表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/113

第14話 飛翔

 俺が4歳になる年に、お兄様は王立学園の寮に入るために家から出て行くことになった。王立学園は王都にあるので、この屋敷から通えない事はない。しかし、他の貴族達は遠い領地から来ているために通う事ができない。そこで王立学園の近くに生徒用の寮が併設されているらしい。

 寮の種類は3つ。男子寮、女子寮、王族寮からなっている。それぞれが豪華ホテルのような造りになっており、王族寮は使用人数が少ないため大きさこそ小さいが、1人あたりの部屋は他よりもゴージャスになっているとの事だ。俺も12歳になるとそこで生活する事になる。

 せっかく作ったのだから、そこを利用した方がいいという事で、お兄様は王族寮に入ることになった。といっても休みの日はいつでも家に戻って来れる距離である。別にずっと会えないわけではない。

 俺がもう少し大きくなれば、こちらから会いに行くこともできるのである。


 家を出るときには「何かあればいつでも呼ぶんだよ。すぐに駆け付けるから」という言葉を俺にかけてくださった。光の妖精の事ですね。俺の事をちゃんと考えてくださるなんて、流石はお兄様です。俺は「お兄様~」と叫びながら、お兄様に抱きついた。


 お母様は「頑張るのよ」と伝えて、俺を挟むようにしてヨハン兄さんを抱きしめた。メイド達も全員見送りのため玄関先に集まっている。


「はい。お母様……では、行ってきます」


 お兄様は馬車に乗り、王族寮に向かう。


 こうしてお兄様は皆に見送られて家を後にした。

 

 

 俺は6歳から教養や王族としての作法の勉強や剣術の稽古等いろいろやらねばならない。つまりゴロゴロしていられるのも後2年というわけである。

 そういうこともあって、俺は明日こそは運動を、とは思うのだが、その明日が永遠に訪れることはない。どうせ、6歳から剣術の稽古があるのだから、今はいいんじゃないかなと頭によぎってしまい、なかなか足が動かないのである。


 それに俺は一人では外出も制限されている。家の周りを走ったりは大丈夫なのだが、遠くに行くことは不可能なのである。それも全ては俺の取り巻く環境が特殊であることに起因する。

 

 この辺りに距離を置いて存在する屋敷は全て王妃達とその子供が暮らしていて、その周りを大きく高さ2mくらいの塀で囲われている。この塀の出入り口には昔赤ん坊の時にお兄様が話していた門番が存在している。

 

 つまり、この辺りは前世でいうところの“後宮”のような場所であるのだ。


 王妃一人、一人に屋敷が与えられていることからもかなりの権力を持つ国である事が予想される。

 

 王妃同士の仲は俺にはよくわからないが、俺がソフィーの鳥を治癒した一件以来、ソフィーの母親と俺の母親は交流を持つようになったようだった。


 ソフィーの母親のジルコニアさんは、かなりおっとりとした性格の持ち主でどこか俺のお母様と似ている部分があった。何でも5年前くらいに合併した国の第二王女で、その時にこの国との結びつきのために国王である父の元に嫁ぎに来たらしい。


 ジルコニアさんは合併といっても支配される側であったことや、第四王妃という立場もあって他の王妃達と交流を持つのは遠慮していたらしい。しかし、俺とソフィーの件をきっかけに一歩踏み出して、俺のお母様もそれに応えた結果、二人の仲が縮まったと思われる。


 だからこうして暇な時に屋敷を出て、ソフィーの屋敷に遊びに行くことも今日で数回目であった。


 俺はナヴィに案内されて屋敷へと通される。

「少しお待ちください」

 リビングに通された俺をソファーに案内すると、ナヴィはソフィーを呼びに部屋から出て行った。


 少しすると扉が開き、元気よくソフィーが笑顔で現れた。


「ジークお兄様!! 遊びに来てくれて嬉しいです!!」

 基本的にソフィーが俺の屋敷に来るのはジルコニアさんと一緒に来る以外一人で来ることがない。一人で来たのは小鳥が怪我をしていた最初の時だけである。


「今日も可愛いね」

 俺はソフィーの頭をなでた。ソフィーは小動物のように可愛くてついヨシヨシとしたくなってしまう。

「えへへ」

 ソフィーも嬉しそうに目を細める。


「もしかして何かしてた?」

 いつもより来るのに時間がかかっていた気がしたので俺は尋ねる。


「ぐーちゃんに餌をあげてました」


「へー、ぐーちゃんってあの時の?」


「そうです!! ジークお兄様の魔法のおかげで、すっかり元気です。ジークお兄様も見ますか?」

 どれだけ成長したのか興味が湧いたので俺は頷いて、ソフィーの後について行く。


「こちらです」

 通された部屋はぬいぐるみ等が置かれている可愛らしい部屋だった。ここがソフィーの部屋なんだろう。あれから2回ソフィーの屋敷に来ていたが、いつもリビングで何かを食べるだけだった。

 俺は部屋を見回していると、窓側の机の上には大きめの鳥籠が置いてあった。


「あっ、これが……あの時の……」


「そうです。ぐーちゃんです」


「ピー!! ピー!!」

 グーちゃんは羽を広げて囀った。


「でも、あんまり成長してないね」

 鳥がどれくらいの速度で成長するかは分からないが、前に見た時とあまり変わっていないので、そんな事を口にした。

「この子はグリフォンなので、成長するのに凄い時間がかかるらしいです」


「ん? グ、グリフォン?」

 何やら前世ではゲームの中等でしかお目にかかれない、非現実世界なワードが飛び出した。


「そうです。お祖父様が、私が産まれた時に誕生祝いとしてくれたんです。グリフォンはお祖父様の国では守り神の象徴のような動物らしいです」

 グリフォンって高位の神獣ってイメージがあるけど、この鳥を見ていたらそんな印象があまりない。ただの可愛い鳥である。

 そもそも、ソフィーの言うお祖父様とは合併された国の王様ということになるのだから、グリフォンは守り神としての役割を果たしていたかどうか疑問が残るところである。俺の知るグリフォンと、この目の前のグリフォンは同じものではないのかもしれない。

 俺がグリフォンであるぐーちゃんの評価を下方修正すると「ピーーーッ!!」と非難の声を上げた。何かを感じ取ったのかもしれない。


「ぐーちゃん。どうしたの? いつもは大人しいのに……」

 ソフィーは鳥籠からぐーちゃんを取り出して、手のひらに乗せて背中を撫でた。撫でられるのが気持ちいいのかぐーちゃんは目を細めて首を傾ける。


「それにしても、ぐーちゃんはどうしてあんな怪我をしていたの?」

 ここら辺は周りを塀に囲われて安全だと言っても空は違うのかもしれない。空で何らかの魔物に襲われたという事もあるかもしれないのだ。この世界の危険性について知っておかなければならない。


「それは……あの時はぐーちゃんを鳥籠から出していたんですけど、窓枠に急に飛び乗ったんです。そうしたら急に羽を広げて、空に飛び立ったんです」


「それじゃあやっぱり、何か魔物がいて、戦って負傷したと?」

 守り神と言われるだけはある。ソフィーを守るために戦おうとして名誉の負傷を負ったという事か。俺の中でぐーちゃんの評価がぐんぐんと上昇し始めた。


「い、いえ。空に向かって飛び立ったと思ったら、そのまま真っ逆さまに下に落下してしまいました。私は慌てて下に降りてぐーちゃんのところに駆け寄ったんですが、ぐーちゃんは今にも死にそうで、どうしていいか分からなくなりました。お祖父様から貰った大切な贈り物でしたし。そこでヨハネス様の事を思いだしたのです。第一子であるヨハネス様の事はお母様から聞いて知っていました。凄く優秀で治癒魔法も使う事ができるって……だから、ヨハネスお兄様の屋敷に向かったのです。でも、まさかジークお兄様も治癒魔法を使えるほど優秀だったなんて知りませんでした」


 ソフィーは目を輝かせながら俺の方を見る。

 なるほど。大切な贈り物だったので自分の母親に言うのを躊躇われたのかもしれない。パニックになり、聞いた話を頼りに真っ先にお兄様を訪ねたというところか。

 それにしてもぐーちゃん……

 俺のぐーちゃんに対する評価はSTOP安である。もしかすると、飛び立つ格好いいところをソフィーに見せようと飛べもしないのに窓枠からジャンプしたのではないだろうか。

 

「ピピーーーーッ! ピーーーーッ!」


 その時、俺の考えを読み取ったのかぐーちゃんはまたもや抗議の声を上げた。




 

 


 


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ