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第107話 君の名は。

「その強大で邪悪な闇の魔力を纏ったあなたが邪神でない、なんてことは考えられません。油断させたところで私を取り込んでしまう。そういうことですよね?」


「いや、全然違うけど」


「じゃ、じゃあ、なんで、そんな邪悪な闇の魔力を垂れ流しているというのですか? お、おどろおどろしすぎる………霊体である私の目から見ても、あまりにも異形、異質な魔力が滲みだしています。あなたは邪神様の生まれ変わりに違いありません。はっ!! もしやまだ記憶を取り戻していない、ということですか?なんらかの儀式が必要? ま、まさか生贄を集めている最中ということなの?! 恐ろしい、恐ろしすぎる」


 妄想の激しい女の子である。エドガエル君に聞こえてないようで良かったよ。俺への誹謗中傷がとどまることをしらない。


 『何かいる?』

 エドガエル君が俺に尋ねる。多分俺が一人で喋ってて変だと感じたんだろう。

 『女の子の幽霊? みたいなのがいるよ』

 『危険?』

 『いや、良く分からない』

 『幽体はレイスやリッチになって危険って聞いたことがある。こんな昼間に活動できるってことはかなり高位の幽体の可能性があるかも。ジークの身に何かあったらまずいから斬ろう』

 『えっ?』

 『【演舞・一閃】』

 エドガエル君は瞬時に、見えてないはずの女の子のいる場所を正確に捉えて、剣戟を放った。

 しかし、その剣戟は女の子に当たっていたが、するりとすり抜けた。


 「な、なによ。いきなり!! なんなの、このエルフは!? エルフってもっと大人しいのが普通なんじゃあないの。いきなり切りつけてくるなんて、とんだバーサーカーね。それに何で私が見えてないはずなのに、私を捉えてるの? 次元が違うはずなのに」


 『手応えがなかった。どう? まだ生きてる?』

 死んでる霊に対して生きてるかという問いは変な感じはする。

 『まだ生きてるね。すごい文句言ってる』

 次元が違う、だと? それじゃあ、なぜ俺は知覚することができるのか。


 『まだ、僕には切れないみたいだ』

 俺が思考していると、エドガエル君が己の無力さに落胆してしまった。


 『まぁ、クインさんも霊は切れないみたいなことを言ってたし、霊を切るには何か別の方法があるんじゃないか? また今度調べよう』

 エドガエル君は頷いた。 


 それにしても、エドガエル君は、さっきの滝行の成果のおかげか、第六感に目覚めて、この世のものではないものすらも感じることができるようになったというのか。将来が末恐ろしいことである。

 そのうち次元をも切り裂いてしまうことになるのではないだろうか。


 あれ。それにしても、待てよ。リーズさんは滝行を修めたのに、まったくこの女の子を捉えていなかったというのに、エドガエル君は早くも捉えていた。

 これは………リーズさん、早くもエドガエル君に抜かれてしまっていますよ。

 俺はリーズさんの方向を遠い目で見た。


 『エドガエル君はこの霊体を感じてるんだよね?』

 『なんとなくわかる』

 『じゃあ、リーズさんが捉えられなかったものを捉えてるってことは結構すごいんじゃない?』

  少し間が開いた後、エドガエル君は再びこくりと頷いた。心なしか元気が出ているようである。立ち直ったようで良かった。


 「ちょっと、ちょっとさっきから何話してんのよ。私にも分かる言葉で話しなさいよね」


 どうやら女の子はエルフの言葉は分からないようである。


 「彼は君が危険かもしれないってことで、排除しようとしたみたいだね」


 「はぁー? こんなにも従順な姿勢を見せているっていうのに? このエルフは血も涙もないみたいね」

 さっきまでは平伏していたが、だんだんと態度が軟化していっている気もするが。まぁ、邪神と恐れられるよりはいいか。


 「いや、姿は見えてないみたいだからね。レイスやリッチなら排除した方がいいってことだ。君は一体何者なんだ? 廃堂で一体何をしていた?」


 「………私はレイスやリッチのような邪悪な霊体じゃあありません。見てください、まだ子供、それもか弱い女の子ですよ。見た目は子供、中身も子供、その実態はこの世に未練があって成仏できない普通の女の子。私に一体何ができるって言うんですか? 何もできないですよね。どう考えても。廃堂ではちょっと休憩をしていただけですよ。そこにさっきのクインさんという方が来たので慌てて実体化して、という流れです。何か変なところがありますか? むしろ休憩中に押しかけられたんですよ。被害者は私では?」


 「まぁ、うん………」まくしたてられて、納得するしかない。「それにしても、実体化できるの? なんで解いたの?」疑問を口にした。


 「私が実体化するには条件がいりまして………」


 「条件って?」


 「闇の魔力の補給ですね。私のなけなしの魔力で実体化をしてついて来たんですけど、ここに到着するかしないかで尽きてしまいまして、実体化が解除されてしまった次第です………」


 「ふ~ん、どれくらいで魔力は回復するの?」

 実体化とやらを見てみたいものである。


 「いえ……私達は魔力を回復できません。霊ですからね。生者の魔力をちょっと拝借するしかないですね………」


 俺はそこでピンと来てしまった。今日の俺は冴えてる。伊達に見た目は子供、頭脳は大人なだけじゃあないぜ。


 「もしかして、この辺で闇の魔力をもつ者の魔力を奪ったりしてたってこと?」


 「………まぁ」


 「殺したり?」


 「殺したりなんかしてません。ちょっと魔力を頂いて、その人が疲労がたまるという感じです。魔力をとったからって死んだりはしません!!」


 多分、誰かがこの辺りで異常につかれる怪現象が起こって、冒険者ギルドに調査依頼を出したのでないだろうか。

 死ぬようなことはないから依頼ランクも低いものになった。多分当たらずとも遠からずといったところではないだろうか。


 「クインさんに何かしたのか?」


 「そんな、魔力が全くなかったので、何もしてませんよ。というかするだけ無駄というものです」


 クインさんはやはり、魔力がないのか。そうだとすると、クインさんについて来たってことは………


 「もしかして俺達から魔力を奪おうとしてたってことか?」

 

 謎は全てとけた。じっちゃんの名にかけて。


 俺の言葉にエドガエル君は再び臨戦態勢に入る。


 「そ、そういう考えもあった時期が私にもありましたけど、ここに一歩足を踏み入れてあなたの不遜なる狂気の魔力を見て、そんな考えは一気に吹き飛びました。そんな戦おうなんて思わないでください。ほら、そっちのエルフにも言ってください」


 俺はエドガエル君に下がるように言った。


「それで君は一体霊体になって何をしてるの? 場合によっては討伐しなくちゃあならないかもしれない」


 「よくぞ聞いてくれました。私こう見えて不成仏霊というものみたいです。おっと、不成仏霊は何かって顔ですね。いいでしょう。最初からご説明します。不成仏霊っていうのは、この世に未練が残ったり、生前の行いにより成仏できずにいる霊のことですね。だから私を討伐するなんていう物騒な考えは忘れ去って欲しいのです。どうせなら、私の未練を取り去って成仏するのを手伝ってもらえればなぁなんて考えている次第ですね。そうすれば、どのみち私はこの世から消え去ってしまいます」


 「……未練って?」


 「私を3回満足させて欲しいのです。1回でも、2回でもなく、3回です。この3回というのがポイントです。かの有名な(いにしえ)の魔神も願い事は3つ叶えてくれたって言うじゃあないですか。こんな幼い女の子がこの世に未練があるというんですよ。ちょっとは助けようって思うのが普通の人の感覚ってものじゃあないんですか?」


「満足って……えらく抽象的だなぁ」


「こんなに儚くこの世を去ったんですよ。楽しい思い出がちょっとくらいあったっていいじゃあないんですか? それとも、何も楽しいことも経験せずに死んで、この世からバイバイなんて、あんまりというものじゃあありませんか?!! どうなんですか?!」


「まぁ、たしかに………3回満足したら、成仏するんだな? でも、具体的には例えばどういうことをすれば満足するんだ?」


「例えば……そうですね。この世界の美味を味わうとか、体験したことないような音楽を聞くだとか、見たとこの無い感動の景色を見るととか。手始めに、五感を震わせる何かを体験してみたいですね」


 えらく具体的だな。それなら、とりあえず試してみるか。

 俺は【闇収納】から【キングオブイモ】に認められたサツマイモで作ったスイートポテトを取り出した。


 「これを食べてみてくれ。スイートポテトというスイーツだな」


 「今のは闇魔法でも珍しい【闇収納】。そこから取り出した怪しげな食べ物。ごくり。………しかし、私は実体化しないと味覚を感じることはおろか、食べることすらできません」


 チラリと俺の方を見る。


 「じゃあ、俺の魔力を使ってもいいぞ」


 「な、な、なんと。本当にいいんですか?」


 「ああ、いいぞ」


 「それでは、失礼して」


 おもむろに俺に抱き着いて来た。そして、コアラが木にひっつくように、俺の身体にびったりとくっつく。そして、服の上から顔をひょっとこのような口をして、ぐりぐりと押し付けてくる。

 

 「うひょ~。芳醇な魔力の香りじゃ~。濃厚、どろりと喉を流れるこの感覚。間違いなく未来で名のある悪魔の一柱となるじゃろう~」


 言葉遣いがおかしくなっているぞ。というか、これで満足1回しているのではないだろうか。


 「満足したか?」


 「魔力を吸うことは満足したことにはならないわ。この世に未練があるんだから。当然でしょ」


 「まぁ、そりゃ、そうか。じゃあ、これを食べてみてくれ」


 俺はスイートポテトを渡す。エドガエル君も欲しそうにこっちを見ていたので、手渡した。


 「これは何なの? へぇ~、芋から作られているのね。でも、この私がたかが芋で満足するとは思わないけどね。まぁ、あなたがどうしてもっていうなら、食べてみるわ」


 手にしたスイートポテトを半分齧った。


「な、な、なんなの、これは~!! この濃厚な甘味、サツマイモ本来の甘味に加え………これは、これはミルク、いえ、もっとミルクを優しくした味、その二つの甘味が奏でるハーモニー。いや、なにより、こんなサツマイモは食べたことがないわ。形容する言葉が子供の私には語彙力がなさすぎてでてこない。まさに思い浮かぶ言葉は極楽という二文字のみ。芳醇な闇の魔力で、より味覚が鋭敏になってしまっている舌が、この味に……あああああ、耐えられない!!!!」


 今にも成仏してしまいそうな恍惚とした表情を見せている。


 「あ、あ、そんな、まさか、違うのよ。全然、満足してないのに。どうしてなの?」


 「どうしたんだ?」


 「あと2回満足したら成仏してしまうみたいだわ」


 今ので1回クリアと判定されたということか。なんだ、案外、簡単にクリアできそうだな。


 「良かったじゃあないか?」


 「な、なによ。そんなに私に早く成仏してほしいってわけなの?」


 「成仏したいんじゃあないの?」


 「そ、それは、そう、だけど………できれば、もうちょっとどうせなら楽しみたいっていうか………」


  なんか難しいな。

 「そういえば、自己紹介がまだだったね。俺はジークフリート。で、こっちがエドガエル。君の名は?」


 「そ、そうよね。これから、長い付き合いになるかもしれないから、自己紹介は重要よね。私の名前はアーク・マーノコ。アークって呼んでちょうだい」





 


 


 


 

 


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