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第110話 逢いに逝ける

 あの後俺達は修行を再開して、リネットさんとクインさんはアークを発見できずに終わった。

 アークはずっと俺の傍にいたので山の中を捜索しても何も見つからないのは道理である。


 王都に帰ってからもずっとアークは俺につきまとい、家までついてこようとしたが、家に住まわせるのは何かとよくない。俺のプライベートな時間がなくなってしまう。ということで、トキワ亭の一室を貸し出すことにした。部屋は余っているし、霊体なら汚れることもないだろう。


 後日、トキワ亭に漫画の打ち合わせをした後に、アークの様子を見に部屋へと訪れた。

 周りに誰もいないのを確認して、奥の部屋の扉をノックする。

 「入るぞー」

 「いいわよー」

 部屋の奥から声が聞こえる。

 俺が扉を開けて中に入ると、アークはベッドに寝ころびながら【ステップ】を読んでいる。

 俺のしたかった生活がここにあるッだと?!


 アークはステップをベッドに置いて、ベッドから足を放り出して、俺の方に向かって座りなおす。


 「この【ステップ】という本、すごい面白いわね。続きはもうないの? 早く続きが読みたいわ」

 「まだだな。あと1週間後に次の号が発売される予定だ」

 「ここでこの漫画を描いているのよね。発売前のやつを読むことができるのでは?」

 「それをしてしまっても、結局、また次のやつを待つことになるだけだぞ。これは待つことも楽しみのひとつだ。次の展開を予想して楽しむことも重要だぞ」

 「……それも一理あるわね。続きがすごく気になるところだけど、それで、私の未練を断ち切るための策は考えてきてくれたの? あと二つ………って、ああわわああわあああああっっッ!!!」

 「どうしたんだ?!!」

 「い、いつのまにか後一つに減ってるぅぅぅっぅっ!!!! ど、どういうこと?!!! 私のライフはもう一つよ!! ま、まさか、ここで漫画を読む生活に満足してしまったっていうのぉぉぉっ!!」


 その生活に満足してしまう気持ち分からないでもない。毎日そんな生活ができたら、俺なら満足してしまう。悲しいかな、今はまだ俺の考えた漫画だけが載っている状態なので、まだ満足できる状態ではない。


 「良かったじゃあないか。これで後一つで成仏できるってことだな」

 「ちょっと、ちょっとちょっと、ここの漫画を描いている人達はあなたが関係しているっていうの?」

 「言ってなかったか? ここの施設を作ったのは俺だし、ここは俺の出版会社だというわけだ」

 「な、何ですって~?! そんな子供の(なり)をしているというのに?!  ゴクリっ、ここまで計算して私をここに押し込めたというわけね」


 いや、簡単に未練をなくしていっているだけのような気がするが。この調子だと次に会うことはないかもしれないな。勝手に成仏してしまうのではないだろうか。


 「まぁ、良かったじゃあないか。これで後一つでこの世の未練は無くなるというわけだ」

 「は、早すぎるわ。いくらなんでもっ! そんなに私に成仏してほしいの? あなたと私の中じゃあないのよ」

 いや、出会ってまだ2回だぞ。そんな中になったつもりはない。


 「いや、この世に未練があるっていうなら、早く未練をなくした方がいいのかなと思って」

 「くっ、くぅ、でもいいわ。ライフが一つになった私の満足度はちょっとやそっとでは満たされることはないわ。そう、まるで穴の開いたコップに水を入れるように、永遠に満たされるようなことはないわ。どうやって私の未練を断ち切ろうっていうの?」


 そういいながら、すぐに満足してしまう未来がみえるようだ。


 「まぁ、いいやつを考えてきたぞ。最高の満足度を手に入れることができる作戦をな」

 「どんな作戦なの? もうどんな美食を食べても、どんな感動的な話を読んでも、私の心が動くというようなことはないわ」

 「そんな刹那的な満足ではないし、普通では経験できない満足度を手に入れることができる作戦だ」

 「ご、ゴクリ!! 私を簡単に2回も満足させたあなたが言う作戦って………それは一体……どんな作戦だっていうの?!」

 「超満員10万人の武道館でアークが歌って踊って、皆を昇天させるんだ」

 「武道館? 踊り子として戦って全員を生贄にするですって? そ、そんな恐ろしい作戦を……たしかにそれだけの贄があれば………」

 「いや、全然違うぞ。武道館ってのは、まぁ、今は構想段階だから、ここにはない建物だが、戦う場所ではない」

 「武道なのに?!」

 もともとはオリンピックの柔道のために作られたから武道館って言うんだったか。


 「そこは名前の変更をするかもしれないが、そこは人を集めて、皆の前で出し物をするステージのような場所だな。そこで、アークには文字通り、唄って踊ってもらう。そして、それを見た観客たちはアークに熱狂して満足する」


 「ちょっと待ちなさいよ。観客が満足してどうするっていうのよ!! 私が満足しなきゃあならないのよ?!!」

 俺はやれやれといった感じで首を振る。

 「分かってない。分かってないよ、アーク。究極の満足とは、周りを満足させる。そして、その先にこそ普通では辿り着く事ができない満足感というものを味わうことができるのさ。それを完璧に体現できるのは、この作戦以外他にはないっ!!」

 「でも、私、踊ったこともないし、唄ったこともないわ。吟遊詩人のように上手く歌える気もしないし、踊り子のように踊れるような気もしない」

 「逆にそれがいいんだ。観客と一緒に成長していくというコンセプトでアークは人気を手に入れる予定だ。何も初めから10万人の前で唄って踊るというわけじゃあない。初めは20、いや10人くらいの前で唄うところから始めて、そして徐々にファンを増やしていくんだ。そしてゆくゆくは10万人の前で唄って踊る。その瞬間、アークには今までの人生で手に入れることが出来なかった多幸感、絶頂館、満足感、あらゆる感情が沸き上がってくることだろう。そして、その時、アークはこの世の未練が解消して、成仏することだろう」

 「ふ、ふーん。そ、そこまで言うならやってみようかしらね。そんなことで私が成仏するとは思わないけども………」


 よし、なんとかやる気になってくれたか。

 実は最近ソフィーからの圧がすごかったのだ。

 曰く、お兄様だけ外に出ていろいろしているのはずるいです。と問い詰められてしまった。俺が家を抜け出していろいろしていることを聞いて、羨ましく感じてしまったのだろう。自分も連れて行ってほしいとのことだが、危険な場所へと連れていくことはできない。そうなると王都の外へと連れていくのは駄目である。

 そうなると王都の中ということになるが、王都の中でやれることと言えば護衛を連れていけばソフィーにもできることが多い。わざわざ抜け出してまでやるようなことはない。

 となると、以前興味を示していた演奏をしながら世界を周るという体験を王都でやってみるのもいいんじゃあないかと考えたわけだ。

 俺がギターを弾いて、ソフィーがピアノを弾く、そしてアークが歌を歌って踊る。大体の注目はアークの方に向かうから、俺たちは軽く変装しておけばいいだろう。


 ソフィーのご機嫌も取れて、アークも成仏できるかもしれない。そして上手くいけば、お金も稼げるかもしれない。一石二鳥、いや三鳥にもなる考えだ。なんなら公演にむけて音楽の熱が上がればサタン様も喜ぶことだろう。


 武道館とは言ったが、100人くらいの観客の前で唄えばコロッと成仏するかもしれない。いや、10人でもありえる話か。

 まぁいい。鉄は熱いうちに打てというし、アークがやる気になったというなら早速始動するべきだろう。


 「おお、やってくれるか。そうだなキャッチコピーは『透明感しかない!! 透明すぎて透けちゃうかもだけど許してねッ!!推してくれなきゃ取り憑いちゃうゾッ!!』これででいくことにしようか。アークにはぴったりだ!!」


 新たなプロジェクトの幕開けである。 

 





 「

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― 新着の感想 ―
オイラなら既に昇天してるな。
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