人の慣れ
今回までが、説明を踏まえての駄弁りの会ですかね。
「で、お代わりはいかがですか?」
エドモンドさんが、笑顔で聞いてくる。
「「あ、はい! いただきます!」」
俺とシャルルは怯えた様に、震えた手でティーカップを受け取る。
その後ろでは、ソフィアさんが次々に湧き出るように現れるプラムを、チョキン! チョキン! と切り飛ばしながら
『エクスタシィーだわー! もっと! もっと! 鳴きなさい!』
と叫んでいた。
……だが、何故か俺たちは未だに紅茶を飲みながらゆっくりしていた。
……少し前に遡る。
◆◆◆
俺がソフィアさんに腕をあげた後、
「では、さっさと指令をクリアして帰りましょうか、頼みます。ソフィア」
エドモンドさんがそう言うと
「は、はい! 任せて下さい!」
ソフィアさんが、立ち上がり大きなハサミを構え背を向けて森の奥へと向かって走っていく。
「え? 突然どうしたんですか?」
ソフィアさんの動きはとても速く、俺が声をかけるも、すでに届かない距離だった。
やがてソフィアさんの姿が森の中へ完全に消えた。
だが、相変わらずエドモンドさん達は座ったままで紅茶を飲んだり寝転がったりとくつろいでいた。
「……あ、あの? ソフィアさんお一人で森の奥に行きましたが、大丈夫なんですか? 皆さん追いかけなくていいんですか? 危険じゃないですか?」
俺は心配になりエドモンドさんに訪ねる、
「大丈夫です。すぐ戻ってくると思いますよ」
そう話すエドモンドさんの顔は、本当になんでも無いというような落ち着いている雰囲気だった。
その顔を見て本当に心配いらないのだとわかり安心した。
ふと視線を感じ、その先を見ればエドモンドさんが不思議そうな顔でこちらを見ていた。
目が合ったと思うと、
「それより、お二人は何故この森に? あのモンスターに、だいぶ、無様にやら……苦戦されていたようですが、レベルは足りているのですか?」
ーーー?! 今この人、思いっきり無様にやられてたって言おうとしてたな! 何気にエドモンドさんが1番酷い! 確かに、やられてたけども! ……ってか、れべる? ってなんだ?
「……えっと! 今回はクエストを受けて来ました。エドモンドさん達もですか? ……後、れべるってなんですか?」
いろいろと思う事はあったが俺は素直に答える。
するとエドモンドさんが、大袈裟に驚いた顔と動作を交え
「いえ、クエストではありません。セイラ様の指令でレベル上げに来たのですよ。……やはり、レベルを知らないのですか?」
と聞いてきた。
周りを見れば他の皆さんも驚いた顔をしていた。
「あ、はい。知りません。田舎から出て来たばかりで……無知ですみません」
「……私も知りません」
俺とシャルルは思わず、恥ずかしさで下を向く。
「いえ、以前に聞いた方も知らない雰囲気でしたので、知らない方の方が多いのでしょう。……では、“ステータス”は見れますか?」
またエドモンドさんから聞いたことのない言葉が出て来た。
俺はまた素直に答える。
「“すてーたす”? ……なんですか? それも知りません」
「……そうですか」
そう言いながらエドモンドさんはウンウンと一人納得したかのような顔で頷いたと思えば、突然レオさんを呼び
「レオ。彼等のステータスを見れますか?」
「……おそらく、可能だろう」
「では、お願いします」
「……了解した」
そう言うと、レオさんがこちらに向かって銃を構える。
「うわ! なんですか? 俺たち何かしましたか?!」
「え!? ……なんで?」
俺は撃たないでくれ。と両手を挙げる。
シャルルは目を見開き驚いた顔をして俺の服の端を持って震えている。
「……安心しろ……打つだけだ……死にはしない……お前の奥底に眠る……魂の真の力を……見るだけだ」
「いやいやいや! 言ってる意味がわかりません! ただただ怖いわ! てか! 撃たれたら死ぬでしょうが!?」
俺が必死で講義するも、無駄に終わる。
「魂の神髄を見せよ……《サーチスコープ》!」
レオさんの銃が一瞬光ったと思ったら、光る弾丸の様な物が発せられる。
至近距離からの発砲だ、避けられるはずもない。
弾が、俺とシャルルの額を同時に貫く。
額を弾が貫通する感覚を感じ叫ぶ。
「うわぁあぁあぁあ! あぁ! あぁ? あ? …………あれ? ……生きてる?」
俺は額を触る。撃たれたはずの額には傷も血さえも無い。
俺とシャルルは向き合い互いに額を見る。
「「なんともなってない」」
2人の声が重なる。互いに何もないことを確認し頷き合う。
「!! いきなり、何をするんですか?!」
レオさんを責める様に言うが、レオさん含め他の皆さんも俺とシャルルの頭の少し上のあたりをまじまじと見ていた。
ーーーな、なんだ?
俺も皆さんが見てる上を見てみるが、木の葉っぱが茂っているのとその隙間から空が少し見えるくらいで、特に変わったものはない。
「なんなんですか?! 何を見てるんですか? シャルル何か見えるか?」
「ううん! 何も見えないよ!」
何もない所を全員が見ている、その異様な光景に少しの不安が押し寄せてくる。
すると、ソージさんがフッ。と鼻で笑ったかと思えば
「君たち、レベル6って?! ハハハ! 低いねー! よくここまで来れたよねー」
「ほんとね〜逆にすごいわ〜」
とシロさんが続き、何が逆なのかはわからないが凄く感心された。
俺とシャルルは顔を再び見合わせ、何がなんだかわからないと同時に首を傾げる。
そんな俺たちを見てエドモンドさんが
「やはり、見えませんか?」
と言って俺たちの頭の少し上を指差す。
「「は、はい。」」
俺とシャルルが頷くと
「そうですか、今見てるのは…………まあ、いいでしょう。なんでもありません」
ーーーおい! なんでもないわけないだろ! 今、絶対、説明するの面倒くさくなったな!
煮え切らない思いでいると、
「ってか。……プッ! うわぁあぁあぁあって!」
「確かに〜あれは〜面白かったわね〜うわぁあぁあぁあ」
「「うわぁあぁあぁあ!」」
ソージさんとシロさんが先程の俺の真似をしだす。
恥ずかしさと怒りが込み上げて来て、火を吹きそうなくらい顔が熱くなるの感じる。
俺が拳を握り体をワナワナとさせていると、
「……話が進まないので、辞めなさい」
再びエドモンドさんの鉄拳が2人に落ちる。
エドモンドさんの顔からは本当に面倒臭そうな様子が伺える。
そしてこちらに向き直ったかと思うと先程の顔から一転、綺麗な笑顔に戻り
「どうですか? このまま待つだけなのも退屈でしょう。 一緒にレベル上げ……一緒に修行でもしますか? 確かクエストで来たと言ってましたね?」
「はい、《プラム討伐》のクエストです。本当に、い、いいんですか?!」
俺が伺う様に返事をすると、
「ええ。もちろんです。先程からおちょくって………ゴホン。先程からの彼等の失礼のお詫びですね」
と言って笑顔で優雅にソージさんとシロさんの方に手を向ける。
ーーーやっぱり、おちょくってたのか……いや、なんだかんだで一番失礼なのはこの人だと思うけどな
「わ、わかりました。是非、よろしくおねがいします!」
心の声を出さない様に必死で気持ちを抑え、頭を下げる。
「私も、お願いします!」
後に続く様にシャルルも頭を下げた。
「わかりました。では、パーティを組みましょう」
「「はい! お願いします!」」
俺とシャルルが元気よく返事をすると、
タイミングを見計らった様に、俺の後ろ……森の奥の方から
「ギョオエェェエェェエ!!!」
聞き覚えのあるプラムの奇声の様な鳴き声が近づいてくる。
俺は森を向いて立ち上がり、シャルルを背に隠す様にして剣を構え、皆さんに向かって叫ぶ。
「この鳴き声は! プラムが仲間を呼ぶ声です! 皆さん、気をつけてください!」
先程の恐怖が蘇ったか、後ろにいるシャルルが震えだす。
俺は更に気を引き締め剣を構え直す。
だが、
「普つ……ティミッドさん、シャルルさん、大丈夫ですよ。恐らく、ソフィアが戻って来たのでしょう」
緊張を和らげるような、落ち着いた雰囲気でエドモンドさんが俺たちに声をかけてくる。
俺が振り返ると、エドモンドさんをはじめ他の皆さんも何事も無いかの様に寛いだままだった。
「えっ?! 何で皆さん寛いでるんですか? プラムが来るんですよ! しかも仲間を呼んでます! たくさん来るはずです!」
必死に呼びかけているのにも関わらず、皆さんは寛ぎの姿勢を保ったままだった。
ーーー本当に! なんなんだこの人達?!
焦りと不安で剣を持つ手が汗で湿っていく。
プラムの鳴き声が近づくにつれて、同時に女の子が何か叫んでる声が聞こえてくる。
「み、みなさーん! い、いましたよー!」
目を凝らして声のする方を見てみる。
すると、そこにはプラムを抱き抱え、笑顔で走ってくるソフィアさんが見えた。
俺は幻覚かと思い両目を手でこする。
目を開け、再び目を凝らす。
……ソフィアさんと目があった。
プラムを抱き抱えたまま、こちらに手を振ってきた。
見間違いではなかった……俺は無意識で手を振り返す。
…………
ーーーえ? あの子、なにしてるんだ?
俺の脳みそは混乱しすぎたのか、彼女の奇行をただただ観察していた。
俺たちとソフィアさんの距離が30メートルくらいになったところで
「ソフィアちゃん! ストーップ!」
「ちょっと〜めちゃくちゃ毒出してるじゃな〜い、それ以上〜近づいてらダメよ〜」
ソージさんとシロさんが、慌ててソフィアさんを止める。
よく見れば、ソフィアさんと、抱いてるプラムの周りに紫色の濃い霧の様なものが漂っていた。
「あ、あれは! プラムの毒だ! 危険だ! シャルル! ソフィアさんに《キュア》を!」
「わ、わかった! キュ……」
シャルルが《キュア》を途中で辞めたことに驚き振り返れば、エドモンドさんが人差し指を立てシャルルの口を指で押さえている。
シャルルの顔は、真っ赤だ。
すると、それを見て笑ったのかはわからないがエドモンドさんが笑顔で
「大丈夫ですよ。彼女には、毒は効きません」
後から聞いた話だが、ソフィアさんの着ているエプロンは、毒や麻痺などの《状態異常》?が無効になる物らしい。
そしてソフィアさん自身が《アルケニー 》という珍しい種族、毒に耐性のある種族だと言っていた。
何故、無効になるのか聞いてみたが面倒くさかったのか「そんなこと、わかりません」と言ってはぐらかされた。
「ソフィア! 一人で大丈夫ですか?」
「は、はい! さっきでレベル、じ、18になったので、だ、大丈夫です!」
「そうですか。では危なくなったら、言って下さい。いちよう援護に……レオ、お願いします」
「は、はい! わかりました。レオさん、よ、よろしくお願いします。で、でも、私の邪魔は、し、しないで下さいね。ハァハァ」
「了解した……俺のこの力を……ついに、解放する時が来たようだな……」
そんな会話をしたかと思えば、レオさんが突然サッと音だけを残して消える。
それを確認し、ソフィアさんが頬を赤く染め笑みを深めたと思えば、
突然、抱き抱えているプラムの手のような葉っぱを無理矢理引っこ抜くように、ブチッ! と引きちぎる。
「ギョオエェェエェェエ!!!」
プラムが悲鳴にも似た叫ぶような鳴き声をあげる。
俺はその頭の中に響くような、けたたましい声で頭痛に襲われる。
だがソフィアさんを見れば、更に笑顔を深くして笑っている。
その顔は狂気染みていて、俺は全身から鳥肌が立つのを感じた。
「さぁ、早く、お、お友達をたくさん、よ、呼んでください。ハァハァ。……早く! 早く! 早く!」
更に反対の葉っぱを引きちぎる。
「ギョオエェェエェェエ!!!」
俺とシャルルが呆気にとられていると、
「お二人とも、突っ立っていないで、そろそろ落ち着いて座ったらどうですか?」
エドモンドさんが後ろから声をかけて来た。
振り返れば、先程と変わらずソージさんとシロさんも、くつろいでいた。
「えっ!? 本当に?! 大丈夫なんですか? 皆さん! なんで戦わないんですか?」
俺が混乱と恐怖で取り乱すように声をあげると
「しつこいですね……聞いてませんでしたか? 大丈夫だと、彼女も言ってましたよね?」
エドモンドさんは言いながら顔は笑っているが後ろに般若の面が見える。
俺とシャルルは蛇に睨まれたカエルのように縮こまって座る。
「で、お代わりはいかがですか?」
◆◆◆
そして今に至る。
ゆっくりと紅茶を飲む。
後ろとは別世界のようなこの雰囲気に、馴染んできて、だんだんとプラムの鳴き声にも慣れて来た。
最初は頭痛を感じるほどだったのに、今はBGMくらいにしか聞こえない。
人の慣れとは恐ろしい物だ。
ふと、思い出したように、俺は気になっていたことを聞いてみることにした。
「ところで、その指令というのはなんなんですか?」
「あぁ、それはですね……
エドモンドさんが、面倒臭いが渋々と言った顔で、ゆっくりと口を開き説明してくれた。
エドモンドさん達はレベルを15まで上げて来いと言われたそうだ、かなり大変だと言う。
ちなみに先程から聞いていた《レベル》と言うのは強さを表す数値でモンスターなどを倒せば上がっていくものらしい。
すでにソフィアさん達は達成しているが、シロさんだけが、まだだと言う。
では何故、シロさんは戦わないのか聞けば、パーティを組んで、範囲内《約30メートル》にいれば戦わなくても《経験値》というものが貰えるらしい、それを貯めると《レベル》が上がるらしい。
俺とシャルルも今パーティを組んでるので勝手に強くなっていくようだ。
そして、指令を出した当の本人はというと、1人街に残ってきっと遊んでるいると言う。
ーーーなんか、何もしないで強くなれるなんて信じがたいし、今までにもそんな話し聞いたこと無い。
そしてもう一つ気になったことを聞いてみた
「どうして、そのセイラ様? って人の指令? ……言うことを聞いているんですか? 聞いてればスパルタらしいですし……1人遊んでるみたいですし……かなりワガママなんじゃ? 皆さん強いのに、逆ったり反対はしないんですか?」
俺がそう聞くと、
ブーッ! とエドモンドさんが口から紅茶を吹き出し、額に薄っすら青筋を立てる。
ソージさんが、身体を起こし笑い出す。
シロさんが見るからに凄く慌てだす。
俺は三者三様の反応に驚いた。
「セイラ様は、確かに頭の痛い方ですが、俺の親の様な、とても強く、優しい方で使えるに値する方です。何も知らない他人に、そのように言われるのは腹が立ちますね」
エドモンドさんが怒りをあらわにしている。
「ハハハ! 無理無理無理! 僕たちが逆らって、セイラちゃんに飛びかかったとこで、たぶん10秒……いや! 3秒もかからずに全員やられちゃうよ」
ソージさんが腹を抱えて笑いながら言う。
「そ、そんなこと話して〜聞かれたら〜どうするの〜今度こそ〜どっかダンジョンの奥とか〜山奥に〜捨てられちゃうわ〜絶対〜それくらいする子よ〜」
シロさんが今までに見せたこと無いような怯えた様子で辺りをキョロキョロと伺っている。
「ミッド! 謝って! 皆さんに謝って!」
シャルルがその様子を見て、慌てて俺の頭を思いっきり手で下げさせる。
「すみません! なんか変なこと言ってしまって、本当にすみませんでした」
俺はシャルルのされるがままに訳がわからないが謝った。
「……二度目は無いですよ」
エドモンドさんが氷の様な無表情な顔で俺の目を見て言ってくる。
初めて知った、どんな怒った顔や怒鳴り声よりも無表情の方がもっと怖いものだと。
俺は首が取れそうなくらい激しく縦に何度もふる。
それを確認したエドモンドさんの顔に笑顔が戻る。
「そういえば〜エドモンドなら〜絶対〜着いて行く〜って言いそうだと思ってたのに〜よく〜素直に〜1人で行かせたわよね〜」
シロさんもいつのまにか、正気に戻ったのかエドモンドさんに声をかけている。
「そうですね。本当なら相棒である俺もご一緒したかったですが、今の俺はかなり弱いですからね……守るどころか逆に守られて荷物になってしまうのが落ちですからね」
と言ったエドモンドさんの顔はとても悔しそうでもあり悲しそうにも見えた。
ーーーいろいろ、この人たちにもあるんだなぁ。なんだかんだで、いい子とか言ってたシロさんもあんなに怯えてたし。……これからは言葉に気をつけなきゃな。
そう考えていると、
「セイラちゃん、今頃、何してんのかなー?」
「そうね〜なにか〜厄介なことに〜巻き込まれてたりして〜フフ」
「あり得ますね。考えるより先に動いてしまうタイプですからね」
と言って皆さんは、遠くの方、街のある方を見つめていた。
後ろでは、まだ『ギョオェエェ!』『ギョオェエェ!』とプラムの断末魔がこだましていたのだった。
やっとミッドの回が終わりました。まだミッドは出てきますがミッドのターンはもう無いです。
次から、主人公が復活します。なんか久しぶりな感じがします。
次回は明日か、明後日になります。




