第106話 シックスセンス
さ、寒い………
そして結構痛いんだが。滝行を舐めていた。
「身体強化をちゃんと発動してください。そして、集中です。家庭教師が言ってました。滝行は精神的強さだけでなく、肉体的強さも手にいれることができる、と」
リーズさんが激を飛ばしている。
俺は身体強化を発動させる。ひとまず頭と肩を中心に部分強化をかける。
隣ではエドガエル君も滝行をしている。目をつむり精神を統一させている。ときおり体がぶれているように見える。
『何かしてる?』
『上から落ちてくるものを避けてる』
なん……だと。
エドガエル君はまだ身体強化魔法は苦手としている。しかし、どうやら脳内麻薬の次の段階に歩みを進めてしまったようである。
目を瞑って、感覚だけで上から降ってくるものを避ける、だと。第五感を越えた第六感を会得しつつあるというのか。この調子でいけばその更なる先である第七感であるセブンセンシズに目覚めて黄金の闘気を纏ってしまうのか。
対して俺の身体強化は、まだ完璧とはいいがたい。しかし、上から落ちてくるものが致命傷にはならないくらいには成功している。
それでも石等が当たれば少し叩かれたかなというくらいには痛みを感じる。
集中。集中するのだ。何も考えず。無我の境地に立つのだ。
何も考えるなと思うと、逆に考えてしまうのが常である。俺は先ほどのバット君の二つ名を思い出し、先日の出来事を思い出していた。
白蛇を討伐して、空から帰還した俺達は、光魔法で透明になって、スラム街近くに白蛇に乗って降り立った。そのあとはいつも通りバット君とロビンちゃんに魔物の処理は任せていたのだが………
俺が行かなくて良かったぜ。
白蛇のグリフィスという、どこか信用できない感じのする二つ名をもらってしまうところだったぜ。どうせなら鷹の魔物あたりを狩って二つ名を頂きたいところである。
ちなみに白蛇は銀貨10枚、つまり10万くらいで売却できたらしい。牛一頭が100万くらいと聞いたことがあるので、それに比べれば安いが一人あたり2万5千円ほど儲かったと考えれば悪くない収入であったといえるだろう。
闇魔法でもう一匹収納しているのを黙っているのは罪悪感があったが、銀貨5枚でも飛び上がるほど喜んでいた。
「この硬貨も換金できれば良かったんだが、駄目だったぜ。今度グリフィスの魔法で帝国まで飛んで行って全部使おうぜ」
そう言いながら、硬貨を数えだすバット君。自分が集めた情報でゲットしたお宝をちゃんと皆で分け合おうとするなんて、王族である俺が白蛇を一匹ちょろまかしているのが恥ずかしいぜ。
「数えたら100枚ほどあったから25枚ずつだな!!」
数える時に時々ポケットにちょろまかしているのを、俺の目は捉えていた。
うむそれでこそバット君だ。俺の後ろめたさは見事に消え去った。
ギルドでどのように立ち回ったのかは分からないが、二つ名を頂くほどには注目されてしまったということだろう。クインさんは自分を高めるという考えに至ったようだが、人によってはバット君にちょっかいをかけようとするやつも出てくるだろう。どこ中の誰々、出てこいや、みたいなそんな奴らに絡まれる可能性も否定はできない。俺でなくて良かった。
そんなことを考えながら滝に打たれていると、水の冷たさにも慣れてきて、体が浮き上がってくるような感覚にみまわれる。
何か、何か掴めそうな。
自然と一体になりかけるほどの時間が経ったその時、クインさんの叫び声が響き渡った。
ゴン!!
その時、集中力を切らしてしまった俺は身体強化をきってしまい、運悪く、丁度その時頭上に石が落ちてきたのだった。
痛ーーー!!!!
俺は滝から出て目前の水の中へと浸かり、陸上へと目指した。
俺とエドガエル君は水から上がると、そこにはクインさんと心配するリーズさんが向き合って会話していた。
「どうしたんですか? クイン、叫び声をあげて」
「………た、たしかに、さっきまで、ここに小さな女の子供が……ど、どこに、いや、そんなどこかに行く時間は……なかった……はず」
「女の子? どこにいるんです?」
「ここに一緒に来たんだ。廃堂の中にいたんだが、危ないから一緒に皆のところに行こうと誘って、連れて来たんだが………」
「……変な夢でも見たんじゃあないですか?」
「いや、あれが夢であるものか。なによりさっきまで手をつないでいたんだ」
「なにか変なキノコとか拾って食べませんでしたか?」
「なっ!! そんなことをするわけないだろう。リーズ。たしかにさっきまでいたんだ。金髪で碧眼の人形みたいな女の子が。ま、まま、まさか、レイスだったというのか。いや、それにしては実体がやけにはっきりしていた」
「何をいってるんですか。こんな真昼間に活動できるレイスはいませんよ。もしいたなら、それはもう日光を克服した新種のレイスということになりますよ」
「いや、しかし、本当にいたんだ。はっ!! レイスが調査内容の原因だったということじゃあないだろうか」
「いやいや、それだとFランクのクインが受けれるわけがないですよ。多分、気のせいですよ」
「いや、あれが気のせいであるものか………もう一度、廃堂を調べるしかないか……」
ちらりとリーズさんの方に視線をやる。
「一緒に来てほしいんですか? クインは昔からお化けとかそういうの苦手ですもんね」
「ち、違うぞ!! き、切れないものが苦手なだけだ」
「……まぁ、こんな明るい時間に出るとは思いませんけど……」
う~ん、さっきから二人の話を聞いていて思ったのは、クインさんの隣にはたしかに金髪の女の子が震えて立っているのだが、なぜか二人はその女の子を認識できていないのはなぜなのかということである。
何でだ?
その時先ほど頭上から落ちてきた石の衝撃を思い出した。
ま、まさか。シックスセンスか?!!!
俺は実はあの衝撃で死んでしまっていて、霊が見える体になってしまったということか。あわ、あわわわ。
いや、落ち着くんだ。まだ慌てるような時間じゃあない。
「あの、俺って生きてますか?」
「こんな時に何を言ってるんだ?全然元気だろう」
「クイン、滝行を経ると、白い世界へと誘われ、無我の境地へと到達すると言われています。ジークフリート様は初めての滝行でその感覚の片鱗を味わってらっしゃるのでしょう。そう、まさに第三者の視点で自分を俯瞰するような、私はその感覚を手にするのに5回は滝行をしたというのに……どうやらこの修行方法はジークフリート様にぴったりだったようですね。私達は今から廃堂の方へと様子を見に行って来ます。すぐに戻ってきますので、もう一度滝行を行っておいてください」
どうやら映画の主人公のように実はもう死んでいるということはないらしい。ふー、危ないところだったぜ。
それではあの震えている少女は一体誰なのか。俺だけにしか見えないということは、リンネのような妖精ということも考えられる。はたまたサタン様のような悪魔なのか。ひとまず皆には言わない方がいいだろうか。
そんなことを考えているとリーズさんとクインさんは廃堂へ向かって行ってしまった。
女の子はクインさんに憑いていくかと思ったが、その場にとどまって震えている。
「………?」
俺は無言で見ていると、その少女は産まれたての子鹿のようにぷるぷると足震えさせながら、地面に膝をつけた。そして、頭を垂れて蹲えた。
「じゃ、じゃしんさま~。い、い、いのちばかりは、お、おたすけを~」
俺は辺りを見回したが、邪神らしき魔物はどこにもいない。
女の子は頭を上げて、こちらと目線が合った。すると、さっと目線を外して再び平伏した。
どうやら俺のことを邪神と勘違いしているようだった………




