個性的チョイス
今回も区切りを考え短めです。
ハーーー。
大きな溜息と共に、テーブルに突っ伏す。
現在、私は宿屋の部屋へと戻って来ていた。
広場で立て札と手配書を見た後、観光しようにも殆どの店が閉まっており、見る所もなくなったうえに、手配書の衝撃が凄すぎて急に元気の無くなった、放心状態の私にみんなが気を遣って、今日は帰って休もうという事になったからだ。
このままではダメだと思い、ゆっくりと体を起こし考える。
ーーーひとまず整理しよう! ……まず、お姫様どこ行った? 探した方がいいのか? どこを? どうやって? 探す当てもない! 果てしない! ……無理だ!
秘本だが……恐らく、この『禁術書』の事だろう。服に隠したままなの忘れてた! これは、返した方がいいのか? どうやって? 拾った事にする? 怪しまれないか? 面倒くさい! ……無理だ!
そして、フッ君。守り神って何? あれが? カメが? そんな事聞いてない! ……たぶん無理だ!
ハーーー。
再び大きな溜息をつきテーブルに突っ伏していると、
コンコン。
部屋の扉を叩く音がする。誰か来たようだ。
「……あい。どうじょー」
声を張るのも面倒臭く思い、突っ伏したまま適当に返事をする。
「失礼します」
エドモンドの声と共に、エドモンド、ソージ、シロ、レオ、ソフィア、の5人が部屋の中に入ってくる。
正確には、ソフィアの肩にフッ君が乗っていたので5人と一匹だ。
「……どうちたにょ?」
突っ伏したまま首だけ向けて、みんなに尋ねる。
すると、エドモンドが代表するように少し前にでると優雅にお辞儀をしたかと思うと、真っ直ぐに見つめてきて、優雅な動作を交えながら、熱く話しかけてくる。
「やっとわかりました! セイラ様の言っていた伝説。……こういう事だったんですね! 俺も手伝いますよ!」
ーーーいやいや、こういう事ってどういう事ー?! 絶対に! 壮大に! 勘違いしてるだろ!
すると、エドモンドに続くように、みんなが熱く喋り出す。
ソージ「僕もわかったよ! 泥棒でしょ? 伝説の泥棒になるって事でしょ! 次はもっと面白い物を盗もうよ! 僕も手伝うよー!」
ーーーいやいやいや、違うから!
シロ「違うわよ〜わかった! 怪盗でしょ〜? 伝説の怪盗になるんでしょ〜次は、宝石とか金とか綺麗な物にしましょ〜仕方ないから、私も手伝うわよ〜」
ーーーいやいやいやいや、違うから! ってか、泥棒と怪盗の違いって何?
ソフィア「ち、違いますよ! わ、私には、わかります。殺人鬼ですよ! で、伝説の殺人鬼ですよね! 次は、王様ですよね! わ、私も手伝います!」
ーーーいやいやいやいやいや、違うから!
ってか、怖えよ!
フッ君「お主ら間違っておるぞ! わしにはわかる! 主人が求めているのは、悪だ! 伝説の悪だ! もちろん、わしも手伝うぞ!」
ーーーうん。全く違うから。だいち、伝説の悪って何? この流れで、なんかフワッとした事言ってんじゃねーよ!
レオ「“わし”……か。俺?……いや、オイラ?……我?……一人称……どれが格好いいと思う?」
ーーー全く関係ない話し来たーーー! どうしたレオ? ってか、間に聞こえた、“オイラ”は絶対ないだろ! チョイス! 個性的チョイス!
奥義『脳内ツッコミ』を全員に繰り出したところで
ーーーなんか、真面目に考えるのが、アホらしくなってきたな! よし!……まぁ、なんとかなるだろ!
私は、深く考えるのを辞めた。
「うん! みんな! にゃんか、ありがとう! でも、みんにゃ間違ってるから! それじゃ今日も疲れたから、もう寝るよ! 明日は予定通り《スケルトンキング》倒ちに行くよー!」
「わかりました。強くなった俺をお見せします!」
「はいはい。オッケー!」
「は〜い。本当に嫌だけど〜どうせ、嫌って言っても行くんでしょ〜」
「た、楽しみです! 早く、殺りたいです!」
「ほう。スケルトンキングか。わかったぞ!」
「我……了解した」
みんなが返事をする。
どうやらレオは一人称を我に変更したようだ。
そして私は、テーブルの上に飛び乗り仁王立ちポーズを取り
「あい! じゃあ今日は、かいさーーーん! お疲れ様でちたー!」
と、解散宣言をする。
すると、みんな『お疲れ様でした』と言いながら素直に部屋を出て行く。
…………
部屋には、私とフッ君だけになる。
私はとりあえず聞いておこうと思い、
「ねぇ、フッ君」
「なんだ? 主人」
「フッ君さぁー。お城に戻る気にゃい?」
「っな! な! 何を言って?! ……酷い!
酷いぞ! 嫌だ! 嫌だー!」
フッ君が癇癪を起こした子供の様に、怒りながら泣き出す。いや、もう、大号泣だ。
「あぁーごめん! ごめん! 冗談だよ! 冗談!」
半分本気だったが、ここは誤魔化しておく。
すると、フッ君はピタリと泣き止み
「冗談ならよいのだ! うむ。許そう!」
と、直ぐに機嫌を直してくれた。
ーーーチョロいな。本当に、これが霊獣?
と思ったが黙っておく事にしよう。
「しゃて! もう寝るよー! おやしゅみ」
言うが早いか、ベットにダイブし目を閉じる。
「おやす……
本当に疲れていたのだろう。フッ君の声も途中で聞こえなくなるほど一瞬で夢の世界へと落ちていったのだった。
次回からカースス王国編ラストのスケルトンキングの話しになる予定です。