第32話 ファンタジー世界の服屋へGO
収納魔法に鎧換装の魔法を覚えたんで、面白そうな服を自分で買いに行くことにした。家には貴族が着るお高い服ばかりしかないので、変装用として庶民の服とかを持っておきたいと考えたのだ。
例の如く【インビジブル】の魔法を使って、休日にお忍びで王都を散策する。ファンタジーの定番と言えば鍛冶屋であるが、衣服を扱った店舗というものはどうなっているのであろうか。そんなことを考えながら、ぶらぶらと通りを歩いていると、それらしき看板を掲げている店を発見した。なかなか大きい店構えである。2階建てでかなりの面積がある。
看板には【ハップル服飾店】と書かれている。
俺は路地裏に入り【インビジブル】の魔法を解いて、それから店の中へと入っていった。店の扉を開けるとチリリンという入店を知らせるベルが店内に鳴り響いた。店内を歩いて少し見て回っていると、金髪の少女が俺に声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ」
15歳くらいであろうか。まだ成人はしていない、どこかあどけなさが残っている店員である。この世界では12歳くらいから働くことも珍しくない世知辛い世の中である。
「本日はどのような服をお探しでしょうか? 当店ではいろいろなジャンルの服を用意しておりますので、お客様のご希望の品が必ず見つかりますよ」
俺みたいな子供が入ってきたというのに、丁寧に対応しているのはできる案内人なのだろうか。それとも子供だけで来店するのは珍しいことではないのか。
「ちょっといろいろ見てみたいんですけど、いいですか?」
「構いませんよ。こちらから向こう側が貴族様が着るような高い服で、こちら側に置かれているのが庶民用の服になります」
俺は貴族用の服が置かれている側の一つを手に取ると、家にある慣れ親しんだ上質の素材の手触りのするものであった。
「そちらは、エビィモスの繭からとった糸で編まれた上質の服になります。通気性にも優れており、夏場に着てもかなり快適に過ごすことができますよ」
少女は俺が手に取ったシャツの説明をしてくれる。しかし、この辺の衣服は自分で買わなくても、俺の成長に合わせて、随時屋敷に補充されていくのだ。
俺が必要なのは変装用の庶民の服である。俺は手に持っていた服を戻して、庶民用の服が置いてある方に移動する。
その時、店内にチリリンというベルの音が鳴り響くと共に、入り口の扉が開いた。
そこには2人の男性が入ってきた。
その2人に気付いた店員の何名かが一斉にその男性の元へとかけより、「いらっしゃいませ」という言葉をかける。2人に対して4人もの店員がかけよっていた。そして、男性が何かを話すとそのうちの1人の店員が残り、その2人を2階へと案内する。
俺は気になったので、俺を案内してくれている少女に聞いた。
「あの人たちは?」
「あっ、あの人たちは有名な冒険者ですね」
「2階には何があるの?」
「2階には冒険者用の服が置いてありますね。素材も特殊なもので作られたものが多いのでかなり高額になります」
「へぇ~、店員が皆で迎えていたけど、常連だから? 俺の時はなかった気がするけど……」
「あっ、すいません。お客様が子供だったので、その………」
この世界の社員の仕組みに興味が出てきた。
「もしかして、案内した人の給料にいくらか上乗せされるような仕組みになってたりする?」
「そうですね。お客様のご負担額が増えることはなくて、接客して販売した店員に販売額の5%ほどのボーナスが支払われるんですよ。だから、有名な方なんかは取り合いになりますね。お客様によっては専属の案内人がいたり、先ほどの人のように、その都度お客様が選んだりすることができるようになっています」
なるほど。それで、俺にはすぐには店員が寄ってこなかったのか。俺を接客している間にもっと上客が来たら損だからな。ファンタジー世界の服屋もシビアな世界である。
「それなら、僕みたいな子供について良かったんです?」
「……いえ、お客様のお召しになっている服は上等なものそうですし……それに、先ほどの冒険者さんなんかは新米の私を選んではくれないですから、いいんですよ」
俺の着てる服を見て、俺の接客についたのか。なかなか見る目があるな。
「なるほど。ひとまず、これとこれと、あとそれもください」俺は庶民用の服を見ながら、適当に買っていく。庶民用の靴なんかも売っているので、それも買っておいた。
「あ、ありがとうございます。お代は銀貨5枚分になります」
結構買ったけど、貴族用の服1着分にも満たない金額である。銀貨1枚が大体前世の1万円くらいの価値がある。貴族の服は最低でも1着20万くらいはするからな。先程の話だと貴族の服が1着売れれば、店員に1万くらいが渡る計算になる。俺が買った5万だと2500円か。固定給がいくらかは分からないけども、いたって普通の客といった感じだろう。
少女からすれば、上等な服を着ているのに庶民の服ばっかりで期待外れというところだろうか。それでもそういった感情を表に出さないのはなかなか接客のプロというところか。
なんか、せっかく俺についてくれたんだから、いっぱい買って喜んでもらいたいなという気分になってしまう。これはキャバクラとかにお金を使うのと似ている現象だろうか。異世界の服屋恐るべしである。まんまと購買意欲を掻き立てられてしまっている。しかし、だからといって別に必要ない貴族服を買おうとまでは思わない。が、2階にある冒険者用の服というものは別である。かなり気になるところだ。
俺はひとまず銀貨5枚を鞄から取り出して店員に渡す。
「僕も2階の冒険者用の服とか見たいんだけど、案内ってしてもらえるんですか?」
「もちろん大丈夫ですよ。ですが、冒険者用の服はかなり高額なものになってしまいますよ。冒険者として使用せずに普段使いとして使用する場合は費用に見合わないものになってしまいます。それにサイズが小さいものが少ないので、お客様に合わせて作り直すと余計に金額が発生してしまいますが、よろしいですか?」
普段使う分にはあまり意味がないということだろう。それに今から成長して着れなくなるかもしれないことを考えると子供が買うべき商品ではないということか。必要でないものは買わない方がいいという配慮は好感がもてるところだ。
「買うかどうかはわからないけど、ひとまず見させてもらってもいいかな?」
「それは大丈夫です。では2階に案内しますね」
「わかりました」
俺は少女の案内について行って、2階への階段を登っていった。




