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第22話 阿吽

 またもややって来た剣術稽古の日、今日は新入りは新入り同士で打ち合いをするらしい。

 ファーストコンタクトをミスったと思ったエドガエル君はどうやら俺だけでなく、他の子供ともあまり話してない様子。どうやらイケメンな容姿に反して、ぼんやりしている子供のようだ。

 準備体操が終わると、俺はエドガエル君に一緒に打ち合いをするように誘うと、コクンと頷いて了承した。


「あんまり剣術は得意じゃないから、ゆっくりやろう」

 木剣で、防具はつけているし、怪我をしたら回復魔法をかえてもらえるように魔法使いが待機しているらしいのだが、痛いのは嫌である。できるだけやってる感じだけを出せればそれでいいのだ。


 俺は右からエドガエル君の木剣をうちつけ、即座に左側をうちつける。そして大きく右から水平にゆっくりとエドガエル君の胸あたりを狙って振りぬく。ほとんど動かずにエドガエル君は紙一重で俺のおお振りを躱した。

 「次はエドガエル君が同じようにやってみて」

 「同じ?」

 「そう、同じ感じで」

 エドガエル君は俺がやったように2度程俺の木剣を左右から打ちつけて、水平に大きく俺を切りつける。俺はエドガエル君より大きく後ろに飛びのいてその剣筋を躱す。


 「いいよ。その感じで、交互に打ち合おう」

 「交互?」

 「次は俺で、その後はエドガエル君。俺の真似をずっとしてくれればいいから」

 カン、カン、スッ!!  カン、カン、スッ!!  カン、カン、スッ!!

 交互に打ち合っていると、いかにも打ち合いをしているように見えるが、決まった動きを交互に行っているので、当たることもないし楽でいい。

 十数回も打ち合っていると、楽ちんといえども、俺の我儘ボディが悲鳴をあげだした。

「ふー、ちょっと休憩しよう」

 エドガエル君はこくりと頷く。何も言わずに俺に合わせてくれるのは非常にありがたい。むしろやりやすい。なんていい子なんだ。俺はそんな事を考えながら周りを見渡すと、俺達と同じ新入りの子達は激しく打ち合っていたためか、回復魔法を使ってもらってる子もちらほらいた。

 木剣で訓練するなんて、回復魔法があるからと言って恐ろしいことである。そんな中、王族であるミカエルは熱心にまだ打ち合いをしていた。

 防具の隙間を狙ってお互いに攻防を繰り返している。そして、最後にはミカエルが相手の兜に一撃を与えて終わりとなった。

 そして、ミカエルはこちらの方を見て叫んだ。

「おい!! お前たち、真剣にやってなかっただろう!!」

 なにやらお怒りのご様子である。

 念のために俺は後ろを振り返る。もしかすると俺達の事ではなく、俺達の後ろの誰かにお怒りなのかもしれない。エドガエル君も俺が後ろを振り返ると、同じように後ろを振り返った。

「いや、お前たちのことだ!! ジークフリート!! エドガエル!!」

 どうやら俺達のことのようである。激しい打ち合いをしている最中にも俺達の訓練の様子を観察していたようだ。こっちに向かって来る。うーむ。ここはひとまず、すっとぼけるしかない。

「俺達? 真剣にやっていたけど」

「嘘をつけ。同じような動作を繰り返していただろう。あんなことをしていたんでは、強くはなれないぞ」

 そこまで剣で強くなりたくはないが、認めてしまってはこれから痛い思いをしなくてはならないことになる。それは避けなければならない。

 俺は両手を左右に広げて、肩をあげて小首を傾ける。ミカエルの言ってる意味が分からないというポーズをとった。

 そしてそれを見たエドガエル君も俺と同じポーズをとった。

 何故に? 煽りスキルが高いな、エドガエル君。ここはひとまずそれっぽい事をいって難を逃れるしかない。

「知らないの。あれは実はれっきとした訓練方法なんだ。あれを続けると効率よく強くなれるって、伝説のソードマスターが言ってのを聞いてた知り合いに聞いたんだ」

 俺はうんうんと頷く。

 それを見たエドガエル君もうんうんと頷く。

「ふざけるな! あんな訓練で強くなれるはずがないだろう」

「と思うだろうけど、常識に囚われていたんでは剣聖になんてなれるはずがないんだ。一見すると馬鹿げた訓練方法に見えるかもしれないけど、実はそこには隠された意図があるんだ」

 俺はうんうんと頷く。ワックスかけたり、服をでっぱりにかけるっていう訓練もあるくらいだからな。さっきの訓練にも意味は見いだせるはずだ。

 エドガエル君は俺に続いてうんうんと頷く。

「ぬぐぐぐ。………そこまでいうなら、一カ月後俺と勝負しろ!! 俺に勝ったら、その訓練方法は正しかったと認めてやる」

「えっ!! いや、この訓練方法はすぐに効果がでるわけではなくて……そう、1年くらいかかるんだ。1年後なら勝負を受けてもいいよ」

 1年後なら、うやむやになって忘れているだろう。

「そんなにかかるってことはその訓練方法に意味がないってことだろう。分かった、三カ月後だ。それ以上引き延ばすなら、その訓練は意味がないってことを認めたってことだからな」

 ミカエルはそれだけ言って元の場所に戻っていく。

 うーむ。三カ月後までは、なんとかサボれそうだが……その後はどうしようか。

 俺は腕を組んで考えていると、エドガルド君も横で腕を組んで考えている。


「何を考えているの?」

 エドガエル君に聞いてみた。

「交互に真似」

 コテンと首を傾けた。

 おーーう。阿吽の呼吸でミカエルを煽ってたのではなく、俺の真似をしていただけだったのか。エドガエル君………かなり天然な子だな………





 

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