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第26話 昆虫採集

 『着いたよ』

 いつも木材を手に入れる森にある少し開けた場所であるここは、野原が広がっていて、蝶がたくさん舞っている。

 『わぁっ』

俺は持ってきた網と虫かごの一つをエドガエル君に渡す。

 『これを、こうして、そりゃっ』

 俺は虫取り網を振りかぶって、一匹の蝶を捕まえる。網から取り出して、虫かごへと入れた。

 『おおー』

 『いっぱい捕まえよう』

 『うん』

 エドガエル君は片手で虫取り網を構えてスゥーッと空中を上下に横に振って、地面に叩きつけた。その動きは流麗で舞っているかの動きである。俺は駆け寄って網の中を見てみると、3匹も蝶が中に入っていた。あの一瞬で3匹も捕らえるとは、エドガエル君には虫取りの才能があるかもしれない。

 『3匹も取れてるよ』

 『やったー!!』

 エドガエル君は網の中に手を入れて、虫かごへと入れる。そして、虫かごを両手で持って、中の蝶を眺める。初めて捕まえた蝶が嬉しいのかもしれない。

 しかし俺も負けるわけにはいかない。

 『そいや』

 俺はもう一匹捕まえて、虫かごに入れる。エドガエル君にそれを見せる。

 『さっきとは違う種類の蝶だ!!』

 量ではないのだ。いろなんな種類を集めることが重要なのだ。

 『同じ種類の蝶は逃がした方がいいよ。虫かごがいっぱいになっちゃうからね』

 俺がそういうと、エドガエル君は捕まえた3匹のうち2匹を素直に逃がす。決して数で勝ちたいからこんなことを言ったわけではない。

 実は今日は、ただ蝶を捕まえに来たわけではないのだ。せっかく便利な魔法があるのだから、それを活用して、かっこいい蝶の標本を最終的には作りたい。持ってきた鞄の中には【3Ⅾプリンター】の魔法で作ってきた標本用の道具もいろいろと入っているのだ。

 『いろいろな種類の蝶を集めよう』

 『わかった』

 俺達は野原を走り回り、蝶を捕まえた。色の違う蝶や大きさが大きい蝶など、同じ場所なのにいろいろな蝶が飛んでいる。これぞファンタジーというやつだろう。

 虫かごの中が蝶で埋まり始めた頃に、森の方からがさりと何かが動く音がした。そちらの方を見ると、一匹の狼が現れた。群れからはぐれた狼だろう。ここで木材を手に入れに来た時にも何度か遭遇したことがあるが、俺の魔法にかかれば一刀両断である。じゃないと、こんな危険な場所にエドガエル君を連れて来ようとは思わない。

 エドガエル君は網を下に置いて、腰に下げた剣を鞘から抜いた。どうやら戦う気でいるようである。俺は大丈夫だという意を込めてエドガエル君が狼の方に向かうのを左手で制した。

 俺は右手を挙げて、風魔法を使い、狼を上空にあげる。そして、手のひらを握りしめると同時に光魔法の【シャイニングボム】を発動する。

 オオカミはボンという音と共に爆散した。

『汚ねぇ花火だ!!』

 人生で一度は言ってみたいランキングベスト10位には入る台詞をエルフの言葉で言うことになるとは。

 俺はいつもより派手に狼をやっつけた後に、血肉がこちらに降ってこないように風魔法で遠くに飛ばす。

 エドガエル君は興奮した表情で俺に近づいて来た。

『○▼□×○▼○▼□×○▼○▼□×○○▼□×○▼○▼□×○▼○▼□×○』

 興奮しすぎて何を言ってるか全く聞き取れない。

 腕をぶんぶんと振って何かを言っている。どうやらさっきの魔法を気に入ってくれたのだろう。ひょっとしたら、決め台詞に感動すらしているのかもしれない。

 興奮するエドガエル君を落ち着かせて、俺は背負っていた鞄から展翅板と針を取り出した。蝶を殺してここに張り付けておけば、標本用の蝶ができあがる。

『これに蝶をはりつけていこう』

『これは?』

『蝶の標本を作るためのものだよ』

『標本って?』

『羽を広げて貼り付けておくと、1,2カ月で乾燥してくるから、それをこっちの箱に飾るんだ』

『飾る?』

『そう。いわゆる蝶のコレクションだね。最初は失敗するかもしれないけど、挑戦してみるといいよ』

 俺はやり方を詳しく教えてあげた。熱心に聞いてくれるエドガエル君。これだけ熱心に聞くなんて、もしかすると遠い未来にはエドガエル君は昆虫博士にでもなっているかもしれないね。

 

『それじゃあ、暗くなる前に帰ろうか』

 エドガエル君はこくりと頷く。

 帰りも門番の視界に入る前に【インビジブル】の魔法を使って、門番を通過したら魔法を解除した。

 エドガエル君は門番が俺達に気付かないのが不思議でしょうがないようである。


 俺達は朝の待ち合わせ場所である【牛牛亭】で解散することにした。

 エドガエル君は虫かごや網を返そうとした。

 『それはあげるよ』

 剣術稽古では俺に合わせてくれているしね。

 『ありがとう』

 エドガエル君はとても喜んでくれている。

 『それじゃあ、また剣術稽古で』

 『うん』

 にっこりとエドガエル君は微笑んだ。

 俺が手を振りながら帰路についた。少ししてから振り返ると、エドガエル君はまだ同じ場所に立ち止まって俺に手を振って見送っていたのだった………

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