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アンジュ・ス・バートル  作者: Jyona3
ー第2章ー カースス王国編
40/55

だけど、カメ

 



「いやいや! 待て待て待て!」




 帰ろうとする私を巨大なカメ、略して巨ガメが引き止めてきた。




「にゃに? 忙ちいんだけど?」




 面倒臭いと思ったが、とりあえず立ち止まり振り返る。



 なぜここから早々に立ち去りたいかと言うと、この世界に来てから分かったのだが『ゴブリンショック』から始まり、『コウモリショック』と、どうやら私はリアルな生々しい生き物がどうも苦手らしい。



 今も、あと少しでも近づけば『カメショック』が始まりそうだ。それくらい、しっかりとした”カメ”であり、しかも大きさが10メートル程あった。




「わしは長年ここに閉じ込められて、ずっと一人で暇なのだ。……少しくらい話しに付き合ってくれてもよかろう」




 そう話す巨ガメは、だいぶ歳をとっているからか弱っているからかはわからないが、少し哀愁を帯びているような気がした。



 そんな巨ガメを見て「ハイハイ」と言って帰れるほど薄情ではない。





「……まぁ、少しにゃらいいよ」





 近寄らず答えると、巨ガメは目を細め口の両端を上げた。まるで人間でいう所の《笑顔》のような顔だった。



 巨ガメが、ゆっくりと口を開く




「そうだの。まずは、わしが何故ここで捕まっているのかだの! そう、あれは確か……50年程前の事だ……




 ーーーえ? 「少し」って言ったのに、この“カメ”なんか語り出したんだけど!




「ちょうどその頃、地上では聖王国と魔国が戦争を起こそうとしておってな。


 わしは、巻き込まれては面倒だと思い、戦争と関わりのなかった《ベスティエ獣国》に行こうと移動しておったのだ…………




 巨ガメが言葉を詰まらせる。





「だが……実はの……全く違う方角に向かっていたようでの! ここに出てきたのだ! ワハハハ!


 すぐ引き返そうと思ったが、この場所は魔法が使えないようでな!


 わしは霊獣だ! 魔素で出来ておる! 魔法以外は、何もできない! ここでは、ただの“巨大なカメ”と違いない。


 地上に頭だけ出した所で、魔法が使えなくなってな!


 さしずめ『頭隠して尻隠さず』ではなく『尻隠して頭隠さず』と言ったところだの! ワハハハ!


 運良く、ちょうどここにおった人間に出してもらったがのう。『霊獣だ!』と捕まってしまった!


 そして、今に至ると言うわけだ! ワハハハ! ッハハハハハハ!」




 巨ガメは自分のドジ話をそれはそれは、楽しそうに話し終え、笑っていた。




 …………




「「へぇー。」」




 私とマオの声が重なった。




 ーーー霊獣いるんだな。ゲームの時もいたのか? ……って! いやいや! そんな事より、ただのドジかよ? ドジっ子カメかよ! 可愛さ微塵もないうえに、どこに需要あるんだよ!




 私が特技になりつつある脳内ツッコミを炸裂させていると、




「へぇー。って、お主ら淡白だの! 可愛そうとか、大変だったね。とかないのか?」




 巨ガメが“捨てられた仔犬”のような顔でこちらを見ている。




「……可愛そう。大変だったね。じゃ!」




 巨ガメに右手を上げて別れを告げ来た道を引き返そうと歩き出すと、




「だから! 待て待て待て! お主。せっかちだの! 本題はここからだ」




 またもや後ろから巨ガメに引き止められる。




「本題?」



「そうだ。本題だ。……お主の力で、わしをここから出してくれんか? お主ならこの鉄の柵を壊せるだろ? 出してくれたなら、お主と《従者の契約》をしてもいいぞ!」



「うーん。」




 私が顎に手を当て考えていると、




「凄いよ! 霊獣と契約なんて、滅多にできる事じゃないよ! さすが僕の見込んだ旦那さんだ!」



「そうだぞ! 小さき者よ! わしは生まれて万年、数えるのも忘れるほど生きてきたが、今まで誰とも契約したことのない貴重な霊獣だぞ!」




 マオと巨ガメが揃って契約を進めてくる。




 ーーーこれはもしや! ……私が契約して連れ歩いたら「凄い! 霊獣を従えている!」「凄い! 珍しい!」「凄い! 伝説だ!」って、なるかもしれない!




「……だが、断る!」




 私は左手で顔を隠し右手を前に突き出して、カッコつけてお断りした。



 マオと巨ガメは、信じられないと言った顔で目をまん丸に見開き、あんぐりと口を開けている。



 確かに、珍しいと言われる霊獣を従えていれば箔がつくし伝説の近道かもしれない。



 だが……デカすぎる! 連れて歩けば、道行く人々の邪魔にしかならないだろう。むしろ通れない道の方が多そうだ。




「……なぜだ? なぜ断る?! わしは強いぞ! 本来の力が使えれば、その辺の国なんぞ簡単に潰せるぞ!」


「そうだよ! 霊獣は強いんだよ! 皆殺しだよ!」


「……うーん。」




 何か物騒な言葉が聞こえた気がしたが無視して、再び顎に手を当て考える。




 ーーーカメを使って国滅ぼしまくって、世界制服しちゃう? 巨大なカメに乗って暴れる私……これも“ある意味”伝説になるな。




「……だが、断る!」




 再びカッコいいポーズでお断りする。



 世界制服など今のところ考えていない。

 どうせ伝説になるなら、やはり『英雄』がいい。


 それに……やはりデカすぎる。まず、家に入らない。そして、カメの飼育法がわからない。




 私の返答に、先程よりも、これでもかと言うほどに目を見開くマオと巨ガメ




「なぜだ?! 何が気にくわないのだ?! こんなチャンス滅多にないぞ! このわしが断られるだと?! なぜだ?! 訳を言ってみろ!」




 巨ガメが言いながら、だんだん怒りを交えた声で問いかけてきた。




「教えてやろう! 君は、デカすぎる! 連れて歩くにゃらやっぱり小さくて可愛いのがいいにょだよ! 私はにゃ、肩に乗せれるペットが欲ちい!」




 ドーン! と効果音を自分の心の中で発しながら仁王立ちポーズを忘れない。




「……な、なんだと。デカイ方が、『なんかかっこいい』というものではないのか?!」




 巨ガメの中にも『かっこいい像』があったのだろう。それを否定されるような言葉にすっかり落ち込んでる様子だった。




「ってことで!」




 今度こそ去ろうとしたが




「フハハハ! ッハハハハハハ!」




 先程まで落ち込んでいた巨ガメが、突然笑い出す。



 気でも触れたかと思い様子を伺っていると




「舐めるなよ! 小さき者よ! この牢から出れば、わしは魔法で小さくなれる! お主の肩にも軽々乗れるわ! なんなら、豆ツブサイズにだってなれるわ! どうだ?! それなら良いのだろう!」




 巨ガメは半分やけを起こしたように叫び出す。




「うーん。」




 そんな巨ガメなど御構い無しで、またもや静かに考える。





 ーーー肩に乗るくらい小さくなれるならいいかな? 強いみたいだし……ドジだけど。珍しい霊獣だしな!




 …………




「……だが、断る!」




 再々度、カッコいいポーズでお断りする。





「なんだと!? なぜだ? 小さくなれるのだぞ! それに、強い上に魔法をたくさん使えるのだぞ!」




 ーーーて、言われてもな。今のとこ、パーティメンバーもいるし、魔法も特にいらないし。小さくなっても“カメ”は“カメ”だしなぁ。




「聞け! わしはな! 古より忘れられた魔法も使えるのだぞ! これが使えるのは、わしくらいなものだ!」




 ーーーて言われても、“カメ”だしなー。




「凄いのだぞ! その魔法は、他の地へと一瞬で運ぶ魔法だ! 《ゲート》と言う!」


「よし、《従者の契約》ちよう!」


「これを使えるのは、わし……ん? 今、なんと申した?」


「だから〜いいよって! 《契約》でちょ? やろう! さぁ、やろう! 今しゅぐやろう!」




 私の突然の心変わりした、食い気味の返事に戸惑う巨ガメ。



 カメだろうと《ゲート》が使えるなら話は別だ。転送石問題がこんな簡単に解決するとは。



「うむ、まあ……いいだろう。では《従者の契約》を行う! わしの名を付けよ!」




 巨ガメの体全身が淡い光で包まれていく。




 ーーー名付けきたーーー! よく見たやつだ。まさか自分が本当にやるときが来た! カメだから『カメ吉』いや、『カメ太郎』いやいや、『カメ助』か……よし!




 フッ。




 今から格好つけて名付ける自分を想像し自然と笑ってしまう。




「巨ガメよ! 名前は「“フッ”か、あまり良い名ではないな」


「えっ? ちが……




 私の制止も届かず巨ガメを包んでいた光が、一瞬激しく光ったとかと思うと、何もなかったように消えた。




「わしの名前は今から『フッ』だ。よろしくな我が主人(あるじ)




 巨ガメが見るからに嬉しそうに言う。




 ーーーうん、もういいや。




「よろちく! 『フッ君』」





『フッ』だけでは呼びにくいことこの上ない。これからは君を付けて呼ぶことにした。




「さすがだね。……ネーミングセンス。プッ」




 マオが笑いながら褒めてくる。

 小馬鹿にしているのが見え見えだ。




「では、我が主人よ! 早速ここから出してくれ!」




 巨ガメ改め『フッ君』が急かす。





「わかった。わかった。できりゅかにゃ?」





 少し不安に思いつつも、全力を込めて鉄の柵に正拳突きを繰り出す。




「せい!」





 ドーン! パラパラパラ。




 拳が当たった瞬間、柵が一瞬で粉々に吹っ飛ぶ。

 自分でも驚いてしまったが、同じ調子で『フッ君』が通れる分の柵を壊していく。





 その間




「ハハハ。さすがだね。本当……殴られたくないね。」


「うむ。やはり、わしより強いようだな! 本当に何者だ!」




 マオとフッ君が各々と思ったことを口にしている。




 それを無視して柵を壊し終えると、ゆっくりとフッ君が出てくる。




「感謝する、我が主人よ! 」




 カメなりに首を曲げて礼を言ったフッ君がまた光ったと思えば、どんどん小さくなっていく。




 光が完全に消えたかと思えば、15センチくらいの大きさになっていた。

 まるで《ミドリガメ》だ。




 フッ君が勢いよくジャンプをして私の肩に飛び乗る。




 ーーーやっぱり、ただのカメにしか見えない。ってか、小さくなれるのなら……




「フォルムは変えられにゃいの? ほら、もっと可愛らしい感じに」



「可愛らしい?」



「しょうしょう、仔犬とか仔鳥とか、仔猫みたいにゃ」


「全部に“仔”を付けるのはわざとか? まあ……いいだろう。容易い! だが、魔法を使う時はこの姿に戻るぞ! 良いな?」



「おぉ! フッ君、凄いにゃ」




 言うや否や、フッ君がまた眩しく光ったと思えば、狼犬のような灰色と白の毛で覆われた垂れた耳だけが茶色の小さな小さな犬へと変身した。




 私は無言で拍手を送る。

 フッ君も嬉しいのか、若干ドヤ顔に見える。




 そうこう、やり取りしていると




「ごめん! ちょっと呼ばれてるみたいだから行ってくるよ! また後でね」




 突然マオがそう言い残し、慌てた様子で来た道を戻っていった。


 そんなマオをフッ君と見送り




 ーーーこの後どーしよっかな。フッ君(ゲート)もゲットできたし、もう帰ろうかな。……てか《ゲート》使えるなら。




「そういえば……フッ君さ、《ゲート》使って《ベスティエ獣国》行けば良かったんじゃにゃい?」



「……あ!」



 静かになった地下で、フッ君の声がよく響いていたのだった。

 次あたりで、城編が終わる予定です。久々のエフも出てくるかもです。次も明後日頃です。

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