暴虐の赤子
時間ができたので本日2本目です。
冒険者ギルドが近づくにつれ、次第に高鳴る鼓動がはっきりと自分でも聞き取れる。
ギルドの前にたどり着き、ふと、建物を見上げる。
片田舎にはない大きく頑丈そうな建物に少し圧倒され扉を開くのに躊躇した。
俺が扉を開くのに躊躇していると、シャルルが俺の背中をバチン! と大きな音を鳴らして叩く。
「痛ぇな! 何すんだよ!」
「ミッドが怖気付いてるから、喝を入れてあげたのよ! 大丈夫! あれから2人で特訓だってしたんだもの!」
「そうだな! ……よし!」
冒険者になることを決意してから時間を見つけては、剣の稽古をシャルルは回復や支援魔法の特訓を一緒に励んだ。
俺は意を決して扉を開ける。
扉を開いた先には、たくさんの冒険者らしき人がおり活気に満ち溢れていた。
ーーーこれが冒険者ギルド! みんな強そうだ! カッコいい!
雰囲気にのまれた俺は立ち尽くし、辺りをキョロキョロと見回す。
シャルルも同じだったようで、落ち着かない様子でおどおどしていた。
「おい! お前たち新人か?」
親しみやすい話し声で男が、俺たちに声をかけてきた。
その男は、赤毛の短髪で横髪を剃り上げている青い瞳は鋭く、プレートアーマーを着て大きな盾を持っている。
その男を見て俺は、言葉が出ず口をパクパクさせ固まってしまった。
「おい、どうした?! 緊張してんのか? しっかりしろよ! ハハハハハ」
男は豪華に笑うと俺の肩をポンポンと叩く。
そのおかげか、俺の口が正常に動き出す。
「まさか! あ……あなたは!」
「お! なんだ! 俺を知ってんのか!? まあ、そりゃそうだな! そう! 俺がフォルスだ!」
フォルスさんは親指を自分自身に向け、自身に満ち溢れた顔で、名前を教えてくれた。
「まさか! こんなに、すぐ会えるなんて! フォルスさん! 俺は以前、あなたに命を救われました! ありがとうございました!」
「そうか! 俺にか! 気にすんな! 弱き人々を守るのも俺の……いや、強き者の当然の役目だと思っている!」
フォルスさんは先程よりも、自身に満ち溢れた顔で白い歯をキラリと輝かせている。
ーーーこの人は、やっぱり俺の目指す……最高にイカした、最高の冒険者だ!
そう、フォルスさんはあの時に見た憧れの冒険者だったのだ。
「さ、さすがです! 俺はフォルスさんに憧れて冒険者になろうと思ったんです!」
「そうか! そうか! 俺に憧れてんのか! そりゃそうだな! 憧れるわな! なんせあの《地獄の番犬ガルム》を倒した男だからな!」
「あの、《地獄の番犬ガルム》をですか? 凄すぎる!」
フォルスさんは、ヨセヨセ。と言いながら先程よりも、これ以上に上があったのかと思うほど、自身に満ち溢れた顔で《地獄の番犬ガルム》を倒した武勇を語り出した。
《地獄の番犬ガルム》は片田舎で育った俺でも知っているくらい有名な凶悪モンスターだ。《ビックベアー》なんて比ではない。
俺とシャルルは目を輝かせ、フォルスさんの話を真剣に食い入るように聞いていた。
バーン!
突然、何かを叩く乾いた大きな音が響き渡り体がビクッとなる。
音がした方を見てみれば、兎人族の小さな子供が大声で、自分より一回りも二回りも体も歳も離れている人たちを怒鳴りつけていた。
ーーーなんだあれ?
俺が異様な光景に目をそらせず見ていると
「これだから田舎者は」
「獣人族は、気性が荒いと言うのは本当だったのだな」
「他国の者は常識が違うのか?」
など周りの冒険者達がボソボソと陰口を叩いている。
俺とシャルルはバツが悪くなり、思わず下を向く。
そう、俺もシャルルも他国から来た田舎者だからだ。
ーーーあいつらのせいで、俺たちまで悪いイメージが付きそうだ。
初めて見た彼女達の印象は最悪だった。
俺たちが下を向いていたのに気づいたのか、周りの騒めきに気づいたのかわわからないが
「あいつらか、仕方ねぇな! ちょっくら静かにさせてくるか。おい、受付はあそこだ、困った事があったらいつでも言えよ! じゃあな! 頑張れよ!」
「はい! ありがとうございます! 頑張ります!」
「あ、ありがとうございます」
俺とシャルルは互いにお礼を言いお辞儀する。
するとフォルスさんは、俺たちに向かって笑顔で親指を立て向けてくる。
ーーーあんなに強いのに、誰にでも気さくなんだな! フォルスさんは本当に、心根もイカした男だ。絶対、彼の様な冒険者になろう!
心に何か熱いものが込み上げてくるのを感じた。
去っていく、フォルスさんの大きな、大きな背中を見つめる。
彼の背中は、《漢》を感じさせ今までの歴戦を語っているかのようにも見えた。
だがこの後、信じられない会話が聞こえて来た。
「おいおい! もう戻って来たのか? だから侮るなと言ったのだ! 俺が手伝っ『うるちゃい』」
フォルスさんの背中が少し縮んで見えた。
「失敗してイライラするのもわかる、が先輩の忠告は素直に聞くべきだぞ!」
「フォルス! うるちぇ……黙れ」
フォルスさんの背中が更に縮んで見えた。
「ま……まあいい。 冒険者は挫けたらそこで冒険はおしまいだぞ!」
と言葉を残し冒険者ギルドを出て行った背中は先程と違い、哀愁を帯びていてかなり小さく見えた。今ならゴブリンにも負けそうだ。
ーーーあの子供! フォルスさんになんて口を!
俺は、怒りで完全に頭に血が昇っていくのを感じ、一言だけ言ってやろうと歩き出そうと一歩前に踏み出た時、腕を強く引っ張られる。
「ミッド! やめなよ! 揉め事を起こしてもいい事なんて、何もないよ!」
シャルルが不安そうな顔で俺の目を見つめてくる。
「あ、ああ、そうだな。悪い」
「いいよ! さあ、受付に行こう」
シャルルが掴んだままの腕を引っ張り、俺を受付に連れて行く。
受付には、どこか機嫌の悪そうな女性が座っていた。
「すみません、冒険者の登録をしに来ました!」
「はい。登録2名様ですね。では、こちらの用紙に記入をお願いします」
受付の女性は面倒臭そうに、こちらをチラッと見て紙を取り出し渡してくる。
俺たちは紙を見て固まってしまう。そう、字が書けないのだ。
すると、固まっている女性はハー。と溜め息を付き
「文字は書けますか? ……書けないのでしたら代筆しますが」
「「お願いします」」
俺とシャルルは紙を受付の女性に返すと、女性は更に面倒臭そうに受け取る。
ーーー態度わるいな、都会の女性とゆうのは皆こういうものなのか?
俺が女性をジッと見ていると、
「なんですか? では、名前と職種をあなたからお願いします」
「あ、はい、名前はティ〈バーン〉……
俺が名前を言おうとしたその時、先程よりも大きな音が、物がぶっ壊れるような衝撃音がギルド内に響き渡る。
慌てて音の出た方を見て俺は目を丸くした、テーブルが真っ二つに割れ崩れていたのだ。
周りがまたざわつき始める。
「あのガキ、今、素手であの分厚いテーブルを叩き壊しやがったぜ!」
「ああ、俺も見たぜ! なんちゅう怪力だ!」
「いやいや、あんな子供には無理だろ」
「そうだぜ、あのテーブルも古くなってだいぶ痛んでたんだろ」
「だが先程からの態度といい、物を壊したりといい、なんてガキだ!」
皆が思い思いにボソボソと言っている。
小さな子供は、一緒にいる人たちに「表に出ろ!」と何やら喧嘩を売ったと思えば、立ち上がりこちらに近づいてくる。
そして受付の女性に金を渡し
「もっと頑丈なテーブルをお願いちます」
と言い残して、自分の何倍もある大きさの2人の男女の首根っこを掴み、引きずってギルドを出ていった。
俺は完全に呆気にとられていた。
少しの時間が経った後、
「……《暴虐の赤子》」
横にいたシャルルが小さな声で呟いた。
それが聞こえたのか、周りの冒険者達がまた騒めく。
「……暴虐の赤子か」
「たしかに暴虐の赤子だな」
「ああ、あれは確かに暴虐だったな」
「ああ、そして赤子だったな」
シャルルの発言により、あの子供は《暴虐の赤子》と言う二つ名がついたのだった。
俺は、なるべくあいつらには関わらないようにしようと思った。
受付を済ませて、その日は宿屋の馬小屋を借り、憧れの人に会えて興奮したせいか、長い旅路で疲れがたまっていたのか、飯も食べず、すぐに泥のように眠りについたのだった。
だがこの数日後に、もっと「関わるべきではない」と強く心に決めておけば良かったと、深く後悔する事になるとは……今の俺には思いもよらなかったのだった。
次はおそらく明後日になるかと思います。




