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第109話 心臓を捧げよ

 もう時刻はお昼時である。こうして出会ったのも何かの縁だ。

 せっかく蛇肉のBBQをしていたので、皆で食べることを提案した。


 「どうですか? 皆さんも一緒に食べませんか?」


 「どれだけ食い意地が張っているのだ?」とはクインさん。

 「いえ、ちょうどお昼時ですし、いったん食事休憩にするのもいいかもしれません。こうして、ジークフリート様が準備していらっしゃったのであれば、いただきましょう」リーズさんはクインさんを窘めるように言った。


 「わ、私達も宜しいのですか?」

 リネットさんが聞き返した。

 「はい。たくさんお肉がありますので。後ろの方達も食べていってください」

 白蛇2体分は、かなりの分量である。売却してもいいけど、売却してもう一度購入するとなったら、流通コストかかかって損した気分になってしまう。


 どうせ【闇収納】であれば腐ることもないのだから、売却せずに取っておくことにしたのだ。 

 

 「そうなんですか………ジークフリート様がそうおっしゃってくださるのであれば、固辞するのも失礼。ありがたく頂きたいと思います」

 そう言って、頭を下げると、後ろの男の子たちも同じように頭を下げた。心なしか後ろの男の子たちは嬉しそうにしているように見える。


 俺は調理台の方へと歩き出し、鞄の中で【闇収納】を発動させて蛇肉を取り出した。


 「って、おおーい。邪魔をするんじゃあない」


 背中からアークがおぶさってきた。実体化していないので、触覚では感知できないが、俺の中の何かがアークの存在を感知していた。

 

 「木を隠すには森の中、って言うじゃない?」


 「何を訳の分からないことを言っているんだ? 今調理中だから、気が散るような真似はするんじゃあない」


 「さっき見てたけど、私がここでこうしていたって、大丈夫でしょう? 風魔法でちょちょいのちょいよね」


 俺が無言でいると、それを肯定と捉えたアークは俺の背中にへばりついたまま降りようとはしない。俺は無視して風魔法で蛇肉を一口大にカットしていく。出来上がった、肉を焼き場に持って行った。


 「ここに置いておくから、好きに焼いて食べてください。皿やタレもここに置いておくから自由に使ってください」


 「……こんなに肉を持ってきていたのか? 4人分の量じゃあないじゃあないか!! 一体修行を何だと思っていたんだ? 胃袋を鍛える修行でもしようとしていたのか?」

 皿に山盛りと積まれた肉を見て、クインさんは呆れていた。

 

 「まぁ、備えあれば憂いなしと言うじゃあないですか。こうして、人数が増えても振舞うことができたわけですし」

 リーズさんも呆れたような顔をしていた。


 皆、思い思いに肉を焼き自由に食べる。蛇肉を気に入ってくれたようで、旨い旨いと口々にしながら、次々と食べていく。

 野菜なんかも追加しておいたが、あっという間に、あれほどあった肉が一気になくなっていった。


 徐々に食べるペースも落ち着いてきたところで俺はリネットさんに話しかけた。


「リネットさん、今日は何故この山に?」


「………ジークフリート様は悪魔召喚の禁忌の儀式というものをご存じですか?」

 俺が質問したはずなのに、質問が返ってきた。


「いえ……存じてません」


「そう……ですか。教会の中でもそれを知っているのは一部のものだけだったのですが、近年、異変があって、私達見習いのものも少し知ることができるようになったんです。大賢者や、裏の魔法使い、時の権力者等も知っていると聞いたので、王族であるジークフリート様が知っているかと思ったのですが」


「……まだ子供なので、教えてもらってないのかもしれません。ちなみにその異変とは、どんなものなんですか?」


「1、2年前のことでしょうか。各地で、心臓の抜き取られた竜の死体が発見されたのです。それも普通個体ではなく、特殊個体の竜の心臓がです。土竜、炎竜、水竜、氷竜、雷竜、光竜、闇竜、発見されただけでも7種の竜の奇妙な死体です。腐敗具合から言って、すべて、同時期に心臓が抜き取られているということです」

 なんだ、俺の知らないところでそんな物騒なことが起こっていたなんて、なんて異世界は恐ろしい所なんだ。

 後ろにいるアークの喉からゴクリと言う緊張した音が響いた。


「それは………変わった事件ですね。ドラゴンスレイヤーの噂は聞いたことがありますから、その方がやったのでは?」


 「それだとしたら、心臓だけ抜き取るというのはおかしな話なのです。竜の素材は余すことなく使うことができますし、持って帰って売れば、多大なお金を得ることができます」


 「そのドラゴンスレイヤーはお金に興味がなかったということでしょうか?」


 「命を懸けてドラゴンを狩るんですよ。お金に興味がない、そんなことがあるでしょうか? 冒険者に登録しているものがお金に興味がない。とても、考えられない話です。そこで教会の幹部はある一つの仮説を立てました。悪魔が何らかの方法で竜の心臓を抜き取っているのでは?そして、集めた心臓を使って禁忌の儀式の準備をしようとしているのでは?と」


 「悪魔……ですか? たしかに悪魔からすればお金には興味がないかもしれませんが、心臓には興味があるんでしょうか?」

 俺の知っている悪魔はサタン様だが、お金にも、ましてや、竜の心臓とやらにも興味があるとは思えない。興味があるのは音楽だけだ。


 「そうですね。教会に伝わる古代文書によれば、竜の心臓を一つ捧げれば低級悪魔を、三つ捧げれば中級悪魔を、7つ捧げれば大悪魔を召喚できる、そんな禁忌の儀式があるそうなんです。そう、7つです。カチリとピースがはまった気がしませんか? もしかしたら、7つの心臓を使って大悪魔の召喚を行って世界を破滅へと導く何者かががいる。この世のカタストロフィーは今もこうしている間に始まっている、のかもしれません。教会の幹部は、その仮説が現実のものとなるのを警戒しているというわけです。そこで、この禁忌の儀式の概容を皆に知らせて、星詠みの力を借りて調査を行っているという次第です」


 星詠み……あの抽象的な預言をする能力持ちのことか。あまり当てにするのはどうかと思うが。


「その星詠みは何と?」


「【双頭の白い蛇業火に焼かれる時、山腹の待合所にてその悪魔邂逅す 白い蛇は飲み込まれ、悪魔は解き放たれる 王都の一角は闇に染まり、新たな混沌が産み落とされる】という一節を預言として残したそうです。解釈は分かれるところですが、最近冒険者ギルドに白い蛇が持ち込まれたという情報があったので、それのことを指し示しているのではというのが教会の見解です。そこで、いろいろなそれらしい山に危険度に応じて、相応しいものを教会から調査に向かわせているというわけです。そして、最初の質問の答えになりますが、この辺りは危険度は低いので見習いの私達が調査にやってきたというわけです」

 

 業火ってなんだ? 白い蛇は確かに冒険者ギルドに持ち込んだが、火の魔法で倒すようなことはしていなかった。別の蛇なのではないだろうか。

 悪魔……悪魔か…


 俺の背中にへばりついて、俺の顔の横から顔を出しているアークに小さな声で尋ねる。


 「お前、悪魔なのか?」

 「何言ってるのよ?! 私が悪魔なわけないじゃあないのよ。どこからどう見ても幼気な少女の霊じゃあないのよ。この世に未練があって成仏できない可哀想な存在なのよ。もっと優しく接してくれてもいいと思うわ」


 まぁ、そうだよなぁ。悪魔を名乗っているサタン様のオーラの欠片も感じられないしなぁ。でも、例え悪魔だったとしても、今の状況じゃあ自分は悪魔ではないと言うか。


 「何か気になる点がありましたか?」

 俺が考えているのを見て、リネットは聞いてきた。

 気になるのはサタン様のことである。サタン様はこの件と関係があるのか、それともないのか。

 音楽に興味はあるようだが、世界征服のようなことには興味があるような話は一度もしていない。

 それに竜の心臓だって? そんなものなくても、いきなり顕現していたような気がする。時期的にも白蛇の討伐の前だしな。白蛇が業火に焼かれるってなんだよ。

 うん。サタン様は、この件に関係はないだろう。

 しかし、知られてしまったらいろいろやばいのだけはなんとなく感じるぞ。悪魔狩りなんて言って、火炙りの計にでもされたらたまったものじゃあない。


 俺は黙っておくことに決めた。


「クインさんが見たのは本当に悪魔だったのかと思いまして。聞けば幼い女の子だったという話でしたので」


「たしかにそうだな。普通の女の子という感じがしたな。襲われるということもなかったし、冷静に考えれば、ただの迷える霊体だったのかもしれないな」

 クインさんが肉を頬張りながら、こちらの会話に参加してきた。


「あなたには悪魔を見分ける術がないですからね、素人考えで油断をすると痛い目を見るとだけは忠告しておきましょう。ふっ」


「むぐぐ、そういうリネット、お前も先ほどジークフリート様を悪魔と間違っていたじゃあないか。王族を悪魔呼ばわりするなんてあってはならないことじゃあないか? 打ち首にされても文句は言えないんじゃあないか」


 クインさんはにやにやした顔でリネットさんに迫ると、リネットさんはぐうの音も出せない。


 「そ、それでは、そろそろ皆お腹の方も満足したようですので。調査に戻ろうと思います」

 「ほう、それでは私も先ほどの霊を探すとしようか。悪魔殺しの称号を貰うのも悪くはない。どちらが先に見つけ出せるか勝負だな」

 「これは勝負ではありません。世界を混沌から守る使命です。勝負は一人で寂しく行っていればいいでしょう。それでは、これにて失礼します。美味しいお肉をありがとうございました」

 「お、おまえ………」

 クインさん、アウトオブ眼中だな。可哀そうに。そして、その霊はずっと俺の背中におぶさっているのに二人は全く気付く様子がない。

 目の前にいるのにリネットさんが気付かないということは、やはりアークは悪魔ではないのだろう。


 「ありがとうございます。タレが美味しかったです」

 「こんな味のお肉食べたことなかったです。流石王族ですね。こんなものを毎日食べていらっしゃるとは」

 「一体何の肉だったんですか?」

 リネットさんについて来ていた男の子の質問に答えてやる。


 「蛇の肉ですね」


 「ぶふぅーーーーーー」クインさんは盛大に口の中の唾液を噴出した。

 「汚いですよ。クインさん」少し俺の顔に飛んできていたぞ。


 「へ、蛇ですか……」

 「へ、へび?! 蛇ってこんなに美味かったのか?」

 「下々の者が食べる不浄の肉だと聞いていたが………」

 リネットさん達も戸惑いの表情を浮かべている。バット君の話ではこの世界では蛇も食べると言っていたが、違ったのか。もしかして、蛇は上流階級の人達にはNGだったのかもしれない。


 「な、なんてものを私達に食べさせたんだ!! この悪魔がーーー!!!」

 

 クインさんは叫んだ。

 王族を悪魔呼ばわりするなんて打ち首にされてもおかしくなかったのではないだろうか。


 あんなに美味しそうにほうばっていたというのに、………解せぬ。

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