“スルー”スキル
礼拝堂の右奥の扉を出ると長い廊下があり、左側に5つほど扉がある。その廊下をまっすぐ進み、突き当たりすぐ左に、浴場がある。
ちなみに、礼拝堂の左奥の扉を通るとその逆の作りになっていてどちらの扉からもでも浴場に行けるようになっている。
浴場に向かう途中エドモンドに近づき、こっそりと話しかける。
「ねぇ、ササクレたんとか、他のギルドメンバー誰か来てる?」
「……いいえ。来ていませんよ。」
「えー、困ったな……今なんか喋りづらいち」
と言っていると、エドモンドが鼻を摘みながら少しずつ距離をとっていく
「おい。 」
「すみません。あまりの臭さに鼻がもげそうです。俺の綺麗な顔が台無しです」
ーーーこいつー!ついに俺の綺麗な顔とか自分で言いやがったな!
私は、エドモンドに飛びかかる。必死に剥がそうとするエドモンド。
「この臭いをお前に擦りちゅけてやるー!」
「やめて下さい。 やめて下さい。 ……辞めろ!小型ゾリラ!」
「な?! な?! なんだと! てか、何でしょんな分かりづらい例えで!」
そんな感じで言い争っていると
「ワハハ! 仲が良いな! 似てないが兄妹か?」
ヴィグールが笑いながら全く見当違いな事を聞いてきた。
「違いましゅ! 」
私は、全力で否定する。
「いえ、違います。……どちらかと言うと、親子ですかね? 母です」
とエドモンドが私を指さす。顔は真面目だ。
「そ、そうか。」
ヴィグールは苦笑いだ。
ーーーこ! こいつ何言ってんだ? おい!?ヴィグール見てみろ!どう反応していいか、わからないって顔してるじゃないか!
……嫌、でも、確かに作ったのは私だし、あながち間違いじゃないのか?
そうこうしてる間に、浴場につく。浴場は“漢”と“女”真ん中に“中”と書いた暖簾がかけてあり3つに分かれている。
「では、俺は客間でお待ちしてますね。客間は先程の廊下の一番手前の部屋です。あ、鎧や服も臭いますので、洗って下さいね。乾かしてる間は、こちらの着替えをお使い下さい。」
と相変わらず無駄な動作を交えながらジルフリーク達に着替えを渡す。
「助かる。」
ジルフリーク達はエドモンドの動作に若干引いているが華麗にスルーだ。着替えを受け取り、浴場に入っていく。
ーーーどこからそのたくさんの着替え持ってきたんだ?……こいつ、できるな!
私は、そんな事を思いながら着替えを受け取り浴場に入っていった。
脱衣所で《ウサぐるみBOX》の装備をとく。すると身体に巻き付いていた羽が元の形に戻る。返り血で真っ赤な羽になっている。
ーーーおかしい。
そう、おかしいのだ。以前ならモンスターを倒しても血のようなものが出るのは見えても自分に着いたりしなかった。
周りに着いた血のようなものも戦いが終わると消えていたはずだ。それに赤ではない。
私は、鏡の前に立ち、赤くなった羽を見ながら考える。……右手を右目にそっと当てる。
「……舞い降りた……今こそ運命の岐路、時は来た、我こそ紅に染まった神の使い」
私の右目が疼きだした。
「って、ちがーーーーう!」
一人乗り突っ込みに泣きたくなる。
スピカさん何してんのかな?なんて考えながら、とりあえず、風呂に入ることにした。
赤くなった羽を洗い流しお湯に浸かる。
「フーっ。極楽、極楽! 本当、お風呂作ってて良かったよねー。あにょ時は、なんでこんな意味にゃい物をお金を出ちてーとか言ってたけどね。ありがたやー。前は、こんな機能なかったち………………」
私は、言いながらも薄々とどこかで考えてはいたが、そんな事はないと、考えないようにしていた事をきちんと考える事にした。
ログアウトの出来ない状況、意思のあるように動き、喋るNPC、臭い、感触……
ゲームウィンドウを出してみる。やはりログアウトボタンはなくなっている……
ーーーこれは……やはり私、漫画や小説でよく見た、異世界に来ちゃった♪って、やつなんじゃないの?じゃなきゃ、いろいろと説明つかないし、科学の進歩って言うにも限度を超え過ぎているし。
まさかね……
……
……
「……!! 異世界きたー!ヒャッホーーーイ!」
私は、叫ぶ!
「これ絶対、最強の天使が現れたとか言われちゃって、いろんな国で無双しちゃったりとか?! 冒険者になって、凄い新人が現れたとか言われたり! 魔王とか倒しちゃったりして英雄になったりとかするのかー!」
ムフフ。
ーーー希望しかない!
私は風呂で泳ぎだし、はしゃぎまわる。
「そういえば! エリアハイヒールであんな驚いてたち……ムフフ。ここから私の伝説が始まるのか!」
エリアハイヒールは、ビショップのレベル55で、覚える魔法だ。そう考えるとレベル120の私はもっと高位の魔法が使える。
それを見せた時の反応が楽しみで仕方ない。
「ムフフ。笑いが止まらないな、これからが楽ちみだ」
これからのことを考えると、本当に楽しみでしかなかった。
家族の事などは心配だが、毎日同じ事の繰り返しの人生に、すでに未練はない。
ーーー今まで見てきた異世界ものだと、ゲームの世界そのものに行くパターンと、似た世界、全く違う世界ってパターンがあったはず……ここはどっちだ?
「とりあえず、ジルフリーク達に、この世界の話ちを聞いてみるか!」
私は急いで風呂から上がり、用意された服に着替えて、鏡の前に立ち《ウサぐるみBOX》の装備をする。
「へーんしん☆!」
羽が身体を覆うように巻きつく。
……鏡を見つめる。
テンションが上がりすぎて掛け声まであわせポーズをつけた自分を見て羞恥心に襲われた。
ーーーどうやら、浴場の鏡には人を羞恥に落とし入れる魔物が住み着いているようだ。
私は両頬を軽く叩いて気を取り直し、客間に急いで向かう。
そして勢いよく扉を開ける、そこにはすでにジルフリークとヴィグールがいて、勢いよく開いた扉に驚いたのか少しビクッとなってこちらを見ている。
客間は、少し大きめのテーブルとそれを挟んで2人掛けのソファーが置いてある。
奥のソファーにジルフリークが座っていて、その後ろにヴィグールが立っている。その対面のソファーにエドモンドが座っていた。
私は、テーブルの上にそのままの勢いで飛び乗り、ジルフリークに詰め寄る。
「ねぇ! ねぇ! ここはどこ?」
ーブッ!
エドモンドが飲んでいた紅茶を口から吹き出す。
勢いあまって、いろいろと言葉をすっ飛ばしてしまった。
「ここは、どことは? どう言う意味かな?」
ジルフリークが、冷静に聞き返してくる。
私は冷静な切り返しに我に返り、慌ててエドモンドの横に座る。
「どうやら彼女は、お風呂に長く浸かって、頭まで沸いてしまったようですね。」
エドモンドの顔が笑顔で眩しい。
ーーーこいつ! ついにストレートに文句言ってきた。
「……ごめんなしゃい」
「いや構わない。それで、どう言う意味だったのだ?」
「えっと〜、ジルフリーク・フォン・ロードウェルたんは、どこの国の人でしゅか? 何で森に? ここは、どこの国に入りますか?」
まずは、国名や土地の確認だ《エレフスリア・オンライン》と同じ世界かどうか確認したい。
「……ジルフリークでいい。私は、この森の東にあるグロワール帝国の者だ。訳あって北にあるカースス王国に行った帰り、道中ゴブリンロード達に追われ、この森に入りここまで逃げてきたのだ、……この森は、今はどこの国の領土でもない。」
ーーーグロワール帝国、 カースス王国! どれもゲームと一緒の名前だ!確か、カースス王国はゲームでのスタート地点の国だ!
この後、他の国の名前や使われている共通硬貨、職種、知られている魔法とスキルの事やゲームのものより範囲は狭いが地図も見せてもらった。
少し知らない国の名前やスキルを聞いたが、ほぼ全て《エレフスリア・オンライン》と一緒だった。
ーーーおそらくだが、ゲームとほぼ同じ世界に来たようだ……ムフフ。
笑いが込み上げてくる。
ーーーこれから、私の伝説が始まるのだー!!
私は、立ち上がり右の拳を上に上げる。
が、皆んなの視線に気づきすぐ座り直す。
「では、こちらからも質問させてもらう。」
どうやら、ジルフリーク達は私の突飛な行動にも慣れてきたようだ。
ーーー此奴、なかなかやるな。 “スルー”スキルのレベル上がっていやがるぜ!
「どうじょー。」
「君達はここに住んでいるのか? それにあの魔法はなんだ? ベスティエ獣国の生まれか? 獣人は身体能力が人間よりも高いとは聞いていたが、こんな子供も強いのか? 」
「えーっと、ここに住んでましゅよ。あの魔法は、エリアハイヒールで範囲内の対象をハイヒールつまり高回復する魔法でしゅ。ビショップになってレベル上げ……鍛えたら、使えましゅ。それと私は、獣人じゃないでしゅ。」
「ビショップ? なんだそれは? ヴィグールお前は聞いたことあるか?」
「いえ! 私も聞いたことありません。」
「まあ、回復職の凄い版みたいなものでしゅ」
ーーーどうやら、さっきの魔法やスキルの話しも合わせて考えてみても、上位職のものはあまり知られてないみたいだ……ムフフ。
私がまた一人ニヤケていると、
「そうか、国に帰ったら調べてみよう。それで……お前は獣人ではないのか? 」
「あい! 天使でしゅ! 」
……
「…………そうか……子供は皆、天使と言うからな」
ジルフリーク達が凄く生暖かい目で私を見てくる。
ーーー絶対、勘違いしてる!
「!!これは、違いましゅ! 見ててー」
私が慌てて《ウサぐるみBOX》の装備を外そうとすると、遮るように私の目の前にティーカップが出てくる。
「まあ、これでも飲んで落ち着いて下さい。」
そういえば、目が覚めてから何も飲まず食わずだった。喉が凄くかわいている。
「なかなか気がきくじゃないにょ。エドモンド」
私はカップを、受け取り優雅に飲もうとするが大きすぎて、上手く飲めず口の横から全部溢れる。身体が小さすぎる。
室内に静寂が訪れる。
「……それで一つ頼みがあるのだが、帝国までの警護を頼みたい。国に戻れば、それ相応の礼をしよう。」
ジルフリークは“スルー”スキルのレベルをさらに上げたようだ。
「……ごめんなしゃい。お断りします。これから、行く所があるのでしゅ」
私は話を聞いていた時から、スタート地点の国であるカースス王国に行くと決めていたのだ。そこには、この世界で一番大きな冒険者ギルドがあったはずだ。
そう、そこから私の伝説が始まるのだ!一秒も無駄に出来ない!
「そうか、それは残念だ。……では我々はそろそろ、行くとしよう。いろいろと助かった。帝国による事があれば、私の所に寄ってくれ、今日の礼に、宴でも開こう」
「あい! 」
立ち上がり、お辞儀をする。
ーーー宴? 宴って、パーティみたいなことだよね? え……ジルフリークってお礼で軽々とパーティ開いたりとかする人なの?
こんな真面目そうな顔して……パリピなの? パリピってやつなのか?!
と的外れな事を考えながら、ジルフリーク達を敷地の門の前まで見送った。
見えなくなるまで、手を振る。
森の木々の隙間からうっすら光が漏れてくる。朝が来た。
「エドモンド! 私はカースス王国に行く! そして! 冒険者になりゅ!」
「わかりました。俺も行きます。」
さぁ! 冒険の始まりだ!
…………
「……ファーとりあえじゅ、寝てからだな! 12時頃おこちてー」
ーーーあ、獣人族じゃないって誤解とくの忘れた……まぁ、いっか。
私は教会に戻っていった。
、小ボケが少し多かったかもです。もうすぐ、戦闘も始まる予定です。
次回は、明日の少し遅めの時間になるかもです。
初めてポイントがつきました。私の作品を読んでくれている方がいるんだと感じれて、嬉しかったです。ありがとうございます。