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王族に転生した俺は堕落する  作者: かぐや


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第105話 新世代の幕開け

 「暑い、暑いとおっしゃいましたので、今日は修行内容を改善してきました」

 「それはありがたいです。その早急な改善、きめ細やかな心配り、ヨハンお兄様にそれとなく伝えておきたいと思います。リーズさんは将来有望な子女であると」

 リーズさんの特訓内容は無属性魔法である身体強化を自在に使いこなすことに主眼をおいてくれているので、それほど動くことはない。練習メニューとしてはかなり楽な部類だといえるだろう。

 しかしである。最近の暑さはどうなっているのか。夏本番という日差しの強さ。炎天下の中、溶けていくアイスのように俺の皮膚からは滝のような汗が止まらない。そして、ただ立っているだけでもかなり体力を消耗してしまう。熱中症という概念がないこの世界において、脂肪を纏った俺の危険信号は誰にも理解されることはない。

 いや、1人だけ救世主がいたのだ。リーズさんである。彼女は俺と密約を交わしている。お兄様の情報と引き換えに、俺の要望に善処してもらっているのだ。

 「今日は近くの山で修行をします」

 「山………ですか?」

 期待外れじゃないと言えば嘘になる。平地より涼しいのかもしれないが、たかがしれているのではないだろうか。

「少し不服そうですね」

 「すいません。山での修行となるとそれほど暑さに改善がされるのかな?と考えてしまいまして」

 「暑さを解消して、なおかつ集中力を高めることができる方法を考えています」

 「おお、流石です。それはどんな方法ですか?」

 「その山には滝が流れる場所がありまして、その滝に入って精神を集中させるのです。己と向き合い自分自身を見つめなおすこともできます」

 「おお!! それは、素晴らしい修行ですね」

 この暑さだ。滝の温度が心地よく感じるのではないだろうか。何より動かないでいいというのが素晴らしい。立っているだけでさえ、頭がふらついてくるのだ。くそ、この我儘ボディが憎い。

 しかし、しかしですよ、むふふ、滝行ということは、リーズさんとクインさんの水着姿も見ることができるということじゃあないですか。これは目の保養になるぞ。


 期待に胸を膨らませて俺達はリーズさんの用意してくれた馬車で近くの山まで向かうことになった。山の中腹に馬車を待機させて、滝のある場所まで川沿いに山を登っていくとほどなくしてお目当ての場所に到着した。


 「おお、素晴らしい滝ですね」

 眼前に広がっているのは、20メートルくらい上から岩壁を流れ落ちる巨大な滝だった。

 エドガエル君も俺に同意してうんうんと頷いている。

 滝の下流は水が弾け飛び、ドドドという音は空気の振動となって体に伝わってくる。霧のような飛沫が絶えず舞い上がり、俺のところまでその飛沫は飛んできている。


 (あれ、結構衝撃が強すぎるような………滝行なんてやったことがないから、いまいちよく分からない。こんなものなのだろうか。ん、なんか木の枝とか、よく見ると小石なんかも落ちてきていないか?)

 「あの~、よく見ると石とかも降っているように見えるのですけど、危なくないですか?」

 「素の状態だと危ないですね。そこで身体強化というわけです。身体強化を頭と肩に集中させてダメージを軽減させるのです。この滝行を通じて、ピンポイントに身体強化をかけるコツを掴んでください。そして、身体強化を持続的に発動できるようにするというのがこの修行のポイントになります。それでは、これに着替えてください。」

 

 ただ立ってるだけのお気軽な修行ではなかったというのか。しかし、この暑さを解消してくれるなら、水の中に入るというのは抗えない誘惑がある。

 俺はリーズさんから、滝に打たれる用のローブのような服を渡された。俺とエドガエル君はシャツとズボンを脱ぎすてて、パンツ姿の上からそのローブを羽織った。

「リーズさんとクインさんも滝行をするんですか」

「いえ、私達が滝行はしません。着替えを持って来てませんので」

 そんな、騙したな!!

「私は以前に家庭教師の人に連れられてしたことがありますし、クインは身体強化を使えないので意味がないです」

「身体強化を使えないからこそ、この滝行で身体強化を使えるようになればいいじゃあないですか」

 俺がクインさんの方を見ると、皆の視線がクインさんに集まる。

 着替えがないなら下着でもいいのではないだろうか。ここにいるのは、子供の俺とエドガエル君しかいないのだから。

「私には魔力がない。だから、そのようなことをしても身体強化が使えるようにはならない。それに私は今日やることがあるんだ」

「やることですか?」

「そうだ」

「……それは?」

「お前たちの訓練の時間でもあるが、同時に私達の訓練の時間でもある。だから、ギルドでこの山でできる依頼を受けてきた。私はその依頼をこなして、己の訓練とする」


「クインさんは冒険者に登録しているんですか?」

 そういえば【スライムスレイヤー】というサイコパスな称号を持っている疑惑があるのだった。その辺を聞いてみたいところである。

「ふふん。そうだ。リーズとたまに依頼をこなしている」

「お金に困っているんですか?」

 リーズさんは貴族だというのに。なんとも世知辛い世の中である。そんなことを思って尋ねてみると、全然そんな理由ではなかった。

「そんな訳ないだろう。最初は自分の実力を試すのに丁度よい魔物を狩ろうと思ってな。ただ狩るだけでは勿体ないということで、冒険者に登録したというわけだ。小遣いにもなるし、訓練にもなる。登録して良かったよ」

「他の皆も冒険者に登録してるんですか?」

「いや、してる者の方が少数派だろうな。するとしても、もう少し大きくなってからだな。ただ市井では10歳くらいで登録するのは結構いるみたいだぞ」

 まぁ、バット君達ですら逞しく冒険者として活動してるくらいだからな。

【スライムスレイヤー】のことを聞きたいところだが、俺が知っているのも変な話なので聞き方が難しい。

 

「今日はどんな依頼を受けたんですか?」

「なに、簡単な調査依頼だ。この山にある廃堂の調査をするのだ。もし、魔物なんかが住み着いて討伐すれば、それも報酬になるのだ」

「一人で大丈夫なんですか?」

「この辺りに危険な魔物はでないからな。せいぜい住み着いていたとしてもスライムや吸血蝙蝠くらいのものだろう。早速、私は廃堂に向かうとするよ。お前たちは滝行を頑張っておけよ」


 クインさんは後ろ向きに手を振りながら行ってしまった。

 リーズさんは少し不安な顔でクインさんを見送っていた。

 

 「本当に大丈夫なんですか?いつもは二人で依頼をこなしているのでは?」

 「それが………なにやら焦っているようでして」

 「焦っている?」

 「はい。実は私たちの世代ではクインはちょっとした有名人なんですよ。【スライムスレイヤー】この称号をジークフリート様は聞いたことがありませんか」

 「……いえ」俺は咄嗟に嘘をついた。8割方そうではないかと思っていたがやはりそうなのか。

 「私たちの世代でこの称号を持っているのは、孤児院出身の『孤高のバウアー』、教会の見習いの『微笑のリネット』、貴族の子女の『赤髪のクイン』、この三名だけです。クインはその称号を口では嫌ってたので、自分で吹聴することはなかったのですが、どこか誇りには思っていたんだと思います。しかし、今新しい世代が台頭してきて、自分は停滞していると感じてしまったようなのです。それで、今回の依頼は私が協力することに首を縦には振らなかった、というわけです」


 「停滞ですか……訓練は頑張っているのでそんなことはないようには思いますが」

 そんなに根を詰めてもいいことはないような気がするが。

 「そう……ですよね。私もそう思うんですが、新世代の台頭を聞いて自分の歩みが遅いと感じてしまったんだと思います」

 「そんなものですか。人は人、自分は自分、それでいい気はしますが。ちなみに新しい世代ってのはそんなにすごいんですか?」


 「ええ、私も聞いただけなんですが、少しづつ頭角を現し始めているそうです。そして、どうやら私とクインよりも子供らしいんですよ。それがまたクインを刺激しているというわけです」

 「へー、そんな子供がいるんですね。何ていう子なんですか?」

 「スラム街の住人『白蛇のバット』」


 俺の目玉は飛び出るかと思った………


 



 

 

 

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