教会
少し残酷な描写があります。苦手な方は、すみません。
ほんの数百メートルだろうか、走って向かった先には
本当に教会があった。
白い壁に赤い屋根、大きな七色にキラキラと光る窓があるとても大きな建物で、その屋根の上にはここは教会だぞと主張するかのように金色に輝く大きな十字架が掲げてあった。
「美しい…なぜこのような場所に」
「本当に神がいるかのごとく神聖な場所に見える」
兵士達がつぶやいた。
普段ならば皆、大袈裟な。とでも言って笑ってしまいそうだが
たしかに壁や屋根には一切の汚れや劣化など見えなく魔除けの魔法のせいなのか淡く優しい光に包まれていた。
庭には小さくはあるが、丁寧に世話が行き届いてある花壇があり見たこともないキレイな真っ赤な花が花壇一面に咲いていた。
魔除けは教会とその周りの庭を囲うように張ってある。
全員が見とれてしまっていた。
だが、後ろから
「ブォーーー!!」
と、けたたましい雄叫びが聞こえ全員がハッと我に返った。
「ジルフリーク様安全確認のため害がないか先に入らせていただきます」
確かに魔除けに見えるが、別の魔法つまり罠の可能性もある。
ヴィグールが意を決したように魔除けの中に入った。
入ることに抵抗もなく、罠もない様子、そして身体に害がないのを確認しジルフリークを見て
「入っても問題ありません!早く中に!」
急かすように告げると
ジルフリークは頷き魔除けの中へと足を踏み入れた。
それに続き残りの兵士達も中に入る。
全員が入った瞬間
突然に白い光が全員を包み込むように輝いた。
「なんだ!この光は?!」
「敵の攻撃か?!」
兵士達が慌てて取り乱しながらも
ジルフリークを守るように複数で囲む。
2、3秒たった頃だろうか光は徐々におさまりやがて弾けたように無数の小さな淡く光るシャボン玉のような泡になり身体にふわりとついては消えていく。
「なんだ…これは…」
兵士達は突然おこった奇妙でありながらとても神秘的な現象に見とれていた。
ドーーーン!
突然の何か爆発のような衝撃音のような大きな音とともに全員が音がした方を見る。
そして思い出した。
自分達は追われていたのだと……
その場の者達、全員が息を呑む。
魔除けの魔法から5メートルほど先、そこには平均的な人間の大人の半分のサイズで緑色の体をし、小汚い布を腰に巻きつけ鼻の高い豚のような顔をし黄色い歯を剥き出しにまるで馬鹿にしてるようなニヤケ顔でキィキィと不快な甲高い鳴き声を出しているモンスターが20匹ほどいる。
そうゴブリンだ。
その中には杖を持ったものや、ボロボロだが剣を装備している、いわゆるゴブリンメイジやゴブリンナイトと呼ばれる者達もいた。
だが、兵士達はゴブリン達を見て息を呑んだのではない。
そのゴブリン達の中心にいる。
色はゴブリン達と同じ緑色で顔も似ているが大きさが全然違い縦も横も人間の大人の体2倍のサイズで鎧や兜を装備していて、そのモンスターと同じ大きさの有刺鉄線のような物を巻き付けた大きな棍棒を持っているモンスターだ。
その棍棒の真下の地面は1メートルほどの幅のヒビが入っていた。
恐らく先程の衝撃音はこのための音だろう
「ブォブォブォ!モウ鬼ゴッコハオシマイカ?」
嘲笑うかのような声がその場に響き渡る。
「糞! ゴブリンロードめ! もっと兵さえいれば」
ヴィグールが悔しそうな顔で唇を噛み締めながらつぶやいた。
そう、ゴブリンロードだ。
ゴブリンロードは人間などの肉を大量に食べると稀に進化するというゴブリンの上位種で、他のゴブリン達よりも知能があり岩をも素手で砕く程力が強く魔法も使う。
疲れきっている兵士達、そしてジルフリークを守りながらでは到底、勝てない強さだ。
ゴブリンロードを先頭にゴブリン達が雄叫びをあげながら近づいてくる。
この魔除けは耐えられるのか?
全員がそう思った。
ゴブリンロード達が少しずつ、まるでもう逃げられまいとでもいうような汚い笑みを浮かべながらゆっくり近づいてくる。
兵士達はガタガタと震えながらも目はゴブリンロード達から逸らさず見つめたままジルフリークの前に立つ
兵士達は迫る恐怖に死を覚悟した。
だが、ゴブリンロードが教会の魔除けに触れた瞬間!
バチンッ!
と弾かれるようにゴブリンロードが後ろに少し跳ねた。
「ブォ?」
ゴブリンロードが何が起こったかわからないような鳴き声をあげる。
そして、何度も入ろうとしては弾かれ入ろうとしては弾かれを繰り返している。
それを見ていた全員に少しずつ安堵の色が浮かぶ。
大丈夫かもしれない、そう思ったのだろ。
「ブォーーーン!小賢シイ!弱種デアル人間ゴトキガオークロードデアル我ヲ手コズラセルトハ!人間ハ恐怖ニ怯エ叫ビナガラ逃ゲ惑イ、絶望ヲ知リ我ニ抗ウコトナク喰ワレレバイイモノヲ!」
興奮しながらメチャクチャに棍棒を振り回し魔除けを叩き出した。
だが、棍棒も弾かれその反動で地面に当たりどんどん衝撃でゴブリンロードの周りの地面が粉々になっていく。
それを見て再び兵士達の顔は恐怖で歪んでいったその時、
「あれ?お客ちゃまでしゅか?こんな時間にめずらちぃでちゅね?」
高く可愛らしい子供?のような声が聞こえてきた。
兵士達やゴブリン達、全員がこの場に似つかわしくない声が聞こえた方、いつのまにかゴブリン達の横にいる小さな者に目を向ける。
そこには全身が真っ白でふわふわな毛に覆われ頭に長い耳とお尻に丸くて小さな尻尾をした、まるでウサギの様な姿をした子供、いや赤子と言った方が近いであろうくらいに小さな子が森で取って来たのだろう薬草などがたくさん入ったカゴを持って立っていた。
なぜ、このような所に子供が?全員がそう思った。
「兎人族か?! 何をしている! 危ないぞ! 早くこちらへ! 魔除けので中に入るのだ!」
ヴィグールがその子供に向かって叫ぶ
「ブォー!肉ハ少ナソウダガ、旨ソウナノガイルジャネェカ!」
ゴブリンロードの下衆な笑い混じりの声が響く
しかし、子供はそんな声を聞こえていないかのように兵士達を見て首を傾げて話しかけてくる。
「新人プレイヤーでしゅか?」
兵士達は皆、この子供がこの危険な状況で何を言っているのか、そして言葉の意味が全く判らないといった表情だ。
「新人ぷれいやあ? 何を訳のわからんことを言っている! 早く中へ!」
と再びヴィグールが走り近づきながら叫ぶ
「違うにょかーなんかのイベントかな? こんにゃのあったっけ?」
小さな声で何を言っているのか聞き取れないが何かボソボソと言っている。
その時、周りにいたゴブリン数匹が子供に飛びかかる。
子供は全く動かない。
ーーー糞! ダメだ、間に合わない!
ヴィグールも兵士達もこの後起こるであろう最悪の事態を想像した。
が突然、飛びかかったゴブリン達が消えたかと思うと次の瞬間に、ベチャっと何かが潰れるような音と共に被さるように近くにある木にぶつかっていてビクビクと身体を震わせていた
その場にいた全員が何が起こったのか全くわからず目を丸くし言葉を失っていた。
「邪魔だな、前衛職ではないけど……とりあえずお掃除ちなきゃ話しがしゅしゅまないか。」
と言いながらゆっくりと持っていたカゴを地面に置き、両手の拳を握りしめ顔の顎の前に置き脇を締めファイティングポーズのような姿勢をとっている。
「今、何ヲシタ? 魔法カ?
……マアイイ、スグニ腹ノ中ニ入レテヤル!全員デカカレ!」
とゴブリンロードが言うと同時にゴブリンやゴブリンナイト達が一斉に子供に向かって襲っていく
すると子供がその場から一瞬で消えた。
いったいどこへ?
とヴィグール達が思った次の瞬間、
襲いかかってきたゴブリン達の中心にいた、ゴブリンナイトの上に乗っている。側から見れば肩車をしているような体勢だ。
そして、ニコッと笑ったかと思うと……
そのまま頭を掴みバキャっともぎ取るかのように弾き飛ばした。
それはまるで小枝でもおるかのように軽く。
残る身体から血が吹き出る。
血が吹き出ると同時にすぐに消えたと思うと
次のゴブリンの上に
バキャ バキャ バキャ
と次々に不快な音ともに笑顔でゴブリン達の頭を飛ばし返り血を浴び、真っ白だった毛が真っ赤に染まっていく子供
その場にいた者達全員があまりの恐ろしい光景に恐怖し目をふさぐことさえできずにその場に固まったまま眺めていた。
「オノレー! コノガキ! 調子ニ乗リヤガッテ!」
すると、それまで他の物と同じ様に固まっていたオークロードが怒り狂ったかの様に叫び出す
「絶対ニ、コロ (バキャ)……」
ゴブリンロードの首が飛んだ
「なっ! ありえん! あれは、ゴブリンロードだぞ!」
ヴィグールの取り乱した声が響き渡る。
兵士達の中でも1番強いであろうヴィグール、彼もゴブリンならば素手で倒すことはできるだろう。
だがゴブリンロードは無理だ。もし素手で挑もうものなら逆に腕が折れてもおかしくない、それくらいの硬さなのだ。
それを他のゴブリンと同じように、まるで力などいらないといったような軽い動作で倒したのだから取り乱すのも無理はない。
5分にも満たない時間だったが、ゴブリンロード達が全滅した。
見ていた兵士達には一時間にもそれ以上の時間がたったようにも感じられた。
兵士達全員が、ありえない。訳がわからない。といったように固まってしまっていた。
すると、フーっと息を吐きまるで軽い運動でもしてきたような、あんな戦いが幻だったかのような笑顔を向けて、子供がテクテクという音が似合いそうな軽い足取りで近づいてくる。
気づけば兵士達は震え、ガチャガチャガチャと鎧が擦れる音がどんどん重なり合い大きな音になってゆく、
先ほどまで笑顔でゴブリンの首を飛ばし、真っ白な毛も全て赤に染まっている子供が笑顔を崩さず近づいてくるのだ、恐怖を感じるには十分だろう。
「迷子でしゅか? 怪我もされてるみたいでしゅし、手当てしましょ……さぁ、中にどうぞー」
子供がさも心配しているような声で話しかけてくる
皆の視線がジルフリークに集まる。
「……それは助かる。だが、ここはいつからあるのだ? この魔除けはだれが? それに君は兎人族かな? 1人かな?」
「質問攻めでしゅね。まぁ、こんな外ではなんでしゅし中にどうぞ。ゆっくり怪我の手当てでもしながら話しましょー……私も聞きたい事もありましゅし。」
子供は、さぁさぁと笑顔で手招きしながら先に教会の中に入っていく
「……ジルフリーク様、危険ではないですか? このまま、国に戻った方が良いのでは?」
小声でヴィグールが聞いてくる。
「たしかに危険かもしれない、だがこんな夜中にまた森に入るのも危険だ怪我人もいる。それに、あの兎人族に追われでもしてみろ。無事に逃げれると思うか?」
ヴィグールが首を横にふる。
「……それにここは教会だ。神が降りる聖なる場所と言われるところだ。ここで悲惨なことはそうそう起こらんだろう。無事でいれることを神に願おうじゃないか。教会だしな。」
皆うなづき、願いながら教会の中に入っていった。
謎の改行など読みにくかったかもです。すみません、