しかし、そのあまりの重さに片手では持ち上げることはできずに両手で持ち上げている。

「靴も……! リストバンドもか……?」

「どうしたんです? ここに服を置いていたら邪魔ですからね。私達が持っておきましょう」

 ミカエルの取り巻きの3人ではなく、それ以外の二人が俺達に近づいてきて服を持っていこうとする。

「ありがとう。ちょっと重いから気をつけて」

 2人はそれぞれ靴と服を持ち上げようする。

「なっ?!こっ、これは!!」

「こ、これは、普通の重さじゃないです!!」

 片方の靴を重そうに両手で抱えた一人が驚いている。

「まあ、片方だけで25キロ程はあるからね」

「この服は、いったい何でできているんだ………?!」

 服を持ったもう一人も驚いている。

「ジークフリート様はこんなのを履いて基礎訓練をしていたんですか?」

「まぁ………」

あまり饒舌に語っては襤褸がでてしまうからな。口は災いの元だ。あまり喋らないほうがいいだろう。俺は口を濁した。

「ぜ、全部で100キロ以上は……あ……ある…だと」

 ミカエルは呆然としている。みるからに戦意が喪失しているように見える。

 俺の後ろの方でエドガエル君はうんうんと頷いている。彼はこの一連のやり取りを全く理解していない。彼は人族の言葉をほとんど理解していないからだ。事前にずっと頷いておいてほしい旨をエルフの言葉で伝えている。彼は今や、ただ頷くだけのマシーンになっているのだ。

「ではやろうか」

「うっ」

 ミカエルは明らかに俺にびびっている。

 勝負は試合が始まる前から始まっていたのだ。いかに相手をびびらすか。いかに自分を強大に見せるのか。それが戦いにおいて重要なファクターなのである。

 俺が身につけていたものは2人によって片付けらたのを合図に俺たち二人は木剣を構えた。ミカエルは動揺しているのかどこかぎこちない。

 ミカエルは木剣を大きく振りかぶる。俺はそれが開始の合図だと捉えて、前方へと駆け出した。ミカエルは動揺していたために、思考が少し遅れてしまう。振り上げた木剣を振り下ろすのか、俺の攻撃をかわすのか。彼の取った選択は右に躱すという行動だった。俺の突進から突きが来ると予想したのかもしれない。突きならば躱されていたかもしれないが、俺の狙いは最初から突きではない。

 俺の我儘ボディーから繰り出される圧倒的圧力を誇る突進だ。

 体当たりをまともに喰らったミカエルは後方へと吹っ飛んでいく。俺はそれを追って、倒れたミカエルの首筋に木剣を突きつける。

 「くぅ………ま、まいった」

 俺の身に着けていたものをみて戦意が喪失してしまっていたのだろう。ミカエルはあっさりと負けを認めた。

 俺の作戦は成功したようである。心を折るための芝居が非常に上手くいったようだ………

 

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― 新着の感想 ―
[一言] さすがだぞ! 心の折り方を バッチリ 理解してるんだな!
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