逆ギレと劇団
教会の大きな扉を入ってすぐに礼拝堂がある。この礼拝堂は本物の教会を真似て作っており、入り口から真っ直ぐ赤い絨毯が奥の祭壇まで引かれていて絨毯を挟むように左右に木で出来た長椅子がある。
祭壇の奥には大きな十字架が飾られていてその十字架には天使を模様した女性が祀られている。
この部屋を特に使ったことはない。たまに、メンバーの誰かが長椅子で横になったり、軽いおしゃべりで使ったりするくらいだ。
言わば、ただの雰囲気作りに作っただけのものである。
私は部屋に入ると、まっすぐ進み祭壇の上に飛び乗る。身体が小さいので後ろの人にも見えるようにという私なりの配慮だ。
……別に目立ちたいからではない!そう気遣いだ!
そして、全員を見渡してみる。
みんな怪我してる。かすり傷程度もいれば腕や脚が片方ない人もいる。
ーーー痛々しい。全員、回復薬とか持ってないのか? それに一人、小綺麗な格好の人いるし……
この人の護衛ってテイなのかな?そんで、ましな鎧きてるのがリーダー的な人かな?仕方ない、
「はい! 話の前にみんなしゅーごー! 」
しかし、誰も入り口の近くから動こうとしない。それにまだ、身体を震わせている者もいる。
「え!? まださっきの事、怒ってるのー?いつまでも男が小さい事にこだわるんじゃないの! はい! しゅーごー!」
こういう時は、とりあえず『逆ギレ』だ!私は今までに、どうしようもない状況などをこれでなんとか凌いだ事がある!ような、ないようなだ!
すると、小綺麗な格好の男が周りを見て頷く。それを見て全員頷き返すと、ゆっくり集まってくる。
「あい! じゃあ、もう少しつめてギュッとなって! ギュッと!」
私は両手を胸の前で小さなボールを作るようなジェスチャーを交えて、声をかける
全員が、警戒しながらも指示に従って集まる。
「はい! 動かないでねー! ……エリアハイヒール!」
私が唱えると、全員を囲むように足元に魔法陣が広がり、光輝く。
身体を纏うように光り、みるみると傷が治っていく、腕や脚も生えていく。
ーーー良かった。魔法はちゃんと使えるみたいだ。
「なんだこれは……魔法か? こんな凄い魔法見た事がないぞ!」
小綺麗な格好をした男が、興奮を隠しきれない様子で言った。
それを皮切りに、
「傷が、治ってる!」
「腕が……腕が……」
「奇跡だ!」
など全員が口々に言い出した。
ーーー大袈裟だな。どっかの劇団みたいだ
私は全員の様子に、若干引き気味だった。
しばらく、驚く劇団員?をボケーッと見ていると
「兎人族の子よ! 礼を言う! そして、先ほどまでの非礼を、詫びよう」
と小綺麗な格好の男が言ってきた。
その男は、金髪で切れ長の赤い目をしていて口元になかなかセクシーなホクロがある。
そして動きが、とても洗礼されていて見てるだけで綺麗だと思うほどだった。
それを聞いていた周りの者が何やらザワザワしている。
「いえいえ〜。気にしないでくだしゃいませ」
私も負けじと、見よう見まねでペコッとしてみる。
ーーー礼を言うって言う、礼を言われたのは人生で初めてだ! テレビとか、漫画でしか聞いたことないセリフだー! それに、よく見ると凄いイケメンじゃないか!!
どこかの残念イケメンとは大違いだ!
「名乗るのが遅くなった。私はジルフリーク・フォン・ロードウェルだ。そして、隣にいるこの男がこの隊の隊長のヴィグールだ」
と言って、横にいる一番良い鎧をつけている男を紹介する。
「俺がヴィグール・ジファーバだ。この度は本当に感謝する。」
ヴィグールは短髪で、鍛え抜かれた身体をしていて無精髭が似合いそうなワイルドな感じの男だ。
「どうも、セイラでしゅ」
私も自己紹介をする。
「セイラか。それで、いろいろ聞きたいのだが、君はここに住んでるのか? こんな森の中に? 一人なのか? それに先程の魔法はなんだ?」
と、ジルフリークが続けざまに聞いてくる。
「えーっとでしゅねーここには……(キィー)
私の言葉を遮るように、祭壇の右奥の扉が静かに開いた。私を含め全員が扉の方を向く。
すると、そこにはエドモンドが立っていた。
「エドモンド! 勝手に出てきちゃダメって言ったのに! 何でいりゅの?」
「そろそろ、俺の出番かと思いまして、先程から、そちらのドアの隙間から覗かせていただいてました。さぁ、奥の客間の準備ができています。立ち話しもなんですし、そちらへどうぞ」
エドモンドの顔が、ものすごくドヤ顔だ。
ーーーお!なかなか気がきくじゃないか……顔はムカつくけど
そして、無駄に優雅な動作でお辞儀をしたかと思うと
鼻をクンクンとわざとらしく動かす。
「その前に、皆様お風呂はいかがですか? 汚れているみたいですし、だいぶ、くさ……刺激的な臭いがいたします。特に……」
と言いながら私をチラチラ見てくる。
ーーーやっぱ、ただただ腹立つだけだわ。
私は慌てて自分の確認をする。
全身、返り血で真っ赤だった。
そして血生臭さに加え、ゴブリンの顔を飛ばす為にくっついていたからだろう肥溜めのような匂いもする。それが混じり合い凄い異臭を、放っている。
「!! オエェェェエ」
危ない! 自分の臭いにリバース☆するところだった。
私が悶えてると、
「……そうだな、このままでは話に集中出来そうにないな。よろしく頼む。」
ジルフリークが、応える。
そして、とりあえずみんな風呂に行くことになり全員で、エドモンドの後ろを付いて礼拝堂を出た。
区切りを考え今回もあまり話しは進んでいません。次回いろいろと進む予定です。次回は明日です。