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第34話 風の旅団

「グリフィス? 聞かない名ですね? おっと失礼。人に名前を聞いて自分が名乗らないのは失礼でしたね。私は風の旅団で副団長をやっているアロイスと申します。で、こちらが同じく風の旅団のコンラートです。よろしくお願いします」

 アイロスは右手を差し出したので、俺も右手を出して握り返す。

「ど、どうも」

 冒険者という割にはかなり礼儀正しい人である。お兄様には負けるがアイロスという人はかなり美男子である。その髪は長い金髪で、冒険者とは思えない白い肌をしている。

「こんな胡散くさいガキに畏まりすぎじゃないか、どういうつもりだよ、副団長さんよ」

 もう一人の冒険者は、これぞ冒険者という感じでオラついてらっしゃる。短髪に刈り込んだその髪型も特徴がなく、これぞモブ中のモブという感じで、敵と戦えば真っ先にやられてしまう感じがする。

「いつも言っているでしょう。そんな態度をとっても利になることは一つもないからやめるようにと。それに考えてみてください。この子は金貨20枚をポンと出すような子供なんですよ。私達の依頼主になりうる可能性がある子供だと思って接さないといけないんです」

「こいつが依頼? 俺達、風の旅団にか? はっ、お使いでも依頼するってのか?」

「コンラートさん、ちょっとは頭を使って考えてください。この子供の後ろにいる親であったり、知り合いであったり、そういったところ全てが私達の依頼主になる可能性があるんです。日頃から、そういったことを考えて行動してくださいと何度も言っているでしょう。あなたの普段の行動が、風の旅団へのイメージに繋がっているという意識を持っていただかないと。旅団員を路頭に迷わせるような行動は慎んでください」

「けっ!! そんな小難しいことをいちいち気にしてられねぇんだよ。旅団が大きくなるのはいいことだが、それで窮屈になるってんなら話は別だ。実力の足りねぇやつは、どんどんと辞めさせていけばいんだよ。そうすれば、自分の食い扶持も稼げずに路頭に迷うやつなんていなくなるだろう」

「ふっ、皆それぞれ必要な者達ですよ。うちの旅団に去っていい者は一人もいません」

「どうだかな」

「この話はまた、場所を変えてしましょう。私はこの子と少し話をしますので、あなたは買い物の続きをしておいてください。あなたがいるとこの子も怯えてしまいます」

「けっ、わーったよ! おらっ!! 行くぞ!」

「はっ、はい!! あ、あちらの毒の魔女リーリエの新作はお客様の要望にかなうかと思いますので、是非一度試していただきたく………」

 俺が購入するといってから呆然としていた店員はコンラートの声で再起動し、コンラートと共にこの場から去っていった。

 あんまり怯えているつもりはなかったが、あたりの強い大人が子供に絡んでくれば、普通の子供は萎縮してしまうか。なかなか気の利く御仁だ。

「すまなかったね。うちのコンラートが絡んだりして。それで、君は貴族なのかい。この王国にいる貴族ではないみたいだけれど。それとも大商人の息子だったりするのかい?」

 俺の素性に興味を持っている様子。ここはどう切り抜けるべきか。王国の貴族でないと言い切ったところを見ると、王国の貴族は大体把握しているのだろう。さて、どうするか。

「実は他国の貴族でして、今は王立学園で学ばさせてもらっている身です」

 俺の我儘ボディの体格は12、3歳と言ってもぎりぎり通用するラインである。王立学校には他の友好国からも貴族や王族がやって来ているのを俺は知っている。そんなマイナーな子供の名前を全て把握しているはずがないだろう。

「なるほど。だから、そんなお金を持っていたんだね。それにしても、そんな服をどうして購入したんだい? もし良ければ教えてくれないかい?」

「え~っと………体を鍛えようかなって」

 勿論そんなつもりはない。何故なら全部で100㎏以上あるのだ、こんなものを着て動けるほど、俺は動けるデブではない。

「それを? 確かに、それを着てトレーニングをすれば、効果があるかもしれないが………わざわざ、そんな高価な服を着なくてもできる気がするけど」

「これを作った人もそれが目的で作ったんだと思いますよ」

 というかそれ以外ないような気がする。重い服を着て修行というのは定番中の定番である。

「いや、それは、風竜等の使う風の魔法で吹き飛ばされないように自重を重くするために着こむものだよ。だからこそ、高値がついているんだ。ですよね?」

「……はい。あっ、いえ、鍛える用途に使う方もいらっしゃいます」

 そんな用途のある服なのか。アンナはたぶん肯定しちゃうと俺が購入を取りやめると思ったのかもしれないな。俺の本当の用途はそうではないから、取りやめることはないんだけどね。

「さっき言ったやつ全部購入するんで、どうすればいいですか?」

「ありがとうございます。お代は全部で金貨20枚になります」

 俺は手に持っていた金貨20枚をアンナに渡す。

「ありがとうございます。それではこちらの商品を本日お持ち帰りになりますか? それとも、後日私達がお届けしましょうか? その場合別途銅貨1枚がかかりますが」

 銅貨1枚1000円なので、金銭的に頼んでもいいのだが、今日はお忍びでやって来ているので、家に届けられるのはちょっとまずい。

「今日持って帰ります」

「かしこまりました。商品の方を包むためにスタッフを呼んできますので少々お待ちください」

 アンナは素早い動きで階下へとスタッフを呼びに行った。

 俺はアイロスと2人きりになる。

「……なるほど。お金があれば、そういうことにも使う人がいるんですね。てっきり子供ながらに風魔法を使う魔物を狩ろうとしているのかと思って興味を持ってしまったんだ。それで君はこれを持って帰れるのかい? 王立学園には興味があったから、行くついでに運んであげるけど」

 俺には収納魔法があるから、全然問題ないのである。それに、実際に俺は王立学園の生徒ではないので、王立学園に運んでもらっても困る。

「自分で運べるんで大丈夫です」

「そうか、それは凄いね………そうだ、これっ」

 アイロスは四角い黒い金属を取り出した。

「これは?」

「私の風の旅団の名刺だ。もし何か冒険者ギルドに依頼することがあれば、指名依頼してもらえると有難い。団員には幅広い能力を持つものがいるからね。大体の依頼は達成することができるよ。その名刺を見せて依頼すれば、私が率先して依頼につくことができる」

「……ありがとうございます」

 この名刺の価値がよくわからないが、ひとまずお礼を言っておこう。なんか、黒い金属っていうところが価値をあげている感じがする。

 会話も尽きたころ、下から男のスタッフを連れてきたアンナが戻ってきた。男のスタッフはアンナの指示の元、商品を包む。靴は鉄の箱に入れていた。流石は高額商品である。箱も高価そうである。重い商品ということで男のスタッフが必要だったのだろう。

「ではこちらが商品になります。本日はありがとうございました」

 俺は商品を持ってきた鞄に全て入れてもらう。

「大丈夫ですか? 持てますか?」

 男性のスタッフが俺のことを心配して聞いてくる。アイロスも俺の方を注目している気がする。

「大丈夫です」

 俺は頷く。

 そして、鞄の口を紐で縛る。こうすれば、中が見えない。俺は右手を突っ込んで、収納魔法を使う。これで鞄の中は空になった。これだけだと、鞄がぺちゃんこになってしまうので、即座に風魔法を発動。そして風の球体を作り出す。完全な球体だ。風が回転し、鞄を広げるように鞄の中で球体の形を維持している。

 俺が闇の魔法を使えることが知られると、悪魔だダークエルフだと問答が始まるので、知らない人には見せないようにする事にしたのだ。やりとりが面倒くさいからな。

 俺は軽くなった鞄を地面から持ち上げる。

「えっ」

「えっ」

 男のスタッフとアイロスは同時に驚きの声が口から洩れる。

「す、凄いです。そんなに軽々と持ち上げるなんて」

 アンナもびっくりしている。

 あっ、重そうな演技はした方が良かったか。でも面倒くさいし、まぁいいだろう。

「ありがとうございます。それでは」

 俺はすたこらさっさと店を後にした。後ろから「あ、あんなに早く……」というアイロスの声が聞こえた気がした。

 







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