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第104話 死闘

 預言を少し修正しました。

 歓待を受けたあと、1人の案内人を伴って俺たちは山を登ることになった。

 食後の運動にはちょうどいいだろう。

 案内人がいるためにバット君は相変わらず眼帯をつけたまま、ロビンちゃんの服を掴んで一番後ろからついてきている。

 山の中腹までは人の通れる道を進んでいたが、途中から案内人はそこを外れて木々の中を入っていく。

 そして少し進んだところには切り立った崖の木々で覆い隠すような場所に大人3人が横に並んで進むことができる洞穴があった。


 「あそこです。大蛇は暑さを嫌うので、昼は洞穴からあまり出てきませんので、今はあの洞穴の中にいると思います。どうかご武運を。私はこれで失礼させていただきます」

 「はい。案内ありがとうございました」


 案内人の男は俺達を穴の前まで案内すると村へと引き返した。


 「ふー、やっと眼帯が取れるぜ。この洞穴にジン爺の宝があるんだな」

 「どうだろうな。その可能性は高い気がする。山道からそれほど離れてないし丁度良さそうな気はするな」

 「ほ、本当に大蛇なんか出てきて大丈夫ですか?」

 ロビンちゃんが心配そうに尋ねた。

 「たぶん大丈夫じゃあないか。所詮蛇でしょ」

 大熊を倒したこともあるし、大猪も倒したことがある。今さら蛇にびびることはないだろう。

 「そうだぞ、ロビン!! 【星詠み】の預言でも俺達4人がたちどころに解決するってよぅ!!」

 いやあの預言はあまり信用しないほうがいいぞ。ほとんどが外れている。

 

 俺たちは洞穴へと足を踏み入れた。少し進んでいくと入り口からの光が届きにくく、一歩前進する毎に薄暗さが増してくる。

 ほどなくすると、一段と広い空間へと踏み入った。

 そこには10メートルはあろうかという大蛇が確かにいた。

 しかも2匹だ。

 とぐろを巻いて微動だにしていない。


 「うっ」

 「お、大きい」

 バット君とロビンちゃんは後ずさる。


 その声に反応したのか2匹の大蛇はピクリと反応を示し、鎌首をもたげた。

 そして、赤く光る双眸は俺達のことを確実に捉えた。

 その隣には小さい魔物も一匹ちょこんとたたずんでいる。


 大蛇Aがあらわれた。

 大蛇Bがあらわれた。

 スライムがあらわれた。


 まるでゲームのログが俺の頭にはよぎるかのように、3体の魔物が並んでこちらに対峙してた。


 「俺達にスライムは任せろ!! 残りの2体は任せたぜ!!」

 バット君が叫んだ。

 その状況判断嫌いじゃないよ。

 大蛇にバット君とロビンちゃんが立ち向かったら邪魔でしかない。

 ただスライムはもはや戦闘の邪魔でもないから2人だけ逃げてもらってもいいのだが………

 そんなことを考えていると、横にいたエドガエル君が大蛇Bに飛び掛かった。

 あのどこかトリップした目は、【脳内麻薬(エンドルフィン)】!!

 【脳内麻薬(エンドルフィン)】キマッたエドガエル君の剣筋はもはや目で追う事もできないくらい速い。

 空中で剣を振りぬいた姿でゆっくりと地上へと降り立つ。

 その後ろには切り飛ばされた首がどさりと地上に転がる。

 圧殺

 瞬殺

 預言のとおり簡単に大蛇Bが倒された。

 残ったのは大蛇Aとその横には首から上が切断されたとぐろを巻いた大蛇Bの胴体が残っていた。

 大蛇Aは大きな口を開けて、「キシャーーーー!!」という威嚇音が発したと思ったら、その体を発光させ始めた。

 「何を?」

 大蛇Aは何らかの能力を発動させたようだ。すると、大蛇Bのちぎれた首から上の方も発光を始め、ずるずるとその切られた断面から新しい胴体が再生し始めたのだった。

 「マジか?!」

 もしかして同時に倒さないといけないってやつか?

 『同時に倒そう!!』

 俺はエドガエル君に向かって叫ぶ。

 エドガエル君は俺の考えを瞬時に汲み取って一度だけ頷いた。

 

 俺は圧縮した光魔法を大蛇Aに向かって放つ。

 【光増幅放射魔法(デスビーム)


 エドガエル君は【脳内麻薬(エンドルフィン)】を決めて再び空中で横一閃。


 俺の魔法は大蛇Aの額を打ち抜いた。

 エドガエル君の剣撃は大蛇Bの首を再び切り飛ばす。


 今度は2匹とも再生されない。


 『どうやら倒したみたいだね』

 『そうだね』

 

 再生してきた時は焦ったけど、ただそれだけだったな。攻撃を受ける前に倒してしまった。預言のとおりたちどころに無に帰したと言えるだろう。


 「うぉおおおおおお!!! おらぁ!! ロビン!! そっちにいったぞ!!」

 「えいっ!! えいっ!!」

 

 声のする方をみると、バット君とロビンちゃんはスライムと死闘を繰り広げていた。

 防御力はあげてあるので、スライムによって致命傷を負うようなことはないだろう。

 俺は2人の戦いを見守った。


 「ふー、なかなか手強いスライムだったぜ!! おっ!! 大蛇を倒したのかよ!! 2人とも流石だぜ!! あれっ?! 3匹いたのか? 死体が3匹いるじゃあねぇか?」

 「いや、魔法を使ったか、何かで、体が再生をしたんだ」

 「何だと? そんな魔物を2人で殺るとか………流石、求道者と怪物ってことかよ」

 その2つ名やめてね。バット君は何かに気付いて続けて口を開いた。

 「それにしても、この大蛇持って帰れないかな?ほら、グリフィスの魔法で飛ばすとかしてさぁ」

 闇魔法で収納していけるが、言われてみれば、飛ばして持ち帰ることもできるか。

 「けど持ち帰ってどうするんだ? 魔石なら取り出せばいいんじゃあないか?」

 「何言ってるんだ? 蛇肉だぞ。蛇肉は美味いから持って帰ればいい値段で売れるんじゃあないか?」

 「蛇肉って美味しいの?」

 「蛇肉食べたことないのかよ。結構いけるぜ」

 蛇肉は前世を合わせても食べた経験がない。俺は首のない胴体の肉の一部分を切り取った。

 そして土魔法で竈をつくり、光魔法で火を起こす。

 「おいおい、ここで調理するのか? ま、まぁ、確かにこの蛇がどんな味がするか興味はあるな。村の御馳走には肉も出なかったし」

 「あ、ああ。これだけ大量にあるんだ。ちょっと食べてみようぜ」

 すまん。肉は出ていたが、バット君には食べさせていなかっただけである。

 「じゃあ俺はグリフィスが調理している間にジン爺の宝を探すぜ」

 「じゃあ私は大蛇の魔石を取り出します」

 エドガエル君はロビンちゃんが魔石を取り出す手伝いに動く。


 俺はゆっくりと大蛇の肉を石の上で焼く。肉から脂がゆっくりと滴り落ち始めて、先ほど食べたばかりだというのに食欲をそそる匂いがたちこめる。

 俺は闇魔法で塩コショウを取り出す。シンプルな味付けで大蛇の肉を味わうことにする。


 俺は一口サイズに焼きあがった肉塊を切り分けていく。


 「何だこれ?」

 「見つかったのか?」

 「いや、こんなものが落ちてた」

 バット君の手に抱えられていたそれは数人分の防具や武器だった。


 「この大蛇を討伐しようとした冒険者か、ジン爺の宝をとりに来た誰かか? 多分どちらにしても、さっきの大蛇に返り討ちにされた誰かのものじゃあないか」

 実はそんなに強かったのだろうか。

 実力のほどはいまいち分からない。

 「これって貰ってもいいのか?」

 「いいけど、何か死んだ人のものって何か縁起が悪くないか? サイズも合わないしやめておいた方がいいんじゃないか?」

 「ん~……たしかに。じゃあ、この剣だけでも貰っていこうかな。最悪売ればお金になるし。ロビンはいるのあるか?」

 「じゃあ、このナイフを貰おうかな。いつもグリフィスさんに借りているの悪いし」

 逞しい兄妹である。

 

 俺は土魔法で中央に墓石を作りだした。その手前の土を魔法で操り穴を掘る。

 「ここに残りは埋めておこう……あっ!!」

 地面でできた穴に黒ずんだ布の袋が転がっていた。

 「どうした…って、これじゃあないか?!」

 バット君が駆け寄ってきて、穴から布袋を取り出す。そして布袋の入り口を閉じている紐を緩めて、中をのぞく。

 「やったーーーー!! 金貨だ、ジン爺の言ってたことは本当だったんだ!!! 俺たちはお金持ちだぜーーーーっ!!!!!」

 俺も見てみると、確かに金貨ではあるが、見たことのない金貨である。これが帝国の金貨か。さて価値はどれほどのものなのだろうか。

 「これ、大蛇の魔石です。頭の付近にあったので、2個とれました」

 ロビンちゃんが俺に大蛇の魔石を渡してくれる。

 「これでミッションクリアーだな。なんだかんだで全部上手くいったみたいだな。ちょうど肉も焼けたから皆で食べてみようか」


 俺は蛇肉を1つ口の中に放り込んで、ゆっくりと咀嚼した。

 その味は鳥の肉に近い気がする。歯応えは胸肉というよりモモ肉に近い。少し弾力のある噛み応え。一口噛むごとに滴る肉汁。

 これは焼き鳥のタレと絡めれば確実に美味いやつだと確信を持てる。

 

 その時、俺は気付いてしまった。

 圧倒的閃き!!

 とんでもないミスを犯してしまったことに。

 圧倒的後悔!!!

 なんてことだ………

 俺の体はワナワナと後悔で打ち震える。

 ぐにゃりと視界が歪む。


 もっと再生と破壊を繰り返しておけば、蛇肉を無限に生成することができたのではないだろうか。

 一匹を狩る。

 もう一匹に再生させる。

 これを繰り返すだけで、無限焼き鳥製造機とすることができたのではないだろうか。なんという勿体ないことをしてしまったのだろうか。

 3人も美味しそうに蛇肉を食べている。あっという間に焼いた蛇肉は全て平らげてしまった。

 

 「この俺が眉間を打ち抜いた大蛇は飛ばして持って帰ろう。なんなら、この大蛇の身体にしがみついて帰るか?」

 そうすれば4人別々に魔法をかけないでもすむ気がする。大蛇に4人を固定して、大蛇に【飛行】の魔法をかけるのである。そっちの方が楽そうである。


 「そんなことができるのかよ。流石だな。こっちのはどうするんだ?」


 「討伐の証明もいるだろうから、切り飛ばした首は村に置いていこう」


 首のない胴体二つは闇魔法で収納してしまおう。

 

 「じゃあ、この大蛇にみんなまたがってみて」

 

 大蛇Aごと皆を浮かせる。


 「おお、浮いてる!!」

 「すごい」


 首だけになった大蛇Bも浮かせる。


 「このまま村の上空に出るから、バット君は眼帯をつけておいた方がいいんじゃない?それと防具を脱いでまたパラシュートを装着してね」

 「村には寄らないのか?」

 「あんまり交流を持ってもよくない気がするからな」

 本来俺たちはこんな王都から離れたところにいるはずがないのだからな。

 「たしかにな。宝を寄越せって言ってくるかもしれないしな」

 バット君はジン爺の布袋を大事そうに握りしめる。

 出口の方へとロビンちゃんの意識が向いた時、後ろに転がっている2つの大蛇の胴体を闇魔法で収納する。

 そして、死んだ大蛇にのったまま、村の上空へと出る。

 そしてそこから大蛇Bの首を村の入り口付近に落下させ、王都へ向かって飛び去った。


 ☆


 「大蛇の首が空から!!」 

 「御使いさま達がやってくださったんじゃ!!」

 「おおお!!」

  村人たちはどよめいた。

 「奇跡じゃ!! 奇跡じゃあ!!!」

 「村長様!! あれは?!」

 「あ、あれは!大蛇を従えておる!! 村人たちよ、私の盲いた目の代わりによく見ておくのじゃ」

 「村長、来た時と同じ緑の変な衣を着てるぞ」

 「まるで蛙の皮膚を纏って龍に跨っているみたい」

 「おおおおおお、『3人の従者を従えた天翔ける龍の巫女、その者たち緑の衣をまといて天を翔けるべし』【星詠み】の預言は真実であった!! バークシャー・ガードナー!! その預言見事なり!!!」

  村人たちの歓声は空の4人には届くことなく、凄い速さで西へと遠ざかっていくのだった。


 

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死闘でも、ほんわかなのがいい。
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