第12話 お礼
ソフィーが訪れた翌日、再度ソフィーが俺の家を訪れた。
「ジークフリート様、ソフィア様がお越しですよ」
マーレが俺の部屋に伝えに来る。
俺は玄関へと行くと見知らぬメイド服を着た女性とそのスカートを片手で掴み後ろに隠れるようにして立っているソフィーがいた。
「私、第四王妃ジルコニア様のメイド長をしていおります。ナヴィと申します。昨日、ソフィア様がジークフリート様にお世話になったと聞いてお礼に参りました」
ナヴィは果物のたくさん入った籠をマーレに渡す。
「わ~、これは珍しい果物ですね。ありがとうございます」
マーレがお礼を言うと、俺達の後ろからお母様も玄関に訪れる。
「あら、ソフィアちゃんね。遠くから見たことはあるけど、こうして会うのは、はじめましてね」
「は、はじめまして」
ナヴィの後ろから出て来て一礼する。
「今日は一体どうしたのかしら?」
「昨日、ジークフリート様にお助け頂いたお礼に伺いました。ヨハネス様が優秀である事は聞き及んでおりましたが、ジークフリート様も素晴らしい才能をお持ちでらっしゃるとは本当に素晴らしいですね」
「ジークが?」
「奥様、ジークフリート様は上級神官以上しか使えない【聖なる癒し】を使えるそうですよ。それを使ってソフィア様の小鳥を治療したらしいですよ」
マーレが昨日俺が教えた事をお母様に伝える。
「えっ? 【聖なる癒し】なんて誰に教わったのかしら」
誰にも教わらずに使えるのは、光の妖精の事がばれて人体実験行きにされるかもしれん。ここは一つ誤魔化すしかあるまい。
「お兄様に教えてもらいました」
事情を知っているお兄様なら口裏を合わせてくださるだろう。
「そうなの。魔法はいろいろと危ない事もあるからもう少し大きくなってから学んだ方がいいと思うけど……あの子の事だから、何か考えがあるのかしらね。それにしても【聖なる癒し】を使いこなせるなんて大したものだわ」
お母様は俺の頭を優しく撫でてくださる。
「本当に昨日はありがとうございました。ジルコニア様もこれを機会にいい関係を築ければとおっしゃっておりましたので、これからもよろしくお願いします。それでは私達はこれで……」
ナヴィは一礼すると、帰ろうとする。それにお母様は待ったをかける。
「そうなのね……せっかくだから、ジークと遊んでいったらどうかしら。ちょうど昨日ジークが作った美味しいスイーツがあるわ」
「スイーツ」
ソフィーの目が輝く。
「あっ、それでしたら、私が、ソフィア様が帰る時は責任をもってお送りしますよ」
マーレが提案する。
ナヴィは少し逡巡して、ソフィーに尋ねる。
「どうしますか?」
「遊びたい」
ソフィーの返事にナヴィは少し驚いた後、つけ加える。
「一人でも大丈夫ですか?」
ソフィーはコクリと頷く。
「ではお願いしても宜しいでしょうか?」
「もちろん、大丈夫よ」
お母様は頷く。
「任されました」
それにマーレも続く。
ナヴィが帰ったあとリビングにあるテーブルの席にお母様と俺とソフィーの3人は座った。そして、少しすると厨房からマーレがプリンを3つ持ってくる。
それを皿に乗せ3人の前に出した。
「はわわ〜、何ですか、これは?」
ソフィーは驚きの声を上げる。
「こちらはジークフリート様が考案なされたプリンというデザートになります」
「ジークお兄様が!?」
「そうだよ。あ、そう言えばソフィーとは同い年って聞いたよ。だからお兄様ってつけなくてもいいよ」
「えっ? そうなんですか……ちなみに生まれた月はいつなんですか?」
少し残念そうに聞いてくる。この異世界の暦は衛星の満ち欠けを基準にしている、つまり前の世界の太陰暦のようなものである。
「真円の月だけど」
真円とは衛星が満ちる状態の事で満月の事である。
「そうなんですね。では私の方が後になりますから、やはりこれからもジークお兄様とお呼びします」
嬉しそうな顔である。そう呼ばれて嫌なわけではないので、ソフィーがいいなら俺は何も言うまい。
「それにしても、これはプルプルしてスライムみたいです」
スプーンでプリンをつついている。
「こうやって黒い部分と一緒に食べると美味しいわよ」
お母様は黒い部分と一緒にスプーンで掬って、口に運ぶ。
俺も同じように一口食べる。昨日食べたものよりも美味しさが増していた。多分アンジェが改良を加えてくれたのだろう。
「わかりました……はわわ~、何ですかこれは……優しさに包まれる甘さです。これはジークお兄様の魔法ですか?!」
プリンを一口食べたソフィーのくりくりした目は大きく見開かれる。俺はその言葉に苦笑し、説明する。
「違うよ。牛乳と卵と砂糖でできる簡単な料理だよ」
「そうなんですか? こんな美味しいものを考え付くなんてジークお兄様は凄いです!!」
ソフィーは再びスプーンを動かし、食べるのを再開する。その一回に掬う量はスプーンに半分くらいで、ゆっくりと味わうようにして食べている。
「うふふ。食べている姿も可愛いわね」
お母様は微笑ましくソフィーが食べる姿を眺める。何か小動物を思わせる可愛さがあるとは思ったが、お母様もそう感じ取ったのだろう。俺はそれに同意する。
「そうですね」
「えっ?!」
ソフィーはびっくりしたような顔をして、顔を赤らめる。少し恥ずかしそうに残りを食べ終わった後、ソフィーは俺に尋ねた。
「私にも作れますか?」
「作れると思うよ。後で作り方を教えようか? あっ、けどあまり作りすぎない方がいいよ。食べすぎると太ってしまうからね」
こんなに可愛らしい子が太っていってしまっては申し訳ないので教えてあげる。守護らねばならぬ、この笑顔。
「えっ!! 今何て言いました?」
部屋で控えていたマーレが俺の言葉に反応する。ちっ、聞かれてしまったか。修羅の道へと突き落としたというのに。仕方ない……
「食べすぎると太るよって言ったんだけど……」
「またまた、ジークフリート様は冗談がお上手ですよね。だってこんなにプルプルで、見たところそんなに重そうには見えないですよ」
「いや、それがめっちゃ太るんだよ。冗談ではなくて」
どーん!! 人差し指を指して忠告する。
「そんな……昨日いっぱい食べてしまいましたよ。もしかして知っていて黙っていたんですか?」
「幸せそうだったから黙っていたんだ」
本当はおデブちゃんへの道を歩ませようと思っていたんだけどね。
「ここに鬼がいます。ジークフリート様は人でなしですよ」
「まー、まー、落ち着いてよ。昨日一日だけなら大丈夫だから。毎日一杯食べたら別だけど……」
「本当ですか? 信じますよ? あっ、けどアンジェさんに試作品を食べきる約束をしちゃってますよ。あれ、もしかして、アンジェさんもこれを食べたら太るって事に気付いているんじゃあ……昨日もあまり食べていなかったような……どういう事ですか!! アンジェさん!!」
マーレは厨房にいるアンジェに怨嗟の声をあげる。それを見たお母様は微笑み、ソフィーもつられて笑う。
ソフィーにはマーレの進む道を見て反面教師として道を歩んでもらいたいものである。




